表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と共に在る者《ワン・ウィズ・ザ・ウィッチ》  作者: N/2
第9章 時を超えたその果てで
51/55

第50話


 オクタヴィオ達が動き出したその頃、王都にある魔女連合は藪をつついて蛇を出してしまったかのような状況に陥っていた。

 

 理由は言わずもがな、王都より離れた場所に存在を表した巨大な魔力を持つ巨人の所為であった。

 魔女連合を纏めるアルスは、執務机に向かいながら、舞い込んでくる情報の整理を行っていた。

 

「おい、巨人は今どの程度までこちらに向かってきている!? あと我が先程伝えた迎撃に出ることができる魔女達の人選はどうなっている!?」

 

 矢継ぎ早にアルスが部下である男に質問を投げかけると、魔女は額に汗を流しながらも答える。

 

「はい、現在確認されている限りですと約30キロ圏内にまで接近しております! それと出撃可能な魔女の方々は……えっと……20名程となっております!」

 

 それを聞いた瞬間、アルスの表情が歪む。

 それもそうだろう、迎撃に出ることが可能なのはたった20人の魔女しかいないのだ。

 

 他の者達は皆、任務や仕事で出払ってしまっているため不在だった為だ。

 

「ちぃっ! こんな時に限って正体不明な敵の侵攻だと? オクタヴィオにも連絡がつかんし、彼奴また何か厄介ごとに巻き込まれているな!?」

 

 アルスは苛立ったように悪態をつくと、そのまま椅子に深く座り込む。

 

「どうする……? 私自ら出るべきか……?」

 

 そう考えを巡らせていると、扉がノックされる音が響き渡る。

 

「誰だ? 入って良いぞ」

 

「失礼するわよ」

 

 その言葉と共に入ってきたのはシゼルであった。

 

「シゼルか。 外の方はどうだ? 少しは状況が動いたか?」

 

 椅子から立ち上がりつつも問いかけるアルスであったが、対するシゼルの表情は芳しくなかったようだ。

 

「……残念ながら何も変わってないわね。 唯一の救いは魔力を感じられない一般人が事態を把握していないところかしら」

 

 苦笑いを浮かべながらシゼルは肩をすくめる仕草をするのだが、それでも表情から焦りが消えることはなかった。

 

 その様子を見たアルスは一つため息をつくと、改めて現状について考えることにする。

 

(どうしたものか……このまま手をこまねいているわけにもいかないからな……)

 

 思考の海に浸り始めたところで不意に部屋の扉が開かれた。

 

「き、緊急です! たった今報告が入りまして……例の巨人の側で戦闘が行われているとのことです!!」

 

 飛び込んできた魔女は息を切らしながらも必死に言葉を紡いでいた。

 アルスは執務机に向かいながら、その報告に眉をひそめる。

 

「……なんだと? 誰が戦っているんだ?」

 

「いえ、それがですね……」

 

 言いづらそうにしている魔女だったが、やがて意を決したように口を開く。

 

「魔女が2人と黒いマフラーが見えたと……」

 

 その言葉に一瞬の間を置いてから、アルスとシゼルは巨人の近くにいるであろう人物の顔が思い浮かぶ。

 

「……まさか」

 

「……アイツじゃないでしょうね」

 

 2人は顔を見合わせてから小さく頷き合うと、アルスはすぐに指示を出す。

 

「お前達は王都の防衛に回れ。 シゼルは我がいない間の統括、我はあの巨人の元へと向かう」

 

 それだけ言うとアルスは踵を返して扉へと向かう。

 シゼルはそんなアルスの行動に溜め息を吐き、報告に来た魔女へと声をかける。

 

「そこの貴方! 貴方の仕事はこの私が引き継ぐわ! だから貴方は早く持ち場へ戻りなさい!」

 

 そんなシゼルの声を背に受け、魔女は大きな音を立てて退室していく。

 執務室に残ったシゼルはこの後起きるであろう事に頭を抑えながら、対策を練るべく椅子に座り直した。

 

