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S.C.O.P.E.  作者: 苗奈えな
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第2話 はじめてのいせかい

 目を開くと、鮮やかな青空が視界いっぱいに広がっていた。

 綺麗に澄み渡った蒼穹には白い雲がところどころ浮かび、果てしなく続いている。その下で、頬に触れるのはしっとりとした草の柔らかな感触で、地面に横たわっていたことに気づかされる。周囲は一面の草原で、そよ風が駆け抜けるたびに草が揺れ、緑の波がきらめく光を受けて広がっていった。鼻先をくすぐるのは土と草の匂いを含んだ爽やかな風。深く息を吸い込むと、胸の奥まで清らかで瑞々しい空気が満たされ、心が解き放たれるような感覚に包まれた。

「うおおお、異世界だああ!」

 寝そべっていた体を勢いよく起こして立ち上がると、風に揺れる草原が視界いっぱいに広がった。自然の匂いや手触りに触れられるのは、シミュレーションルームの仮想体験だけだったカイにとって、このどこを見渡しても鮮やかな緑が地平線まで続いている現実の光景は目を焼くほど鮮烈だった。胸が高鳴り、自然と足は前へと動き出していた。

 やがて、同じような草原の景色ばかりが延々と続いていることに気づき、胸の奥を締めつけていた感動が次第に薄らいでいった。その景色の単調さに心が鈍り始めたころ、カイは思わず口にした。

「……飽きてきた」

 しばらく歩き続けても、景色は一向に変わらない。頬をかすめる風が草を揺らし、ざわざわと小さな波の音のような響きを作る。遠くには灰色がかった山並みや背の高い木々がかすかに見えるが、どこまでも続く地平線に目が慣れてきてしまった。せめてモンスターでも姿を見せてくれれば気が紛れるのだろうが、そういった気配は感じられなかった。

「未登録世界はやっぱ不便だなあ」

 S.C.O.P.E.に登録済みの世界であれば、ワープビーコンが各地に設置されていて隊員は安全に移動できる。しかし今いるのは調査段階の未登録世界であり、そうした便利な装置に頼ることはできない。広大な草原をあてもなく歩くしかなく、一応は転移時の簡易スキャンで人の反応が近い場所に転移されているはずなのだが、ナビゲーターがいない今となっては頼りになるものはなく、ただただ彷徨うしかなかった。

 最初に胸を満たしていた感動も薄れ、休憩しようと足を止めかけたその時、遠方に草の色とは違う影が小さく浮かんでいるのに気づいた。

「お?」

 足を速めて近づくと、屋根の連なりや木柵の影が少しずつ形を成し、やがてそれが人々の暮らす建物の集まりであることがはっきりと分かってきた。胸の中にわき上がる期待と好奇心が弾むように背中を押し、思わず駆け出した。

「おお! 村だあ!」

 歓声を上げ、勢いのまま村の木製の門をくぐる。内側には、木造の家々が肩を寄せ合うように並び、煙突からは細い煙が立ち上っていた。土を整備して出来た通りには荷車を引く人や子どもたちの姿があり、生活の匂いとざわめきがあふれている。

 門の影に差し込む陽光の下、ちょうど通りがかった一人の少女が足を止め、好奇心に満ちた眼差しで近づいてくる。

 異世界人との初めての対面。これが噂に聞く第一村人ってやつなのだろう。いったいどんな言葉を投げかけられるのだろうと、胸の鼓動が速まり口の中が少し乾く。

「珍しい顔だな。山賊? 盗賊?」

「なんで悪いやつばっかなんだよ!」

 一瞬で緊張や不安は吹き飛んだ。

「冗談だ。山賊とか盗賊にしてはあんた、綺麗すぎるしな」

 少女は屈託なく笑い、白い歯をのぞかせる。その笑みは日中の日差しのように眩しい。

 明るい赤茶色の髪をツインテール気味に束ね、膝までのズボンに素朴なシャツという動きやすい服装をしていた。日焼けした肌は健康的な光を帯び、ぱっちりとした大きな瞳が生き生きと輝いている。頬には拭ったような土の汚れが少し残っていたが、それすらも愛嬌があった。

