表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ときめく青春の物語〜麗香の心情編〜

私にとってそれはもう衝撃の出会いだった。


あのとき、、


スイスのカフェで1人おどおどしていた私に

突然声を掛けてくれた人が


硫太くんだった。



優しそうな顔つきで


とても優しい声で話しかけてくれた日のことは


今でも鮮明に覚えている。



ただ、同じ日本人と言っても男の人だし


もしかしたらもしかして


騙されるかもしれないし


少し警戒はしていたのは本当のところ。


ただ、その真っ直ぐな瞳からは


疑う余地がない純粋な人だなって


伝わってきた。



私はすぐに硫太くんに心を許した。





スイスで硫太くんはいつも一緒にいてくれた。


たった1人で日本を飛び出してスイスに来たものの、実際は何をしていいかも分からず


1人では何も出来ない自分の姿がそこにはあった。


硫太くんはそういう私のことも全て察してくれているかのように接してくれた。


硫太くん自身も不安だらけだったと思うが


いつでも私のことを心配してくれていた。


次第に私は


硫太くんのことが気になり始めていた。




私の得意なことといえばピアノくらい。


子供の頃からずっとやってきた甲斐もあって


今でも人並み以上には弾くことが出来る。


硫太くんは将来の夢をきちんと持っていて


それに向かって突き進んでいる。


それに比べて私は、まだ将来のことは


全然イメージ出来なくてどんな仕事をしたいとか、どんな大人になりたいとか


自分でも全然分からなかった。


でもスイスで硫太くんと話して


私も何か目標を持たないといけないなって思った。


硫太くんにも言ったけど


私の得意なピアノを生かして


ピアノの先生に


なりたい。


そして、自分のピアノの技術も磨いて


いつかスイスでピアノの演奏をしてみたいと


思っている。


その時は硫太くんにも見にきてほしい。




スイスでの夢のような時間はあっという間に過ぎ去った。


日本で私はこれまで通りの平凡な毎日を過ごすことになる。


でも私にとって、硫太くんと繋がれたことは何よりも嬉しいことだった。


日本では離れ離れの生活にはなるけど


また会う約束もしたし、その為に頑張れる。


これから、大学生活と並行してピアノの練習にも取り組んでいく。


いつか、スイスでピアノを演奏したい。


そんな夢と共に私はこれからの生活も頑張っていく。




帰国してからも硫太くんとは


会うことが出来た。


硫太くんと一緒に行った居酒屋「わっさい酒場」はとても良いお店だった。


料理も美味しくてお酒も美味しい。


1人でも行ってみたら全然平気だった。


硫太くんは今は離れてるけど


希望する会社の本社は長野県らしい。


今よりも随分距離が近づく。


頑張って試験にも受かってほしいと思う。


私は卒業後は就職というよりも、ピアノで生計を立てていきたいなと思っているので


ピアノの学校で学びながら技術を高めていこうと思っている。


もちろん学校に通ったり生活するだけのお金は必要になるので、アルバイトなどでまずは生計を立てていこうと思っている。


いつか、ピアノ一本で生計を立てていけるようになって、夢の舞台に立ちたいと思っている。




硫太くんとの別れは突然だった。


また東京で会いたいと言われた。


でもその内容はとても無機質なメールに集約されているようだった。


なんとなく、良い報告が無いということは想像出来た。


この日がもしかしたら、硫太くんと過ごす最後の日になるかもしれない。


そんな感じがした。


でも、決してそれを疑って硫太くんと接するのはやめよう。


どんな理由があるにせよ、遠くからお金と時間をかけて硫太くんは私に会いに来てくれる。


だから、自分の勝手な想像だけで

落ち込んだり元気のない姿を見せるのはやめようと決めた。


そして、その日を迎えた。


お店は硫太くんが「わっさい酒場」にしようと言ってくれたので、今回もそこ。