 部屋から飛び出したアルスは、手頃な窓を開け放つと同時に、その窓から華麗に跳躍する。

 

「出でよ、円環の竜!」

 

 その言葉と共に指を打ち鳴らせば、落下するアルスの真下に空間が裂けて何かが飛び出してくる。

 

 それは、自らの尾を口で咥えた竜であった。

 

 空間の裂け目から現れた竜はすぐさま尾を吐き出し、アルスをその背に乗せて舞い上がる。

 アルスが向かうべき場所はオクタヴィオ達がいるであろう巨人の側である。

 

「我が向かうまで終わってくれるなよ……!」

 

 最悪の事態を想定しながら、アルスは竜に合図を送り少しでも早く目的地へ到達するよう飛翔させた。

 

 飛行し続ける事数分、焦りから体感で1時間以上かかったのではないかと思える程の速さで、アルスは巨人の近くへと辿り着く。

 

「オクタヴィオ達は何処だ……? あ奴ら動いているならそれなりに派手にーーー見つけたぞ」

 

 異様な魔力波を沸かせ続ける巨人の側にオクタヴィオ達はいた。

 黒い魔力球から放たれる棘を掻い潜りながら、なんとか隙を見つけては弾丸を撃ち込んでいる。

 

 しかし、棘の攻撃が苛烈で少しずつ後退しながら応戦しているのがアルスの視界に映り込む。

 聞こえているかどうかは定かではないが、アルスは叫ぶ。

 

「オクタヴィオ!」

 

 アルスの鋭い声に棘を避けているオクタヴィオの視線が彼女の方を向く。

 それと同時に彼は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべるもすぐに笑みを浮かべ直すのだった。

 

 そんなオクタヴィオの態度に呆れつつも安堵しつつ言葉を続ける。

 

「何をしているオクタヴィオ! どういう状況なのか説明しろ!」

 

 だがしかし状況は変わっていないらしく依然として攻撃に晒され続けている状態だということは明白だった。

 

 それを察した上で彼女は声を張り上げたのだ。

 

 するとそれに応えるように返ってきた言葉は意外なものだったのである。

 

「悪い! 皆巻き込んじまった!」

 

 そんな内容の言葉が返ってくると思っていなかっただけに驚きを隠しきれないアルスではあったが何とか冷静さを保つことに成功したようで再び叫び返す。

 

「巻き込んだとは何だ! 早くこちらに来てーーーっ!?」

 

 話している途中で円環の竜のすぐ側に転移門が開く。

 その転移門が勢いよく開いたと同時に、聞き慣れた声が中から聞こえてくる。

 

「うおぉぉぉぉぉ!? アルスキャッチは任せた!?」

 

「オクタヴィオお前!?」

 

 流石はアルスというべきか、円環の竜に瞬時に指示を出し、転移門から飛び出してきたオクタヴィオ、シーリス、シゼルをその背へと乗せる。

 

 3人が乗ったことを確認し終えた後、アルスはすぐにその場から離脱するように指示を飛ばした。

 巨人からそれなりに離れた場所で竜を地面へ降ろし、オクタヴィオ達は一息着いたとばかり地面に座り込んだ。

 

「おい、説明してもらおうか。 何であんなことになっている?」

 

 アルスのじっとりとした視線を受けながら、オクタヴィオはポリポリと頰を掻いて困ったような表情を浮かべる。

 

「それより、ユイエはどうした? そこにいる魔女は誰だ?」

 

「……話すと長くなるんだけどいい?」

 




◇◇◇




「ということは何だ? このメイドは魔女協会のトップの側近で、オクタヴィオは魔女協会をどうにかしようと単騎で乗り込んだと」

 

「ついでに言うなら、ユイエとイザイア……魔女協会のトップな。 それが何の魔法を使ったのかわからないけど、あの巨人の核になって王都へと侵攻してるって所」

 

 乾いた笑いをするオクタヴィオに、アルスは深い深い溜め息を吐いた後ーーー魔力で強化した拳で拳骨を落とした。

 

