第43話
オクタヴィオが帰り方がわからず途方に暮れているその頃、ユイエとシーリスはレステ・ソルシエールの店内で向かい合って座っていた。
どちらとも言葉を発する事なく重苦しい空気が店内を支配していた。
「ユイエさん……オクタヴィオさんは何処へ行ったんですか?」
沈黙に耐えかねたのか、最初に口を開いたのはシーリスだった。
それに対してユイエは素っ気なく答える。
「さあ知らないわ」
その言葉を聞いた瞬間、シーリスの表情が焦りに染まるのがわかった。
(やはり、ね)
予想していた通りの反応を見せる彼女に、ユイエは小さく嘆息する。
(予想通りの展開だけど、やっぱり面倒だわ)
そんなことを考えている間にも、シーリスの表情は険しくなっていくばかりだった。
「……わかりました。 もう結構です」
そう言うと彼女は立ち上がるなり、店を出て行こうとする。
「何処にいくのかしら。 貴女がオクタヴィオを探しても見つからないわよ」
ユイエの言葉に立ち止まり、振り返ることなく彼女は答える。
「……探しますよ。 それが私の使命なので」
そう言って立ち去ろうとする彼女の背中に向かって、ユイエは声をかけた。
「ねえ、ちょっと待ちなさいな」
しかし、彼女は振り向くこともせず、そのまま歩き去って行こうとする。
その様子を見送りながら、ユイエは大きな溜息を吐いた後に呟いた。
「はぁ、面倒ね……」
ユイエは指をパチンと打ち鳴らす。
先程までシーリスが座っていた椅子の上に、唐突に現れたシーリスが落ちてくる。
何が起こったのかわからず、目を白黒させるシーリスにユイエは優しく語り掛ける。
「貴女の前に進もうとする精神は美徳だわ。 でも、それは時と場合によるの。 今は我慢する時なの。 時間がくれば自ずと事は動くわ」
ユイエはそう言って薄く微笑むと、コーヒーを一口飲んでから再び話し始めた。
「ほら、外をご覧なさい」
ユイエの言葉につられてシーリスが窓の外を見ると、そこには黒ずくめの人達が窓から覗いている姿があった。
それを見た途端、シーリスは慌てて椅子から転げ落ちるようにして降りると、声を上げた。
「あれは……! 魔女協会の人達……! 何故此処に!?」
驚愕の表情を見せる彼女に対して、ユイエは特に動揺する事もなく淡々と言う。
「大方、私達を捕らえに来たのでしょうけど……どうやら様子が変ね」
その言葉通り、レステ・ソルシエールを、彼女達を取り囲んだまま一向に動こうとしない黒ずくめの集団の様子に、二人は訝しげな表情を浮かべた。
その様子はまるで何かを警戒しているかのようでもあり、あるいは戸惑っているかのようだった。
それからしばらくしてようやく動きがあったかと思うと、先頭にいた人物が一歩前に進み出た。
「お久しぶりです、シーリス様。 そして、初めましてですね。 始まりの魔女様」
「あら、私の事を知っているのかしら」
ユイエの問いかけに、その人物はぎこちなく頷いて答えた。
「ええ、存じておりますよ。 300年前、街を一つ一瞬にして消し去ったという話を長より聞いております」
ユイエとオクタヴィオしか知らない筈の過去を話す人物に対し、ユイエは少し驚いた表情を見せたもののすぐに平静を取り戻すとこう言った。
「ふぅん、魔女協会の情報収集能力も馬鹿にできないわね。 それで何の用? それとも私を連れ去りにでもきたのかしら?」
その問いに、相手は首を縦に振って頷くと答えた。
「始まりの魔女様とシーリス様、我らの長があなた方と話したいとおっしゃっております。 手荒な真似はしたくありませんので、一緒に来てもらってもよろしいかな?」
その言葉に、ユイエは眉を顰めると問い返す。
「断ったらどうなるのかしら?」
すると、相手は首を横に振って言った。
「その時はその時です。 私達の仕事はあなた方をお連れするまでです」
その言葉を聞き、ユイエはやれやれといった様子で肩を竦めると、ゆっくりと立ち上がった。
「仕方ないわ、付いていきましょう」
その言葉に、相手側も頷くとレステ・ソルシエールを包囲していた者達に合図を送る。
それを受けて、彼らは一斉に動き出す。
レステ・ソルシエールの前に一列に並び、ユイエとシーリスが出てくるのを跪きながら待っている。
「随分と好待遇なお出迎えね」
「……何も聞かないんですか?」
何事にも狼狽えることすらしないユイエに、シーリスは恐る恐るといった感じで話しかける。
それに対し、ユイエは妖艶な笑みを浮かべると言葉を返した。
「聞かなくてもわかるもの。 どうせあの魔女協会の連中が何か企んでいるだろうし、ついていけばオクタヴィオに会える筈だから」
そう言いながら、ユイエはさっさと歩いていく。
慌ててその後を追いかけるシーリスだったが、そんな彼女に向かってユイエは微笑みかけながら言った。
「大丈夫よ、オクタヴィオならこうするに決まっているわ」
「は、はい!」
そう言われて、シーリスは思わず顔を赤くしながら返事をするのだった。
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