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天使のツバサ  作者: 黄原凛斗
天使どもがやってくる
8/9

悪魔の笛と傲慢天使




 耳を塞いだはいいがどうもクラクラする。シオンに支えてもらったが今にも倒れそうだった。

「大丈夫ですか? 気分はどうですか?」

 心配そうに聞いてくるシオンは俺とは逆になんともないようであちこち探るように見渡している。

「これ……何だよ……」

「恐らく悪魔の襲撃かと……厄介ですね。この学校の人間が全て敵に回ってしまったようです」

「悪魔……? お前……もしかして」


「はい、私は天使、天界戦士のシオン。正式名シデルオーエンと申します。貴方を守護しに来ました」


 凛々しく言うと俺の頭にそっと触れ目を閉じた。

「敵の気配はないので……先にヒーリングしておきますね」

 すると暖かい何かに包まれた感じになり気分もあっという間によくなった。

 シオンはにっこりと笑うと俺から手を離した。

「悪魔の魔法なので効いたみたいですね。それにしても早くここから移動しないとまずそうです……」

 不安げな表情を浮かべたかと思うと俺の手を握り駆け出した。

「ちょっ――!?」

 俺が言うより早くシオンは腕の長さほどはある棒――ファンタジーとかで魔法使い持っていそうな杖を振ると何か呟き後方へ向けた。

 人が倒れるような鈍い音が聞こえ振り返ると数人の生徒が倒れていた。

「先程の悪魔の魔法で操られてます。それに学校に結界が張られていて外から入ることもなかから出ることも不可能です」

「はぁ!? じゃあどうすんだよ?」

 早くも順応しかけている自分が悲しい。けれど慣れないと本格的にやばいようだ。

「結界を張った悪魔を見つけるか……結界の媒体を破壊するしか――恐らくこの校舎ですね」

「それは、無理だな……」

 校舎を破壊だなんて真似したら他の生徒や教師たちに怪我人、下手したら死人が出るかもしれない。

「こういうときショウ君が居てくれたら……ユラちゃんはこういうことに不向きですし……」

「ユラ? もしかして金髪の無駄に明るくてうるさい奴のことじゃないよな?」

「ええ、多分そのユラちゃんです。気配は微かにするのですが結界の影響で校舎のどこにいるかまでは……」

 やはり仲間だった。これ以上増えないことを願うばかりだがなぜだろう、増える気がする。

 行く手を阻む操られた生徒たちを次々と気絶させていくシオン。しかし全校生徒が操られているゆえあちこちから湧いてくる。

「仕方ないですね……カイトさん少々我慢してください」

 そういって俺の腕を掴んだかと思うと白い翼を出現させ上空へと飛んだ。

「ってええええ!? 落ちる、落ちるって!!」

「私、力がないので不安なんですが……手段を選んでられませんので一度校舎に入りましょう。ユラちゃんと合流――」

 シオンの言葉は最後まで言い終えることなく何者かの攻撃によって遮られた。







 ある場所に向かいながら校舎内を駆ける二人。

 襲いかかる生徒たちを眠らせていく彼に驚きを隠せない由良は戸惑いがちに霧夜に尋ねた。

「ねえ、あなたまさか――」

「言わなくても理解しろ。見てのとおりエクソシストだ」

「見てのとおりって教科書に載ってたエクソシストと全く違うよ! そもそもエクソシストがなんで――」

「お前らが『フェリシタル』と呼んでいる存在、今は汐崎を守り保護する一族の末裔だ。貴様ら天使はどうせ毎度役に立たないからな」

「な、なんですってー!? 天使は悪魔よりも人間よりも尊い存在だっていうのに!! それにエクソシスト一人にできることなんてたかが知れて――」

「たかがエクソシストができて天使ができないことがあるとは意外だな。口だけでなく証明しろ」

 ことごとく切り捨てられやや心のダメージが大きい由良に構わず進むの霧夜は迷いなく上へと向かう。

 由良は行き先を知らないままついてきているためどこへ向かうのかわからないため念のため霧夜に聞いてみた。

「というか、どこに向かってるの?」

「屋上」







 何者かに翼を撃ち抜かれたシオンが体制を崩す。しかしすぐに持ち直し苦しそうにしながらも羽ばたく。

「大丈夫か!? 今――」

「へ、いきで、す……それより、今の攻撃は屋上から……」

 屋上をよく見ると小さな人影があるのがわかる。そして、また何か仕掛けてくることも――

「カイトさん、ごめんなさい、しっかり掴まっててください……!」

 それだけ言うと先程より早く、しかし荒っぽく飛行する。落ちそうになる恐怖が体中を支配するがあともう少しで屋上までたどり着く――そんな時に再びシオンを撃ち抜く音が響いた。

