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第42話

 

「さぁて、どうしたもんかねぇ……」

 

 走り回りながらも、オクタヴィオはどうにか打開策は無いかと必死に頭を回転させるものの、良い案は全く浮かばなかった。

 

 そんな時だった。

 

 不意に背後から殺気を感じ取ると咄嗟に横に飛んで身を躱す。

 次の瞬間には、さっきまでオクタヴィオがいた場所に巨大な魔物の腕が振り下ろされていた。

 

「ひゅ〜危ねぇ……っ!」

 

 冷や汗をかきつつ、すぐさま体勢を立て直して反撃に出る。

 

 狙いは首だ。

 

 そこに向かって引き金を引くと、銃声が鳴り響き銃弾が発射される。

 しかし、銃弾は命中したものの致命傷には至らなかったようで、怯むことなく再び攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちぃっ! やっぱりそう簡単にはいかないか……!」

 

 舌打ちをしながらバックステップで距離を取ると、今度は別の方向からも攻撃がやってくる。

 

「うおっと!?」

 

 慌ててその場から飛び退くと、直前までいた場所目掛けて鋭い爪が振り下ろされた。

 どうやら相手は猫型の魔物のようだ。

 

「こいつ一匹でも厄介なのに、次から次へと出てきやがる……!」

 

 オクタヴィオは悪態を吐きつつも、隙を見せないように常に周囲を警戒しながら動き回る。

 

「それにしても数が多いな。 しかもこいつら、連携を取ってきて一体ずつ倒すにしても時間がかかる」

 

 どうしたものかと考えているうちにも敵は増え続けていくばかりだ。

 このままではいずれ体力切れ、弾切れを起こしてしまうだろう。

 

 ならばいっそのことーーーと考え始めようとしたその時だった。

 突然頭上から何かが降ってきたかと思うと、それらは瞬く間に周囲の魔物達を切り刻んでいく。

 

「何だ!?」

 

 驚きのあまり目を見開いていると、目の前に降り立った影がゆっくりとこちらに振り返った。

 その姿は男性用の黒スーツを着込み、魔物の返り血を浴びている。

 

「おまえは……確か……」

 

 記憶を辿っていき、ようやくその人物の正体を思い出したところで目の前の人物が話しかけてくる。

 

「……お久しぶりですねぇ、オクタヴィオさん」

 

 相変わらずヘドロを煮詰めた様な声の人物を見て、思わず苦笑する。

 

「相変わらずだな……ゾルダート」

 

オクタヴィオがそう言うと、彼は嬉しそうに目を細めるのだった。

 

「おやおや、覚えていてくださったんですかぁ?」

 

「当たり前だ。 お前みたいな強烈なキャラを忘れる方が難しいだろ」

 

 オクタヴィオの言葉に、ゾルダートと呼ばれた男はクスクスと笑うと、手にしていたショートソードを鞘に収める。

 

「ふふ、そうですかねぇ? まあいいでしょう。 それより、あなたはこんなところで何をしているんです?」

 

 その問いに、オクタヴィオは苦笑しながら答える。

 

「見ての通り、魔物に追われてんだよ」

 

 それを聞いた途端、ゾルダートが納得したとばかりに手を叩く。

 そしてニヤリと笑うとこう言った。

 

「ああなるほど、そういうことでしたか。 今日は客人が来るなんて話がありましたので牢屋から脱獄したんですが、出てきて正解でしたねぇ」

 

「おいちょっと待て。 なんで牢屋に入ってたんだお前は」

 

 予想外の発言に思わずツッコミを入れてしまったオクタヴィオに対して、ゾルダートは特に気にする様子もなく淡々と答えた。

 

「ああいえ、ちょっとしたトラブルがありまして……まあそれはさておきですねぇ、ここは一つ。 魔物を捌きながら貴方と外に出る、ということで」

 

