第一章 「運命の始まり」
目覚めた時、ジークはベッドの上にいた。状況を掴めず辺りを見回すと、どうやらフェルメ・エトワル城でジークとスゥがあてがわれた部屋のようだった。
しかし、そこにスゥの姿はなかった。
それに気づいた途端、ジークの中で記憶が弾けた。脳裏に黒焦げになるまで焼き付いた、クレオスナ祭第一日の夜の記憶。
途端に、自責の念と敗北感と後悔が一気に押し寄せてきた。頭を抱えて、ジークは一人唸った。
その時、部屋のドアが開く音がした。ジークがドアの方を振り返ると、二十歳ほどの若い女性がこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。どこか虚ろで冷たい印象の、一種不気味とも言えるオーラを纏っている。
「……起きたのね」
女性は少し目を上げてジークを一瞥すると、ほとんど聞き取れないような小さな声で言った。
「誰だ、お前は」
ジークは気が立っている為に、厳しめな口調で尋ねる。
「……シフォン・ラエーナ……医者よ」
女性・シフォンは言った。
「ホントか? なんだか、ものすごく怪しいんだが」
「まあまあ、そう言わずに。彼女も、僕と同じトランプの一員ですよ」
そこに、シフォンの後から入ってきたらしいアトルの声がした。
「確かに寡黙で、不思議な人柄ですが、医療の腕は確かですよ。現にジーク殿も、もう傷は痛まないでしょう?」
アトルはシフォンの気を損ねないように最大限に配慮した言い方をした。
「言われて見れば、そうだな」
ジークはフェレスから受けた傷だけでなく、それ以前の傷の痛みも消えていることに、今更になって気がついた。
「……これを、飲んで……元気が出る……」
シフォンはそう言って、液体の入った瓶を差し出した。
「ああ、ありがとう……ところでアトル、あれから何日経った?」
「ちょうど三日です」
アトルは悔しさの滲んだ声で言った。
「……そうか……」
ジークは、自分のベッドの傍に立て掛けられた刀を見つめながら言った。その刀は、二本とも真っ二つに折られていた。ジークが何年間も共に戦ってきた刀も、フェレスの攻撃―恐らくは鋭くなった翼の縁で斬られたのだろう―には、まったく対抗できなかったのだ。改めてフェレスの圧倒的な力を見せ付けられるようで、ジークの敗北感はさらに高まった。
「……オレがやられた後、なにが起こったか知ってるか?」
「僕はカレハ・ホーライクと共に、廊下にいたベリウスと戦っていたのですが、ベリウスは突然何か喋ると、その場から消え去りました。ベリウスの言葉の中に、スゥ・ロ・ヤマがどうとか言うのがあったので、僕達は急いで城の外に出ました。すると、そこにあなたが倒れていて、はスゥちゃんを担いだフェレスがその場を去って行くところでした。追い掛けたかったのですが、ベリウスとの戦いで力を使い果たしてしまっていて……」
アトルは心から申し訳なさそうに言った。アトルはあえて続きは言わなかったが、その口調が、スゥを連れ去るフェレスをアトルがみすみす逃してしまったことを、如実に語っていた。
「スゥ……オレは、どうしたらいいんだ……」
ジークも、流石に弱気になっていた。本当なら、今すぐにでもスゥを取り返しに行きたいところだが、フェレスに勝てない今の自分では、そんなことをしてもなんの意味もないのは明白だった。
「まさか、悪魔達があれほどの力を持っていたとは、完全に想定外でした……スゥちゃんを一刻も早く助け出すためにも、やはりここはトランプとリィトで手を組んで……」
「無理だ……!少なくとも、オレには……あいつは、倒せない」
ジークを少しでも元気づけようとするアトルの言葉に、ジークは弱音で返した。
「ジーク殿……」
気遣うようなアトルの口調が、逆にジークの神経を逆なでした。
「……悪いが、しばらく一人にさせてくれないか」
ジークがそう言うと、アトルとシフォンは素直にその言葉に従った。
一人きりになった部屋で、ジークはしばらくベッドに座って考え込んでいた。ドアからではなく、バルコニーの方から邪魔が入るまでは。
「おい、ジーク、テグレスから出頭命令だ」
部屋に入るなり、あまりにも単刀直入にそう言ってきたのは、伝令イタチのリゲルだった。
「今すぐゾド山脈の緑龍峠に来いってよ」
「……どうしてだ?」
ジークは無気力に尋ねる。
「お前に直々に話したいことがあるそうだ。お前と、スゥのことについて」
リゲルが発したスゥという言葉に反応して、ジークは少し興味を持ちはじめた。
「……分かった、すぐ用意する。どっちにしろ、ここに居座る意味はないからな。できるだけ早く行くとテグレスに伝えてくれ」
