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魔女と共に在る者《ワン・ウィズ・ザ・ウィッチ》  作者: N/2
第9章 時を超えたその果てで
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第51話


 オクタヴィオが次に目を覚ました時、最初に感じたものは眩しさだった。

 

 思わず目を瞑りたくなるほどの眩さに顔を顰めつつも目を開けるとそこは見知らぬ場所だった。

 

 真っ白な空間の中で色を持つ存在がいた。

 

「やぁ、お目覚めかい?」

 

 そこには見知った女性が立っていた。

 

「……イザイアか」

 

 見慣れた顔に少しだけ安堵しつつ、オクタヴィオは身体を起こすと周囲を見回す。

 どこまでも白く広い空間に自らを含めて2人だけしかいなかった。

 

「ここはどこなんだ? 俺は確か……」

 

「ここはワタシの中だよ」

 

「お前の中?」

 

「あぁそうだとも。 正確にはワタシの精神世界といった方が正しいのかもしれないね」

 

 そう言ってイザイアは肩をすくめる。

 その姿は前回見た時と同じイザイアの姿であり、先程まで戦っていた巨人の面影は一切無かった。

 

「さて、君が聞きたい事を先に答えてあげようじゃないか」

 

「じゃあ遠慮なく聞くけど……あの巨人は何だ?」

 

「順を追って説明しよう。 あそこにいたのは『魔人』、ワタシが生み出した所謂魔法生物だ」

 

「……魔法生物ねぇ?」

 

 あまりにも突拍子もない答えに、オクタヴィオは思わず間の抜けた声を出してしまう。

 だがイザイアは特に気にした様子もなく話を続ける。

 

「あれはワタシが作り出した『兵器』でね。 あの大きさにするにはワタシの魔力量じゃどうにもならなかったから『お手伝い』を頼んで動かす事にしたんだ」

 

 そう説明するイザイアの表情はどこか楽しそうだ。

 しかし、その笑みはすぐに消え去り真剣な表情に変わると言葉を続ける。

 

「彼女、始まりの魔女に頼み事をするのは結構心臓に悪いものでね。 いつ此方に手を出されるのかを考えると肝が冷えたというものさ」

 

「ユイエがこれを動かしてるのか?」

 

 オクタヴィオの疑問に対し、イザイアは首を縦に振って肯定の意を示す。

 

「その通りだよ。 ワタシも少なからず魔力を出してるから2人で動かしているって言ったほうがいいかもしれないね」

 

「そこまでして、俺をどうするっていうんだ」

 

 眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情を浮かべるオクタヴィオを見てイザイアは苦笑すると口を開いた。

 

「別に取って食おうって訳じゃないさ。 ただ君にやって欲しい事があるんだよ」

 

「やって欲しい事……?」

 

 訝しげな表情をするオクタヴィオに向かってイザイアは頷く。

 

「前に少し話さなかったかい? 魔女と人との関係性について」

 

「人と魔女の関係……」

 

 以前イザイアから聞いた内容を思い出しつつ、彼女の言葉を待つ。

 

「そもそもの話だけど……魔女というのは人の身に余る力を持っている存在だ。 キミの近くにいた始まりの魔女や、シエルやシーリスが良い例だろう」

 

 そこで一度言葉を区切ると、一呼吸置いて再び口を開く。

 

「そんな力を持つ彼女達を人は恐れたんだ。 自分達の理解を超える力を目の当たりにして恐怖しない人間はいないだろうからね。 そんな訳で魔女狩りが行われた訳だけれども……。 ここから先は言わなくても分かるよね?」

 

「……わかるよ。 嫌と言うほどに」

 

 オクタヴィオが小さく答えると、イザイアは満足そうな笑みを浮かべて更に続けた。

 

「つまりそういうことさ。 いくら力を持っていても所詮は人だ。 数で押されてしまえばどうしようもないという訳だ。 だからこそ我々は考えたんだ、どうすれば争いを無くすことが出来るのかとね」

 

「それで考えて作ったのがコレって事か?」

 

 オクタヴィオの問いにイザイアは静かに首を振った。

 

「いや、少し違う。 話は戻るけどワタシ達の目的と君に話したやって欲しいこと、それが関係してくるのさ」

 

 そう言うと、彼女は指を1本立てると言葉を続けた。

 

「我々の目的は世界の改変ーーーだけど」

 

 その発言に対してオクタヴィオは怪訝な表情を浮かべた。

 

「だけど?」

 

「そんなことはどうでも良くなったんだ」

 

「はぁ?」

 

 何を言っているのかわからないと言った様子のオクタヴィオだったが、そんな彼を無視してイザイアは話を続けた。

 

「もっと他の事でどうにかできる方法があった、そういうことさ」

 

