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第39話


 それから少ししてーーー。

 三人は屋敷の中の一室にいた。

 そこは客間のようでソファやテーブルといった家具が置かれているが、どれも高級品であることは一目瞭然であった。

 

 部屋の広さもかなりのものがあり、数十人が余裕を持ってくつろげる程の広さがあるだろう。

 床一面には赤い絨毯が敷かれており、天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられている。

 そんな部屋の中央に置かれたソファに腰掛けると、魔女ことユイエが言った。

 

「さて、まずは状況の確認からかしらね」

 

 その言葉を受けて、オクタヴィオも頷く。

 

「そうだな、俺も色々と聞きたいことがあったしな」

 

「いいわよ、何でも聞いてちょうだい」

 

 そう言われて、オクタヴィオはまず一番気になっていることを聞いてみることにした。

 

「それじゃあ聞くけど、なんで部屋に引きこもってるんだ?」

 

 その問いに、ユイエは小さくため息を吐くと答えた。

 

「……そうね、簡単に言えば私が『悪い魔女』だからかしら」

 

 そう言うと、彼女は自嘲気味に笑った。

 

「ほう、詳しく聞いてもいいか?」

 

 興味深そうに尋ねるオクタヴィオに、ユイエは静かに語り始めた。

 

 その内容はとても信じられないようなものだった。

 曰く、彼女は元々普通の人間であり、ある日を境に魔法が使えるようになったらしい。

 最初は驚きこそしたものの、すぐに受け入れることができたという。

 

 何故なら彼女にとって魔法とは身近なものであり、それこそ日常的に使っていたからだそうだ。

 例えば料理の際に火を起こしたり、洗濯する際に水を操ったりと様々な用途で使用していたらしい。

 その為、自分が魔法を使えても何ら不思議ではないと思えたそうだ。

 

 だがしかし、ある時事件が起こったことで事態は一変した。

 

「私は魔法で人を殺めたわ」

 

 それは今から数年前の出来事だったという。とある町で一人の男性が殺されたのだが、その死因が奇妙だったらしい。

 

 何と身体の一部分がごっそりと消え去っていたのだとか。

 当然周りの人々は大騒ぎになり、犯人探しが行われ犯人はすぐに見つかった。

 

「それが、私だったのよ」

 

「……何で殺した? そいつは何をしたんだ?」

 

 そう尋ねると、彼女は無表情で答えた。

 

「あの人は私を辱めようとしたの」

 

 それを聞いた瞬間、オクタヴィオは思わず顔を顰めてしまった。

 どうやら件の男は自分の欲望を満たす為だけに行動し、その結果としてユイエの、魔女の怒りを買ってしまったようだ。

 

 だがそれでも、彼女がやったことは決して許されることではないはずだ。

 

「それでその後はどうしたんだ?」

 

「別にどうもしなかったわ。 ただ屋敷の中に閉じ込められて、籠の中の鳥と同じように過ごしていただけよ」

 

 そこまで言うと、彼女は一度言葉を切ると小さく息を吐いて続けた。

 

「でもね、そんな生活にも飽きてきた頃、貴方がやってきたの」

 

 そして再び笑みを浮かべると、こう告げたのだった。

 

「だからね、私は貴方が欲しいの」

 

 その言葉を聞いて、オクタヴィオは思わず頭を抱えたくなった。

 

「欲しいってそのままの意味か?」

 

 恐る恐る問いかける彼に、彼女は小さく頷くと言葉を続けた。

 

「ええそうよ、貴方の全てを私に捧げて欲しいの」

 

 その言葉を聞き、オクタヴィオは再び大きなため息を吐いた後こう言った。

 

「あーつまりあれだ、君は俺のことが好きで好きで堪らないってことなのか?」

 

 その言葉に一瞬キョトンとした表情を見せた彼女だったが、こくりと頷いた。

 

「そうね。 私は貴方が欲しくて欲しくて仕方ないの」

 

 そこまで聞いてオクタヴィオは隣にいるアルフに耳打ちをする。

 

「なあ、この娘に惚れられるようなこと俺したっけ?」

 

 すると、アルフもまた小声で返してきた。

 

