誤解されるようなこと
昨日、夜に米もおかずも残らなかったので早めに起きて朝食と弁当を作る。
いつもより少しだけ早く起きたので欠伸を何度もしているとソファでうずくまっている天野が目に入った。
呑気に涎を垂らしているアホ面全開だ。
適当に弁当に詰める作業をしていると呼び鈴の音が聞こえてきた。
こんな時間に誰だろう。扉を開けるとそこにいたのは恵美だった。
「め、恵美? どうしたんだ?」
「一緒に学校行こうと思って。早めに起こさないとまた遅刻スレスレになるかなって」
顔を俯けたまま喋る恵みにどこか違和感を覚えた。具合でも悪いのか。
「今弁当作ってたんだよ、まだ朝飯も食ってないし……てか早すぎだろ」
「ああ、うん、そうだよね……海斗の料理久しぶりに食べたいなー」
「はいはい、今度な。別に今食べれるならあがって食っても――」
そこで俺は重要すぎることを思い出した。
今、ソファで天野が寝ている。それを見た恵美は何を思うだろうか。
現在午前六時なのにもかかわらずクラスの女子が健全な一人暮らしの男子の家で寝ている。
字面だけ追っても無茶苦茶だ。
言い訳するにしたってどうしろと? 拾った――犬じゃあるまいし。朝起きたら居た――ありえないだろ。泊まった――何で?
どう考えても逃げ道がない。とりあえず家にあげるのだけは阻止しなければ。
「あ、じゃあ少しあがらせてもらおうかな。朝ご飯、食べる気しなくて今日食べてなかったんだけど……」
「いや待て、やっぱ無理だ。ごめん」
「えっ、何で一瞬で言ってること変わってんの? 少しくらいいいじゃない」
「無理無理無理。今めっちゃ散らかっててあげるわけには――」
扉を閉めようとすると恵美は納得がいかないのかそれを阻止しようと取っ手を掴み強く引っ張る。
双方の力がせめぎあい扉が中途半端な開き方になった状態が続く。地味にどちらかに動くが基本は動かずぷるぷると揺れている。
「少しくらいなら気にしないし! てか何でそんなに必死なの? 何かやましいことでもあるの!?」
「やましいこととか全然全く一切ねーよ! とりあえず後で、なっ」
「カイトー……? 何してるのー……?」
後方から聞こえてくる眠そうな声に驚き扉を引っ張る力が弱まった。恵美はその隙を見逃さなかった。
思いっきり、扉壊れんじゃねーかってくらいの力で引っ張り、家へ侵入した。
そして、凍りついた。
「あ、れ……天野さ、ん」
「うぅん……おはよーカイト、あっ、春川さんだよね? おはようー」
「……………………海斗?」
恵美の視線が痛い。本気で軽蔑してるような目をしてる。というか怖い。
恵美はそのまま出ていってしまった。
「春川さん、どうしたの?」
「……終わった、俺の人生終わった」
「ほへ?」
絶望に沈む俺に天野は首をかしげたままだった。