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 「はあ……」

 ため息。

 暗がりでひとり、彼は見張りを言いつけられて腐っていた。

 ぱっと見は、気の弱そうな青年だ。

 「なんだかなあ……。僕、ほんとはあの人あんまり好きじゃないんだけど」

 そもそも、上司の命令とはいえどうして僕はこんなところにいるんだろう。

 彼の名はミリオ。れっきとした悪魔の眷族で、下っ端その一だ。その証拠に頭にはヤギみたいな角が二本突き出しているし、顔色だって青ざめまくっている。

 言い方を変えれば、ただそれだけの特徴しかない。あとは人間といっしょだ。

 顔もたいしてぱっとしてない。

 「ああ……帰りたい」

 「手伝おうか」

 若い女の声。

 世闇に突然、ぬっと無骨なものが突き出された。銀色ででかい。鋭い角度と、重量感。

 「ひえっ!?」

 思わず彼は飛び退いた。が、飛び退いた体はがっちりとホールドされてしまった。すばやく羽交い絞めにされ、首筋に大剣が突きつけられる。

 「ななな、なんだ!?」

 「騒ぐな。殺すぞ」

 大剣を持つ手の主が言う。背後なので姿は見えない。が、声には言い知れない迫力があった。

 殺される。

 「お、……お助けを」

 「……なっさけないねえ。あんた化けモンでしょ?」

 あきれた声で言う。

 「そんな事言われても……」

 抵抗したら殺すというのだ。逆らえるわけないじゃないか。

 「……ま、いいわ。いい?騒ぐんじゃないよ」

 そう言って、女性は物騒なものをどけてくれた。拘束も解かれる。

 「はあ、はあ」

 ミリオはたいそう安堵したが、さっきまで背中に押し付けられていたやらかいものの感触を思い出してちょっと寂しくもなった。

 たいしたヤツなのかもしれない。

 なんとなくレイアはそいつの後頭部をぶん殴った。

 「あいて!」


 とっつかまえたミリオを縄でふん縛って、レイア、ミーナ、グルカとリックの四人組は一旦集合した。

 尋問のためだ。

 「しっかしまあ」

 レイアは剣を再びミリオに突きつけて、レイアは口を開いた。剣はいつの間にか、もとの細身に戻っている。

 「ほんとに弱っちいね、あんた」

 「う」

 心なしか傷ついた様子でミリオはうつむく。

 「化け物っていっても、いろいろあるんだねえ」

 ミーナはしきりに感心していた。仕方ないのかもしれない。なにしろ今まで遭遇してきたのはいかにもな豚や犬だけだったのだから。

 「あ、はい。たいがいの人はもっと強そうな格好に生まれてくるんですけど、たまに僕みたいな姿になっちゃうこともあるんです」

 縦社会の中で力のないものは、つらい役回りをさせられるのが常だ。

 「そのせいで、昔からずっと下っ端でした。ご飯だって、ここ何年も肉が食べられないんですよ。はは、もう慣れちゃいましたけど」

 力ない笑みに、グルカは言い知れない同情を覚えた。

 「ううう……。かわいそうに」

 「はいはい、そんなことはどーだっていいから」

 レイアさんが釘を刺した。

 「ちょっと、質問に答えてもらうよ。いい?」

 「は、はい」

 剣が首筋にすーっと近づいた。少しでも引けば、変な色の血が吹き出ることだろう。

 「まず、ええと……」

 で、ミーナに目配せする。結局のところ何を聞けばいいのかいまいち分かってない。

 ミーナはちょこんと座って、そいつの顔を覗き込みながら尋ねた。

 「えーと、な、名前は?」

 「え、あ、僕、えと、ミリオです」

 「そうじゃないだろ」

 つっこみがリックから入る。

 「だってさあ……。えーと、ミリオ?」

 「は、はい」

 なんとなく、ミリオの動きがぎくしゃくしていた。

 「なんか、すごい悪魔が、この村のどっかで寝てるんだっけ?」

 まわりの反応をうかがいながら、おずおずと質問する。質問の意図が明らかではない。

 「そいつがもうすぐ復活するって聞いたんだけど」

 「……それ、たぶんあの人のことだと思います」


 彼らの住む世界は、魔界と呼ばれる。人の世と隔離された世界。

 そこに住む彼らは、自らをその世界に封じ、人の世と交わることを硬く禁じていた。

 決して良好とは言えないまでも、それなりの秩序を持って彼らの世界は存在し続けていた。

 幾多の不満を含み。幾多の憎悪を抱え。

 そんな世界に突如、彼は現れた。

 魔界の異端者。

 彼はそう呼ばれていた

 秩序は乱れた。

 彼に付き従い、その世界を変えようと蜂起した者も現れる。

 彼の名はムニエル。

 魔界の異端者、秩序の破壊神。

 その名はムニエル。

 

 


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