ベランダから望む空は、何故こうも青いのでしょうか?
貧乏男爵令嬢は、青く澄み渡る空へ向けて、盛大にため息を吐いた。
「はぁ、綺麗な青空ですわ」
ため息を除けば、とても前向きな発言。されどもその表情は、雨が降り始める空のように曇り切っていた。
「今頃、隣領の伯爵令嬢や子爵令嬢は……王都で雅なお茶会の真っ最中ですわね」
隣の芝は青い。しかしそれ以上に、空の青はもっと青い。
隣は隣、うちはうち。両親から聞かされ続けた文句。
それでも諦めきれないのは、我が儘というモノなのだろうか?
「お茶会が終われば、その後は豪華絢爛な夜会かしら?」
美しいドレスを身に纏い、貴公子たちとのダンスに興じる。
そんな中、ふいに芽生える恋心。
夜会を抜け出し、静かな庭園で……愛を囁き合う。
そんな桃色妄想に、男爵令嬢は身悶えながら声を上げる。
「きゃあ! なんて素敵なラブストーリーなのでしょう!」
そう言った直後、男爵令嬢はすんと表情を引き締めた。
王都の社交界とは無縁の我が家に、起こり得ない夢物語。
現実はあまりに無情。
眼下に広がる長閑な農村風景に、否が応でも現実を思い知る。
「周囲の男性は、貴公子ではなく領民の農夫。抜け出した先は、静かな庭園ではなく長閑な農園ですわね……」
男爵令嬢は、再び青い空を望む。物憂げな表情のままに。
きっとこのまま、愛も恋も知らぬまま、適度な相手に嫁いでいくのだろう。
ここと似たような田舎で、そこそこの幸福と不幸の中、人生を終えるのだろう。
うちと同格の男爵家あたりでは、やはり社交界とも無縁だろうから。
男爵令嬢は、どこまでも青い空へと手を伸ばす。決して掴めぬと知りながら。
「ここから見える空は、何故こうも青いのでしょうか?」
呟きが空に吸い込まれていった瞬間、ド田舎に相応しくない馬車が屋敷の前を進んでいく。
馬車に刻まれた紋章は、王家のモノ。
きっと、隣国へと向かう最中なのでしょう。
貧乏男爵家とは、一生関係ない存在だろう。
男爵令嬢は、悲し気な表情で馬車を見つめる。馬車の中の男性と、視線が交錯した事に気付かぬまま。
「この空のように美しい男性でしたわ」
男爵令嬢は、そう呟いて自室へと戻っていった。
後日、男爵家に一通の文が届く。差出人はこの国の王子。
内容は……。
数年の時が過ぎた。王妃は、王城のベランダから青く澄み渡る空を望んでいた。
「綺麗な青空ですわ。ねぇ、あなた」
「ああ。まるであの日のようだ」
王は微笑みながら、王妃へと頷いた。
二人が出会うきっかけの青い空を想いながら。