「ーーーいっだぁっ!?」

 

「こぉのドアホ! バカ者! お前はどれだけ考え無しなのだ! 自分の価値が全くわかっておらんな!?」

 

 シゼルやシーリスがポカンと見ている事も気にせず、アルスはオクタヴィオに説教をし始める。

 

「はぁ……全く……お前の頭の中はどうなっているのだ? いくら何でも無謀過ぎるだろう」

 

 ようやく落ち着いたのかアルスは呆れたように溜め息を漏らしていた。

 それに対してオクタヴィオは反論できずに黙り込んでしまうしかなかった。

 

「まぁでも、あの巨人を止めなければ王都が危ないというのは事実だな」

 

 そう言ってアルスは巨人の方へと視線を向ければ、相変わらず巨人はその動きを止めることなく、今もなおゆったりと王都へと向かっているようだった。

 

 その様子を見て、今度はシーリスが声を上げる。

 

「止めると言っても、どうやって止めれば良いんですか? 私の魔法も効きませんでしたし……」

 

「ふむ……あの巨人には核があると言っていたな?」

 

 アルスは顎に手を当てつつ思案を巡らせた後、オクタヴィオ達に視線を向ける。

 その視線の意味を察したオクタヴィオは小さく頷くことで肯定を示した。

 

 それを見たアルスは続けて質問をする。

 

「ならば話は簡単だ。 あの巨人の核となっているユイエとイザイアとやらを殺せばいいだけの話だろう」

 

「殺すのは無しの方向で」

 

 オクタヴィオの即答にアルスは溜め息を吐きつつ思案を続けることにしたようだ。

 

「それにしても厄介な状況になったものだな」

 

 そんなことを呟きながらもアルスは思考を張り巡らせる。

 4人で作戦会議を行う中でまず初めに決まったことは『いかにしてユイエ達を救出するか』ということだったのだが、そもそもの話としてあの巨人の棘を回避しながら救出するのは骨が折れるだろう。

 

「せめてもう少し戦力があればな……」

 

 その言葉にオクタヴィオが反応する。

 

「それならいい考えがある。 アルスはシゼルとシーリスを連れて王都に戻ってくれ。 俺がどうにか食い止めてる間に戦力になりそうな魔女を選定して連れてきてほしい」

 

「戦力を連れてくるのは良い。 だが、どうやってあの巨人の進行を1人で阻む?」

 

 アルスの問いかけにオクタヴィオは不敵な笑みを浮かべる。

 

「心配するなって。 俺には奥の手があるからさ」

 

 1人だけ残る決意を固めているらしいオクタヴィオにこれ以上何を言っても無駄だろうと悟ったアルスは、諦めたように肩を竦める。

 

「だが、ここから王都へ向かうのは時間が掛かるぞ」

 

「その点は大丈夫。 シエルが転移系の魔法を使えるから、それで移動してくれ」

 

 転移門と聞いてアルスは先程の扉が転移門だと理解すると納得したように頷いた。

 そして、シエルの方を見やると彼女もまた首を縦に振っていたので、この場において異論を唱える者はいないと判断したのだろう。

 

「……わかった。 では行ってくるとしよう」

 

 そう告げるや否や、アルス、シーリス、シエルは円環の竜の背に乗るとそのまま上空へと舞い上がっていくのだった。

 

 そんなアルスを見送っていたオクタヴィオだったが、視線を巨人へと移すなり肩をぐるりと回して緊張を解そうとする。

 

「……奥の手があるなら早々に切ってるんだよな」

 

 当たり前ではあるが、オクタヴィオが持ち得る手札にこの状況を打破できるような物は存在しない。

 それでもアルス達を離れさせたのは、シエルやシーリスを安全な場所で匿ってもらう為であった。

 

 これでもう心置き無く、交互の憂いなくーーー

 

「『終わり』へと向かえそうだ」

 

