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 「………ふわあ〜」

 馬鹿でかいあくびをかまして、ミーナはベッドを降りた。

 ご自慢のさらさらブロンドヘアはぐしゃぐしゃで見るに耐えない状態になっている。

 彼女は起き出すと、とりあえず身支度を整えた。

 着替えてから洗面台に向かい、水を作り出す魔法で洗面器に一杯ためてから顔を洗う。

 サラサの村は高原の上のほうにあり、夏でも朝はかなり肌寒い。だから彼女は朝が大嫌いだったが、この辺まで来るとそうでもないらしい。水もそんなに冷たくないし。

 折りよく、ドアがノックされる音。

 「もしもーし。起きてますか?」

 「はーい」

 「ああ、おはようございます。朝ごはんできてますから、よろしければどうぞー」

 なんとサービスの良い。

 「ありがとー!」

 朝からかしましく大声を上げる。

 「さて……」

 ミーナは窓を開け放った。

 そこには平和な朝の町の風景が広がっていた。

 ハミルテン。

 ミーナがたどり着いたこの町の名である。





 ハミルテンの町は商業が盛んで、活気のあるそこそこ大きな町だ。

 ミーナが地図を購入した町から西に少し行ったところに位置している。

 要は、遊ぶと決めたらさっそく横道にそれてきたわけだ。

 昨日の夕方ごろに到着し、宿を探して一泊。

 しばらくここに留まってのんびりゆっくり過ごすつもりだった。

 ミーナは朝食を頂いてから朝の町へ散歩に出かけた。

 ちなみに旅費は村長が相当な額を用意してくれた。結構な額になっているが、彼女は気にしていない。もらえるもんはもらっとくタイプなのだ。

 「うーん。いいなあ」

 露店が立ち並ぶ通りを歩きながら、思わず独り言をもらす。

 果物屋のおばさんが店を開ける支度をしている。

 料理屋台の仕込みを二人の子供が手伝っている。

 ジャグリングのパフォーマーが練習を始めている。

 どれもこれも、活気に満ち溢れていた。

 のどかな村で暮らしているミーナにとって、こういう町は憧れだった。

 早くから営業しているジュース屋に声をかける。 

 「ちょっといい?」

 「ああ、いらっしゃい」

 ジュース屋はきれいなおねえちゃんだった。

 「どれにする?」

 「えーとねえ」

 メニューを覗き込む。魅力的な文字がずらーっと並んでいた。

 「じゃあ、りんごとオレンジのミックスで」

 「はーい。ちょっと待ってね」

 おねえさんは慣れた手つきでジュースを作り始めた。

 「キミ、この辺の子じゃないね」

 器械でりんごをすりつぶしながら、おねえさんが言ってくる。

 「うん、南のほうから来たの」

 「へ〜え。珍しいね」

 「ちょっとした観光だよ」

 当初の目的は頭からすっとんでいた。

 そうなの?と、おねえさんは言う。

 「でもここらへんには、よその人が見て面白いものはあんまりないと思うんだけどなあ」

 「そうなの?」

 ミーナは聞き返した。この通りだけでも十分面白いと思っていたのだが。

 「うん。これくらいの町は、いろんなところにあるしね」

 「……そうね」

 自分が相当なイナカから来たことを痛感する。

 「……ならさ、どっか面白いものがあるところって知らない?」

 「そうねえ……。北、かな。はい、どうぞ」

 「ありがと。……北?」

 ジュースを受け取って首を傾げる。言い方がなんだか抽象的だ。

 「そ、北。タラスラントって知ってる?」

 「……名前だけ知ってる」

 「あそこ、国境の町だからね。いろいろあって面白いよ。人も物もね」

 「う〜」

 微妙に複雑な心境でミーナはうなった。

 行くのがイヤになって脇道に来たのに、タラスラントは面白いところらしいのだ。

 行きたいような行きたくないような。

 「どうしよ〜かなあ」

 ずるずるとジュースをすする。

酸味がきいていて、それでいて甘みも強い。さわやかな口当たりだ。

「おいし〜」

「そう?ありがと。まあ、ゆっくり決めなよ」

 ジュース屋のおねえさんはにこやかに言った。










 結局、しばらくハミルテンに留まる事に決めた。まだ来たばかりで全然見て回っていないし、田舎者のミーナには十分面白いものがこの町にはあふれかえっているのだ。

 上機嫌でミーナは商店街を闊歩する。

 ガラス細工の工房やら、異国のものを売る店やらをひとしきり回った頃には、もう日が暮れかけていた。

 そろそろ宿に戻ろう。

 少し薄暗くなった道を、宿に向けて歩き出す。宿までの道のりはとても簡単だった。宿の正面に馬鹿でかい時計塔が立っていて、それが目印になる。

 そして、宿まであと五分ほどのところの少し細い道で、彼女はそいつに出くわした。


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