「お前さん、魔女のこと本当に知らないんだな……」

 

 アルフの呆れたような口調を聞いて、思わず首を傾げてしまう。

 確かにオクタヴィオは魔女について詳しいわけではないので分からないが、少なくとも目の前の女性が自分に好意を寄せていることくらいは分かるつもりだ。

 

 だからこそ余計に困惑してしまうのだ。

 

 そもそも、何故自分なのだろうかと疑問を抱かずにはいられないのである。

 

(うーん、さっぱり分からん)

 

 そう思いながら頭を悩ませていると、不意に袖を引っ張られる感触があった。

 そちらを見ると、そこには不安そうな表情をしたユイエの姿があった。

 

「……ねぇ、何の話してるの?」

 

 上目遣いで見つめられながら尋ねられて、オクタヴィオはふと、この一瞬に起きた違和感の正体に気がついた。

 

 何故目の前にいた筈のユイエがオクタヴィオの隣にいるのか、そして隣にいた筈のアルフが目の前にいるというこの状況である。

 

「ッ!?」

 

 オクタヴィオが状況を確認する前に首に腕を回されてしまい、完全に動きを封じられてしまった。

 その腕を引き剥がそうと手を伸ばすよりも先に耳元で囁かれてしまう。

 

「動かないでね……でないと首が飛ぶわよ」

 

 そう言われた瞬間、首元に冷たい感触が伝わってくるのが分かった。恐らくナイフか何かを当てられているのだろうと察することが出来た。

 流石にこれ以上状況を悪化させるわけにはいかないと思い大人しく従うことにする。

 

そんな二人の様子を黙って見ていたアルフであったが、やがて大きくため息を吐くと言った。

 

「お前さんが無知である事を踏まえて言うが……魔女ってのは総じて我が強い。 言い換えてみりゃ独占欲があるって事だ」

 

「……何でそれをこのタイミングで言いやがる」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で呟くように言うオクタヴィオに対して、アルフは肩を竦めて見せた。

 それを見た彼は更に表情を険しくさせて舌打ちをすると、視線を正面へと戻す事にした。

 

 オクタヴィオの視線の先では相変わらずユイエが見つめている。

 特に敵意があるようには見えないものの油断はできないだろうと判断して警戒を続ける事に決めたのだった。

 

「とりあえず聞くけど、俺がこのまま嫌だと言ったらどうなる?」

 

 オクタヴィオがそう言うと、ユイエは少し考える素振りを見せた後ゆっくりと口を開いた。

 

「貴方を殺して、この世界を終わりにするわ」

 

「話のスケールが違い過ぎない?」

 

 思わずツッコミを入れるオクタヴィオだったが、当の本人は涼しい顔をしている。

 

「あら、何か問題でもあるのかしら?」

 

 さも当然のように言われてしまい、オクタヴィオは返す言葉が見つからない。

 そんな彼女の様子を見て、アルフは愉快そうに笑うと言葉を付け加えるように言った。

 

「まあ、良いんじゃないか? 手がつけられない魔女のストッパー役っていうのも」

 

 それを聞いて、オクタヴィオは大きく息を吐き出してから言った。

 

「何だろう……側から見たら人生で最高の幸せを手に入れた筈なのに釈然としないのは」

 

 げんなりとした表情で答えるオクタヴィオに向かって、アルフは笑みを浮かべながら告げる。

 

「お前さんのお陰でこっちの仕事も終わっちまった。 という事で俺はここいらでお暇させてもらおうかな」

 

 そう言って立ち上がると、荷物をまとめ始める。

 

「え!? ちょっと待ってくれよ!」

 

 突然の別れ宣言に慌てるオクタヴィオを尻目に、荷物を纏め終えたらしいアルフが立ち上がる。

 

「それじゃ、達者でやれよ」

 

 それだけ言うと、アルフはさっさと立ち去ってしまう。

 

「あ! おい待てって!!」

 

 慌てて追いかけようとするオクタヴィオだったが、ユイエによって阻まれてしまう。

 彼女の腕力はとても強く、振り払う事が出来ないのだ。

 

「離してくれない!?」

 

 オクタヴィオの言葉に、しかし彼女は首を横に振るとこう答えた。

 

