第40話
その後は特に何事もなく依頼を終えて、オクタヴィオ達は家へと戻ってくる。
「ふぅー、疲れたぜぇ」
そう言いながらソファーに腰を下ろすと大きく伸びをする。
その様子を見たユイエはクスクスと笑うと言った。
「お疲れ様」
そう言って労ってくれる彼女に感謝しつつ、飲み物を用意するために立ち上がる。
冷蔵庫からワインを取り出してグラスに注ぐと、お盆に乗せてテーブルまで運んだ。
そして二人分のグラスを置くと片方を手に取り口を付ける。
冷たく爽やかな味わいを楽しんでいると、不意に視線を感じて顔を上げるとユイエと目が合った。
ユイエはじっとオクタヴィオを見つめている。
「どうした?」
不思議に思って問いかけると、ユイエは小さく微笑んで言った。
「いえ、何でもないわ」
そう言うと彼女も自分のグラスを手に取って一口飲むと満足そうに微笑むのだった。
それを見て安心したオクタヴィオも再び酒に口をつけると一息つくことにした。
そうしてしばらくの間のんびりと過ごしているうちに眠気を感じ始めたためそろそろ寝ようかと思っていたところに、突然ドアがノックされる音が聞こえてきた。
(こんな時間に誰だ……?)
オクタヴィオが訝しげに思いながらドアを開けるとーーー
「ーーーあ、え」
ドン、と何かがぶつかる衝撃と、オクタヴィオの腹部に燃えるようなナニカが突き刺さった感覚があった。
「ぐうっ!」
同時に激痛が走るが歯を食いしばり耐えると、目の前の人物を突き飛ばすようにして離れることに成功する。
ふらつきながらも距離を取ることに成功したオクタヴィオだったが、刺された場所が悪かったのか出血が止まらないようで徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
(くそ、油断した……!)
そう思いながらも必死に意識を保とうとするが、ついに限界を迎えてしまう。
倒れそうになるところを誰かに支えられる感触を覚えると同時にオクタヴィオは気を失ってしまった。
(あれ……ここは……どこだ……?)
オクタヴィオが気がつくとそこは見知った部屋の中でベッドの上に横たわっていた。
「そうだ……確か俺は刺されて……それからどうなったんだ?」
混乱する頭で状況を整理しようとするが上手くいかないようだ。
「オクタヴィオ」
そんな時不意に声をかけられたことで我に帰ることになる。
声のした方を見るとそこにはユイエの姿があった。
彼女は心配そうな表情でこちらを見つめている。
どうやら看病してくれていたらしいことが窺えたので礼を言おうとするが声が出なかった。
その様子を見たユイエは水差しを手に取るとコップに注いで差し出してくる。
オクタヴィオそれを受け取ると一気に飲み干したことでようやく落ち着きを取り戻した。
「此処は……」
オクタヴィオが改めて周囲を見回すと、ここが家のベッドの上であることを理解することができた。
どうやらオクタヴィオはあの後助けられてここに運ばれたらしい。
「助かったのか……」
安堵のため息を漏らすオクタヴィオに対して、ユイエは静かに頷くと答えた。
「ええ、そうよ」
どうやって助かったのかは置いておいて、とりあえず助けてくれたことに礼を言うことにした。
「ありがとう、おかげで命拾いしたよ」
「喜ぶのはまだ早いわよ」
だが返ってきたのはそんな無慈悲な言葉だった。
オクタヴィオが思わず言葉を失っていると、ユイエはさらに続けてくる。
「傷の方はもう治したけど、貴方一度死んだわよ」
そう言われて初めて自分の身体の状態を確認することができた。
確かに手足の感覚が鈍くなっているような気がするし、頭がぼーっとしているような気もする。
そこまで考えてある疑問が浮かぶ。
「なあ、何で俺動いてるんだ……?」
そう、死んでいるはずなのだ。
それなのに何故自分は生きているのだろうかと首を傾げる。
そんな様子を見ていたユイエは言った。
「それはね、私の魔法の力よ」
それを聞いて納得すると同時に驚愕していた。
(そうか、だから俺は今生きてるのか……でも待てよ?)
