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魔女と共に在る者《ワン・ウィズ・ザ・ウィッチ》  作者: N/2
第9章 時を超えたその果てで
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第52話


 一方その頃、王都に移動していたアルス、シーリス、シエルの3人は魔女連合の本部へと戻り、巨人を迎撃する為の人選を行っていた。

 

 人選自体はすぐに終わり、後は呼び出した魔女が来るのを待つだけになっていた。

 

「……シゼル、巨人の方はどうなっている?」

 

「あれから一歩も動いていないわ。 少し前まであれだけ動いていたにも関わらず、ね」

 

 シゼルの返答にアルスはふむ、と顎に手を当てて状況を分析する。

 

「動きを止めるほどのダメージをオクタヴィオから与えられたのか、それとも奴がやられたのか……。 しかし、やられたのなら動かない理由は何だ?」

 

「さっき、強い魔力の反応がありました。 オクタヴィオさんは核にダメージを与えられたんじゃないんですか?」

 

 シーリスの導きの魔法で感じられたのは、唐突な強い魔力反応が彼女の感覚に引っかかるように導かれてきていた。

 

 しかし、アルスはシーリスの言葉に首を振る。

 

「無いな。 オクタヴィオはあの巨人との戦闘中一度たりとも巨人に向けて弾丸を放ってはいない。 撃っても攻撃に移ろうとする魔力のみだ」

 

 アルスの予想ではあの巨人は魔女の魔力で編まれた一つの生き物であると当たりをつけていた。

 

 当たりはつけていたが、それはあくまで予想。

 

 この場にあの巨人について詳しい者がいることを思い出し、アルスはシエルへと声を掛けた。

 

「扉の魔女、貴様はあの巨人について知っているんだろう? わかるところまでで構わないから詳細を教えろ」

 

「……あの巨人は数多の魔女から発せられた魔力を『支配の魔法』を通すことで一つにまとめあげた一つの生物です。 あの巨人の姿は仮の姿でしかありません」

 

「仮の姿だと?」

 

 アルスの疑問にシエルは神妙に頷き、続きを話す。

 

「言うなれば、アレは莫大な魔力を統括できていない状態なのです。 我が主であるイザイア様でも数多の魔力を一つに纏めるには時間が掛かると仰っておりました」

 

「その話が本当なら、あの巨人とはまた別の形態が存在するという事か」

 

「左様でございます」

 

 シエルの言葉にアルスは頭を抑える。

 ただでさえ、現在の状態ですら近づく事に四苦八苦しているのに、これ以上のモノがあると言われればこうもなるだろう。

 

 その形態がどのような状態になるのかは皆目見当も付かないが、できることを進めていかなければならない。

 

 そうでなければ、死に場所を求めているような表情をしたオクタヴィオの頑張りを無に返す事となってしまう。

 

「唯一の救いは、相手の魔法を喰らってしまうが……こちらの魔法も効くということか」

 

 まだ魔法が効くとならば、状況は上向きに見ることができるだろう。

 

 連合の長として、アルスはそう考えたのだ。

 

 そんな考えを読み取ったかのように、シーリスが口を開いた。

 

「それでも、現状で打てる手は殆どありませんけどね……」

 

 彼女がそう言うのも無理はない話だった。

 

 仮に、この場にある戦力を全てぶつけても、勝つことは難しいだろうと感じていたからだ。

 1人で立ち向かったオクタヴィオの方がよっぽど健闘していると言えた。

 

「せめて応援に呼んだ魔女が来るまで待つしかないわね」

 

 シゼルの言葉にアルスは頷く。

 

 現状は芳しくない。

 王都に駐在する兵士達も、上が混乱していることで命令系に不備が出始めていると聞き及んでいる。

 

 魔女もある意味それに近しい状況であるが、鶴の一言で瓦解せぬよう抑え込んでいるだけだ。

 崩れ去る前に手を打たねばならない。

 

(何か……何か手は無いものか……)

 

 そう思案していた時だった。不意に部屋の扉が開かれる。

 

「アルスちゃん、遅くなってごめんね〜」

 

「オクタヴィオ様の危機と聞きまして馳せ参じました」

 

「王都の危機って聞いてすっ飛んできました!」

 

