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魔法少女のマスコット

人生の中で誰かの誕生日会を開いたり、飲食店で集まってご飯を食べたり、経験は学生時代に何回かだけあるけど、やっぱり何処かで心配している自分がいたのを思い出した。


はしゃぎながら準備してる時は楽しいけど、もし変な空気になったら嫌だな、本当は私が居ない方が楽しいのかも…なんて事を考えたり、大袈裟すぎるくらいの妄想をしてしまう時もあった。


歳を重ねる毎に、空気を読んだり誰も彼も気を遣うなんて事が当たり前になってるなと内心思っていたが、昔の自己中心的で自由な感じもいいなと思ってしまう。


魔法少女達がどんな人なのかは分からないけど、母と仲良くしてくれる人達なら、きっと大丈夫。心の守り方は、前にアニメキャラが沢山教えてくれた。


「こっち終わりました」


「私ももうちょっとで終わります!」


「あの、マスコット…?さんの取り皿っていりますか?」


「あ、お願いします!食べるんですよ、不思議です」


「食べちゃダメなのって…」


「ないんです…!好き嫌いはありますけど」


「す、凄い…初めて聞きました」


魔法少女にはマスコットが付きもの、魔法少女にはマスコットがいないといけない…なんて事しか頭になかった。創作物ではよくあるが、実際に食べるとなると…気になってしまう。


「蘭さんのマスコットは…確かうさぎ、でしたよね」


見せてもらった物にうさぎが散らばっていたのを思い出す。イメージはピッタリだ。


「そうです、モノちゃんって言うんです」


「モノちゃん…可愛いお名前ですね」


「優しくて自由な所があって、甘いものが好きなんです、プリンとか」


「四足…で」


「に、二本足で立ちます!!」


「立つんですか!」


リアルなうさぎを想像していたが、蘭さんが言うには可愛い薄ピンクなうさぎらしい。オシャレさんでいつも違う髪飾りやポンチョを着ているとか。


そうこう雑談をして準備をしている間に、少し違う空気になったのを感じた。


外の風が入ったのかと扉に目をやれば、暖簾で顔は隠されているが、完全に魔法少女の1人であろう、黒いゆったりしたズボンがガラス越しに見えた。目に動物の足のような靴が映る、普段は見ない格好に心臓が早くなると同時に、ガラスが叩かれる。


「来たよ〜、開けて〜」


明るい声が耳を抜ける


「はい!開けます」


隣を横切り、焦りながらもガラガラと音を立て扉を開ける。その時、『も〜!暖簾下げてって言われてたでしょ!』と水色が主色となったボブカットの魔法少女が横から顔を覗かせる。さっきの声と同じ人だろう、爽やかそうな雰囲気が店内の空気をガラッと変える。


「あ、そうだった…」


口に手を当て、しまったと涙ぐむ蘭さんと目が合う


「イロ、入れないでしょ、暖簾は私が直しとくから」


いい匂いがしている大皿を両手に持った困っている顔をした女性は、声からしてライカさんと言う魔法少女だろう。予想通りカリスマ溢れる人なのは間違い姿をしているのだが、あまりにも姿と両手に持っている大皿の姿の差が凄くて、失礼だと思いつつも笑ってしまった。


「すみません莉緒さん、騒がしくて…モモちゃん、お皿が乗るように取り皿を端にやってくれる?」


「やります!」


落ち着いた声で優しい笑みを浮かべるライカさんは、『ありがとう』と軽い足取りで暖簾をくぐりお店に入る。


準備した机に大皿を置く。絶対に重いであろう音がしたが、魔法少女の力なのだと驚いた顔をした私に優しく教えてくれた。


「はいはーい道開けて〜!イロのお供が来るからね〜」


蘭さんに手を引かれ端に寄ると、サッカーボール位の大きさのクラゲが、頭に料理を乗せぷかぷかと入ってくる。


理解する前にクラゲ達は自分の触手を使って料理を置いて消えてしまった。


「なんですか今の…今のも魔法少女の力ですか?」


「そうです、最初に見せるのがこれとか…」

ライカさんが眉間に皺を寄せ扉を覗き込む、『あの子がそれでいいなら良いけど…』と、おそらく他の魔法少女を待っているのだろう、外で話す声が聞こえる。


「クラゲ居なくなっちゃった…」


残念そうに取り皿を綺麗に並べる蘭さんを横目に、ふと疑問に思った事を口に出す


「あれ、唐揚げ…湯気だ」


ラップで密閉されてはいるが、少しは冷めるだろう料理は全て温かい。昔よく見た母の手料理がずらっとテーブルに並ぶ様は、親戚と集まって食べる時と似ていて、あの時には想像もしてなかった事が起きているなと、外ではしゃぐ声を聞いて改めて思う。


