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エピローグ


 「あちい……」

 勇者様はぼろぼろの服装で、よろよろと街道を歩いていた。

 「のど乾いた……」

 そうは言っても水筒に水はなく、周りを見渡してもあるのは木々と原っぱ、真っ直ぐ伸びる長い道。水分のありかなどは見当たらない。

 「うう……、勇者なのに」

 レイアはジーパンのポケットから財布を取り出した。金貨が三枚、銀貨が五枚入っている。これだけあれば三ヶ月は暮らしていける、そのくらいの額だ。

 「……」

 勇者らしく一攫千金を狙っていたのに。

 一生懸命手柄を自慢して、村長らしきじじいに直接交渉して、得た全額がこれ。

 とはいえ、あの村にしてみればこれだけでもかなりの報酬なのだ。基本が自給自足、町に出るのが牧場の牛乳くらいと来れば、金銭のたくわえなどせいぜいこの程度。麦や米はたくさんあると言われたが、そんなものもって歩きたくなどない。

 そういうわけで、レイアは今サラサ村から得たわずかな賃金を手に街道を歩いている。ふらふらなのは、その金を使う場所が見当たらないからだ。家も店もなにもない街道、人がいなければ金なんかただの金属。

 「勇者なのに……」

 涙が出てくる。水分がもったいないので、すぐに顔をぬぐった。


 

 「……うう」

 「気がついたか?」

 優しい声が聞こえる。はっきりしない意識の中、その言葉がとても温かい。

 「……誰?どこなの?」

 「あの村の、奥のほうの森だ」

 男の声。聞いたことがある。

 彼はゆっくりと体を起こした。枕元に座っていた人物を見て、急に意識が覚醒する。

 「……久し、ぶり」

 真っ黒なコートを羽織った男。フードを目深に被っているが、誰だかはすぐに分かった。

 「……おにい、ちゃん?」

 容姿からかけ離れたか細い声で、ムニエルは尋ねた。戸惑いが隠せない。なぜ。

 驚きに見開かれた目じりに、涙が浮かんできた。

 「……どうして、ぼく……」

 泣き崩れる。その頭を、ぺちぺちと兄の手が叩いた。

 「……ゴメンな」

 「……?」

 「なんていうか……やっぱり、お前は弟だから。親父や兄貴がなんて言おうが、他のヤツがなんて言おうが」

 「どういう、こと?」

 ムニエルには、兄が何を言っているのかよく分からない。

 「いいんだ。俺に任せとけ。一緒に暮らせるようになるから、な?」

 顔を上げたムニエルの頬に、その手がぺとぺとと触れる。

 「……おにいちゃん」

 暖かい。

 待ち望んでいた手だ。

 「行くぞ」

 兄がフードの奥から、力強く言う。立ち上がって杖を振りかざすと、深い森の中に赤く輝く紋章が浮かび上がった。


 村は大変だった。

 たくさんの家が炎上し、ぶっ壊され、あげく牧場はめちゃくちゃに耕されてしまった。

 だが、めげている暇もない。動かなければ死んでしまうのだから。

 「……グルカは?」

 あれこれと食材の入ったかごを下げたミーナが、リックに尋ねる。彼は今牧場にできた巨大な穴を埋めていた。大勢の仲間と一緒にスコップ片手に、一生懸命体を動かしていた。

 「木を切り出しに行ったよ。他の連中もついてった」

 スコップを地面に突き立てて、男らしく一息つくリック。

 「つーか、何で俺がここで働かなきゃいけないんだろう……」

 理不尽な大人に振り回されて、結局この村に留まる事になってしまった。

 「まあまあ、いいじゃん。勇者なんだから、村のために働くのが当然じゃん?」

 この一件のあと、レイア、ミーナ、リック、グルカの四人は村人から勇者さまに奉り上げられてしまった。村を襲った悪魔を追い払った功績、でも実際に働いたのは主にレイアとミリオだ。ミリオはあのあと気絶したムニエルを連れて行方不明になっている。

 そういうあれこれをさして気にした風もなくミーナはすたすたと歩き去っていく。

 「どこいくんだ?」

 「広場で炊き出し。昼になったらおいでよ。うまいぞー」

 「……帰りたい……」

 村人が一丸となって復興に力を注いでいる。今日も朝から男達は土木作業に精を出し、女どもは共同で村の雑事に追われている。当分平和は戻りそうもないが、これはこれで平和なのだろうか。

 「じゃ、がんばってね」

 「おーう……」

 ぼそぼそと答える。ミーナは行ってしまった。

 「……勉強、してえなあ」

 ほんのちょっと前には絶対に聞かれなかった台詞が、ポツリと漏れた。


 


えらく時間がかかってしまいました。もうしわけないです。だらだら書こう、と決めて書き始めた作品ですが、最後までだらだらできて良かったような、良くなかったような気がしています。

延べ一年以上。だらだらもいいとこです。

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