 そう言って入ってきたのは、『繋がりの魔女フューリム』、『暗闇の魔女ルミア』、『獣の魔女ベルナデッタ』の3人であった。

 

 3人が3人、オクタヴィオに救われた経験のある者達である。

 

 既にこの3人はシゼルの『記憶の魔法』によって情報は伝えられている。

 

(しかし……まさか本当に来るとは思わなかったな……)

 

 3人の姿を見て、僅かに驚きつつも笑みを浮かべて見せるアルス。

 

 正直な話、フューリムは事情を話せば来てくれることはわかっていた。

 

 しかし、ルミアとベルナデッタはオクタヴィオから事件のあらましを聞いて来るかどうかは未知数だったが、嬉しい誤算であった。

 

「来てくれて感謝する……早速だが皆の力を貸してほしい」

 

 そんな彼女達に対してアルスがそう言うと、代表してフューリムが口を開いた。

 

「皆の危機なんだよね? 何でも言ってよ〜!」

 

 フューリムの豊満な胸元に引き込まれながらアルスは叫ぶ。

 

「ええい! その巨大な胸で我を包むな挟むな!」

 

 何とかもがいて胸元から脱出すると、顔を真っ赤にしながら抗議の声を上げる。

 

 そんなアルスを見てクスクスと笑う一同であったが、いつまでも和んでいるわけにはいかないので表情を引き締める。

 

「まずは情報を共有したい。 今来てもらった3人には現在の状況を伝えよう。 そして、その上で協力してもらいたいことがある」

 

 そう言ってアルスは今回の事件の詳細を語り始めた。

 

「……なるほど。 私達全員で巨人を止めれば良いのですね?」

 

 アルスの説明を聞き終えた後、ルミアは簡潔にまとめる。

 

「ああ、そうだ。 ……とは言っても相手は魔法を纏った無数の棘を飛ばし、それに魔法を乗せてくる厄介な相手だ」

 

 そこで言葉を止めたアルスと対照的に彼女は無表情のまま言葉を続ける。

 

「問題ございません。 慢心は致しませんので」

 

 そう言った直後、どこからともなく現れた暗いモヤによってルミアの身体は包まれていく。

 事件の時はその状況から魔法を使えなかったが、本来の魔法を使うとなればこれほどサポートに向いた魔法はないだろう。

 そんな彼女の様子を見たアルスは頷きつつ口を開く。

 

「頼もしい限りだな……それで其方はどうする? 其方もオクタヴィオとは面識がある筈だが……?」

 

 そう言ってアルスは残るベルナデッタに問いかける。

 

「私は行きますよ! こう見えて結構強かですから!」

 

 ベルナデッタの魔法は感覚や本能に作用する『獣の魔法』を操ることができる。

 そんな彼女にとってこの状況はむしろ望むところなのだろう。

 

「……わかった。 では、これより我らはオクタヴィオが留めてくれている巨人の元へと向かう。 各々、最善を尽くせ」

 

 そんなアルスの号令と共に、その場にいた全員が頷いた。





◇◇◇




 瞼の裏からでもわかる外の光を感じて、オクタヴィオは閉じていた瞳を開いた。

 

 周りを見れば、魔力の波に乗ったあの瞬間から時間と場所はあまり動いていないようだ。

 

 目が覚めるような左腕の痛みに耐えつつも、もう一仕事と気合いを入れようとしたその時ーーー。

 

 オクタヴィオのいる場所より後方で空間から浮かび上がるように大きな扉が現れた。

 

「シエルの転移門?」

 

 アルス達が魔女の部隊を組んでもう来てしまったのか、オクタヴィオは自らの状態を見てこの後に起こるであろう説教に憂鬱になる。

 

 開いた扉から歪んだ音が響くと同時に、何人もの人影が飛び出す。

 

「オクタヴィオ!」

 

 アルスの声が聞こえ、オクタヴィオの隣へと降り立つ。

 シエルやフューリム達も続いて降り立ったようで着地音が聞こえてくる。

 

「おっくん巨人の方はどう〜……ってどうしたのその怪我!?」

 

 フューリム達に見えないように、少し身体の影に隠していたが、出血やら一張羅が破けている事ですぐにバレてしまった。

 

「あ、ああ……これはなーーーうぉっ!?」

 

