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魔女と共に在る者《ワン・ウィズ・ザ・ウィッチ》  作者: N/2
第9章 時を超えたその果てで
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第48話


 突如として発生した膨大な量の魔力を感知したシーリスは、頭をハンマーで殴られたような感覚を受けながら顔を上げた。

 

 そして、その発生源を探るべく周囲を見渡し、ある一点に目を向けたところで動きを止めた。

 

「ーーーオクタヴィオさん!」

 

 冷たい瞳で腕を組んでいるイザイアの近くで、オクタヴィオがボロ雑巾のように転がっていた。

 それを見た瞬間にシーリスは現実を受け止められずにいた。

 

「おや、シーリスも起きたのかい? そのまま横になっていても良かったんだけど……まあいい。 それより、計画はそろそろ最終段階に入るよ」

 

 そう言って笑うイザイアの表情は普段と変わらないように見えるものの、その瞳の奥に渦巻く狂気じみた感情を垣間見てしまい背筋が凍るような感覚がシーリスを襲う。

 

「ーーーっ!?」

 

「まあ、君の役目ももう少しで終わるから頑張ってもらおうか。 後はーーーシエル」

 

 イザイアは徐ろにシエルの名を呼ぶ。

 その呼びかけに対して、イザイアの近くに転移門が現れそこからシエルが姿を現した。

 

「イザイア様……」

 

 シエルは無表情のままその場に立ち尽くしており、イザイアは口を開く。

 

「一仕事ご苦労様。 シエルにも後もう少し頑張ってもらうからよろしく」

 

「……はい」

 

「どうかした?」

 

 シエルの返答に少し間があったことが気になるのかイザイアはその顔を覗き込もうとするが、彼女は俯いてしまい表情を見ることは叶わなかった。

 

「……いえ、何でもありません」

 

「それならいいんだけどさ」

 

 訝しげな表情を浮かべながらも追及することはせず、イザイアはそのまま踵を返し歩き出すと、オクタヴィオの頬に手を添わせて語りかけるように言う。

 

「手荒な真似で本当にすまない。 だけどこれも君の為だ、恨んでくれても構わない」

 

 オクタヴィオを気絶させることはあまりにも難しく、支配の魔法をかなり使って漸く気絶まで持っていく事に成功している。

 

 ここまで追い詰められるというのもイザイアにとっては初めての事であり、それだけこのオクタヴィオという男が規格外の存在であることを思い知らされることとなった。

 

(まさか、支配のブーストを掛けたワタシがここまで苦戦を強いられるなんてね)

 

 そんな事を思いながらも顔には一切出さず、あくまで紳士的な態度を崩すことなくオクタヴィオに語り掛ける。

 

「さあ、今はゆっくりお休みなさい」

 

 その言葉と共にオクタヴィオの頬から手を離して名残惜しそうにイザイアは立ち上がる。

 

「シエル、後は頼むよ」

 

「かしこまりました」

 

 シエルはオクタヴィオの側まで行くと指を打ち鳴らす。

 オクタヴィオとシエル、そしてシーリスの下に転移門が現れて音もなく開いていく。

 

 オクタヴィオ達は沈み込むように転移門の内へと身体を沈める。

 イザイアが3人の転移を見送った後、魔水晶に手を当てる。

 

「さあ、君やワタシ、魔女達が愛した彼が事を成すまで暫し泡沫の夢に浸るとしよう」

 

 言葉と共に魔水晶が暗く、深く、悍ましく魔力波と共に染まっていく。

 その様子を見ながらイザイアは静かに微笑むと一言だけ言葉を紡いだ。

 

「オクタヴィオはどう動くかな?」

 

 イザイアの言葉が闇に消えるのと同時に、彼女の意識も闇の底へと落ちていった。




◇◇◇




 強烈な痛みを感じてオクタヴィオの意識は急速に覚醒していく。

 それと同時に全身に激痛が走ることで思わず呻き声を上げた。

 

「ぐっ!? 痛ぇ……ってなんだこりゃあ……?」

 