「いや、残念ながら、オレはジークと一緒に来るようにとの御達しだ。見張りの為だとよ」
リゲルは言葉通り、至極残念そうに言った。
用意、とは言っても、実際のところ旅慣れたジークは、常に必要最低限の物しか持ち歩いていないので、することと言えば服を着替えることくらいだった。そして着替えも終わり、ないよりはましと思って折れた刀を鞘に納めて背中に担ぎ、その他の荷物もまとめ終わって、いざ出発というときになって、一つ忘れ物があることに気がついた。
ジークはスゥが使っていたベッドに歩み寄り、その支柱に掛けられていた丸いポーチを手に取った。
ポーチの蓋を開けると、中には奇妙な模様が刻まれた、スゥのオカリナがあった。いまやジークの手元に残った、スゥが確かにそこに居たことを示す唯一の品だった。それを考えると、心の傷が一層痛んだ。
しかし、ふと気づいて調べてみると、ジークがあげたペンダントは入っていなかった。パーティーの日には身につけていなかったようだが、たぶんどこかに隠し持っていたのだろう。そして今は、スゥ本人もろともフェレスの手の中に……
「ほら、行くぞ、ジーク」
ジークが感慨に耽っているので、せっかちなリゲルが急かした。
「ああ、行こう」
スゥ、お前は絶対にオレが取り返してやる。ジークはそう決意して、ドアへと向かった。
リィトのリーダー格であるテグレスが住むゾド山脈・緑龍峠は、ちょうどジークのいるスピルナ公国首都・アルスの東側にある。悪魔達がエトワル城に攻め込んできた時にカレハが近くにいたのも、『幻の町』についての報告をテグレスにするために、緑龍峠に赴いた帰り途中だったからだ。
アルスからずっと東に向かって行くと、次第に人家が減り、同時に緑が増えていく。スピルナの人々からすれば、ゾド山脈は龍が棲むと言われる恐ろしい地であり、よほどの変人でなければ、その麓に家を建てようとは思わないのだ。そしてそれがまた、緑龍峠がリィトの総本山たり得る理由の一つでもある。
世界で最も巨大で、かつ標高の高い山脈であるゾド山脈は、麓から見上げると、首が痛くなるまで顔を上げても全体像を掴むことは出来ない。
見ると、山頂のあたりは茶色の山肌を見せているが、右の方にある比較的標高の低い峠から麓に掛けては、木々の緑に包まれている。その峠こそが緑龍峠だ。
二人―厳密には一人と一匹―はその森に入って行った。欝葱と木々が茂る森の中では、歩けば歩くほどに方向感覚が失われていく。しかしジークとリゲルはどちらも、そのことを心配してはいなかった。なぜなら、この森すべてはテグレスのテリトリーであり、この森に入ったものはテグレスの意志によってのみ動かされる。この森に入った者の行き先は、すべてテグレスの手中にあるのだ。言い換えれば、テグレスの部下であるリィトが、この森で迷うことはないのである。
ジーク達が森の中を数分間歩き続けていると、急に視界が開けて、二人は広場のような場所に出た。そこが緑龍峠である。物理的距離を考えれば、こんなに早く着くはずはないのだが、この森でそんな常識が通用しない事は、二人もよく承知していた。
「おお、よく来たの、ジーク」
広場の中央に鎮座していたテグレスは、ジークを振り返ると言った。
「あと……そこのあほイタチ」
「ひどい! それが、忠実に命令を実行してきた有能な部下にかける言葉――」
「ところでジーク、今回呼び出した訳についてじゃが……」
リゲルの声を上手に遮りつつ、テグレスは言った。
「スゥの事を諦めろ、とか言うんだったら聞き入れないぜ」
ジークは真剣な声で釘を刺す。
「いや、もはやその必要はない。というより、そうしてもらっては困る」
テグレスは言った。
「今回は、その逆の話じゃ」
「どういう風の吹き回しだ? ついこの前はスゥから手を引けとか言ってた癖に……」
予想外の返答に、ジークは驚いて言った。
「あれはお主を試しただけじゃ。お主とスゥが、真に運命に定められた二人かどうか、確かめたのじゃ」
「運命……? なんの事を言ってるんだ?」
「お主、スゥを悪魔の手から救う為になら、どんな事でもする覚悟があるかの?」
ジークの問いには取り合わずに、テグレスは老いを感じさせぬ鋭い視線でジークを見つめ、聞いた。
「もちろんだ。でも、オレの力じゃ……フェレスには敵わない」
ジークは自信消失した声で言った。
「まったくもってその通りじゃ」
テグレスは、ジークの台詞を予め知っていたかのように平然と言った。これが、預言者と話すときに奇妙な感覚に包まれる理由の一つだ。
