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足が痛い。

 「……ミリオ」

 自分をかばってくれた悪魔。

 「あたしは、こんなところでくたばっちゃいけない。あたしのために死んでくれたミリオのためにも」

 勝手に死んだことにしてる。

 痛む足を引きずりながら、彼女は考えていた。

 このまま逃げたとしても、いつかは見つかってしまうだろう。それではいけない。せめて追ってくる牛だけでも何とかしなければ。

 「痛っ!」

 ただすりむいただけなのに大げさにひざを突く。

 「くそ、なんか武器でもあれば」

 小屋になんか探しに行くか?だめだ、ここからでは遠い。

 落とし穴でも掘るか?いやまさか、そんな暇はなかろう。

 「……落とし穴」

 ひとつの考えが浮かんだ。だがはたして、うまくいくだろうか。

 ミーナは視線をあげた。いいのだ。どうせ何もしなければいつかとっ捕まってしまうのだから。

 ぴたりと足を止めた。振り向く。五感を研ぎ澄ませる。

 「……!」

 重い足音。間違いない。あの牛だ。

 っていうか早い。ミリオが全然役に立ってない。

 目を凝らすと、何かがこちらに向かってくるのが見えた。

 拳を握り締める。

 「さあ、来い」

 

 「なにやってるんだ、おっさん」

 「掘ってんだよ!見りゃ分かるんだろ!」

 「そりゃ、わかるけど」

 その通り、グルカは穴を掘っていた。場所はさっきの祠のすぐそばだ。

 「落とし穴?」

 「そうじゃねえ、探し物だ」

 かつて自分が埋めた剣。御神刀としてこの祠に奉られていた一振り。

 「なんでも大昔の魔法使いが造った剣で、いかにも利きそうなヤツなんだ」

 ちょっとリックは不安を覚えた。そんないい加減なもので本当に大丈夫なのか。

 それを口にすると、グルカはこう返してきた。

 「気にするな。どうせダメならそれまでなんだ」

 この男は確かにミーナの義父なのだ。

 「いいから、周り見張ってろ」

 「う、うん」

 あわてて辺りを見回す。いまのところ何の気配も感じられない。

 だが化け物は確実に近くにいる。それは間違いではない。

 いやな感じの沈黙が訪れた。

 「……」

 風の音がする。風にくすぐられた草木の音が。

 「……あった!」

 「!!」

 リックは思い切りびっくりした。

 「こいつだ、見ろ!」

 土を払い落としながら、なにか棒状の塊を大男が掲げた。

 「なんか、めちゃめちゃさびついてない?」

 「気にするな!」

 ちょっとは気にしたほうがいいと思う。

 じっくり見てみると、柄の部分には確かになんかの装飾がなされていた。昔はさぞ立派な宝剣だったのだろう。

 「これで化け物のヤロウをたたっ斬ってやれるぞ!」

 「……誰を、たたっ斬れるってえ?」

 「!!」

 祠の影に、何かがいる。ゆらりと月明かりのもとに姿を現した。トカゲの姿をした二本足。

 「ウソだ!?気配なんか」

 「足音立てるトカゲなんか見たこと無いだろう?ひひ」

 「……やっぱ、トカゲなんだな」

 しゃきんと鍔鳴りの音がした。銀光が月明かりを返す。

 「試してみなよ、おっさん」

 「いくぜ、下がってな。ぼうず」

 やる気マンマンでグルカは宝剣のなれのはてを構えた。


 「……まだか」

 勇者様はあくびを一つした。

 ずっと待っているがなんの音沙汰も無い。いい加減復活して欲しいものだが。

 「ヒマだ……」

 時間があるならみんなを助けにでも行こうか。

 「いや」

 どうせ、どうにかなるのだ。自分が出て行ったところで結果が変わらないのなら、意味がないしめんどくさい。

 「どうせなら、こっちも何とかして欲しいんだけど」

 かがり火の向こうに声を投げかける。

 なんの反応も無かった。

 「……無視しやがるし」


 


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