少し早めにお店に到着すると

すぐに硫太くんも来てくれた。




予想通り硫太くんは元気が無かった。


いつでもちゃんと目を見て話してくれてた硫太くんはその日は違った。


笑顔で振る舞ってくれてはいるがどこか寂しそうな表情をしていた。


ただ、私は硫太くんが自ら話を切り出すまではいつも通り楽しく接することにした。


もしかしたら硫太くんと話せる最後の日になるかもしれない。


そんな想いも持ちながら


私は少しでも楽しい宴になるように頑張った。


硫太くんの好きなカシスオレンジと私の好きな梅酒ソーダで2人は結構飲んで酔っ払ったと思う。


いつも通りの楽しい硫太くんも見れて私は本当に楽しかった。


硫太くんと出会えて本当に良かったと思った。


出来ることなら、今日は何も言わないでいい。


言いたいことがあるならまた今度でもいい。


そんなふうにも思った。


楽しい時間はあっという間に過ぎて


わっさい酒場を後にした。




蒲田駅のホームでそのまま解散というところまで来ていて、、


そこでついに硫太くんに呼び止められた。


「麗香ちゃん、、実は、、、、」


そう言った硫太くんの声は今でも忘れない。


とても真剣な、、


とても太い声だった、、


普段の優しい声の硫太くんとは少しだけ


違う、、何か決意を感じる声だった。


《やっぱり、、、来ちゃった、、、》


分かってはいたが


それが確信に変わったときは


絶望感が押し寄せてきた。



その後のことは、、、あまり覚えていないし


思い出したくもない、、


ただただ、これ以上硫太くんの悲しそうな声は聞きたくなかった。


本当は絶対に言いたくないに決まってる、、


硫太くんが私のことを嫌いになったわけではないことは分かる、、


ただ、何かの理由で硫太くんは私との関係を断たないといけなくなったんだろう、、


通じ合えているというと少しばかり自意識過剰だが、私は硫太くんがそんなふうに考えているんだろうなということには自信があった、、


硫太くんの性格や言動を見て好きになったのだから、私には分かった。




硫太くんと目を合わすことは出来なかった。


私の目からは涙がこぼれるばかりだった。


でも、、私は硫太くんのこれからの道を邪魔してはいけない、、


硫太くんの決めた道を進んでほしい、、


心からそう思ったことは嘘じゃない。



硫太くんと、、蒲田駅の改札で


お別れをした。




硫太くんとの別れは私にとってはとても大きな大きな出来事だった。


スイスという異国の場所で出会ってしまったことがその大きさを倍増させているのかもしれない、、


そこは私自身にも分からないが

私にとって硫太くんとの出会いは特別なものだった。


好き同士とまではいかなくても

お互いに何か通じるものはあるなと感じていた。


それだけに硫太くんの中で何か変化があって

私との関係を断たないといけなくなったことについては、正直受け入れ難い事柄だった。


すっぽりと穴が空いたような感覚というのはまさにこのことだろう。


大学生活も続いているし、ピアノの練習もこれまで通りやっていはいるが、そこに意欲や集中力というのは消え失せていて、ただただ、気持ちが入っていない状態で、嫌々ながら飼い主に連れて行かれる犬の散歩のように、とりあえずやっているだけという感覚だった。


あれから硫太くんとは連絡を取っていないし

これから取るつもりもない。


ただ、時間が過ぎて、私自身が硫太くんのことを楽しい思い出として話せる時が来ればいいなと思っている。


ただ、今の私にはそんなことは無理だ。


硫太くんのことを思い出すし、涙は出てくるし

硫太くんの好きなものや好きそうなものを見ると目で追いかけてしまう。


私は、本当に硫太くんのことが好きだった。


硫太くんと話しているとき、硫太くんが近くにいるとき。


本当に幸せな時間だったんだなと今更ながら痛感している。




一つだけ硫太くんのことで知りたいことはある。


硫太くんが希望していた会社に入社出来たかな?