「じゃが、それは『力』がほんの一部しか解放されておらぬ、今のお主ならば、という事を失念してはならぬ」
「やっぱり、オレの『力』の事も知ってたのか。流石だな」
ジークは言った。
「その口ぶりからすると、オレの『力』が一体何なのかも、知ってるんだろうな」
「まあの」
テグレスは事もなげに言った。
「今日はその話をしようと思ったのじゃ。お前のその《守護者》の力についての話をな」
「《守護者》の力……そう言えば、フェレスもそんなことを言ってたな。それが、オレの力の名前なのか……」
ジークは言った。
「そうじゃ。《守護者》の力は何か大切な者を守ろうとする時に、その力を発揮する。お主の場合は、スゥを守ろうとする時にのみ、劇的な身体能力と、瞬間移動の能力が発動する訳じゃ」
「なるほど……そういえば、この力を初めて使った時、オレの中から声が聞こえたんだ。あれは、一体何だったんだ?」
ジークが急に思い出して尋ねると、なぜかテグレスは少し目を見開いたようだった。しかしすぐに平静を取り戻し、答えた。
「恐らくは、前世のお主じゃろう。《守護者》の力のような特殊能力を生まれ持つのは、その者が前世で大切な誰かを守りきれなかったせいだとも言われておるからな」
「前世のオレ? そんなのと話をしたなんて、なんだか、変な気分だな」
ジークは自分の前世を想像しつつ、言った。しかし突然、自分の目的を思い出した。
「なあババァ、それだけオレの《守護者》の力のことを知ってるんなら、この力をどうやって解放するのかも知ってるんじゃないのか!?」
「そう急くでない。順を追って説明してやる」
テグレスはジークを宥めるように言う。
「そんなことしてるヒマはないんだよ! こうしてるうちにもスゥが悪魔の奴らにあ~んな事やこ~んな事を――」
「ジーク、お前どんなこと妄想してんだ? とにかく一旦落ち着けよ」
そこに―それまで蚊帳の外でずっと寂しい思いをしていた―リゲルが呆れたように言う。
「リゲルの言う通りじゃジーク、まずは落ち着くのじゃ。手中には納めたとて、悪魔達もすぐにはスゥに手出しは出来ぬ」
テグレスは言った。
「どういう意味だ?」
「やつらの目的はスゥの悪魔としての圧倒的な能力じゃ。しかし、スゥの能力は他の悪魔達のどれよりも強い。その能力のすべてを支配し、コントロールできるようになるまでの間は、奴らにとってスゥはいつ爆発するか分からない、手荒には扱えぬ危険な爆弾と同じなのじゃ」
テグレスは説明した。
「……それで、悪魔達がスゥの能力をコントロール出来るようになるのには、どれだけの時間がかかるんだ?」
「まあ、難易度の高い儀式じゃからのう。どんなに短くとも一ヶ月は掛かるじゃろうな」
テグレスの言葉を聞いて、ジークはほっと胸を撫で下ろした。油断は禁物だが、あと一ヶ月はスゥも無事でいられるのだ。
「ってことは、それまでの間に、オレがフェレスを倒せるくらいに強くなれば良いってことか」
「簡単に言えば、そういうことじゃな」
テグレスは言った。
「じゃあ、早くその方法を教えてくれ!」
「急くなと言っておろう。これから、教えてやる。じゃが、その前にもう一度だけ聞いておく。お主、スゥを助け出すためなら本当に、なんでも出来るのじゃな?」
「何度も言わせるな。もちろんだ」
ジークはテグレスがあまりに勿体振るので、多少いらつきながら答えた。
「よかろ。ならば今すぐ、お主はガブル平原に向かわなければならん」
しかし、テグレスがその地名を口にした途端、ジークの顔が引き攣った。
「ガブル平原、だと?」
それはジークが生まれ育った場所であり、剣の腕を鍛えた場所であり、そして、ジークがこの世で最も行きたくない場所だった。
「そうじゃ、ガブル平原じゃ」
テグレスは冷静な声で言った。
「でも……オレは、あそこには、二度と、行かない」
ジークは困惑して、自分の言葉を噛み締めるように言った。
「じゃが、スゥを救う方法はそれしかない。道は、二つに一つじゃ」
テグレスの言葉は、冷酷にジークの胸に突き刺さった。
「ジーク、お前一体、どうしたんだ?」
この場で唯一現状が分かっていないリゲルは、ジークを気遣って尋ねた。
「リゲル、ジークにとってガブル平原に行くというのは、お主にマルナの森に行けというのと同じことなのじゃよ」
それを聞いたリゲルは、すぐに合点したようだった。そしてジークに無用な刺激を与えないように、いそいそと後ろに下がって行った。
「どうじゃ、ジーク。どちらにしろ、いつまでもガブル平原から目を背ける訳にはいかんのじゃぞ」
「それは……分かってるけど……」