 痛む体に鞭を打って上半身を起こすと自分の身体を見て驚くことになる。

 何故ならそこには痛々しい傷跡がいくつも刻まれており、傷口からは未だに血が流れ出ていたからだ。

 

「おいおい、一体どうなってんだこれ……?」

 

 痛みに耐えながらも自らの状態を確認してみるが、どうやら傷は切傷や打撲のようで特に深いものは見当たらないので大事には至っていないだろうと判断を下す。

 

「とりあえず止血だけでもしておくか……」

 

 そう思い立ち上がろうとしたところで背後にある気配に気がついた。

 

「誰だ」

 

「目が覚めましたか、オクタヴィオ様」

 

 オクタヴィオが振り向くとそこにいたのは少しボロボロになったメイド服を着たシエルであった。

 その顔はいつもと変わらないように見えてどこか悲しげな色が見えた気がしたが、すぐに元の表情に戻して頭を下げる。

 

「ご無事で何よりです。 お加減の方は如何でしょうか?」

 

「……ああ、問題ないよ」

 

「それは何よりでございます」

 

 シエルは安心したように言うと、オクタヴィオの隣に腰掛ける。

 その様子を不思議に思ったオクタヴィオだったが、ふと自分が今どんな状況にいるのかを思い出して立ち上がろうとする。

 

 しかしその瞬間、脇腹に鋭い痛みが走り再び座り込んでしまう。

 

「いっつつ……そうだった、イザイアと戦って負けたんだったな……」

 

 そこで初めて自分の置かれている状況を理解することになった。

 恐らく自分はイザイアに負かされてどこかに運ばれたのだろうと推測する。

 

「ここは何処なんだ? 王都なのか?」

 

 オクタヴィオの問いかけにシエルは少し困ったような表情を浮かべた後に答える。

 

「申し訳ございません、私もここが何処かまでは存じ上げません」

 

「……そうか、じゃあ仕方がないな」

 

 いくら魔女とはいえど、例外を除いて万能ではない事は重々承知している為、それ以上の追求はしなかった。

 それよりもこれからどうするかを考えるべきだと判断したからである。

 

「そういえば、イザイアが言っていた楽園ってのは……完成しちまったのか?」

 

 オクタヴィオの問いにシエルは小さく首を振ると答えた。

 

「いいえ、まだ完全には出来ておりません」

 

 そんな返答を聞いてオクタヴィオは安堵の溜息を吐いた。

 まだ間に合うかもしれないという希望を抱いたのだ。

 

 だが次の瞬間にはシエルの言葉で打ち砕かれることになる。

 

「彼方をご覧くださいませ」

 

 シエルが指を差し示した方角へオクタヴィオが顔を向ける。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 それは、巨大な『人』であった。

 暗く、黒くて悍ましい雰囲気と、何もかもを終わりにしてしまうような魔力波を辺りに撒き散らしながら、その人型はゆっくりと動いている。

 

 その姿は一見するとただの人間に見えるかもしれないが、明らかに異質な雰囲気を漂わせている。

 それを目にしたオクタヴィオはすぐに理解した。

 

「あれが……イザイアの言っていた楽園なのか……?」

 

 しかし、オクタヴィオの中で疑問が生まれる。

 楽園というには表現が異なるのではないかと思える程に禍々しい存在がそこに居たのだから当然の反応と言えるだろう。

 

「いえ、アレは楽園を成す為の機構の一つです」

 

「機構……? 一体何のことだ?」

 

 意味が分からないといった表情を浮かべるオクタヴィオに対してシエルは説明を続ける。

 

「あの黒い人型こそが世界を変える鍵なのです」

 

「どういうことだ? あれはどう見ても化け物にしか見えないんだが……」

 

「ええ、そうですね。 あのようなおぞましい姿をしていますからそう見えるのも無理はないでしょう」

 

 そう言うとシエルは悲しそうな表情を見せた後で話を再開する。

 

「ですが、あれこそまさに私達が待ち望んでいたものです」

 

 その言葉にオクタヴィオは思わず聞き返す。

 

「あれが……だと?」

 

「魔女が傷つけられない、迫害されない世を作る為に一度、世界を壊さなければならないとイザイア様はおっしゃっておりました」

 

