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第54話

これにて『魔女と共に在る者』完結です。


 暖かな日差しが差し込む正午。

 質素ではあるが丁寧に手入れが成された庭園を、パタパタと少女がかけて行く。

 

 銀色とも灰色とも取れるような長髪を揺らしながら、庭園の一番奥ーーーテラスがある場所へと少女は辿り着いた。

 

 そして、息を少し切らせながら少女は声をあげる。

 

「魔女さま! 来たよ!」

 

 鈴の音を転がしたような声がテラス内に響くと、その奥の方から声が返ってくる。

 

「あぁもうそんな時間だったっけ」

 

 落ち着いた雰囲気の声だ。

 声の主はこの屋敷に住む住人の一人。

 

 名は訳あってまだ明かせない。

 魔女は椅子に座っていたらしく、少女が側まで行くと座るように促す。

 

「まぁ座ってちょうだいな」

 

 促されるままに椅子に座った少女を見て、魔女は微笑む。

 それから少女の頭を撫でつつ、こう尋ねた。

 

「それで今日はどんな用事だい?」

 

 その言葉に、少女は元気よく答える。

 

「今日はね、お話を聞きに来たの!」

 

「話? ……ってまさかまたアレかい?」

 

 呆れた顔で尋ねる魔女に対して、少女は満面の笑みを浮かべる。

 

「うん! 魔女さまのお話聞きたい!!」

 

「……はぁ……まったくこの子は……」

 

 溜め息を吐きながらも、どこか嬉しそうな表情を見せる魔女。

 そうして二人は日が暮れるまで、楽しい時間を過ごしていくのだったーー……。

 

 これはある一人の男の物語。

 

 ある日、突然この世界に現れた魔女達。

 

 魔女達はその力故に、人に恐れられ、忌み嫌われ、迫害される立場であった。

 

 男はそんな魔女達に手を差し伸べ、共に生きようと誓う。

 

 長い、永い年月の中、男は困り傷付き苦しんでいる魔女を見つけては、相方の魔女と共に問題を解決していく。

 

 助ける筈の魔女と敵対することもあった。

 助けた魔女から非難されることもあった。

 

 しかし、男は何一つとして嫌がりもせず、挫けもせず、泣き言も言わずにただひたすらに救い続けた。

 

 その果てに魔女達との戦いが待っていても、男は進んでいく。

 

 そんな男の側にはいつも一人の魔女が寄り添っていたという。

 

 人と魔女のしがらみを全て終わらせた男は、気がつけば『魔女と共に在る者』と呼ばれている。

 

「魔女さまはこの人に会った事があるの?」

 

「何でそう思うんだい?」

 

 少女の質問に、魔女は少し驚いたような表情を見せながらも聞き返す。

 

「だってすごく優しい顔してるんだもん!」

 

 満面の笑みでそう答えた少女に、魔女は思わず吹き出してしまう。

 

「ふふっ、なるほどね」

 

 そう言って微笑んだ後、魔女は再び男について語り始めた。

 

「そうだね……彼はワタシにとって大切な人だよ」

 

 懐かしむように語る魔女の横顔を見ながら、少女は嬉しそうに笑う。

 

「じゃあその人は幸せだね!」

 

 その言葉を聞いた魔女は、少しだけ困ったような顔をして笑った。

 

「……そうだと良いんだけどね」

 

 魔女の記憶に過ぎるのはありし日の自らの姿。

 かつて自分を救ってくれた男が見せた笑顔だった。

 

(あぁそうか彼はこんな風に笑っていたのか)

 

 そう思うと自然と笑みが溢れていたようで、それを見た少女が不思議そうに首を傾げるのが見えたので慌てて誤魔化すように言葉を続けた。

 

 すると彼女は再び笑顔を浮かべて言うのだ。

 

 まるで太陽のように眩しい笑顔で。

 

「やっぱりそうだよ! だってその人とっても幸せそうだったもん!」

 

 その言葉に一瞬目を丸くしたものの、すぐに彼女もまた笑みを浮かべる。

 

 そしてそっと少女の頭を撫でるとこう言った。

 

「君は良い子だねぇ」

 

 撫でられている少女は気持ち良さそうに目を細めると、ふにゃりと表情を崩して笑う。

 

 その様子を見て、思わず笑みを溢す彼女だったが、不意にその手が止まる。

 

 どうしたのかと少女が見上げると同時に、頭上から声が聞こえてきた。

 

「ほう、面白そうな話をしているではないか。 我も混ぜて貰おうか」

 

「わわっ!?」

 

 驚いて飛び退く少女を他所に、新たな人物がテラスへやってきた。

 

 少女より少し大きい魔女で、金髪の髪と目付きが鋭い印象を受ける。

 

 新たな魔女はテラスの椅子に座りつつ口を開いた。

 

「ふむ、彼奴の話は色々あるぞ。 魔法の様な話から、奇跡の様な話まで種は尽きん」

 

 金髪の魔女の言葉に同意するかのように頷くと、もう一人の魔女が言う。

 

「思い返せば色々出てくるよね」

 

 それに対して頷きつつ、今度はまた別の思い出話をし始める。

 

「ねえ、魔女さま達はこの人が何処にいるのか知ってるの?」

 

「知ってるよ。 でも彼は同じ場所には居なくて、色々な場所にいるのさ」

 

 それを聞いた少女は目を輝かせると身を乗り出してきた。

 

「えっ!? じゃあ色んなところに行けば会えるってこと!?」

 

 その問いに二人は揃って頷く。

 

 それを見て喜ぶ少女だが、ふと何かを思い出したように顔を上げると言った。

 