ジークは頭を抱えつつ言った。脳裏を交互に過ぎる、スゥの顔とガブル平原での―ジークが旅人となる原因でもあった―思い出したくもないあの事件。しかし、今のジークにとっては、自分のことよりもスゥの事の方が勝っていた。
「分かった。ガブル平原に行けばいいんだな。それで、その後どうするんだ?」
ジークは、どこか辛そうに、しかし決然と言った。
「それは、行って見れば分かることじゃ」
テグレスが言った。
「それではリゲル、お主に頼みたいことがある」
「ったく、相変わらずイタチ使いが荒いぜ……」
リゲルはそう呟きつつも、テグレスに逆らう訳にも行かず、用件を聞くためにテグレスの足元に来た。
「お主はこれから、ジークと一緒に行くのじゃ。あやつが無茶をせんように見張っておれ」
テグレスは、その命令の後半はジークには聞こえないように小さな声で言った。
「ちぇっ、分かったよ。そういう事ならさっさと行こうぜ、ジーク」
「……ん? ああ……そうだな」
ジークは心ここにあらずという様子で言った。
まさか、こんな形で再びガブル平原を訪れる事になろうとは、思っても見なかった。ガブル平原に行くことは、ジークにとって苦痛以外の何物でもないのだから。
「スゥ、頼むから……オレが力を手に入れて助けに行くまで、無事でいてくれよ」
ジークにとってスゥはもはや、ただ助けたいだけの相手ではない。ジークにとってスゥは、今やただ一つの心の支えとなっているのだ。スゥの存在があればこそ、ジークはガブル平原とも向き合う事が出来るのだ。そのことを実感しながら、ジークはスゥのオカリナを手で弄りながら呟くのだった。
そこは、スピルナ公国のどこかにある、真っ暗な洞窟の中だった。そこの地面には、恐ろしく複雑な幾何学模様が描かれ、紫の光を発して辺りを照らしている。
その魔法陣の中心には、すみれ色のドレス―照らす光が紫色なので識別はできないが―に身を包んだ少女が気を失って横たわっていた。その周りには、それぞれ独特な形をした四体の黒い影が佇んでいる。
すると、魔法陣の中の少女が目を覚まし、ピクリと動いた。そして少女はゆっくりと目を開けて、アメジストのように輝く瞳で辺りを見回した。そして自分が魔法陣の中央にいること、その周りを四体の悪魔が取り囲んでいることを見てとって、今の状況を理解した。その場から逃げようともがくが、手足を縛られていて立つ事もできない。
「ケケケ、オイラ達から逃げようとしても無駄だしね、スゥ・ロ・ヤマ」
四つの影のうちの一つ、メトネスが言った。
「ジークさんは……ジークさんは、どこ?」
すみれ色のドレスの少女・スゥは、恐怖に震える弱々しい声で、大切な人の名前を呼んだ。
「ふふふ、残念ながら、君の王子様はここにはいないぞ」
二つ目の影・グルナが言った。
「だが、怖がることはない。私達はもともと、君の味方なのだから」
「いや……来ないで……」
グルナがゆっくりと近づいてくるので、スゥは身を縮こまらせながら言った。
「ハッ、オレ達全員を相手に、今更抵抗する気かぁ?」
三つ目の影・ベリウスが言う。
「ククク……グルナの言う通りだぞ、スゥ・ロ・ヤマ。余らにとって貴様は同族であり、仲間であり、そして……妹なのだ」
四つ目の影・フェレスが言った。その予想外の言葉が、スゥの胸に突き刺さる。
「妹……? あたしが、あなた達の……?」
スゥは困惑して言った。
「そうだ。厳密に言えば、腹違いの妹だがな。私達四人と他の三人の悪魔達、そしてお前は、同じ父親を持つ兄妹同士なのだよ」
グルナが言った。
「ケケケ、あんただって心のどこかではもう、分かってるのさ。あんたのいるべき所は、『あっち』じゃなくて『こっち』だって事をさ!」
メトネスがさらに追い詰めるように言った。
「……でも、あたしは……」
スゥは言い返そうとしたが、言葉がうまく出てこなかった。
「貴様、よもや忘れた訳ではあるまい。セル国の人間どもが、貴様にした仕打ちを」
そのフェレスの言葉に、スゥは目を見開いた。その時、スゥの中の思い出したくもない記憶が鮮明に蘇ってきた。
そこはセル国の、スゥが育ての親であるシルートと共に暮らしていた山の麓の村にあった公園だった。ほのぼのとした昼下がり、その公園では何人もの子供達が楽しそうに遊んでいる。
まだ幼かったスゥは、木の影からその様子を眺めていた。
(みんな、楽しそうだなぁ……)
スゥは心の中で呟いた。
(あたしも、一緒に遊びたいなぁ……)
しかし、それは出来なかった。もし村人の前に姿を現したら、シルートに叱られてしまう。村の子供達と触れ合うことは、厳しく禁止されていた。