「言ってる意味がよくわからないんだが? それに、俺に何をさせようって言うんだ?」

 

「簡単な事だよ。 君は魔女と人を繋ぐ人になって欲しい」

 

「……人と魔女を繋ぐ?」

 

 眉を寄せて聞き返すオクタヴィオに対して、イザイアは頷くと続きを口にした。

 

「さっき言っただろう? 魔女と人間との対立を止めるにはどうしたらいいのかって。 答えは簡単さ、『繋ぎの役目を持つ人』がいればいいのだからね」

 

 その言葉にオクタヴィオの表情が強張る。

 そんな彼の反応を気にする事なく、イザイアはそのまま話し続けた。

 

「例えば……そうだね、『英雄』なんてどうだろう。 いや、この場合は『勇者』と呼ぶべきかな?」

 

 そう言って笑みを浮かべるイザイアにオクタヴィオはポツリと呟く。

 

「俺が英雄とか勇者なんて柄じゃないの見りゃわかるだろう。 良いとこ共に在る者、『共在者リンカー』って所か?」

 

「共に在る者で共在者、ね。 なかなか良いネーミングじゃないか。 それでいこう」

 

 嬉しそうに手を叩くイザイアの姿にオクタヴィオは次を促す。

 

 すると彼女は小さく咳払いをすると真剣な眼差しを向けてきた。

 

 その表情の変化を感じ取り、自然と背筋が伸びるような感覚を覚えると同時に緊張感が高まるのを感じた。

 

「さて、君にやってもらうこと……それは巨人を魔女達と共に打倒してもらう事だ」

 

「やっぱりそうくるよな……」

 

 1番聞きたくなかった言葉が飛び出してしまったことにオクタヴィオは小さく溜め息を吐いた。

 

 正直な所、あの巨人を構成しているのは魔水晶と共に一つとなった魔女達である。

 

 女性を決して傷つけないというか鉄の掟を定めるオクタヴィオでは、どう足掻いても倒すことは不可能だろう。

 

 その事を話そうとオクタヴィオが口を開いた瞬間、口元にイザイアの指が当てられて口が閉じる。

 突然の事に驚いていると、目の前の女性は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「君の言わんとすることは良くわかるよ。 あの巨人は言ってみれば魔女であると、そしてそれを撃つことは絶対に出来ないと」

 

「……わかっているなら話は早い。 俺は巨人を撃てない」

 

 あの巨人がただの魔法生物であるならば交互の憂いなく倒すことが出来ただろう。

 だが、中にいるのは魔女達なのだと思うとどうしても引き金を引くことが出来ないのだ。

 

「……あれらがもしも攻撃されない為の幻影であったなら?」

 

「なに?」

 

 イザイアの言葉に眉を顰めると、彼女は笑みを浮かべながら続ける。

 

「君が銃を抜けば彼女らを傷つける事になると思っているのなら、アレらは決して傷つかない存在であるとしたらどうかな?」

 

「……どういうことだ?」

 

 いまいち要領を得ないのか、首を傾げるオクタヴィオにイザイアは説明を始めた。

 

「あの巨人を構成する魔女達は自ら魔水晶に入ったあと後、一つの魔法生物として生まれ変わったんだ。 そこに存在するのは純粋な魔力だけであり、それ以外の何者でもない存在になっているんだよ」

 

「そんな事があり得るのか?」

 

 半信半疑といった様子で問いかけるオクタヴィオに対して、イザイアは大きく頷いた。

 

「確かに普通なら有り得ない話だと思うよ。 だけどね、魔女は不可思議な存在だからそうなっていてもおかしくはない」

 

 その言葉を聞きオクタヴィオは考え込むような仕草を見せる。

 

「理屈としては分からなくもないけど……それでも納得はできないんだよな」

 

 魔力であろうと何であろうと、元を辿れば魔女なのである。

 オクタヴィオ自身が定めた鉄の掟を破ることだけは、何があっても出来なかった。

 

 その事を話すと、イザイアは少し困ったような表情を浮かべていた。

 

「困ったものだねぇ、君の意思の強さは筋金入りだ」

 

 そう言って苦笑しつつも、何か思いついたのか表情を明るくさせると言葉を続けるのだった。

 

「まあ、何にせよ……ワタシから君に頼むのはどのような手でも良いから魔人を退けてほしい。 そうすれば、後はなるようになる」

 

 なるようになる、とは言うがオクタヴィオはそれ以上何も言わず頷く。

 

「ありがとう。 さあ、それじゃあ別れの時間ーーー」

 

「少し待ちなさい」

 

 耳に慣れ親しんだ透き通るような声が、空間を震わせるように響いた。

 

 オクタヴィオが後ろへ振り向けば、そこにいつもの漆黒のドレスを身に纏ったユイエが腕を組んで佇んでいた。

 