「それで、あんた何者なんだ?」

「オレは……」

 言葉に詰まり、ふと自分の服装を見下ろす。

 S.C.O.P.E.の隊服は特殊な仕組みを持っていて、転移先の環境に違和感なく溶け込めるよう自動で姿を変える。転移時の簡易スキャンで現地の服装を取り込み、最も自然な姿へと調整されるのだ。今のカイは粗布を重ねただけの簡素な服に身を包み、裾に土埃がつき始めた外套を纏っている。腰に下げた袋も、革紐ひとつで留められただけの質素なものだ。

 見たことはないが、なんとなく旅人のように見える気がした。

「た、旅人だ」

「おお、やっぱりそうなのか。そんな感じはしたんだ。あたし、生旅人初めて見たぞ」

 少女は驚きと喜びが入り混じったように目を輝かせ、頬を紅潮させながら笑った。

「あたしはミリエラ。あんたは?」

「カイだ」

「カイ、よろしくな。どこか行きたいところあるか? あたしが案内するぞ」

 ミリエラは胸を張り、期待に満ちた表情でこちらを見上げる。

「行きたいところって言われてもなあ」

 初めて来た村で右も左も分からないカイは、どう答えればいいのか分からず小さく肩をすくめて悩む表情を浮かべる。

 そもそもこの村になにがあるのかと悩む彼の耳に、土を踏みしめる重い足音が近づいてきた。振り向くと、畑仕事を終えたらしい村人が鍬を担ぎ、汗を拭いながらこちらへ歩いてくるところだった。

「おいミリィ、その人は?」

「旅人さんだって」

 村人は訝しげにカイを一瞥したが、すぐに肩をすくめて笑う。

「そうか。ミリィ、ならまずは村長んとこに案内してやれ」

 そう言うと、村人はゆっくりと通りの奥へと消えていった。

 その背を見送りながら、カイはミリエラに導かれて村長の屋敷へ向かった。村の中心に構えるその家は、周囲の家々よりも一回り大きい。木造の門をくぐると、小さな庭が広がっており、花壇や畑の野菜に水をやっている老人の姿が見えた。どうやら、彼が村長のようだ。

 家の中へと通されると、そこは飾り気の少ない質素な造りだった。村長の妻らしい年配の女性がコップに水を汲んできて差し出し、カイはほっと息をつきながらそれを受け取った。冷たい水が喉を潤し、歩き疲れた体に心地よく染み渡っていく。

 村長から素性を尋ねられたが、異世界から来たことは伏せ、世界を巡っている旅人だと答える。いくつかの問答の末、信じられたかどうかは分からなかったが、少なくとも危険人物ではないと判断されたようだ。最後には、村長の指示でミリエラが村を案内してくれることになった。

 彼女に連れられて歩き、集会所や広場、酒場、井戸など村の要所を一通り巡る。広場では子どもたちが追いかけっこをしながら笑い声を響かせ、酒場の中からは昼間だというのに陽気な歌や賑わいの声が漏れてくる。井戸の周りでは村人の女性たちが水汲みをしながら談笑し、夕餉の支度の匂いがどこかからかほのかに漂っていた。小さな村ながらも、どの場所も人々の生活の息遣いに満ち、素朴でありながら力強い営みを感じさせる。

「ついてこい」

 ミリエラは弾む声を残して、カイが入って来た場所とは違う村の出入り口へと歩き出した。門を越えた先に、村の外へと続く土の小道が伸びている。道端には草花が風に揺れている。