 ベティへと残り少ない弾丸を込めながら、ゆっくりと、しかし力強く巨人がいる方角へ足を向ける。

 再三挑んだ事で黒棘の対応はそれなりに把握している。

 

 後はどれだけ損害無く巨人の懐へ潜り込めるかどうかが鍵となるだろう。

 

「問題はその一点のみ」

 

 覚悟を決めると、オクタヴィオは再び駆け出すのであった。

 走り始めてから数秒ほど経った頃だろうか。

 

 いや正確にはもっと長い時間が経過しているのかもしれないのだが、そんな事を考える暇など無いほどにオクタヴィオは集中していた。

 

 というのも先程よりも密度を増した針による攻撃により思うように距離を詰められずにいるからだ。

 

「……やっぱり時間の経過と共に精度が上がってきてるな。 魔法を扱う事に慣れてきたというか、効率良く放てるようになってきたってところか?」

 

 しかし、密度が増したところで面で制圧されない限りはオクタヴィオの進行を阻む事は不可能である。

 

「さてと、アルス達が来るまで大体1時間として……それまでに片をつけられるよう頑張りますかね」

 

 その瞬間、死角から黒棘が連続で襲い来るがオクタヴィオはそれを見ずとも最小の動きのみでそれらを避ける。

 

『ーーーっ!?』

 

 そこで初めて、巨人の驚いた様な声が響いてくる。

 

「何だ? 可笑しいか、黒い棘を見ないで避けてる事が」

 

 人型を取っているが口のない筈の巨人から、異様な圧が発せられると同時に棘の頻度も比例するように上がっていく。

 

「この攻撃は何度も見た。 見て避けられるならーーー当たる道理はないよな」

 

 一際大きな棘が地面に突き刺さると共に、オクタヴィオは巨人へと疾走する。

 

 オクタヴィオの言い知れぬ圧を感じたのか、進むだけであった巨人の動きが後ろへと微かに下がっていく。

 

 そんな動きを見せた事に違和感を覚えながらも、オクタヴィオは走る速度を緩めることはせずに巨人との距離を縮めていく。

 

「なんだ……?」

 

 疑問に思ったものの、その答えはすぐに判明することとなる。

 

 それは突然の出来事であった。

 突如として地面が大きく隆起したのである。

 

「なっ!?」

 

 突然の事態に反応が遅れた事に加え、予想以上の速さを持った地割れに足を取られてしまったオクタヴィオはそのまま転倒してしまう。

 

 受け身を取ることも出来ずに背中から落ちてしまい肺の中の空気が強制的に吐き出される感覚に襲われる中、視界の端に映ったものは自身の身体に向かって伸びてくる無数の棘だった。

 

「今度は搦手も織り交ぜてくるとか学習能力が高いな!」

 

 後転すると同時に手をバネにしてその場からすぐさま離れる。

 

 次の瞬間にはオクタヴィオがいた場所へと棘が突き刺さり、あのまま寝ていたら串刺しになっていた事だろう。

 

「全く殺意が高くて叶わないな……。 でも、後もう少し」

 

 オクタヴィオの言う通り、巨人と彼の距離はかなりのスピードで縮まって来ている。

 もう目前まで迫っておりあと数秒もしないうちに間合いに入ることになるだろう。

 

 そんな距離まで来たところで再び地面を盛り上げようとしてくるもそれを難なく避けてみせる。

 

「それも見たぞ」

 

 2本の足でしっかりと大地を踏みしめると、右手に握る拳銃を強く握りしめ狙いを定めるのだった。

 

「それじゃあユイエを返してもらうぞ」

 

 弾丸を放とうとした瞬間、オクタヴィオの脳内で警鐘が鳴り響く。

 それを撃てば後悔するぞと言わんばかりの、特大の警鐘であった。

 

 ベティを向けたその先ーーー巨人の身体を構成している場所、特に足元辺りに視線を向ければ蠢く影が見える。

 

 よく目を凝らして見てみれば、その影はーーー

 

「人……いや、魔女か……?」

 