 そこまで聞いてようやくオクタヴィオは少し計画を理解することが出来た。

 つまり、これは楽園を造る過程で必要な過程なのだということだ。

 

「なるほど、そういうことか……」

 

 しかし、この方法だと平和的に問題を解決することが出来ないだろう。

 だが同時に、別の疑問もあった。

 

「でもさ、あんな姿になってまで楽園を作る必要はあるのかい?」

 

「はい、あくまでも仮初の楽園ではありますが、それでも魔女達の心に安寧をもたらすことは出来る筈です」

 

「……まあ、そういう考え方もあるよな」

 

 オクタヴィオ自身もあまり理解出来ていない部分はあるが一応納得することにしたようだ。

 そもそも今の状態では何が正しいのかも分からなければ何が間違っているかも判断がつかないのである。

 

 ならば目の前のことだけに集中しようと考えた結果でもあったのだが……。

 

「その楽園計画は次に何をするんだ?」

 

「オクタヴィオ様ならすぐにおわかりいただけるのでは?」

 

 そう言ってシエルに促される形でオクタヴィオは再び思考を巡らせ始める。

 普通に考えれば、人を殺し尽くして魔女だけ残せばそれは楽園と言えるだろう。

 その次を予想するなら、残った莫大な魔力を何かに転用するまではイザイアの性格や様子を見れば確実にやってのけそうである。

 

「さて、どうしたもんかね」

 

 現状を把握しようと辺りを見回すが、何もわからないままである事に変わりはない。

 一つだけ分かることがあるとすればこの場所が相当広い空間だということだろうか。

 

「……んんっ」

 

 オクタヴィオやシエルが居るその後方で、何かが動く音と微かに声が聞こえて来た為オクタヴィオはそちらに目を向けるとシーリスが横たわっているのが見え、急いで駆け寄り声をかける。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 声を掛けるとシーリスの目がゆっくりと開かれるのが分かったのでひとまず安心する。

 どうやら気を失っていただけのようだと判断してほっと胸を撫で下ろすと同時に、シーリスの身体の状態を確認する。

 

「見た感じ大きな怪我は無いみたいだな……」

 

 確認を終えたところで改めてシーリスを揺り起こす。

 

「……んっ……ううっ……」

 

 意識が戻りつつあるようで、僅かに呻き声を上げると瞼を開いた後に身体を起こそうとするが力が入らないのか、シーリスは起き上がれずにいた。

 その様子を見たオクタヴィオは慌てて手を差し伸べることにする。

 

 その手を掴んで起き上がったシーリスは軽く頭を振ることで意識を覚醒させると周囲を見回した後でオクタヴィオの方に顔を向けてきた。

 その表情は明らかに困惑しており何故ここにいるのか分からないと言った様子だ。

 

 それも仕方のないことだろうと思い、まずはお互いの情報を共有する必要があると考え、オクタヴィオは問いかける。

 

「大丈夫かシーリス。 痛いところはないか? もしあれば言ってくれ」

 

 気遣うオクタヴィオにシーリスは大丈夫だと答える。

 その姿に安心したのかオクタヴィオは一息つくと、先程の女性型の巨人へと視線を向ける。

 

 魔力波を撒き散らしながら少しずつ進む女型巨人の対応をすぐしなければ、取り返しのつかない事になるだろう。

 

「シエルちゃん、アレは今、多分だけど人がいる方向へ向かっているんだよな?」

 

「はい、計画ではまず手始めに王都にいる人を消し、次の人間がいる場所へと向かっていきます」

 

 人のいる場所へと向かっているという事は、アレほどの巨体で動かれるだけでも何人もの命が潰えてしまう。

 王都の方でこの異常に気付くまでに時間がかかる。

 

 あの女型巨人をどうにかできるのは、アレが何なのかを知っているオクタヴィオ達にしかできないことなのだ。

 

 だからこそ早く行動しなければならない。

 しかし、アレほどまでの巨体、近づくだけでもかなりの危険が付き纏う。

 