だが、それがどうしてなのか、スゥは知らなかった。そしてその事が一層、スゥの中のもどかしい思いを強めていた。
その時、スゥが隠れている木の前に、ボールが転がってきた。直径三十センチほどの、子供が遊びに使うボールだ。
公園の向こう側から、ボールの持ち主が駆けてきていた。スゥと同年代の男の子で、その顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
(なんで、あんなに笑顔なんだろう……)
スゥにはその男の子の笑顔が羨ましかった。自分も一緒に遊びたかった。一瞬、シルートの忠告が脳裏を過ぎったが、もはやスゥの羨望はそんな物では抑えられなかった。
スゥは思い切って木の後ろから出て、足元のボールを両手で拾った。
「はい、これ……」
スゥは駆け寄ってきた男の子にそのボールを手渡した。
「あ、ありがとお!」
男の子は素直に礼を言った。その言葉を聞いて、スゥの不安は一瞬で消え去った。シルートは危ないからだめだと言っていたが、そんなことはないように思えた。スゥは嬉しさのあまり、涙が零れそうになった。
しかし、幸せが続いたのはその短い間だけだった。ふと気がつくと、男の子の後ろに、母親が厳しい顔付きで立っていた。
「コラッ、フェンちゃん! そんな悪魔の子と関わっちゃダメでしょう!!」
男の子の母親は、そう言って男の子の頭を叩いた。
「ごめんなさい、ママ。ただ、ボールを拾ってくれたから……」
男の子は母親を見上げて言った。母親は少年の手にあるボールを一瞥すると、言った。
「そんな物、すぐに捨てなさい! 悪魔の手に触れたものなんて、汚らわしいわ!」
「うん、そうだね……こんなキタナいの、もういらないっ!」
男の子はそういうと、ボールをスゥに向かって思いっきり投げ付けた。
「いたっ」
子供の腕力とはいえ、至近距離でボールを投げ付けられたスゥは、その場に尻餅をついた。
「やーい、あくまー!」
男の子はそう言いながら走り去って行った。
「二度とうちの子に近づかないでよね! 汚らわしい悪魔の分際で!」
母親はそう言うとスゥに唾を吐きかけて、その場を去って行った。気がつくと公園にはもう誰も残っていなかった。大事な子供を悪魔に近づけないように、親達が子供達を避難させたのだ。その様子を見ながら、一人取り残されたスゥは、訳も分からずただ泣きじゃくるしかなかった。
スゥの目に自然と涙が溢れてきた。涙はスゥの頬を伝って、冷たい地面に落ちていった。
「もともと人間どもは、我々悪魔とは相容れない存在なのだよ」
グルナが優しい声で言った。その言葉は、不思議なほどすっとスゥの中に入り込んできた。
「どうだ、人間が憎いだろう?」
続けてフェレスが言った言葉に感応するかのように、スゥの中にどす黒い憎しみの念が込み上げてきた。それは、スゥの意志とは関係なくどんどんと大きくなっていった。スゥは自分でも気づかない内に、悪魔達の暗示にかかっていたのだ。
すると、スゥの中の憎しみを感じとって、心の奥底から、スゥの悪魔である部分・ヤマが浮かび上がってきた。
(スゥ……あたしに、その身を委ねて……)
ヤマは言った。
(そうすれば、あなたの望む力が、手に入る……あなたを傷つけた、人間どもに復讐する力が……)
「あたしは……あたしは……」
スゥは何かの力に引っ張られるかのように、喋った。
「あたしは、人間が……」
人間が、憎い。そう言うつもりになっていたスゥの心の中に、ふいに見慣れた白銀の髪の少年の顔が浮かんできた。
―オレはお前の正体が何だろうと気にしない。どんな出生だろうと、どんな力を持っていようと、結局お前はお前、スゥ・ロ・ヤマ・イシュラーグ以外の何者でもないからな―
その少年はそう言ってくれた。こんなあたしでも、受け入れてくれた。
全ての人間がセル国の国民と同じ訳じゃない。シルート、カレハ、アトル、今まで出会ってきた他の人々……それに、ジーク。スゥは、ドレスのポケットに忍ばせてあるあのペンダントに想いを馳せることで、段々と正気を取り戻していった。
「あたしは、人間が、憎くない……!」
スゥは言った。その途端、スゥの心を侵食しつつあったヤマは、再びスゥの心の奥底に逃げるように消えていった。
「それが、貴様の答えか、スゥ」
フェレスは落胆したように言った。
「よかろう。貴様が自分の意志で悪魔になり切れぬというのなら、余が力を貸してやろうぞ」
フェレスはそう言って他の三人に目配せした。
「お前達、適当に世の中を騒がせておけ。この場所を悟られぬようにな。余はこれから、スゥの精神を封印し、強制的にヤマを引きずり出す儀式を始める」