「全く……困った魔女がいたものね。 支配の魔法で空間を操って入れないようにするなんて」

 

「……イザイア?」

 

 オクタヴィオのジトっとした視線を受けても尚笑みを絶やさず飄々とした態度を取っている彼女に、やれやれと言った具合で首を横に振ると視線を戻すと苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「良いじゃないか、始まりの魔女は常に共にいただろう。 少しくらいワタシが独占しても問題はないじゃないか」

 

 そう言って肩を竦めるイザイアに対して、ユイエは大きな溜め息を吐くと口を開く。

 

「別に構わないけれど、貴女ばかりに任せていたら肝心な事を濁すでしょう?」

 

 そこまで言うとユイエはオクタヴィオの方へ視線を向けて微笑んだ後に言葉を発した。

 

「怒っているかしら? 何も言わずにこんな事をしたのを」

 

「怒ってないさ。 ユイエが必要だと思ったからこうしてるんだろ?」

 

「あら、随分と物分かりが良いわね」

 

「そりゃあ、ずっと一緒にいるからな……わかるさ」

 

 そう言って微笑む彼につられてユイエも微笑みを浮かべた。

 そんな2人のやり取りを見ていたイザイアは呆れたような表情で首を振ると、小さく溜め息を漏らしてから口を開いた。

 

「君達は本当に仲が良いね。 2人を見ていると羨ましいと思ってしまうよ」

 

 その言葉に顔を見合わせると、お互いに笑みを浮かべた後で頷き合うと再びイザイアへと向き直り、口を開くのであった。

 

「そうね、私と彼は共に在る者だもの」

 

 その言葉を聞いたイザイアは苦笑を浮かべつつ肩をすくめると、言葉を続けた。

 

「そうかい? まあいいさ……それよりも渡す物があるんだろう?」

 

「そうね」

 

「渡す物?」

 

 2人の会話に置いてけぼりになっていたオクタヴィオが首を傾げていると、ユイエが言葉を返すように口を開いた。

 

「オクタヴィオ、どうしても、何をしてもどうにもならない時になったらコレを使いなさい」

 

 そう言ってユイエは指をパチンと打ち鳴らす。

 するとオクタヴィオの目の前に魔力が収束し、やがて一つの形を作る。

 

 慌てずに落とさないようそれを手で受け止めると、それが見知った物であることにオクタヴィオは気づいた。

 

「これは……ベティの弾丸か?」

 

 それはオクタヴィオが使用しているリボルバー式拳銃『ベティ』用の弾だった。

 

 しかし、普段の物とは色合いが異なっており、ユイエの魔力が込められているように見える。

 

 それを見たユイエは満足そうに頷くと説明を始める。

 

「コレは私が魔力で編み上げた世界でたった一つの弾丸。 終わりの魔法が込められていて、放てば全てを終わりにできるわ」

 

 そんな物騒な代物を受け取ったオクタヴィオは一瞬躊躇う様子を見せ、苦笑した。

 

「また使い所に悩む物を渡してきたな……。 まあ、無茶振りはいつものことか」

 

「オクタヴィオならコレの使い所を見定められる筈よ」

 

 ユイエからの重い信頼に応えるように、オクタヴィオは強く頷いてみせるのだった。

 それを見て安心した表情を浮かべたユイエだったが、すぐに真剣な表情に戻ると言葉を紡ぐ。

 

「私の我儘で、数百年も生きさせてしまったことを謝るわ。 私がいなければ普通の人生で終えられたこともわかってる。 でもこれは貴方にしか頼めない……これで全て終わりにして」

 

 ユイエの謝罪、願いとも取れるような独白をオクタヴィオは聞き入れる。

 

 長い年月を生きている事を隠すのは大変ではあったが苦ではなかった。

 

 確かにユイエがいなかったら、あのままつまらない人生を歩んでいたことだろう。

 

 今更ながら、オクタヴィオはあの生活が気に入っていたことを再確認することができた。

 だからこそーーー

 

「終わりにする? 違うぞ、ユイエ。 これから『始まる』んだ」

 

 イザイアとユイエの願い、世界に存在する魔女達の明日を繋ぎ、守る為にオクタヴィオは進み出す。

 

 『共在者』、これからやろうとすることにうってつけの呼び名であることにオクタヴィオは内心笑みを浮かべる。

 

「後はどうにかするから、お前さん達は高みの見物でもしててくれよ」

 

 そう言い残してオクタヴィオはその場を後にする。

 

「さて……始めるか」

 

 初めて来た時と同じように悍ましくて暗い魔力がオクタヴィオを包み込む。

 

 その魔力が、ほんの少し暖かく安らいでいるのをオクタヴィオは口に出さぬまま、目を閉じた。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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