「この状況、敵であるシエルちゃんに明け透けに聞くことじゃないんだが、一つ聞きたい。 今、君は敵か? それとも……味方か?」

 

 そんな問いを投げかけられたシエルは一瞬驚いたような表情を見せるものの直ぐに無表情に戻ると口を開く。

 

「私はイザイア様から一つ、お願いをされております」

 

「お願い?」

 

 シエルは頷くと更に続けるように口を開いた。

 

「『オクタヴィオと共に行き、そして彼を助けろ』と」

 

 その言葉を聞き届けた途端、オクタヴィオの脳裏に過去の記憶が蘇るような感覚が走る。

 しかし、即座に頭を左右に振ってそれを振り払うことにした。

 

(今はそんな事を思い出してる場合じゃない)

 

 余計な思考を切り捨てると再度質問を投げ掛ける。

 

「イザイアの目的は一体なんだ……?」

 

 その質問に対して返ってきた答えは意外なものだった。

 

「イザイア様の目的ですか……それはただ一つだけです。 貴方に全てを託す為に、とのことでした」

 

「俺に全てを委ねるってどういう事だ……?」

 

 全く理解できない内容だったが嘘ではないのだろうということは何となく分かったような気がした為、それ以上追求する事はしなかった。

 

 それよりも問題なのはどうやってあの怪物を止めるのかということだったからだ。

 

 このまま放っておいても被害が広がるだけだし、かといって倒すにしてもどうすれば良いのかという問題が残る。

 どうしたものかとオクタヴィオが考えているうちに、シーリスが口を開く。

 

「アレは幾多の魔女が、魔水晶という媒介を使って一つになっていると思います。 私の魔法も少し吸収されているからわかります、まずは魔女達の魔法の壁を崩さなければダメージはおろか、何一つとして傷つけられない」

 

 何でそこまでわかるんだという言葉がオクタヴィオの喉から出掛ける。

 しかし、ただの人間であるオクタヴィオと魔女であるシーリスとでは、魔力や魔法に関することの知識に差があることは明白だった。

 

 ましてや自らの魔法が巨人に取り込まれているのがわかるのなら、その理解力も頷ける。

 

「シエルちゃん、シーリスの話は合ってるか?」

 

 念のために確認を取るために問いかけると、シエルはこくりと頷いて肯定の意を示した。

 それを見ていたシーリスの表情が曇っていくのが分かる。

 

 自分のせいでこうなったのだと責めているのだろうことが窺えた為、安心させる意味も含めてオクタヴィオは優しく話しかける。

 

「大丈夫だって、別にお前のせいじゃないさ」

 

 そう言いながら頭を撫でてやると、少しだけ落ち着いた様子を見せたのでオクタヴィオは内心ほっと胸をなでおろす。

 そんな二人の様子をシエルがじっと見つめていたが、やがて視線を逸らすとぽつりと呟いた。

 

「人と魔女がこうであったら良かったのに」

 

 撫でていた手をオクタヴィオは離すと、今度はシエルの頭に優しく乗せた。

 

「大丈夫、この事件を解決したら魔女も人も皆仲良くなるさ」

 

 その言葉を聞いたシエルは目を見開き、信じられないといった表情をするとオクタヴィオを見つめる。

 

「……本当にそうなのでしょうか?」

 

 不安そうな表情で聞いてくるシエルに対して、オクタヴィオは自信たっぷりといった様子で答える。

 

「ああ、約束するよ」

 

 それを聞いたシエルは安堵したような笑みを浮かべると、ゆっくりと頷いたのだった。

 それから暫くして、三人は作戦会議を始めることになった。

 

 といっても、やることと言えば至ってシンプルであり、先ずは周囲の魔物達を一掃した後に三人で協力してあの女型巨人と相対するというものだ。

 

 ただ、問題は如何にして近付き攻撃を当てるかということなのだが。

 

「一応ユイエとかイザイアも取り込まれてるんだよな、あれ」

 

 そう呟くように言うオクタヴィオに対し、シーリスが声を上げる。

 

「今はただ前進して王都を目指しているだけですけど……。 近付いた時に何が起こるのかもわからないのが怖いですね」

 

