暗い世界
「今日は、雨が降るのか」
どうでもいいが、と少年は付け加える。
窓の外にある景色は、決して気分の良いものではない。
空は紅く染まり、雲は茶色く色を付けられている。晴れることのないこの空は、ずっと変わらない。
大地はところどころで裂け、平らで、緑溢れる場所は皆無だろう。
底には人類の建築物、あるいは人類そのものが屍になって眠っている。
少年が住むこの家も、崩壊寸前であった。
少年はラジオを聞きながら、荷物をまとめていた。
それも、もう終えた。
「ここともお別れか」
両親が買ってくれた数少ない建物だが、死ぬよりはましだ。
家を出て、一度、振り返る。
長い間、ずっと暮らしてきた建物だ。
「ありがとな」
少し傾き、草一本生えていない土地へと足を踏み出す。
周りに人間の気配すら感じることはない。
今、この世界にどれくらいの人間が生存しているのだろうか。おそらく、とうに一億はいないだろう。
少年の目指す先はたった一つの石。この世界の均衡を保つために存在する石の一つがある場所へ、向かっている。
時間は、そう長く掛からない。
大地の真ん中に、鈍く輝く石が存在する。
闇を、恐怖を具現化したような色だ。恐れているのか、誰も近付こうとはしない。
少年は、宙に浮かぶその石に、軽く触れた。
――刹那、人間との接触を拒むかのように、電撃が迸り、少年の胸に命中する。
だが、少年は石に触れたまま、倒れることも、苦しむこともない。
「これだな」
少年は蒼く透き通るナイフを懐から取り出す。
おもむろに自分の左腕を浅く斬ると、血が止めどなく溢れ出す。
感覚がないのか、顔の表情はピクリとも動かない。
「終わりだ」
少年は自分の血が付着したナイフを、今度は石へと突き刺す。
ドクン、と少年の心臓が大きく波打つ。が、倒れることはない。
大地が大きく揺れ、天が紅い雨粒を降らす。
空を見上げると、その雨粒の一つが目に入った。視界が赤く染まり、やがて何も見えなくなる。
「すべて、砕け、散れ……」
言い残すことはもうなかったのか、少年は息をすることを止めた。
意識はまだあるが、もう生きようとは思わない。少年の心は衰弱していた。
自分の身体が落ちていく感覚。地割れに巻き込まれたんだろう、それに気付くことだけにさえ、十秒の時間を要した。
この身体が地面に辿り着く時、俺の命は消えるのだろう。
言葉にすることすら出来ず、少年は目を閉じた。