20
足が痛い。
「……ミリオ」
自分をかばってくれた悪魔。
「あたしは、こんなところでくたばっちゃいけない。あたしのために死んでくれたミリオのためにも」
勝手に死んだことにしてる。
痛む足を引きずりながら、彼女は考えていた。
このまま逃げたとしても、いつかは見つかってしまうだろう。それではいけない。せめて追ってくる牛だけでも何とかしなければ。
「痛っ!」
ただすりむいただけなのに大げさにひざを突く。
「くそ、なんか武器でもあれば」
小屋になんか探しに行くか?だめだ、ここからでは遠い。
落とし穴でも掘るか?いやまさか、そんな暇はなかろう。
「……落とし穴」
ひとつの考えが浮かんだ。だがはたして、うまくいくだろうか。
ミーナは視線をあげた。いいのだ。どうせ何もしなければいつかとっ捕まってしまうのだから。
ぴたりと足を止めた。振り向く。五感を研ぎ澄ませる。
「……!」
重い足音。間違いない。あの牛だ。
っていうか早い。ミリオが全然役に立ってない。
目を凝らすと、何かがこちらに向かってくるのが見えた。
拳を握り締める。
「さあ、来い」
「なにやってるんだ、おっさん」
「掘ってんだよ!見りゃ分かるんだろ!」
「そりゃ、わかるけど」
その通り、グルカは穴を掘っていた。場所はさっきの祠のすぐそばだ。
「落とし穴?」
「そうじゃねえ、探し物だ」
かつて自分が埋めた剣。御神刀としてこの祠に奉られていた一振り。
「なんでも大昔の魔法使いが造った剣で、いかにも利きそうなヤツなんだ」
ちょっとリックは不安を覚えた。そんないい加減なもので本当に大丈夫なのか。
それを口にすると、グルカはこう返してきた。
「気にするな。どうせダメならそれまでなんだ」
この男は確かにミーナの義父なのだ。
「いいから、周り見張ってろ」
「う、うん」
あわてて辺りを見回す。いまのところ何の気配も感じられない。
だが化け物は確実に近くにいる。それは間違いではない。
いやな感じの沈黙が訪れた。
「……」
風の音がする。風にくすぐられた草木の音が。
「……あった!」
「!!」
リックは思い切りびっくりした。
「こいつだ、見ろ!」
土を払い落としながら、なにか棒状の塊を大男が掲げた。
「なんか、めちゃめちゃさびついてない?」
「気にするな!」
ちょっとは気にしたほうがいいと思う。
じっくり見てみると、柄の部分には確かになんかの装飾がなされていた。昔はさぞ立派な宝剣だったのだろう。
「これで化け物のヤロウをたたっ斬ってやれるぞ!」
「……誰を、たたっ斬れるってえ?」
「!!」
祠の影に、何かがいる。ゆらりと月明かりのもとに姿を現した。トカゲの姿をした二本足。
「ウソだ!?気配なんか」
「足音立てるトカゲなんか見たこと無いだろう?ひひ」
「……やっぱ、トカゲなんだな」
しゃきんと鍔鳴りの音がした。銀光が月明かりを返す。
「試してみなよ、おっさん」
「いくぜ、下がってな。ぼうず」
やる気マンマンでグルカは宝剣のなれのはてを構えた。
「……まだか」
勇者様はあくびを一つした。
ずっと待っているがなんの音沙汰も無い。いい加減復活して欲しいものだが。
「ヒマだ……」
時間があるならみんなを助けにでも行こうか。
「いや」
どうせ、どうにかなるのだ。自分が出て行ったところで結果が変わらないのなら、意味がないしめんどくさい。
「どうせなら、こっちも何とかして欲しいんだけど」
かがり火の向こうに声を投げかける。
なんの反応も無かった。
「……無視しやがるし」