「嫌よ、絶対に離さないんだから」

 

 そう言い切ると同時に首元に回される腕の力が強まる。

 当分外れそうにない事を悟ったオクタヴィオはユイエの気が済むまでそうさせておくことにしたのだった。

 

 その後、ユイエを抱えたままオクタヴィオは依頼主がいる所へ足を運んでいた。

 

「おーい、依頼失敗しちまったわ」

 

 気の抜けたオクタヴィオの声に依頼主である男が奥の方から顔を出して、ギョッとした表情を浮かべるのが見えた。

 それもそうだろう、何せ今のオクタヴィオはユイエに抱きつかれたままの状態なのだから無理もない話だ。

 

 しかも二人ともあまり表情が変わらないのに、とても仲睦まじく見えるのだから尚更驚きなのだろう。

 男は咳払いを一つすると、気を取り直したように話し始めた。

 

「失敗したって……じゃあ何でここまで来た? そしてそこにいるそいつは誰だ?」

 

「この娘はユイエ。 アンタが暗殺してこいって言っていた『魔女』だよ」

 

「……?」

 

 依頼主である情報屋の表情が困惑に染まるのを見て、オクタヴィオは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「いや、だからこの人が魔女なんだって」

 

 その言葉を聞いた瞬間、男の顔色が一気に変わる。

 

「ふざけるな!! 魔女がこんなところにいるわけ無いだろうが!?」

 

 怒鳴りつけてくる男に、オクタヴィオはため息を吐きながら説明する。

 

「いやいや、確かに俺は嘘はついてないよ」

 

 そう言いながら、懐から一枚の紙を取り出すと相手に見せつける。

 そこには確かに、要人を殺す旨が書かれていたのだ。

 それを見てようやく信じたのか、男は落ち着きを取り戻すと言った。

 

「……なるほどな、それでどうしてこうなったんだ?」

 

 それに対してオクタヴィオは肩を竦めると答えた。

 

「さあね、こっちが聞きたいくらいさ」

 

 その言葉に、男は再び頭を抱えると深いため息を吐いたのだった。

 それから暫くの間沈黙が続いた後、男は顔を上げて言った。

 

「……分かった、取り敢えず報酬については考え直しておくとしよう」

 

 その言葉を聞き、ホッと胸を撫で下ろすオクタヴィオであった。

 結局、あの後すぐに解放されたオクタヴィオはそのまま自宅に戻る事にしたのだがそこでもまた一悶着あったりしたのだがそれはまた別のお話である。

 

 翌朝になり、いつものように目を覚ますと隣には裸の女性が眠っていた。

 もちろんユイエである。

 昨夜の事を思い出しながら、オクタヴィオは小さくため息をつくと彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出すと朝食の準備に取り掛かる事にした。

 

(昨日は散々だったな……)

 

 そんな事を考えながら料理を作っていると、不意に後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこにはユイエが立っていたので、驚いてしまう。

 どうやら起こしてしまったようだ。

 

「おはよう、よく眠れたか?」

 

「ええ……」

 

 まだ眠たいらしく目をこすりながら返事をする彼女に苦笑しながら声をかける。

 

「もうすぐ出来るから座って待っててくれ」

 

「わかったわ」

 

 素直に頷くと椅子に腰掛ける彼女を横目に見つつ、出来上がった料理を皿に盛り付けていく。

 

「ほら、出来たぞ」

 

 オクタヴィオがテーブルの上に並べ終えると、彼女も席に着き食べ始めた。

 その様子を見ながらオクタヴィオも食事を始めることにする。

 すると、ユイエがオクタヴィオに話しかけた。

 

「ねえ、今日は何をするの?」

 

 その言葉に、オクタヴィオは少し考えてから答える。

 

「そうだな、依頼を受けて金稼ぎかねぇ」

 

 それを聞いて首を傾げるユイエに向かってオクタヴィオは説明を続ける。

 

「金は稼いでおいて損は無いのさ。 何をするにも金ってのはよく付き纏う」

 

「そうなのね」

 

 納得した様子で頷くユイエに頷き返すと、残りの食事を平らげる事にする。

 

「ご馳走さまでした」

 