「おい、どこ行くんだよ」

「最後に畑を案内してやる」

「畑?」

「そうだ」

 彼女の背中を追いながら、カイは小道を踏みしめた。柔らかな土が靴底に沈み込み、草花の香りが風に乗って漂ってくる。歩きながら何気ない雑談を交わしていたものの、ふと自分がこの世界に来た理由を思い出す。普通に会話を楽しんでしまっていた。

「なあ、お前ってこの世界に詳しいか?」

「お前じゃなくてミリエラな。あ、ミリィでいいぞ。皆そう呼んでる」

 一瞬だけ迷ったが、愛称の方が呼びやすいし、そう呼んで良いと望んでいるのなら応えるのが自然だろう。

「じゃあ、ミリィ。ミリィはこの世界について詳しいか?」

「全然だ。あたし、この村から出たことないし。むしろ、旅人のカイの方が詳しいんじゃないか? 逆に教えてくれよ」

 そうだ。今の自分は旅人なのだったと、カイはハッとした。自分で作った設定をすっかり忘れていたことに気づき、内心慌てて額に冷や汗がにじむ。旅人なのに世界について何も知らないなんて、どう考えても怪しまれるに決まっている。

「そ、そうだな。それはまた今度話してやるよ。こ、この辺りのことを知りたいんだ。このせか……この辺ってモンスターとかは出るのか?」

 カイは不用意なことを言わないように気を張りながら、何気ない口調を装って聞き込みを続ける。

「んー、時々出るよ。あ、でも最近は全然出ないって村の人たちが言ってたの聞いた」

「出ない?」

「あたしはよく知らないけど、そうみたい。だから、狩りがしやすくなったって父ちゃん喜んでたな」

 ミリエラは頬を嬉しそうに緩ませ、「おかげで肉をたくさん食べられて嬉しいぞ」と白い歯を見せて笑った。

「モンスターが出たらどうやって対処してるんだ? 魔法とか使ったりは……」

「まほう? なんだそれ?」

 ミリエラは、小さく首を傾げる。聞き慣れない言葉のようだ。

「手や杖から、火とか水とかを出すやつだよ」

 カイは両手を前に出し、手の平から炎や水が出るような動きをしてみせた。周囲に漂うのはただの風と草の匂いで、もちろん何も起こらない。

「すごいな! なんだそれ。世界にはそんなすごいことが出来る人がいるのか。もし出来れば、料理を作ったり水を井戸からわざわざ汲む必要もなくなって楽になるのにな」

 彼女は目を丸くし、子どものように目を輝かせながら声を弾ませた。頭の中で、見たこともない便利な光景を思い描いているのだろう。

 なにはともあれ、この世界に魔法はなさそうだ。現地人に余計な知識を与えるべきではない。

「いや、忘れてくれ。よくよく思い返してみたら、そういうマジックだった気がする」

「なんだ。手品か」

 ミリエラは肩を落とし、残念そうに視線を下に向けた。期待していた分だけ、落胆も大きかったのだろう。

「そしたら、モンスターが出たらどうするんだ?」

 カイは話題を切り替え、周囲の木々に視線を巡らせる。

「村の男達が剣とか槍とか持って追い払うぞ」

「村を襲ったりはしないのか?」

「モンスターが? うーん……無いな。せいぜい迷い込んでくることがあるくらいだ」

 ミリエラの言葉は本当だろう。村へ来るまでの道のりでは草原と風の音しかなく、鳥や小動物の姿こそあれど、危険を孕んだ気配はまるでなかった。今こうして周囲を見渡しても、木々が広がるばかりでモンスターの影など微塵も感じられない。