 心配させまいと言い訳を考えているオクタヴィオの所に、2つの影が瞬時に彼の身体を固定する。

 

「動かないでください。 処置ができませんので」

 

「ルミア!? 君何でここに!?」

 

「オクタヴィオ様、出血が酷いので一度お座りください」

 

 ルミアが流れるような手捌きでオクタヴィオの左腕の処置を行い、有無を言わせずに座らせていく。

 

 オクタヴィオは何故此処にルミアがいるのか、本来の主人であるリゼットはどうしたのか、突然の事で頭が追いつかず混乱してしまう。

 

 そんなオクタヴィオを尻目に、シエルが前に動いて口を開いた。

 

「何があったのか話していただけますね?」

 

 絶対に視線を外させないように意思の籠った瞳で見つめられては、女性に弱いオクタヴィオは白旗を挙げざるを得なかった。

 

「……わかったよ」

 

 オクタヴィオは観念したように溜息を一つ吐いて話し始めた。

 

「状況を端的に説明するなら、ユイエとイザイアに会った」

 

「会った……というと?」

 

 どういった説明をすれば良いかと考え込んだ末の言葉だったので、抽象的な表現になってしまったことを反省しつつ言葉を続けていく。

 

「言葉通りなんだ。 ちょいとあの巨人の中に入って2人に会った」

 

 その言葉にシゼル達6人は息を飲んだり目を見開いたりと様々な反応を見せたのだが、特にシエルの反応が大きいように見えた。

 

「……生きて、いらっしゃるのですか?」

 

 信じられないと言った表情で此方を見てくる彼女に苦笑しつつも、オクタヴィオは肯定の意を示すように首を縦に振る。

 

 すると彼女は額に手を当てると、安心したような声で言葉を紡いだのだった。

 

「全く……あの方は……」

 

 そして小さく溜息を吐いた後で顔を上げると、真剣な眼差しをオクタヴィオへ向ける。

 

「そこで、イザイア様は何を仰っておられましたか?」

 

「それは我も気になるな。 ただ会っただけというのは無いのだろう?」

 

 確かに、アルスの言葉は的を得ている。

 あの空間で伝えられたイザイアからの言葉を思い返しながら言われた事を伝えていく。

 

「魔女達と共に、あの巨人をどんな手を使ってでも打倒して欲しいとさ」

 

「打倒する……ですか? 消し去るとかでは無くて?」

 

 ベルナデッタのキョトンとした表情に苦笑しつつ、オクタヴィオは頷いた。

 

「ベルナデッタもいるのか……。 まあ、それは置いといて、ユイエ曰く『世界を救う為に』だとよ」

 

「世界を救う為とは……まあ、この状況を見ればあながち間違いでは無いな」

 

 アルスの言う通り、今現在この国は存亡の危機にあると言っても過言では無い状況だ。

 

 あの巨人が現れてからというもの、国のあちらこちらで民が騒いでおり、兵士や騎士も総動員して対応しているが、未だに解決の兆しは見えない。

 

 このままいけば国そのものが滅んでしまう可能性すらあるだろう。

 

「その通りでございますね。 一刻も早く対処しなければいけません」

 

 シエルの言葉に皆が頷き合うと、改めて巨人の方へと視線を向ける。

 

 既に応急処置は終え、準備はできている。

 

「さて、やりますかね」

 

「でも、あんなに大きい相手どうやって倒せばーーーあれ?」

 

 ベルナデッタの声と共に、ドクンと空中に流れる魔力が揺れる。

 

 何かがおかしいと判断する前に、巨人を取り巻く魔力が何度も音を立てて揺れる。

 

「魔力がーーー何かに呼応してる?」

 

 魔力探知に長けたシーリスがナニカを感じ取る。

 そしてそのままーーー

 

「ーーー皆伏せろッ!」

 

 鋭く声が響き、オクタヴィオ以外はすぐさま地面に伏せた。

 魔力の揺れは徐々に強くなり、鼓膜を打つような強い揺れと共に巨人が光輝く。

 

「何だってんだ……っ!?」

 

 眩しさに目が眩み、視界が真っ白に染まる中、突如として地面が大きく傾いたかと思うと浮遊感に襲われる。

 

