表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

19


 「うう……」

 木の陰に隠れてミリオは震えていた。

 そっと顔を出してミーナの様子を伺う。

 巨大な牛がじりじりと彼女に迫っていく。しりもちつきながら、ミーナは後ずさりしていった。

 どう見てもピンチだ。

 「ああ……」

 かわいそうだ。出来れば助けてあげたいが、自分はこれでも悪魔。ムニエル陣営側の人間(?)だ。助けに行けば後がこわい。

 だがしかし、このままでは彼女はきっとえらいことになるだろう。それこそ子供には見せられないような。

 懊悩しているうち、牛が彼女に飛び掛る。ひづめのぎらぎらした光が少女に迫る。

 「あっ!」

 間一髪の所で、ミーナは横に飛び退いてかわした。

 牛と距離が離れる。

 「い、今だ!逃げろ!」

 小声で声援を飛ばす。

 しかしミーナは立ち上がらなかった。苦しそうに左のひざを押さえている。跳んだときすりむいたのだろうか。

 振り返った牛が距離を詰める。正真正銘のピンチ。

 「ああ……!」

 なぜだか分からないが、こんなのはダメだ。ダメなのだ。

 そうして気付いたときには、ミリオの体は木陰から飛び出していた。

 「やめろ!」

 足が勝手に駆け出した。牛がこちらを振り向く。

 「……お前、ミリオじゃねえか。なんのつもりだ」

 「そ、その子を」

 ミリオは横目でミーナをちらりと見た。よろよろと立ち上がって、こちらを見ている。

 「なんだ?なにか言いたいことでもあるのか、下っ端」

 その一言で、彼の中の何かが切れた。

 「その子をいじめないでください!」

 下っ端根性が抜けてない。

 「逆らうのか、下っ端が!」

 いまや牛の注意は完全にこちらに向いている。

 ミリオは叫んだ。

 「今のうちに逃げて!」

 でももうミーナの姿は視界から消えていた。

 「えええ!?」


 とにかく走って、グルカはミーナの住んでいる小屋にやってきた。さっきの祠はここからそう遠くない。

 「な、なに、ここ」

 「ミーナんちだ。ほれ、お前も探せ」

 「なにを」

 「スコップ」

 リックには脈絡がさっぱり分からない。

 「なんで?」

 「いいから!」

 大男とちびガキはそろって女の子のうちを捜索し始めた。

 もともと物置小屋に増設しただけのスペース、彼女の家は半分くらい物置のままだ。

 二人が部屋を引っ掻き回すまでもなく、部屋の中はぐちゃぐちゃだった。

 「ほんとにこれ、女の子の部屋なのか」

 リックはあきれたように言う。

 ベッドの上、テーブルの上、床、とにかく物が散乱している。上着、下着、食器、本、等々。

 「そのうちわかるさ。お前の理想が所詮は幻想なんだって事が」

 遠い目でグルカは言った。スコップは見つからない。ミーナがこの間持っていったからここにあると踏んだのだが、見当違いだったか。

 しばらくがそごそとやっていると、リックの手が何かを探り当てた。

 「あった」

 「ほんとか?」

 追い求めたものがそこにあった。

 タンスの中に。

 「……なんでこんなところにあるんだろ」

 「さあ……」

 かるいミステリーだ。

 

 ヒゲの悪魔は自分の目を疑った。

 黒い剣が消えていく。女の心臓につきたてたはずの刃が、まるで何かに食われているかのように消えていくのだ。

 「バカな……!?」

 目を見開いた顔面に、強烈な拳が直撃した。

 吹き飛ぶ。

 拳は握りこんだまま、ゆっくりとレイアは歩み寄ってくる。

 「あたしの体はちょっと、特別でね」

 「ま、魔法か」

 「そう。高い金払っただけは、あるよね」

 落ちている剣を拾い上げる。と同時に、その剣は一瞬にして巨大な包丁のような大剣に変化した。

 こともなげに片手でそれを操って、ヒゲののどもとに切っ先を突きつける。

 「じゃ、さっさと悪魔を復活させて」

 「くっ……」

 最高に汚い嫌な汗が流れる。

 「む、無理だ。封印は時間が来れば解けるが、われらの力だけで破れるほど脆弱なものではない」

 「なんだ、そうなの」

 驚くほどの予備知識の無さだ。

 「だが、あの方を倒されるわけにはいかない!」

 「!!」

 見えない力が切っ先を跳ね上げた。

 がら空きになった胴に、青い光をまとった拳が伸びて――

 「がは!」

 背中から大剣が生えていた。一瞬で。

 「なんて、ことだ」

 「相手が悪かったね」

 目を見開いたまま、ヒゲは口を開いた。

 「だが、それではあの方は倒せない……」

 そうして、ヒゲもじゃ親父の体は砂となった。

 「……さて、待つか」

 追われてる人たちを助けに行く気はないらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