表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

26


 「あとちょっとだ!」

 グルカとリックは元気よく、赤い光とつむじ風の巻き起こる草原の広場へ歩を進める。

 そのうしろではミーナが悪魔のスパイにおぶってもらっていた。足が痛いから、とミーナは説明したが、だれもが心の中で『歩いてたじゃん』と思っていた。

 「ねえ」

 「なんですか?」

 ミーナは赤い光の柱を眺めながらミリオに尋ねた。

 「その悪魔……ムニエルだっけ。なんで追い出されたの?」

 「それは……」

 すこし、ミリオは口ごもる。

 「……まあ、彼の外見を見れば分かることなんですけど。たとえば、犬が猫を生んだとしたら、どう思いますか?」

 「え?そりゃあ……変だね」

 「そうです。変なんです。どう考えても、おかしい」

 「で、なんか関係あるの?」

 「……次の質問です」

 歩を進めながらミリオは言う。豪風は広場に近づくにつれてうなりを上げる。一歩一歩を踏むたびに地震のように足元が揺れた。

 「あなたの母親が、サルを生んだとしたら。そのサル、どうしますか?」

 「え?」

 意味がわからなかった。言っていることが突飛過ぎる。

 わからなかったので、後頭部をグーで小突いてやった。小突くというか、ぶん殴るくらいのレベルだ。

 「あで!」

 「母さんがサルなんか産むわけないじゃん!」

 「た、たとえですよ!たとえ!」

 「……たとえ。ああ」

 そういうことか。つまり、ここで言うサルとはつまり――

 「ミーナさんに、聞きたいことがあるんですけど」

 「なんだい?」

 「もし仮に、本当に産まれてきた弟か妹がサルみたいな見た目だったら、その子、どうしますか?」

 また変な質問が飛んできた。拳を固め、後ろ頭に再びインパクト。固めた拳から人差し指をピンと立て、あごにあてて思案する。

 「そうだなあ……」

 「どうしますか?」

 頭を片手で押さえながら顔をミーナに向ける下っ端悪魔。なんとなく、物欲しそうな目に見えた。

 「……まあ、見た目が、ってだけでホンモノのサルじゃないんなら。当たり前だけど、弟か妹ってことになるし。そりゃ、普通に接するんじゃないの?」

 ミリオは顔を前に戻した。

 「……そうですよね。ありがとうございます」

 「は?」

 安堵したような声に、三度訳が分からない。三発目の拳を握ったところで、

 「着いたぞ!」

 グルカが叫んだ。小さな丘の向こう側、立ち上る炎の柱と地響き。風はいつの間にか弱まり、その代わりに辺りを強烈な熱気が覆っている。

 この丘を越えれば、さっきの広場だ。

 そのときだった。今までとは比べ物にならないくらい、強烈な閃光がはじけたのは。

 「うお!?」

 「な、何!?」

 地響き、空気をも揺るがし、爆音が鳴り響く。その場にいたものの鼓膜を揺るがし、遠く離れた避難所では村長がひそかに失禁したりした。

 光が収まる。炎も姿を消し、残るのは月の明かりのみ。

 「……なんだ?」

 「俺、様子見てくる!」

 リックが飛び出していった。丘をダッシュで駆け抜け、その姿が見えなくなる。

 一行も丘を登って、もう少しで向こう側が見えようというとき。

 リックの声。

 「ねーちゃん!おい、ねーちゃん!」


 体が動かない。

 頭が痛い。

 手も足も痛い。

 全身が痛い。

 だが、生きている。

 寝転がったまま、レイアは手元を見た。今まで握っていた剣は途中から刃がぽっきりと折れ、もはや何の力も感じられない。禁呪の剣もこれまでか。

 そして、悔しいことにあのおっさんはまだ生きている。

 だが、ダメージは確かにあるように見えた。少なくとも黒いマントはあちこち破れ、顔からも血を流している。

 これまでか。

 そのとき、知った声が聞こえた。

 「ねーちゃん!大丈夫か!?」

 自分をスカウトしたクソガキだ。こいつにだまされなければ、こんなところには来なかったのに。

 もっともこいつは、なんにも知らないのだが。

 「……生きてるけどね。あいにく、悪魔はぶっ殺せてない。逃げろ」

 「立てないの?」

 「……あででで!」

 無理やり身を起こしたら、とんでもない激痛に襲われた。

 「っていうか、あれ何?」

 ムニエルを指差しながら尋ねてくる。ダメージのせいか、悪魔は身じろぎしながらこちらを見ているだけだ。

 「……くやしいけど、あいつが悪魔。あんなでも死ぬほど強い」

 ――この自分を、ここまで追い込むほどに。

 「マジで……、あ、そうだ!」

 いきなり大声を上げたリックを、びっくりして見上げるレイア。

 「な、何?」

 「武器持ってたんだ、これ!」

 言いながら右手に持っていたものをレイアの鼻面に突きつけて、

 「うわ、何しやがる!?」

 勇者さま直々の鉄拳を脳天に喰らう。かろうじて落とさずに済んだその武器を、レイアはリックから奪い取って放り投げた。

 「何が武器だ!」

 「ああ!」

 放物線を描いて飛んでいくそれは、地面に落ちる前にふわりと空中で静止する。

 「気をつけてくださいよ」

 武器を中に浮かせたまま、そのそばに現れたのは青白い下っ端、スパイの悪魔、ミリオ。

 彼に続いてミーナとグルカも姿を現した。

 「手傷は負わせたみたいですね……。さすが、レイアさん」

 「……あんたか」

 「ま、話は後で。それより、これは本当に武器なんです。どうせ手詰まりなんでしょう?」

 「はん……。もうちょっと、強い魔法がかかってりゃよかったんだけど」

 「……」

 ミリオは苦笑する。何の話だか分からない一同は不思議そうな目で二人を見た。

 「とにかく、あとは僕の言うとおりにしていただければ済みます。ご協力願えますか?」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