 それを聞いて一瞬だけ悩む素振りを見せたものの、すぐに首を縦に振るとこう返した。

 

「乗った。 丁度こっちも外に出なきゃならなかったからな」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いて、ゾルダートは満足そうに頷くと懐から何かを取り出す。

 それは手のひらサイズの球体のような物で、中には赤い液体が入っているのが見えた。

 

「これは?」

 

 不思議そうな表情を浮かべるオクタヴィオに対し、ゾルダートはその球を指で摘み上げると説明を始めた。

 

「これですか? これは魔水晶を液体化させたら物ですよ。 それを飲むことで一時的にパワーアップすることができるのです。 貴方にわかりやすくいうのなら、獣の魔法が込められた水というところですかねぇ」

 

 それを聞いて目を丸くするオクタヴィオだったが、ゾルダートは構わず続ける。

 

「ただ、効果時間は短いですし副作用もありますけどね。 それでも使わないよりはマシですからねぇ」

 

 そう言いながらゾルダートはそれを一気に飲み干す。

 獣の魔法とは、ルウナという魔女が使う魔法であり、自らの身体能力などを獣の如く上昇させるという一風変わった魔法であった。

 魔法液を飲み干したゾルダートの身体の周りに薄く赤い魔力が流れていくと、そのまま身体に染み込む様にして消えていく。

 

「……何が変わったんだ?」

 

 オクタヴィオの問いかけに、ゾルダートは肩を回しながら答えた。

 

「主に身体強化の効果ですかねぇ」

 

 そう言いながらゾルダートはその場で軽くジャンプしてみせる。

 するとそれだけで、彼の身体は数メートルの高さまで浮かび上がってしまった。

 

「おお、結構上がってるのな」

 

 驚くオクタヴィオをよそに、ゾルダートはそのまま空中で一回転すると地面に着地した。

 その身体能力は明らかに人間の限界を超えているように思えるものだった。

 

「さて、それでは行きましょうか」

 

 そう言ってゾルダートは歩き出すと、あっという間にオクタヴィオを追い抜いていってしまう。

 

「おい待てよ! ったく、仕方ないなぁ」

 

 オクタヴィオは溜息を一つ吐くと、彼の後を追いかける事にしたのだった。

 

 ゾルダートの後を追って歩くこと数分、二人は城の中を進んでいた。

 そんな中、ゾルダートは歩きながらオクタヴィオに話しかける。

 

「そういえば、どうして貴方がこんな所にいるのです? 貴方はあの魔女と共にいた筈でしょう?」

 

 その言葉に、オクタヴィオは頭を掻きながら答えた。

 

「いや、仕事でな」

 

 それを聞いて、ゾルダートは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「仕事……? ああ、そう言えば魔女専門の何でも屋でしたっけぇ?」

 

「ああ。 まあ、今回はアンタ達のトップに会いに来ただけだけどな」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いて、ゾルダートは納得がいったという風に頷く。

 

「なるほど、そういう事情があったのですか」

 

 そうしているうちにも二人の歩みは止まらず、やがて目的地である城の出入り口の前まで辿り着くことができた。

 そこで一度立ち止まると、ゾルダートは振り返って言った。

 

「それじゃあ私はここで失礼しますね」

 

 その言葉に、オクタヴィオは首を傾げる。

 

「もう行くのか? 何かやるなら手伝うが?」

 

 だがゾルダートはゆっくりと首を横に振ると言った。

 

「いえいえ、お気になさらず。 私にはまだやることがありますのでぇ」

 

 それだけ言うと、彼はその場を後にするのだった。

 残されたオクタヴィオはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて諦めたように溜息を吐くと踵を返して歩き出した。

 

 早めに家まで戻らねばと考えながら歩いているうちに、オクタヴィオはふと思い出す。

 

「あれ……俺ここまで転移してきたから帰り道わからないよな」

 

 城の外まで出て、途方に暮れるオクタヴィオであった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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