暴食天使の晩ご飯
天使。宗教などにおける神の使い。純白の羽が象徴とも言われており容姿などは伝承によって様々。
しかし、本当の天使姿は謎に包まれている。
……天使。俺のイメージだとなんかこう、綺麗で高貴な感じとかそんな感じなんだけど……。
「おいし~! 人間界の食べ物ってすごいね! リョウリっていうの? それができるんでしょ、すごいね!」
「あ、ああ……」
目の前にいる自称天使……俺の作った飯にがっついてるのが天使……。
「それでねっ、仲間の二人とはぐれちゃってねっ、まだ人間界と馴染んでないからうまく活動できなくてねっ――」
天使……信じたくないけど天使……。
無邪気すぎる笑顔はとても可愛らしくて、人間とは思えなくて。
「きーいーてーるー? カイトー、ねーえ」
これが……天使……天使……。
「信じたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「わっ、どしたの? あ、お腹すいてると機嫌悪くなるって聞いた! はい、これっ」
天野は俺の口に晩飯に作った肉じゃがの人参を突っ込んだ。
……傍から見たら「あーん」してるような構図。
「悪い冗談だって言ってくれよ……つか意味わかんねぇし……何で天使がこんなところにいんの。さっき襲ってきたの何。何でお前当たり前みたいに晩飯食ってんの!」
「うーん、簡単に説明するとね、カイトってものすごぉぉぉく強い力があってそれを狙う悪魔がいるの! さっきのは悪魔が支配してる魔物か下級悪魔のどっちかだと思う」
へーそうなんだー。もう馬鹿らしすぎてなんて言えばいいんだ。
強い力? 悪魔? 十七年間生きてきてそんな強いだのなんだの感じたことはない。運動頭脳容姿、どれをとっても標準な俺が? ねーよ。
「そして! アタシたちはそんなカイト守るために天界から遣わされた天界戦士。できるだけ離れないようにするために一緒に住むんだよ!」
「住むこと確定事項かよ!? 帰れ!」
「え~でも~一人でいるとさっきみたいに~魔物とか悪魔に襲われちゃうよ~」
「うっ……」
それは嫌だ。まだ死にたくないです、はい。
「カイトってね、悪魔とか天使の力を強化したり弱体化させたりする能力を持っていて、それで悪魔が自分の力を向上させようと狙ってるの」
「へー、どうしたら強くできたりすんの」
やり方分かれば適当に強くして帰ってもらえるのに。
やや現実逃避したいがためにそんなことを考えてしまう。
「聞いた話だと覚醒すれば望んだ存在を強化できるらしいよ。あと血肉を食べるとか……」
食べるってそのまんまの意味じゃないよな。グロい、グロすぎる。
「そういえばせーこういってやつもって言ってたけど……そのへんアタシはよくわかんないんだよね」
聞こえなかった。俺には何も聞こえなかった。そうだろ、俺。
想像以上に俺の置かれてる状況はやばいらしい。
「天界に連れてくとカイトに負担かかるからとりあえず様子見ってことでアタシとチームの仲間二人が遣わされたんだけど……迷惑かな?」
「うん、果てしなく迷惑」
「なんで~! 天使の加護だよ! 泣いて喜ぶよ、普通!」
「別の意味で泣きそうだよ! 命狙われてるし天使(仮)は家に住み着こうとしてるしお前食う量半端ないから食費跳ね上がりそうだし!」
冷凍しとこうと思って米二合炊いたのに全部なくなってるじゃんかよ。いつ食ったこいつ。肉じゃがも明日の弁当にいれようと思ったのに全部食いやがった。
はぁぁぁと深いため息をつくと何を考えたのか天野は見当違いな発言をした。
「大丈夫! 人間界の言葉に『寝る子食べる子よく育つ』ってのがあるって!」
「ねーよ! 『寝る子は育つ』だろうが!」
今日の俺、突っ込んでばかりな気がする。
疲れた、もう寝たい……。
「俺もう寝るわ……わけわかんないことばっかで疲れた……」
「アタシも寝るー」
なんか普通に部屋にまでついてこようとしてるんだけどこいつ。
「お前はソファにでも寝てろ! あと朝は別々に登校だからな!」
ダンッと自室のドアを閉めベッドに寝転んだ。
天使、悪魔――俺にどうしろっていうんだ。
わかんねーよ……わかんねーよ……。
今はただ、現実から目を背けるために眠りについた。
その頃――
とある公園。
「う~ん、二人とはぐれてしまったみたいですね……どうしましょう……」
ウェーブがかかった紫色の髪を持つ少女。困ったように辺りをきょろきょろと見回す。
「とりあえず、気配を辿ってみますか……」
そしてもう一つ――
少々ガラの悪い人間が集まる街。
そこの、薄暗い路地裏でひとりの少年を囲むチンピラが数人。
「オィ、そこのガキィ、こんな時間にうろついてんじゃねーぞォ」
「オレらの縄張りにずかずか踏み込みやがってよォ」
「……低俗すぎて笑えんな、人間」
青黒い髪をかきあげ鬱陶しそうに顔を歪める少年。
「貴様らのような低能がいるから俺様たちが苦労するんだ。わかったなら今後己を改めることだな」
完全に見下したように笑う少年にチンピラたちは襲いかかった。