「でも私……お金持ってないよ?」

 

 しゅんとした表情で落ち込む彼女に、二人ーーーイザイアとアルスは顔を見合わせて笑うと口を開く。

 

「それなら大丈夫だよ」

 

「うむ、心配することはない」

 

 二人の言葉を受けて、安心した表情を浮かべる少女だったが、次の言葉で驚くことになる。

 

「君も魔女だから、いつか何処かで必ず彼に巡り合うよ。 ワタシ達が太鼓判を押すんだから間違いない」

 

 その言葉を聞き終えた後、少女は今の言葉をそう遠くない未来に実現することをまだ知らなかったーー……。




◇◇◇




 細い路地裏を、まだ年若い男女が手を繋ぎながら走っていく。

 

 男女の後方から数人の男性が銃を片手に追いかけてきていた。

 

 彼らは皆一様に黒いスーツに身を包み、顔には同じ様な仮面をつけているため素顔は見えない。

 

 そんな追っ手から逃げるべく走る二人であったが、とうとう追い詰められてしまった。

 

 道端で女性が躓き、それに引っ張られるようにして男性ももつれ込む。

 

 決して女性には怪我をさせまいと男性が下になり地面を滑っていく。

 

「大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫。 それより早くーーー!?」

 

 気がつけば、男女の周りには仮面をつけた男達が辺りを囲んでいた。

 

 じりじりと距離を詰めてくる彼らに対し、男性は女性の手を引きながら立ち上がる。

 

 男達は銃を握っており、全ての銃口が2人に向けられている。

 

「そこのお前、その女をこちらに渡すと言うならばお前は見逃してやる」

 

 リーダー格と思われる男がそう言うと、別の男が続けて叫ぶ。

 

「大人しく投降しろ!」

 

 2人の命運は既に決まっていたようなものだが、それでも男性は女性を絶対に守ると言う意思の元決して動かない。

 

 そんな姿を見た男達はこれ以上の話は無意味だと決め、トリガーに力を込める。

 

 絶対絶命、そんな言葉が2人の脳裏に過った時ーーー

 

「おうおう、大の大人が寄って集って脅しとは平穏じゃないな」

 

 いつの間にか、男女の目の前には男性が一人立っていた。

 

 黒いマフラーに裾がボロボロなコートを皆纏い、髪をオールバックにしている男が、周りにいる男達に言い放つ。

 

 突然の乱入者に驚きつつも、リーダー格の男が叫んだ。

 

「何だ貴様! 邪魔をするならお前も撃つぞ!」

 

 それを聞いて男はカラカラと笑いながら答える。

 

「はっ、やってみろよ」

 

 その言葉に腹を立てたのか、男達が一斉に発砲しようとした。

 

 しかし、弾丸は放たれることはなくそれよりも早い音と衝撃が男達の手に走る。

 

 その光景を見た全員が驚愕する。

 

「な……!? この人数の銃を全部弾いたというのか!?」

 

 動揺している彼らに向け、マフラーの男は不敵に笑ってみせる。

 

「おいおい、どうした? もう終わりか?」

 

 余裕たっぷりな態度を見せる男に、部下の一人が激昂した様子で襲いかかってきた。

 

「野郎ォォォォ!!」

 

 拳を振り上げて殴りかかってくる男をひらりと躱すと、足をかけて転ばせた後、後頭部を踏みつける。

 

 ぐりぐりと足に力を込めてやれば、男は苦しそうに呻いた後に気絶してしまったようだ。

 

 その様子を見ていた他の男達は、恐れ後ろに後ずさる。

 

 その様子を見て男はつまらなさそうに舌打ちをすると、足元の男を放り投げて返し言い放った。

 

「邪魔するなら容赦はしないぜ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、彼らの戦意は完全に失われたようで一斉に逃げ出していくのだった。

 

 そんな彼らを見送りつつ、オクタヴィオは呆れたように呟くのだった。

 

「……ったく情けねぇ連中だな」

 

「あ、あの……ありがとうございます……」

 

 先程まで恐怖に震えていた二人はゆっくりと立ち上がり、男に対してお礼を述べる。

 

 それに対してオクタヴィオは頭を掻きつつ返した。

 

「別に大したことじゃねぇよ。 見て見ぬ振りができなかったからついつい手が出ちまった」

 

 そう言って立ち去ろうとする彼を引き止めたのは女性の方だった。

 

 彼女は彼の手を両手で握ると感謝の言葉を口にする。

 

「本当にありがとうございました……! あそこで貴方が来てくれなかったらどうなっていたことか……」

 

 そんな彼女の態度に戸惑う彼だったが、やがて照れくさくなったのか顔を背けつつこう言った。

 

「……まあ無事で良かったじゃないか。 何にせよ、そっちの君」

 

 男は男性を呼び、その肩に手を置くと言った。

 

「彼女を大事にしろよ。 魔女なんだろ?」

 

 それだけ言うと彼はその場から立ち去るべく歩き出す。

 

「ま、待ってください! 貴方はーーー」

 

 男性の声に男は振り返る。

 

「僕も、貴方みたいになれますか……?」

 

 真剣な眼差しを向けてくる男性に、男は少し考える素振りを見せてから答えた。

 

「ああ、なれるさ。 君が隣の彼女ーーー魔女を守る思いがあるのなら」

 

 黒マフラーの男ーーーオクタヴィオはそう告げると、再び歩き出す。

 

 その背中には、漆黒のドレスを身に纏った魔女が寄り添うように浮かんでいるいる姿があった。

 

 そして、二人はオクタヴィオ達が街の喧騒と人混みの中へと消えていくのをずっと見守っていたのだった。

 

感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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