 魔女協会の最下層で見た、リスタルが作り出した魔水晶の中にいた魔女達によく似ているのだ。

 ベティを握り締めた力が無意識に緩んでいく。

 

 無策に弾丸を撃ち込めば、罪の無い魔女達を怪我をさせてしまう。

 オクタヴィオの攻撃手段はこの時点で封じられたと言っても過言ではなかった。

 

「そりゃそうだ……。 アレが魔女の魔法を扱うって言うなら一つに纏まっていない筈が無いもんな」

 

 最早打つ手なしと言わんばかりに項垂れてしまうオクタヴィオであったがーーーその口元は確かに笑っていた。

 

 此方からの攻撃手段が失われただけであって、まだ目標を達成するための手立てが消え去った訳ではない。

 

 やりようは、いくらでもあるのだ。

 

「可愛い娘達に傷を付けないで戦うのは慣れてるさ……!」

 

 ベティをホルスターに仕舞い込み、オクタヴィオは黒棘に狙いを付けさせまいと左右に動き、少しずつでも巨人へと近づいていく。

 

『…………?』

 

 突如銃を仕舞ったことに違和感を感じたのか、巨人もまた動きを止めてオクタヴィオを見つめるかのように首を動かす。

 

「どうした? 撃ってこない俺を不思議に思ってるのか?」

 

 言葉が通じるとは思っていないが、敢えて挑発するような言葉を口にしてみるもやはり返答はなかった。

 

 それどころか、警戒を解いたかのような雰囲気さえ漂わせているようにも見える。

 

「……もしかしてだけどお前、ユイエと繋がってるのか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、巨人の身体がびくりと震えたように見えたのだ。

 

「…………なるほどねぇ。 こりゃあ予想以上に面倒な事になってるな」

 

 内心で舌打ちをしながら、オクタヴィオは思考を回す。

 

 この巨人が、ユイエやイザイアと繋がっているという確証がある前提で考えれば、オクタヴィオに対して何かをしてほしい又はしなければならないと暗に伝えているようなものである。

 

 ただ、何を伝えたいのかはまだわかっていないが、オクタヴィオには成すべきことがあって、それがまだ達成されていないのだろう。

 

「あいつらの性格を考えれば何かしらデカい事を考えてる可能性が無きにしも非ず、だ」

 

 もしそうだとすれば、今この瞬間にも何か仕掛けてきているのかもしれないと考えつくのは自然な流れであると言えるだろう。

 

 それに何よりも、こんな悠長なことをしている間にアルス達が戻ってきたとしたら最悪でしかないのだから。

 

 だからーーー今は目の前の巨人に集中しなければならないのである。

 

『……』

 

 巨人は何も語らずともその瞳の奥に宿る意志の強さだけは衰えることを知らないようで、鋭い眼光を向け続けている。

 

「……そうかよ。 なら俺も覚悟を決めるか……」

 

 大きく深呼吸をすると、オクタヴィオはゆっくりと右手を胸の辺りへと持っていく。

 

 ーーートン、トン、トンと3回、心臓の辺りを軽く叩く。

 

 それだけでオクタヴィオの中に渦巻く何もかもが全て消え去る。

 

 スイッチを入れるのは久しぶりだったが、無事に切り替える事ができてオクタヴィオは微かに安心する。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 身体を脱力させて前へと倒れながら、地面とぶつかる前に脚に力を込めて急加速をする。

 そして、一気に巨人の元へと辿り着くと勢いをそのままに巨人へ触れようとする。

 

『ーーー!』

 

 その動きを察知してか、巨人も腕を振り上げる。

 しかし、巨人も対応が早かった。

 

 振り上げた腕をすぐさま下ろし、オクタヴィオに一撃を喰らわせようとする。

 

「その攻撃は受けられないんだよなぁ!」

 

『……!?』

 

 巨人の口から驚愕の声が上がると同時に、振り下ろした腕が透かされたような感覚が伝わってきたのとオクタヴィオその腕の上に乗っているのが見えた。

 