「そうか。じゃあ、冒険者とかギルドとかも無いよな」

「ぎるど? それは知らない。でも、冒険者ならいるんじゃないか?」

「本当か!」

 ここが平和なだけで、他の地域には人間に牙を剥くような危険なモンスターが潜んでいるのだろうかと、カイの言葉が強くなる。

 だが、そんな思いを打ち消すかのように、ミリエラは悪意のない笑みを浮かべ、陽だまりのような視線をこちらに向けてきた。

「だって、旅人も似たようなものだろ? 本質的には冒険者みたいなものじゃないか」

「あ、そういうことな」

 モンスターの討伐を生業とするような本格的な冒険者は、この世界には根付いていないらしい。

「一応だけど、魔王がいるとか聞いたことは?」

「……まおう?」

「世界を滅ぼそうとする悪の親玉、って感じのやつだ」

「なんだそれ、そんなの聞いたことないぞ。まあ、そんなのがいても、こんな何もない村は狙わないだろうな」

 他にもいろいろ尋ねてみたが、返ってくるのはのんびりした答えばかりだった。まさに『世界脅威度:F』と評されるにふさわしい平和さで、手強いモンスターの噂もなく、戦争らしい戦争が起きた話もまったくなかった。

 しばらく歩くと木々に囲まれた細道を抜け、視界が一気に開ける。そこには、夕日の光を浴びて黄金色に染まる広大な畑が広がっていた。稲穂の先が風に揺れ、波のようにうねりながらきらめき、地平線の果てまで続いている。その壮麗な光景は胸を締めつけるほどの美しさで、カイは思わず息を呑んだ。

「――すげえ」

 カイの口から、感嘆の声が自然と漏れ出す。ミリエラは黄金の波の中でくるりと振り返り、夕陽に照らされた頬を赤く染めながら、誇らしげに胸を張った。

「な、すごいだろ。この畑、あたしの一番好きな場所なんだ」

 彼女は、両手を大きく広げた。夕陽を浴びたその姿は、まるで畑全体を抱きしめているように見えた。

「嫌なことがあっても、この景色を見ると、全部どうでもよくなっちゃうんだ。落ち込んでたことも忘れちゃって……気がつくと、また頑張ろーって気持ちになれる」

 カイは、畑に囲まれた小道をゆっくりと進んで行く。夕陽が傾き、稲穂の一つひとつが黄金の光をまとって揺れている。すぐ横を歩くミリエラもカイに歩幅を合わせ、時折こちらを見上げてはその表情に満足そうに笑う。その視線を受けながら、風に揺れる稲穂の波が地平線の先まで広がっていく様子を味わった。

「ミリィでも嫌なこととかあるんだな」

「そりゃあるぞ。今日肉食べられなかったな~、とか」

「お前の嫌なことしょうもないな」

「なんだと」

 ミリエラがカイを軽く睨み、肩をぶつける。普段のカイならすぐになにか言い返していただろうが、今は「いてっ」と漏らしながらも、目の前の景色に心を奪われていて反応が鈍い。黄金色の波が揺れるたびに視線を奪われ、文句を言う気すら起きなかった。

 そのとき、突然足元に柔らかい泥の感触が広がり、カイは思わず体勢を崩して横に倒れ込んだ。

「うわっ」

「なにしてんの」

 情けない声をあげつつ泥だらけになるカイを見て、ミリエラが笑った。笑うなと言いたくなるが、彼女の楽しそうな顔を見てるとなにも言えなくなる。

 偶然倒れ込んだ場所は、ゆるやかに傾いた草土の斜面だった。土の冷たさが体に心地よく伝わり、頬に触れる草の匂いが疲れを和らげてくれる。このまま寝てしまっても快眠できそうだ。

 そんなことを考えていると、カイの隣にミリエラもどさりと寝転んできた。夕陽を浴びてはしゃぐように笑い、草の上に両手を広げて空を仰ぐその姿は、無邪気さそのものだった。

「なにしてんだよ。服汚れるぞ」

「いいんだ。いつも汚れてるし」

 そのまま、黙って二人で目の前の光景を見続けた。風が稲穂を渡るたびに、さざ波のような音が心地よく耳に届き、時間の流れが緩やかになっていく。

 どれほどそうしていただろうか。ふと視線を上げれば、空は赤黒く沈み始めていた。茜色の光はゆっくりと失われ、黒がじわじわと広がって世界を覆っていく。稲穂も次第に輪郭を失い始め、闇に飲み込まれようとしていた。