「ハッ、分かったぜぇ、アニキ」
ベリウスはその命令を待っていたかのように意気揚々と言った。
「要するに、人間どもがこの場所に近づかないようにすればいいのだな?」
慎重派のグルナは、念を押すように確認する。
「そうだ。この術は、周囲に多大な影響を及ぼす。人間どもが近づいたら、感づかれてしまうからな」
「ケケケ、あっちに『継承者』がいる以上、油断はできないってことかい?」
メトネスの言葉に、フェレスは頷いて返した。
次の瞬間、三体の悪魔達は霧となってその場から消え去っていった。
「スゥ・ロ・ヤマよ、恐れることはない」
スゥと二人きりになった洞窟に響く声で、フェレスは言った。
「貴様は、本来あるべき姿に、戻るだけなのだからな」
「いや……助けて、ジークさん……!」
スゥの悲痛な声にはまったく関心を示さず、フェレスは淡々と儀式の準備を進めるのだった。
レインディア亭。ガブル平原の東隣りにあるレグラ地方の閑静な村・エスルに佇む、ごくごく平凡な、小さなバー。看板に飾られている尋常ではない大きさのトナカイの角を除けは、これと言った特徴もないそのバーの正体は、リィト同士の情報交換の場、いわゆる拠点である。
ある夜、レインディア亭のドアのベルが、カラカラと渇いた音を立てた。マスターであるシグルスがグラスを磨く手を一旦止めて、ちらっとドアに目を向けると、そこに立っていたのは最年少のリィトと、その肩にちょこんと乗ったリィトの伝令役のイタチだった。
「よう、ジーク。なんの用だ?」
そう尋ねつつ、シグルスの手は再びグラスを磨いていた。ジークがカウンター席に座ると、リゲルはスルスルとジークの肩からカウンターに移ると、シグルスのグラス磨きをしげしげと見物しはじめた。今は店内に他の客がいるので、言葉を話さない普通のイタチを装わなければならないのだ。
「オレは、これからガブル平原に行く」
ジークは、単刀直入に言った。
「ほう、ガブル平原に? それはまたどうしてだ?」
シグルスは興味をそそられたのか、またグラスを磨く手を止めて、目をジークに向けた。
「テグレスに言われたんだ。オレがさらに強くなるには、どうしてもあそこに行かなければならないらしい」
「なるほどな」
シグルスは短く頷いた。
「確かにあそこは、腕を磨くには持ってこいの場所だ。死にさえしなければな」
「ああ、そうだな」
シグルスの言葉に、ジークも頷く。
「知ってるか、この店の看板に飾ってある巨大な角。あれは、ガブル平原に住んでたトナカイのものだ」
「ああ、そうだろうな。他の場所では、あんな角を持つトナカイなんか出る訳がない」
シグルスの言葉に、ジークも頷いて言った。
「その通り。あそこは人外の土地だ。普通の人間なら、一時間と生きていられない場所だ」
「それで、何が言いたいんだ?」
「お前、そんな折れた刀だけで、本当に生き延びられるのか?」
シグルスは言った。軽蔑する声ではなく、心配する声だ。シグルスは、ジークのちょっとした歩き方の違いから、ジークの背負う鞘の中が空である事を感づいていた。
「まあな。あそこでの生き残り方は、オレもよく分かってる」
ジークは言った。
「だが、テグレスが行けって言うからには、取りあえずは大丈夫なんだろ」
「仮にも預言者だしな」
シグルスは苦笑しつつ言った。
「それにしても、悪魔達は彼女の能力を手に入れて、一体何をするつもりなんだろうな」
彼女、とは当然、スゥの事である。
「さあな。何にしろ、良くない目的だって事だけは確かだな」
ジークは答える。
「なあ、ジーク」
しばらくの間の後、シグルスが静かに言った。
「なんだよ」
ジークは短く聞く。
「本当にスゥちゃんは、助けるべき存在なのか?」
「今更何言ってんだよ。当然だろ?」
ジークは苛立たしげに言った。
「いや、オレはどうも、腑に落ちないんだ」
シグルスは言った。
「スゥちゃんの正体は悪魔なんだろう? だったら、もしかすると彼女にとっては、我々人間といるよりも、同族である悪魔の元にいる方が幸せなんじゃないのか?」
「そんなこと……」
しかしジークは言葉を続けられなかった。もしかしたら、シグルスの言う通りかもしれない。
「仮に彼女を無事に救い出したとして、悪魔としての破壊的な能力を持った彼女は、人間の世界で果たして平和に暮らすことが出来るのか? あの紫の瞳や、尖った耳を見ただけでも怯えてしまう人間だって、少なくはないのに」
シグルスは淡々と言った。
「それは、そうかもしれない。でも、だからといって悪魔といるのがスゥの幸せじゃないって事の方は確かだ」
