平凡の朝
平凡なことを毎日平凡な気持ちで実行することが、すなわち非凡なのである。
誰かの言葉だったような気がする。
「弁当持ったな……よし、今日もがんばるぞー!」
平凡すぎるほど平凡な俺、汐崎海斗は朝の日課である弁当作りを終え今しがた学校へ向かうところだった。
鞄を掴み、玄関から学校へ向かう道に進み携帯を開き時間を確認する。やや遅めだがこのまま行けば遅刻はしないだろう。
現在一人暮らし。父親は海外で、詳しいことはわからないが何かの研究をしているらしい。母親は俺が小さいときに死んだらしく写真も残ってないのでどんな顔なのか知らないままだ。
しかし別段、困ることもなければ寂しいなどと思うわけでもなく解放感のある生活を満喫していた。
父親が定期的に送ってくる生活費は一般家庭の水準より高いと判断しているがあんまり使い道がないので地味に貯金に当てている。
それらを含めても自分を平凡すぎるほど平凡と自称するのにはそれなりにわけがある。
運動、頭脳、見た目ともに標準。部活なし、委員会なし。更には夢なし。友達はそこそこだが彼女はいない。
刺激を求めているというわけでもないが平凡すぎるのもそれはそれでどうかと思う。
「海斗ー! 待ちなさーい!」
突然後ろから自分を呼ぶ声がしたので振り返る。そこには見覚えのある幼馴染の姿があった。
頑張って手入れしていると言っていた髪をポニーテールしていて自転車を立ち漕ぎしながら近寄ってくる。
「おーっす、恵美。珍しいな、こんな時間に登校なんて」
「ちょっと寝坊したのよ。あんたは徒歩でしょ。間に合うの?」
ややスピードを落としてくれた恵美は俺と並ぶ形になり顔を覗き込んでくる。
こっそり男子の間では美人と称されているが昔から見慣れている俺としてはまあ可愛いんじゃねくらいの感じだ。
「なんとかなるだろ。心配してくれるんなら後ろ乗せてくれよー」
「二人乗りはだーめ。せいぜい頑張りなさいな」
無情にもそう告げると自転車のスピードを早め一人で学校に向かってしまった。
俺も急いだほうがいいな。そう思い駆け足で通学路を進む。
角を曲り、そして――何か踏んだ。
「ふぎゅ!」
奇声を発したそれは金髪の美少女――多分年はさほど俺と変わらないくらいの。
外国人だろうか? そう思っているとあることに気がついた。制服を着用している。しかも俺の学校のものだ。
「うぅ~、なんか変な空気ー。頭クラクラするよー……」
ぶつぶつと何か呟きながら起き上がると俺に気づき、じっと見つめてくる。
「あれ……もしかして」
「は? ええっと、踏んで悪かったな」
一応謝ってく。しかし道端に落ちている美少女。明らかにシュールだ。この時代に行き倒れとかありえないだろうし。
すると少女はニコッと満面の笑みを浮かべ俺の頭を撫でる。その意味不明な行動に思わず固まる。
「え、あの……?」
「また後でねー! 今はちょっと色々しなきゃいけないからー」
そう言って角を曲がる。思わず後を追いかけようとすると少女の姿はそこにはなかった。
「ど、どういうことだ……?」
わけがわからないまま立ち尽くしていると携帯が鳴り我に返る。
携帯を開くと友達からのメールだった。
『お前何してんの? まだ家? 遅刻するぞー』
「やっべぇ!? 走っても間に合うのかよ!」
先程の少女のことはとりあえず頭から捨て去りただ学校へ向かう。
一瞬、純白の羽が視界に映った気がしたがそれを気にする余裕もなかった。
この時すでに、俺の平凡は急激に崩壊していた。