私との関係云々ではなく


硫太くんが入りたかったあの会社に


入ってもらいたい。


私は心からそう思っている。


知ることはないかもしれないけど


硫太くんにはあの会社に入ってほしい。



私は、、ピアノをやめるつもりはない。


スイスでピアノを演奏するという夢もやめにはしない。


硫太くんに観てもらいたかったけど


その夢は叶わないけど


私が掲げたこの夢は実現させたい。


私に出来ることなんて少ないけど


ピアノだけは絶対に諦めたくない。



硫太くんの為にダイエットしてたけど


今日は大好きな甘いケーキをコンビニで


買っていこうかなと思う。




大学生活では私はあまり友人がいない。


自分から積極的に話しかけていける性格でもないし、仕方ないかなと半分諦めている。


でもたまに授業で一緒になる顔見知りの子達は合コンとかいろいろ遊んでいるようだった。


そんな折に、私もある飲み会に誘われた。


「森本さん、、今度3、3で合コンやるんだけど、来れたりしないかな?」


歴史の授業でたまに話す板倉さんから

そう誘われた。


「あっ、、私で良ければ、、」


麗香はあまり人の誘いを断らない。


むしろ誘われて少し嬉しかったりする。


ちょうど硫太のことを忘れたいというのもあったし、友人に誘われたことに悪い気はしないので麗香はOKした。




合コンは都内で開催された。


麗香は特に気合いは入っていないが


板倉さんに誘われたことが嬉しくて


参加することにした。


美味しい料理が食べれてお酒が飲めるのは


麗香にとっても嬉しいことだった。


ただ、合コンに参加した男性3人は


決して麗香のタイプでもなく


話をしていても楽しいと感じる相手ではなかった。


どこか、ロボットとでも話してるのかなと思えるような人達だったので


麗香は全然、親しくなろうとはしなかった。


まあでもこういうのは多少付き合いとして


うまくやっていないと今後の学生生活などにも影響するかもと思ったので


麗香はうまくやり過ごした。




ただ、そんな麗香のことを良いなと感じたのか

そこに参加した男から麗香は連絡先を聞かれたりもした。


下ネタは連発するし、完全に下心が丸見えの男だったので麗香は連絡先を教えなかった。


硫太との別れがあったとはいえ


麗香は特に男を求めているわけでもなく


別にいないならいないで問題なかった。


とは言ってもまだまだ完全に硫太のことを


振り切れたわけではない。


まだ心の中には忘れられない部分があるが


麗香は自分のやるべきことに集中することにしていた。


ピアノに関してはスクールにも通い始めたし


将来、海外に行ったり出来るように


アルバイトも始めた。




麗香はピアノの実力を高めつつ


将来の為にお金を稼ぐ。


そんな中で麗香は一つの目標を持つことにした。


《毎年、スイスに行こう》


麗香の中でスイスの旅は特別だった。


スイスでの出会いやスイスでの感動は


麗香に大きな影響を与えてくれた。


そして、スイスでピアノの演奏をするという


大きな夢ももたらしてくれた。


麗香の中で、もっとスイスの空気を感じたい。


お金を貯めて、来年もスイスに行こう。


麗香は心に誓った。




麗香は日々の大学生活とピアノの練習。


そしてアルバイトに精を出した。


黙々と毎日を過ごしていると


少しずつ、失恋の傷も癒えてきた。


ピアノのほうもある程度お金を出して


実力のある先生のもとで練習をしているせいもあって


みるみると技術は向上していった。


綺麗な音を奏でながら


一生懸命にピアノを弾いていると


嫌なことは何もかも忘れることが出来た。


とにかく麗香はピアノに没頭していた。


大学でも、麗香はたまに男に声を掛けられる。


友達になろうとか


ご飯でも行こうと誘われたりもある。



ただ、麗香はあまりそういうことが好きじゃない。


それよりも今はピアノを弾けることのほうが


ずっと楽しいし幸せだった。


麗香にとって恋愛はファッションではなく


真剣だ。


だからこそ、甘い誘いや軽い誘惑には


一切のることは無かった。




スイス行きを決めた麗香の気持ちは晴れやかだった。


バイト先の楽器店でも意欲的に働き


店長からの評価も上々だった。


更には大学の授業も熱心に受けていたので


単位取得も問題なかった。


そして、ピアノのレッスンでは優秀な先生のもとで、しっかりと基礎から学びを受け


将来のピアニストの夢を大きく手助けしてくれるサポート環境もあった。


麗香は、硫太と別れた後もしっかりと前を向いて自分の道を進み始めていた。


麗香にとって硫太との出会いは特別だった。


そして、そこから大きな喜びや悲しみを経験した。


本心を言えば


麗香なりにも、なぜ硫太は自分を選んでくれなかったんだろう?


そういう思いはもちろんあった。


ただ、麗香には硫太の事情は分からない。


ただ、何かしら硫太の中で曲げられない何かかがあったんだ。


これは私にはどうしようも出来ないことだったんだ。


そう思うようにしたし、実際にそうなんだろうなと麗香自身も思っていた。


一つだけ言えることは


麗香は硫太のことをこれからも応援し続ける。


それはパートナーとしてではなく


1人の人間として応援していく。


だからまたもしどこかで出会った時には


最後の宴でもそうだったように


また笑顔で楽しくご飯を食べたりお酒を飲んだりしたい。


そう、、出来ればまた


「わっさい酒場」で。。。



〜完〜



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