 隣でミリエラが、ぱっと勢いよく上体を起こした。草や土を払う仕草が少し慌ただしく、日が沈みかけていることに気づいて焦っている様子が伝わってきた。

「しまった! そろそろ帰らないと、ママに怒られる! カイ、帰るぞ」

 しかし、カイはどうにも体を起こす気になれない。まだもうしばらくこの場に身を置いていたい衝動に駆られる。村への帰り道は、頭に刻まれている。

「先帰っててくれ。オレ、もうちょいここにいるわ」

「気に入ったのか?」

 ミリエラが、ニヤニヤと笑みを浮かべながら問いかけてくる。まだ残る夕陽を受けて輝くその顔を見ていると妙に胸がむずがゆくなり、正直に認めるのが恥ずかしく感じられた。

「……まあ、そんなとこだ」

 カイは、視線を逸らしながら答える。頬にわずかな赤みが差すその仕草に、ミリエラは夕暮れの光を浴びていっそう明るく微笑んだ。

「分かった! 暗くなったらなんにも見えなくなるから、日が完全に落ちるまでには村に戻って来るんだぞ」

 そう言い残し、ミリエラは駆け足で去っていった。残されたカイはしばらく畑に腰を下ろし、ひんやりとした風に吹かれながら、ゆっくりと藍色へと染まっていく空をぼんやりと見ていた。

 稲穂の波は金色を失い始め、静けさの中で暗闇に溶けていく。ただ、風に揺られた穂先のざわめきは変わらずあり、子守唄のような優しい音を奏でている。

 ――綺麗だ。

 S.C.O.P.E.のシミュレーションルームでも、こんな光景を見たことはなかった。というより、景色を集中して見たことなど一度も無かった。

 こんなに穏やかで、こんなに静かな世界があるのか。

 村を包む空気には殺気も不穏の影もなく、ただ平和が息づいている。危険の気配など、どこにもない。

 調査任務といっても、特筆すべきことはほとんど見つからない。畑は豊かで、村人は穏やかだ。あまりに安全すぎて、拍子抜けしてしまう。

『未登録世界の調査は安全だから、旅行みたいなもんだな』

 ふっと笑みが漏れる。たしかに先輩の言う通りだ。

 明日にはこの村を離れ、もっと人が多い町に拠点を移そう。そこでさらに情報を集め、報告の準備を整えれば、この任務も一区切りだろう。

 S.C.O.P.E.に戻れば、怒られるのは間違いない。だが、きちんと成果を持ち帰れば、きっと認めてもらえるはずだ。

 夕闇が迫り、畑を渡る風は次第に冷たさを増していく。温かな余韻と背筋を撫でる冷気が入り混じり、心に静けさを生んでいた。

 心地良い静けさが、次第にカイの瞼を重くしていく。

 そのときだった。

 村の方角から、甲高い悲鳴が突き抜けるように響いた。静寂を破った鋭い声は夜気を震わせ、カイの体を反射的に跳ね上がらせる。

「ミリィ!?」

 胸に溜まっていた安堵が一瞬で砕け散り、拳が自然と固く握られる。胸の奥で鼓動が荒々しく鳴り響き、立ち上がったカイの足は迷うことなく声の方向へと駆け出していた。

 やがて辿り着いた先で目に飛び込んできたのは、三体のオークに木の幹へと追い詰められ、必死に身を縮めているミリエラの姿だった。

「ミリィ!」

 カイは拳を強く握りしめ、土を蹴って一直線に駆け出す。夜気に混じる血の匂いが鼻を刺し、胸の奥で高鳴る鼓動が耳にまで響く。

 昂ぶる緊張と興奮が混じり合い、その鼓動はまさしく戦いの幕開けを告げていた。

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