「魔水晶に取り込んでいた魔法や魔力も全てあの中に入っていると聞き及んでおります」

 

「どう考えても、その魔法で迎撃される未来しか見えないんだが?」

 

 幾多の魔法や魔力に対して、オクタヴィオ側は三人しかいないという絶望的な状況である。

 オクタヴィオは魔法を使えず、シーリスに至っては自衛の為の魔法を持っていないのだ。

 

 いくらシエルの実力が高いとはいえ、やはり数と力の差というのは埋め難いものがある。

 

「こんな時に少しでも他の魔女がいてくれたらなぁ……。 アルスかフューリムに連絡出来たらもう少し手が増えるんだが……」

 

 シエルの転移門で王都に移動して協力を仰ぐという方法も無きにしも非ずだが、あの巨人から目を離すのはあまりにも危険過ぎた。

 

「何はともあれ、先ずは威力偵察をしなければ危険を他の魔女達に伝えることはできません。 オクタヴィオ様、ここは一度近付いて反応を伺うことを提案いたします」

 

「それしか手はないか……」

 

 確かに現状打てる手段の中で最善の手ではあるのだが、それでも危険なことには変わりがない。

 オクタヴィオは覚悟を決めると、二人に向かって声をかけた。

 

「よし、なら俺が先行しよう。 二人は後から付いてきてくれ、もし何かあったらすぐに逃げるんだぞ? 俺の事は気にしなくても良いからな」

 

 そう言ってオクタヴィオは立ち上がると、銃を片手に歩き出した。

 一歩ずつ近づいていくにつれて徐々に大きくなってくるその姿を見ると、まるで山が迫ってくるかのような圧迫感を覚える。

 

「さぁて……それじゃ一丁行ってみようか」

 

 その言葉と共にオクタヴィオは巨人の足元目掛けて駆け出していく。

 その動きに気付いた巨人がこちらを向くと同時に、近くに落ちていた礫を投げた。

 

 投げられた礫は一直線に飛んでいき、巨人の足に当たると思われた瞬間、見えない壁にぶつかったかのように弾かれてしまう。

 

「物理的な攻撃は流石に弾いてくるか……! 何とも高性能な防御壁だなッ!」

 

 それを見たオクタヴィオは思わず舌打ちをしたくなったが、何とか堪えつつ次の行動へと移る。

 オクタヴィオは走りながら次々に礫を弾いていくものの、いずれも同じように防がれてしまい一向にダメージを与えることは出来ていない。

 

 その様子を見たシーリスはすぐさまオクタヴィオへと声を飛ばす。

 

「その防御壁になるべく触れないように立ち回ってください! どんな魔法が込められているかわかりません!」

 

「アルテミシアの空間系魔法ってか!? それでも近づかなけりゃどうにもならないんでな!」

 

 オクタヴィオが側に寄ったことで迎撃魔法が起動したのか、防御壁はオクタヴィオに向けて棘を繰り出して貫こうとする。

 その危険にいち早く気付き、オクタヴィオは身体を捻って棘を間一髪で回避していく。

 

「こいつぁ中々厄介な相手だぜ……。 近づくことも許されねぇとは、つくづく規格外だよ」

 

 そう呟きながらも、オクタヴィオは足を止めることなく走り続けていた。

 その間にも次々と飛んでくる棘を避け続け、時には銃を使って撃ち落としていきながらも少しずつ距離を詰めていく。

 

 そしてついにオクタヴィオは懐まで入り込むことに成功した。

 

「これならどうだ!?」

 

 オクタヴィオは銃弾を放つのではなく、そのまま直接殴りつけるように拳を振り抜く。

 触れるのは一瞬、鈍い音が響く。

 しかし、結果は先程と同じだったようで、傷一つ付けることは出来なかった。

 

「かったいなぁ……ッ! ってうおッ!?」

 

 オクタヴィオが触れた場所から、暗闇の如く澱んだ魔力波が溢れ出す。

 その魔力波はオクタヴィオの腕を擦り、まるで意思を持つ生き物のように動き始める。

 

「子機みたいなのも創り出せるのかよ。 なかなかやばそうな魔女達の魔法が揃っていやがる」

 

 こういう状況で触れれば終わりの魔法をトラップとして使える程度の知能が敵にあることを理解したオクタヴィオだったが、同時にある疑問が浮かぶことになる。

 

(このレベルの魔術を使うことができるのなら、なぜわざわざ俺に近付かせた……?)