そこで新たな疑問が生まれる。
どうしてオクタヴィオが死ななければならなかったのかと。
そもそもの話、死ぬ原因となった人物がいたはずだ。
その人物の顔を思い出そうとするが、モヤがかかってしまったかのように思い出せないでいる。
(くそっ! なんでだよ?)
苛立ちを覚えながらも必死になって記憶を掘り起こそうとするが無駄に終わっただけだった。
その間にも話は進んでいく。
「でも、気にしなくて良いわ」
その言葉にオクタヴィオは顔を上げる。するとそこには優しい笑みを浮かべた彼女がいた。
「気にしなくても良いってのは……どういう意味だ?」
恐る恐る尋ねる彼に彼女は答える。
「だって、貴方を害する人は此処にはいないから」
その言葉を聞いてもなお納得できずにいると、ユイエは説明を続ける。
「言っている意味がわからないかしら? なら、外をご覧なさい」
それを聞いてオクタヴィオは刺された違和感が残る身体を動かして、徐ろに窓を開けた。
「なーーー」
何も無い。
オクタヴィオの家の周りにあった筈の民家、商店街などの建造物が全て消え去り更地になっていたのだ。
その光景を目にした瞬間、オクタヴィオは全てを理解した。
自分が死に瀕していたこと、そしてその原因を作った張本人であることも。
「俺が死にかけた時、何もかも消し飛ばしたのか?」
事実を確認するようにオクタヴィオが聞くとユイエは頷く。
「ええ、そうよ」
その毅然とした態度に、オクタヴィオは冷静に問いかけることにする。
「……なんでそんなことをしたんだ?」
それに対して彼女は平然と答えてみせた。
「あなたを守るためよ」
その言葉を聞いた途端、オクタヴィオは頭を抱えてしまう。
「俺のため、か……」
オクタヴィオは深いため息をつくと、彼女に向かって問いかけた。
「それで、俺をどうする気なんだ?」
その問いに、ユイエは淡々と答える。
「別にどうもしないわ。 私は貴方と共に居られるだけでいいの。 居なくなられては困るわ」
それを聞いてオクタヴィオはアルフの言っていた言葉を今更ながら思い出す。
『魔女は強欲、言ってみれば独占欲が強い』
その言葉の意味を、軽率に見ていたオクタヴィオは渇いた笑いを漏らしつつ心の中で呟く。
(そういうことかよ……)
オクタヴィオは内心毒づくが、表面上は平静を装って質問を続けた。
「それで、俺は何で死んだままなんだ」
「言い方が悪かったわね。 厳密に言えば貴方は死んでもいないし、生きてもいない」
「……どういうことだ?」
意味深なことを言われてオクタヴィオが問い返すとユイエは答えた。
「私の魔法は『全てを終わりにする魔法』。 貴方の身体は終わる事も始まる事もなく、このままずっとそのままであり続ける」
それを聞いて、ストンと腑に落ちる感覚があった。
オクタヴィオは自分の胸に手を当ててみるが心臓の鼓動を感じることはできなかった。
まるで空っぽになってしまったかのような喪失感に苛まれるが、それもすぐに消えてしまう。
「……なるほどな」
小さく呟いて頷くと、オクタヴィオはベッドから立ち上がった。
「って事は俺はユイエを置いて消える事はなく、この先永遠に共に過ごせるって事だな」
「私がした事、怒らないのかしら?」
「……ん? 俺を残して他の人を消し去ったことをか」
そう言われてオクタヴィオは少し頭を捻り、それから答えた。
「ああ、怒ってないよ」
そう言って笑うオクタヴィオを見て、ユイエは安堵した表情を見せるのだった。
「だけど、人を消した……殺した罪は消えないからな」
オクタヴィオはユイエの近くまで歩いていき、手を差し伸べる。
「俺も背負うよ。 一緒に償おう」
その手をユイエはしっかりと握り返した。
二人は見つめ合い、微笑み合う。
こうして、オクタヴィオとユイエは二人で生きていくことになったのである。
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