ジークはゆっくりと言った。その脳裏には、スゥが連れ去られた日に悪魔のメトネスが言っていた言葉が浮かんでくる。悪魔達は、スゥの事をただの強大な能力を持った武器としか見ていないのだ。
「もし、人間の中で生きるのが、スゥにとって苦痛なら、それはその時に考えればいいことだ」
「まあ、それもそうだな」
シグルスも納得したように言う。
「さて、それじゃ、もう時間も遅い。明日ガブル平原に行くなら、もうそろそろ寝た方がいいぞ」
「……そうだな」
ジークはどこか思い詰めたように俯いて言った。
「お前、ここしばらくちゃんと眠れてないんだろう?」
シグルスは察したように言う。
「スゥちゃんの事が気になるのは分かるが、しっかり寝ないとガブル平原では生き残れないぞ」
「分かってるさ」
ジークは口ではそう言ったが、その表情は心ここにあらずだった。ジークはふと思い付いたようにポケットに手を入れると、スゥのオカリナを取り出して、じっとそれを見つめた。
「それ、カレハがスゥちゃんにあげたオカリナか?」
「そうだ」
シグルスの問いに、ジークは頬杖を立てて、オカリナを手の中で弄りながら答えた。そうしていると無意識の内に、ため息が漏れた。
「弱気になってるな。らしくないぞ、ジーク」
シグルスはそんなジークの様子から察して言った。
「うるせえな。たまにはいいだろ」
ジークは無気力な声で言った。
「お前の気持ちは分かる。今まで持っていた自分の力への自信が、たった一晩で打ち砕かれたんだからな。でも、そんなことでくじけていていいのか?」
シグルスは諭すように言った。
「スゥちゃんを助けるためには、お前はガブル平原で新しい力を得て、無事にかえってこなけりゃならない。何より重要なのは、そこだろ? それを思えば、クヨクヨしてる場合じゃないはずだ」
「分かってる……分かってる、けどよ……」
「けど、なんだ?」
シグルスは辛抱強く聞き返した。
「オレは、フェレスが……あの強さが、怖いんだ」
ジークはついにその言葉を、辛そうな声で言った。これまで何とか自分をごまかそうとして来たが、どうしてもその恐怖は消えずに、ジークの中に潜んでいたのだ。
「なあ、ジーク……」
シグルスは呆れたように言った。
「お前、ここに初めて来た時のこと、覚えてるか?」
「……ああ、覚えてる」
ジークは少し間を置いてから、答えた。四年も前の事だが、はっきりと覚えている。
「あの時のお前は、今よりもずっと世間知らずで、向こう見ずなガキだった」
シグルスは静かに言った。
「でも、あの時のお前は、今ほど腰抜けじゃなかった」
その言葉は、ジークの心にちくりと食い込んだ。その様子を、言葉を発することができないリゲルは、ただじっと見つめていた。
「『いつ何時も、自分がしたいと心から望む事をしたい』あの時のお前は、そう言っていたな」
シグルスはその日を思い出すように遠くを見つめながら言った。
「自分の望むままの行動をする。その事がいかに難しいかを知りながら、お前はそう言ったんだ。お前が今したいのは、クヨクヨして逃げることなのか?」
「……違う」
ジークは声を搾り出すように答えた。
「じゃあ、何だ?」
そう聞かれて、ジークは拳を強くにぎりしめた。そして、やっとの事で口を開く。
「……お前も知ってる通りだ、シグルス」
「だったら、早く寝ることだ」
シグルスは言った。
「……ったく、分かったよ」
ジークはそう言うと、心の奥底でシグルスに礼を言いつつ席を立った。しかし、それを悟られるのが嫌で、後から付け足した。
「寝ればいいんだろ、寝れば」
「その通り」
シグルスが全部お見通しというように返してきたので、ジークはばつが悪くなってその場をそそくさと去って行った。
「この妙な気配は、一体……?」
その頃、フェレスの命に応じて人里を襲おうと移動していた三体の悪魔の内の一体・メトネスが、何かの気配を感じて立ち止まった。
「どうした、メトネス?」
メトネスの様子が変であることに気がついたグルナは、立ち止まってメトネスに聞いた。
「ケケケ、別に……ただ、妙に懐かしい気配がしてさ、気になったのさ」
メトネスは答えた。
「懐かしい気配? そう言われれば……」
《眼》を司る悪魔であるグルナは、《耳》の悪魔であるメトネスに比べると、気配を読むのが苦手だ。それでも、《尾》を司るベリウスに比べれば、まだマシだが。だから、地獄耳を持つメトネスの索敵能力は、悪魔達の中でも一目おかれている。
そこでグルナが周囲の気配に意識を集中すると、メトネスの言う『懐かしい気配』の正体が何となく分かってきた。