 

 そんな考えが脳裏に浮かぶとほぼ同時に、ゾワリとオクタヴィオの背中が粟立ち、警鐘が鳴り響く。

 

「ーーーあっぶねぇッ!?」

 

 オクタヴィオが居た場所に空間の揺らぎを伴った棘が連続で突き刺さる。

 あのまま動かずにいれば一瞬で串刺しにされて終わっていただろう光景を見て冷や汗を流しつつも、オクタヴィオは即座にその場から離れる為に走り出す。

 

「本当にさあッ! 人に向けて放つ魔法じゃないからそれェ!」

 

 叫ぶように文句を言いながら走るオクタヴィオであったが、再び足元に魔法陣が出現しそこから現れた無数の針を避ける羽目になるのだった。

 そんなやり取りをしている間も、シーリスとシエルは後方から準備を進めていた。

 

 シーリスは『導きの魔法』を扱う為に、懇々と魔力を身体の内側で回していく。

 今まではただ自分を導くだけの魔法だったのを、今回使い方を変えるべくぶっつけ本番で魔法の改変を試みていた。

 

(大丈夫、私なら出来るはず……)

 

 もう一度だけ自分に言い聞かせるようにしてシーリスは心の中で呟くと、深呼吸をしてから手を掲げる。

 

「魔法の対象を私じゃなくて他者へ……そこから必要なモノを導けるように」

 

 静かに紡ぎ出される言葉に呼応するかのように魔力が集まり始めていき、やがてシーリスの魔力波が少し変わる。

 それは白い魔力波が山吹色へと変わり、その輝きを増していく。

 

「……できた。 けど、凄く疲れました……」

 

 そう言って膝を突いて疲れを露わにするシーリスに対して、労うように肩に手を置くシエルだったがその表情はすぐに険しいものとなる。

 前方の遠くの方、オクタヴィオが幾多の空間棘に追われている姿が見える。

 

 その光景を見て、巨人の能力の高さに舌を巻く。

 オクタヴィオだからこそ、ほぼ何もダメージを受けずに立ち回れているが、これがシエルやシーリス、他の魔女達だった場合は間違いなく死んでいただろう。

 

「流石と言うべきでしょうか。 力の差は歴然、あの空間棘をどうにかしなければ近づけませんか」

 

 転移門を開いて接近したとしても、魔力波を感知して迎撃されるだろう。

 それらを掻い潜ったとしても、本番で使う魔法をシーリスが確実に成功させるとも限らない。

 

 もしも、という言葉がシエルの中に堂々巡りを繰り返す中でふと一つの考えが浮かんだ。

 

「……もしかしたら行けるかもしれません」

 

 その言葉に反応するように、シーリスの視線が向けられシエル話を続ける。

 

「あくまで可能性の話ですが……」

 

「いえ十分です。 ……それでどんな方法なんですか?」

 

「生半可な覚悟では成し得ません。 オクタヴィオ様の働きによって、あの巨人が数多の魔女の魔法を持っていることがわかりました。 近づけばあの空間棘で迎撃されるというのなら、別の方法で近付けば良いのです」

 

 シエルはそう言うと、今度は逆の方向を指差して言葉を続けた。

 

「幸いにも私達は空を飛べます。 あの位置からであれば、私達ならば気付かれないでしょう」

 

「……まさかとは思いますけど……」

 

 察したと言わんばかりに顔を引き攣らせたシーリスに対し、シエルは微かに笑みを浮かべてみせると続きを口にした。

 

「私もオクタヴィオ様と同じように陽動に努めます。 なのでシーリス、貴女はオクタヴィオ様の期待を裏切らないようにしなさい」

 

 あまりのプレッシャーにシーリスは生まれて初めて、胃の痛みを感じることとなった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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