「くっ……!」

 今度こそ二人揃って落ちるかと思い目をきつく瞑る――が、いつまで経っても落ちる感じがしない。

 落ちる感じの代わりに謎の浮遊感に包まれ気がつくと屋上に着地していた。

「い、今のは……」

 どうやらシオンの仕業ではないようで驚き、目を見開いている。

 しかしそれどころじゃないのか傷ついた羽を見て顔を引き締め警戒するように辺りを見回した。

「カイトさん、今貴方は人間で最も重要な存在です。天使も悪魔も貴方の存在する限り滅びかねないんです」

 真剣な声音からして冗談ではないだろうがどうも実感が湧かない。何しろ生まれてからつい先日まで普通に生きてきたのだ。天使とか悪魔とか見たことないし。

「ですから――悪魔がどんな甘言を囁いても乗せられないでくださいっ!」

 ガンッ、と弾くような音とともにガラスのような何かが俺の周りに現れ円形ドームのような形で定着した。中から出られないようになっており外からも恐らく入ることはできないのだろう。俺を守るようにして現れた見えない壁は『結界』のようなものだと悟った。


「……あの猪突猛進のバカ天使かと思ったのに違う天使なんだ。でも倒せば一緒だよね」


 物陰から現れた小柄な人物はボロボロのフードを目深にかぶっており顔は見えない。右手には装飾が施された横笛が握られておりどことなく禍々しさを感じる。直感的にこいつが悪魔なんだと感じ取れたのは前の化物のせいなのか。

「その人、ちょうだい」

 悪魔が俺を指差すとシオンは庇うように立ちはだかり目を細めた。

「渡しません。悪魔の言葉は聞く必要なんてありませんから」

 それと同時に屋上の扉が勢いよく開かれた。

「カイト――ってシオン!?」

「何だ。また別のがいたのか」

 焦りを浮かべる天野――となぜか細い剣のようなものを持っている霧夜。天野はともかく霧夜はなんで……。

「次から次へと……まあ、一度に邪魔者が消せるしいっか」

 笛を吹くとどこか不安になる音が流れ気分が悪くなりそうだ。

 シオンがとっさに手を伸ばすが奇妙な音に圧されて身動きが取れなくなっている。それは音を聞いてしまった天野と霧夜もまるで何かに押しつぶされている様に膝をつく。当然、俺もその圧力がかかるわけで――

「フェリシタル……持ち帰って『けんじょう』すればみんながよろこぶ……」

「カイト!」

 悪魔の手が俺に伸びてくる。隠れていた悪魔の顔が一瞬だけ見えた気がしたと同時に不自然な音が響いた。

 まるでガラスをカナヅチで叩いているような耳が痛くなるような不協和音。


 学校を外界から隔離する結界がまるでガラスが割れてバラバラと崩れていくように触れられない破片が飛び散っていく。状況が状況じゃなかったら素直にその光景を綺麗だと思っただろう。



「愚鈍で役に立たないお前らのためにこの俺様が駆けつけてやったんだ! むせび泣いて喜ぶがいい!」



 少年のようなやや幼さのある声が響くと同時に屋上に新しい人影が現れる。

 それと同時に圧力が消え自由になると同時に天野とシオンが人影を見て驚いたような表情を浮かべていた。

「えっ!? ショウ!?」

「ショウ君!? どうして――」

 顔見知りである天使二人は驚き、そして安堵したように突然現れた三人目の天使を見た。

 どう見ても男。男の天使なんだろうがどこか天使らしくない雰囲気をまとっており濃い青の髪に赤い目は天使というより――



「俺様最強天界戦士であるショウベルクウス様が来たからには大船豪華客船に乗ったつもりで頼るがいい!! さあ崇めろ称えろ!! 俺様は褒めれば伸びるぞ!!」



 なんとなく、悪魔っぽい。そして……ウザイ。

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