「この気配……もしかすると……」
グルナは眉を潜めて呟いた。この気配は、確かに懐かしい。その上、グルナにはこの気配の持ち主に心当たりがあった。そしてそれは、グルナの考え得る最悪の事態を意味していた。
「そうか、この気配……あいつが近くに来ているのか……?」
「あいつって、誰のことさ?」
グルナの表情が徐々に深刻さを帯びてくるのをみて、メトネスは少し緊張した声で聞いた。あの冷静沈着なグルナが、こんな表情をするのを見るのは久しぶりだった。
「我々の同類だ。だが、お前は会ったことがない奴だ」
グルナは静かに言った。
「同類ってことは、悪魔の一人かい? でも、悪魔は全員、氷魔界にすんでるんだろ? なのに、オイラが会ったことない奴って、一体何者なのさ?」
メトネスにはグルナの考えていることが分からず、質問を重ねた。
「奴は、お前が生まれるより前に、バドフェリオスの軍門に下ったのだ。そのために、氷魔界を離れてゴルゴダに住んでいたのだ」
グルナは、自分の恐怖を押し隠そうとするかのように、あえて淡々と語った。
「バドフェリオスの軍門に……? それってつまり、あいつに認められたってことかい?」
その名を聞いて、メトネスにもようやく事の重大さが分かってきたようだった。
「それに、そのバドフェリオスの部下とか言うのが来てるってことは、まさか……オイラ達の計画がばれたってことかい!?」
「そうかも知れん。いや、そうとしか考えられない」
グルナも感情を抑え切れず、焦燥に駆られた声で言った。
「とにかく一度、私が様子を見てくる。お前はフェレスの兄貴に、この事を知らせてくるのだ」
「それで、そいつはなんて名前なんだい?」
メトネスが聞いた。
「奴の名は、レンク。レンク・ペンドルスだ」
グルナは、その名を口にするのも恐ろしいという風に言った。
「奴が来た以上、この戦いは大きく揺れるかもしれん」
「どういう事さ? こっちにはフェレスの兄貴だってついてる。いくら相手がバドフェリオスの部下でも、こっちもそう簡単にはやられないしさ!」
だんだんとグルナの怯えぶりにいらついて来たメトネスは、半ば強がるように言った。
「……いや、それ所ではない。奴は……」
グルナはなおも先を告げることを恐れるかのように言った。
「奴は、悪魔でありながら、悪魔の……最大の天敵なのだ」
グルナは重苦しい声で、その言葉を言った。
「悪魔の天敵!? それって、一体どういう……」
「とにかく、お前は兄貴に伝えるのだ!」
グルナの有無を言わせぬ口調に、メトネスは怯んだ。
「わ、分かったしさ! そう怒鳴るなよ、グルナのアニキ! あんたのそんな怯えた顔なんか、見たくもないしさ!」
「だったら、早く行け!」
グルナの怒鳴り声から逃れようとするかのように、メトネスは真っ黒な霧と化してその場から消え去った。
「そうだ、それでいい……」
グルナはそう呟くと、くるっと反対側を振り向いた。
そこには、妖艶な姿の女性が佇んでいた。美しいが、その容貌は非人間的で怪しげで、恐ろしかった。その唇は真っ黒で、その唇をめくり上げて剥き出しにした歯もまた、真っ黒だった。
「キャハハ! いつになく人間くせえじゃねぇか、グルナ!」
その女はグルナの恐怖を愉しむかのように言った。先ほどのメトネスとのやり取りを見ていたのだろう。
「ふん、あんなでき損ないでも、私にとっては唯一の弟だ」
グルナは自分がこんな台詞を吐くことになるだろうとは、今まで一度たりとも予想したことはなかった。ただ、口が勝手にしゃべったのだ。これは自分の意志ではない。緊張から、つい口が滑っただけだ。グルナは自分にそう言い聞かせた。
「キャハハ! ま、死に際の台詞にしちゃあ、まあまあじゃねえか。なあ!?」
「やはり、そういうことか……」
グルナはその女―の姿をしたレンクという悪魔―を睨みつけた。そして、レンクの眼を捕らえた途端、グルナは自分にできる最大の幻術を発動した。どんな者でも一瞬で発狂させるほどの、強力な幻術だ。
しかし、その効果が発動したかと思った刹那、レンクは口を、人間には到底できないほどに大きく開いた。その鋭く、黒い牙によって、グルナの幻術は呆気なく『噛み砕かれ』た。
「キャハハ! 言っとくが、アタイは相手が弟だからって手加減はしないぜ!?」
言うが早いが、レンクは一瞬でグルナの背後に移動していた。
「いただきまぁ~す!!」
そしてひとしきりグロテスクな音が響いた後、そこにグルナという悪魔が存在した形跡は、完全に消え去っていた。
序章「Beginning of Destiny」完