 ーーそう、確かに手応えはあった。

 

 しかし、オクタヴィオは吹き飛ばされることはなく、巨人の腕の上でまた脚に力を込めている。

 

 その姿はまるで獣のように機敏で軽やかな動きで軽々と攻撃を躱していく様は正に異常そのものだろう。

 

「このまま突っ切る!」

 

 そしてそのまま肩の上まで駆け抜けるように跳躍しーーー右腕を振りかぶっていた巨人の肩に乗ることに成功するのだった。

 

『……ッ!?』

 

「こいつ……!?」

 

 しかし、巨人もタダでは終わらせない。

 その巨大な身体を揺らして、オクタヴィオが立っていられないように、あわよくば振り落とすように暴れ始める。

 

「ぐっ……! これじゃあ動けない……!」

 

 だがそれでもオクタヴィオの決意は変わらないようだ。

 銃を抜くことなく、その場で踏ん張り続ける。

 

「早くしないとアルス達が来るってのに!」

 

 そう叫ぶも、状況が変わることはない。

 寧ろ、徐々にではあるが確実に悪くなっているような気すらする程であった。

 

 このままでは埒が明かないと思ったその時ーーー不意に身体が軽くなった気がした。

 

「おぉっ……!?」

 

 そう思った時には既に遅かった。

 巨人はその身を捻らせ、回転させることによって遠心力を生み出してそのままオクタヴィオを振り払うことに成功したのだった。

 

「しまったぁぁぁぁっ!?」

 

 オクタヴィオはそのまま宙を舞い、地面に激突するかと思われたのだが寸での所で体勢を整えることができたため事なきを得る。

 

「痛つつ……流石に今のは効いたなぁ」

 

 そう言いながら立ち上がると、すぐさま巨人の元へと向かうために駆け出す。

 

『ーーー』

 

 それを見た巨人もまた、迎え撃つべく黒棘を展開しつつ拳を構えて迎撃態勢を取る。

 

「……攻撃の意思が感じられる辺り、やっぱり内で操作してるのか?」

 

 今までの巨人の動きは、相手の攻撃に対して黒棘のみでの迎撃が主だった。

 しかし、接敵から時間が経つにつれてオクタヴィオ達の動きを学習したのか対応の幅も広がっていたのも事実なのである。

 

 そんな状況下であれば、自ずと戦い方も変化していてもおかしくはないが、あながちオクタヴィオの考えも間違っていないようだ。

 

「まあ何にせよだ」

 

 ここまで来てしまえば後はやる事は一つだけであり、それを成すためには眼前に立つ巨人のを核のある場所へと近付く必要があるという事だけだ。

 

「その為に動きは把握した。 後は進むだけだ」

 

 だからこそオクタヴィオは迷う事なく行動に移る。

 1歩踏み出すと同時に加速、トップスピードを維持したまま巨人へと肉薄する。

 

『ーーーッ!』

 

 対する巨人もオクタヴィオを近付かせまいと、がむしゃらに腕を振るう。

 

「おっと危ないってねぇっ!」

 

 そんな中でもオクタヴィオは冷静に対処して、時には飛び越え、時に地面を蹴り上げて空中で方向転換をして避けてみせる。

 

 その度に黒棘が掠めて服を裂き、肌を裂くが構わず前へ前へと突き進んでいく。

 

「よしっ……! あの位置なら……!」

 

 再び巨人の懐に潜り込むことに成功したオクタヴィオは、射出される黒棘を搔い潜るようにしながら左腕を真っ直ぐに伸ばす。

 

 巨人の魔力で出来た脚の一部分を『鷲掴み』、身体を上へと跳ね上げていく。

 

 強い加速を受けてほんの少し息が詰まるような感覚に襲われながらも、オクタヴィオはお構い無しに巨人の身体を駆け上がって行く。

 

「離れてやるもんかよ……っ!」

 