「蘭さん、料理温かいですね…」


「そうですね、多分クマさんのおかげだと思います」


「クマさん…」


「アカリさんって言うんです、小さいクマのマスコットで、もうすぐ来る魔法少女のマスコットです!火の魔法が使えるとかなんとか…!」


「マスコットって魔法使えるんですか…」


「うーん、あんまりわからないです…ライカさんならまだ知ってると思います」


名前に反応したのかライカさんが振り向く。色々と初めて聞く事が多すぎて頭がそっちに向いていたが、改めてライカさんを見てみると、一目で肉食動物モチーフなのがわかった。狼だろうか、霞色の髪は神秘的で長く伸びていて、所々黒くメッシュのように染まっている。鋭くもはっきりとした瞳は満月を思い出す。

少し目線の上にやれば、おそらく本物の耳がぴょこぴょこ動いていて、反射で声が出るくらいにはびっくりしてしまった。


「可愛い!」


ライカさんは慌てたように『もう、あんまり見ないで!』と言い残しお店の外に出ていってしまった。


イロさんの笑い声が店内に響き渡ると同時に、蘭さんの柔らかい笑い声が重なった。


イロさんとライカさんはお互いに目配せした後私に微笑み、『来たよ』とだけ残し、軽い足取りで蘭さんの前に魔法陣なる淡い光を灯した魔法を、彼女の手に放つ。


「モモちゃん、体調は大丈夫ですか?」


蘭さんの手のひらに座りうるっとした瞳で話すうさぎは、よくアニメで見たような可愛い小さい生き物で、レースで飾られた白いポンチョを纏い耳には白いリボンを巻いたモノさんは、優しく甘い声で心配したように話しかけた。


内緒話の様にふたりで話す姿は、本当に蘭さんのマスコットなんだと、眺めているふたりの暖かい目を見て、思わず息を飲んでしまう。


そういえばと思い出した。蘭さんは一応全国的に活動している魔法少女だった。強いと言われているんだ。魔法少女の活動についてはあまり知らないし、イロさんやライカさんが仲間ということぐらいしか知らない。


生きていく中で怪物か、魔物か、化け物か。見る機会はあった。姿形は様々で、特に決まった呼び名がない。敵を示す言葉として怪物が一般的になりつつあるあるが、その怪物を私はあまり知らない。単純に怖いのもあるが、見えにくい。


だからこそ一般市民は脅威に気が付きにくいし、魔法少女は迅速な対応を求められる。


そこに蘭さんが?こんな可愛いうさぎが?


知っている事のはずなのに、目の前の2人を見るとどうにも信じられない。怪物は人を殺める。魔法少女だって例外じゃない。


綺麗な姿と皆の明るさで霞んでいたが、蘭さんは戦うのか、命懸けで、マスコットの力を借りて。


畳み掛けるように足元に風が通る。


「あ、新しいバイトの人ですね?!」


桜色の髪を持った肩ぐらいまでの髪が、ふわっと広がる。はねたハート型のアホ毛がとても可愛らしくて、ハーフツインに飾り付けた細いリボンが揺れ、青空を思い出す瞳と目が合った。


「はじめまして!クマちゃんの所のチアって言います!後ろはイオファです〜」


思いのほか冗談混じりに話す陽気な少女は、椅子に座って料理に目を輝かす。


青が混ざった紫の長いウルフカットをなびかせ、おそらく武器をしまっているんだろう。伏せた瞳の中に光る紫の瞳と同じ光を放つ細長い槍のような物体が、指先を通し散らされていく。イロさんが隣でニヤニヤしながら見ているのを、何かいいながら武器をしまっているようだった。


「お疲れ様、なんかいたの?」


水色と紫が主色のふたりが街頭に照らされ、見惚れるくらい絵になる。


「森にちょっとね。」


イロさんが出した周りに散っている小さなクラゲを、イオファさんは優しく手のひらに乗せ、興味津々に見ている蘭さんへと渡す。


「お名前はライカから聞いています。私の名前は…」


「あたしが言ったよ〜」


「知ってるよ」


「ええと、アカリさん、莉緒さんですよ」


腰についたバッグからよいしょよいしょと出てくるクマの形をしたマスコット、アカリさんはイオファさんの手を通して机に乗った後、丁寧に自己紹介してくれた。


「本当はもっとちゃんとした姿があるのですが…クマの姿で失礼します。私達のチームは、チアとイオファの他に、三人の魔法少女達と共に行動しています。チアがここでバイトとして働いているので、良かったら、仲良くしてあげてください…」


深くお辞儀をしたアカリさんは、可愛い姿からは考えられないほど丁寧で、人間味を凄く感じた。


「モノちゃんも、隠れてないでおいで」


全然隠れられていないが、ティッシュの箱から顔を出したモノさんは恐る恐る、机に置いた自分の指をもって、小さく呟く。


「モノって言います。モモちゃんと、ライカちゃんと、イロちゃんと、あと一人、ラベンちゃんのマスコットです。モモちゃんを、よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


両手でしっかりと握られた右手人差し指を見て、蘭さんも『よろしくお願いします!!』と私の左手を優しく握った。

























































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