 落ちる、と感じると同時にオクタヴィオはアルスに向かって叫ぶ。

 

「アルスッ!」

 

「わかっているっ! 円環の竜よ!」

 

 オクタヴィオの言いたい事を瞬時に把握し、足場の代わりになる竜を呼び出し、全員をその背に乗せる。

 

「うわわわっ!!」

 

 突然足元から現れた竜の身体に驚きつつも、シーリス達は無事に背中に乗る事ができた。

 

「よし、これなら……!」

 

 落下速度はかなり遅くなり、ゆっくりと地上らしき場所へと降り立つ事が出来たが、周りの様子がおかしい事に気付く。

 

 そこは先程までいた筈の場所ではなく、幾何学模様があしらってある祭壇の上だった。

 

「……何が起こったの?」

 

 状況が理解できていないベルナデッタの問いに答える者はおらず、沈黙が続くだけだった。

 そんな静寂を破るように、遠くから轟音が聞こえてくる。

 

「何だ……? 何か来るぞ」

 

 オクタヴィオが音の聞こえる方角を見ると、魔力波が立ち昇っているのが見えた。

 

 それも一つではない。

 

 2つ3つと増えており、それらは此方へと向かってきているようだった。

 

 やがてそれらの正体が明らかとなる。

 

「あれは……魔女?」

 

 幾つもの魔力波が一つに束ねられ、巨人の大きさと共に感じていた魔力は徐々に圧縮されていき、一つの形を象っていく。

 

 それは、歪ながらも見覚えのある姿であった。

 

「ユイエ……?」

 

 そんな疑問に応えるように、目の前の光景が変化していく。

 

 いや、正しく言うのであれば、本来あるべき姿に戻っていくというのが正しいだろうか。

 

 巨人の姿は段々と形を変えていき、最終的に人の形に落ち着いた。

 

「……おい、オクタヴィオ。 魔女協会のトップとやらはこうなる事まで話していたのか?」

 

「いや、話していなかった。 それにしたって俺に対する特攻じゃないか?」

 

 その人型は姿だけで見るなら、漆黒のドレスを身に纏ったユイエであるが、その周りを囲う悍ましげな魔力はイザイアそのものであった。

 

 この時点でオクタヴィオが便宜上彼女と表現する魔女に対して、攻撃することは絶対に無くなったと言える。

 

「そうか……だが、どうする気だ? まさかとは思うがアレから逃げるつもりではあるまいな?」

 

 それは冗談半分、本気半分といった声音で発せられた質問であった。

 それに対して、オクタヴィオは肩をすくめて答えた。

 

「おいおい、この期に及んでそんな事するほど落ちぶれちゃいないさ。 俺には俺のやる仕事がある」

 

 その言葉を聞いたアルスは一瞬だけポカンと口を開けた後、すぐに大声で笑い始めた。

 

「はっはっは! そうだな、お前はそういう奴だったな」

 

 ひとしきり笑った後、息を整えてから口を開く。

 

「ならば私達はお前の援護に回ろう。 攻撃はできないが、策はあるのだろう?」

 

「策と言える程の事でもないけどな」

 

 そう言ってオクタヴィオは苦笑すると、腕をぐるりと回す。

 

「ベルナデッタちゃん、獣の魔法を俺に掛けてくれ」

 

「え? あ、はいっ」

 

「ルミアさん、俺が動き出したら暗闇をお願いします」

 

「承知しました」

 

「シエルは奴さんを撹乱できるように扉を幾つか開いてくれ」

 

「無茶はなさらないでください」

 

「アルスは全体を見てくれ。 シーリスとフューリムはいつでも魔法を、指示の通りに発動できるよう準備しといてくれ」

 

 全員に指示が行き渡り、開始の合図までほんの少しの間、オクタヴィオはふとこれまでの事を振り返った。

 

 ユイエとの出会い、街と住人の消失、自らの死から蘇生、300年に及ぶ旅路の様な人生であった。

 

 様々な人に出会って、助けて、これ以上は望むべくもないだろう。

 

「さあ、魔女と人の明日と共に在る為のもうひと頑張りしよう」

 

 小難しい考えはいらない。

 オクタヴィオはただ魔女の為に、その一歩を踏み出した。



感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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