 巨人の方も抵抗しようとするが、オクタヴィオの動きに翻弄されているのか上手く動けていないようであった。

 

 そんな中、魔力の波を頼りにオクタヴィオは巨人の核がありそうな胸元へと飛び移った。

 

「予想があってりゃここにあいつらがいる筈だ……っ!」

 

 吹き飛ばされないようにしがみつきながら、オクタヴィオは巨人の胸元へと手を突き刺す。

 

 ズブズブと腕が埋まっていくのと同時に、展開が間に合った黒棘がオクタヴィオを襲うがそれは想定済みだったのか即座に手を引き抜こうとするがーーー抜けなかった。

 

「これはーー!?」

 

 まるでゴムのような弾力性を持った膜のようなものが纏わりついていて引き抜くことができないのだ。

 

 まずいと判断したオクタヴィオは咄嗟にベティを抜き放つ。

 

 それと同時に、取り込まれた左腕に凄まじい衝撃が走る。

 

『ーーーーッ!!』

 

 巨人の声にならない叫びと共に、引き抜けずにいた左腕に違和感が走る。

 

 ゾワリとした悪寒とオクタヴィオの本能が大音量で警鐘を掻き鳴らす。

 

「ーーーまっずいッ!」

 

 思い切り力を込めて引き抜こうとするが、埋まってしまった左腕はピタリとくっついてしまったかのように動かない。

 

『ーーーッ!』

 

 2度目の咆哮が響くと同時に、魔力波が巨人の身体を巡り、その余波がオクタヴィオに襲い掛かる。

 

「うぐっ!? なんつー魔力波だよ……っ!!」

 

 あまりの風圧に吹き飛ばされそうになるも、抜けない左腕のおかげでどうにか堪えることに成功していた。

 

 その隙を狙ってか、はたまた偶然なのかはわからないが、いつの間にか足元にまで伸びてきた黒棘がオクタヴィオの足を貫く為に迫ってくる。

 

 それをすんでのところで躱すと、今度は頭上から無数の針が降り注いでくる。

 

「このままじゃジリ貧だな……っとぉっ!」

 

 どうにかして状況を打破しなければと思考を巡らせていると、ふとある考えが思い浮かぶ。

 

(この状態で撃てばいけるか……? いやでも……)

 

 一瞬の躊躇いの後、決断を下す。

 

「後で後悔するなよ俺ッ!!」

 

 右手に持っていたベティをオクタヴィオは押し付ける。

 

 巨人の身体にではなく、オクタヴィオ自身の左腕へと標準を合わせる。

 

 微かな焦りと不安が去来するが、オクタヴィオは意志の力でそれらを捩じ伏せて引き金を引いた。

 

「ーーーう"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"あ"ぁ"ぁ

 "ぁ"ッ!?」

 

 響き渡る銃声と舞い上がる血飛沫、気が触れてしまいそうな痛みの中、オクタヴィオは撃ち抜かれて千切れた左腕を足場に駆け上がる。

 

 左腕から血を撒き散らしながら、オクタヴィオは巨人の胸元ーーー心臓部分へと到達する。

 

「何かを動かすってんなら此処しかないだろ!?」

 

 先程の魔力波の流れを見た時、この胸元から波が出ていたのをオクタヴィオは見逃していなかった。

 

 そして、オクタヴィオの感が此処にユイエ達がいる事を告げている。

 

『ーーーッ!?』

 

 目当ての物を探し当てられた事に驚いているのか、巨人は反射的に魔力波を内へと吸収し始める。

 

「……そいつを待ってた!」

 

 吸収し始めた魔力波をオクタヴィオは文字通り『掴んだ』。

 

 魔力波を物理的に掴んだ事で、巨人が吸収する中心部へとオクタヴィオは引っ張られていく。

 魔力波と共に吸い込まれていくオクタヴィオの意識は、ゆっくりと溶けるように消えていく。

 

 次目が覚めたら、ユイエ達に会えると思いながら、オクタヴィオの意識は完全に闇の中へ落ちていった。



感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