 手を合わせてそう言うと、食器を片付けてから出掛ける準備をする事にした。

 

「さて、行くとするか」

 

「私も行くわ」

 

 当然とばかりに付いてくるユイエと共に家を出る。

 家を出てからは大通りに出るとそのまま真っ直ぐに歩いていき、仕事を凱旋してくれる建物へと向かう。

 

 建物に入ると中は相変わらず静かで、人も疎らである。

 そんな様子を眺めながら受付に向かうと早速仕事を探すことにした。

 

 だが今回はユイエがいることを踏まえ、なるべく危険の少ないものを選んでいく。

 掲示板を眺めていると、オクタヴィオの肩が遠慮がちに叩かれるのを感じた。振り返るとそこにいたのは見知った顔だった。

 彼はこちらの返事を待たずに話しかけてくる。

 

「よう、久しぶりじゃないか」

 

「ああ、久しぶりだな」

 

 オクタヴィオはそう答えつつも内心では辟易としていた。

 何故なら彼が苦手な部類の人間だったからだ。

 彼の名前ガリル、見た目はスキンヘッドで筋肉隆々の大男だ。

 

 正直言って関わりたくないタイプの人間なのだが、向こうはそうでもないらしい。

 馴れ馴れしく話しかけてきて鬱陶しいことこの上ない相手だ。

 とは言え邪険にするわけにもいかず、適当に相手をしていると唐突に話題を変えてきた。

 

「ところでお前、新しい女でも見つけたのか?」

 

 そう言ってニヤニヤしながらこちらを見てくるガリルに、オクタヴィオは微かな苛立ちを覚えながらも平静を装って聞き返す。

 

「何の話だ?」

 

 すると、ガリルはさらに顔を近づけてきてオクタヴィオ耳元で囁くように言った。

 

「とぼけんなよ、そこに女がいるだろ。 随分と仲が良いみたいじゃねぇか」

 

「それがどうした」

 

 素っ気なく答えてやると、ガリルは下卑た顔で笑うと言った。

 

「いやぁ、まさか女っ気のないお前が女にモテるとは思わなかったからな。 ちょっと意外だったぜ」

 

「……言いたい事はそれだけか」

 

 オクタヴィオ自身モテない事は自覚しているが、他人に言われると腹が立つものだ。

 

 なのでつい口調が強くなってしまう。

 

 しかしそんな様子を気にする素振りも見せず、なおも言い募ってくるガリルに対していい加減我慢の限界を迎えつつあったその時、背後から声がかかった。

 

「ごめんなさいね、待たせてしまって」

 

 そう言って来たのはユイエだった。

 彼女はそのまま男の前を横切るとこちらに近づいてくる。

 そして、オクタヴィオの腕を取るなり身を寄せてくる。

 

 突然の事に驚き固まっていると、その様子を見ていたガリルが驚愕の表情を見せた。

 

「なっ……!」

 

 それを見て、オクタヴィオは思わず苦笑してしまう。

 

「悪いな、そういう事だから」

 

そう言ってユイエを連れてその場を後にする事にした。

 

「お、おい待てよ!」

 

 呼び止める声を無視して、オクタヴィオ達は受付へと向かい仕事の手続きを済ませると足早に建物の外へ出たのだった。

 

 オクタヴィオが面倒ごとに巻き込まれるのは日常茶飯事ではあるが、好き好んで首を突っ込みたい訳ではなかったので、今回ばかりは本当に運が悪かったとしか言えないだろう。

 

(まったく、勘弁してほしいよな……)

 

 心の中で愚痴を零しつつも、気持ちを切り替えようと努力してみることにして歩き出そうとした時、不意に袖を引っ張られたのでそちらに目を向けるとそこには冷たい表情をしたユイエの姿があった。

 

 その表情を見て思わずドキッとするが、努めて冷静に振舞うと声をかけることにする。

 

「どうしたんだ?」

 

 問いかけると、彼女は小さな声で答えた。

 

「あの人、なんだか嫌な感じがするわ」

 

 そう言われて改めてガリルの方を見ると確かにこちらを睨んでいるようにも見えるし、何やら呟いているようだったが聞き取れなかった為無視して歩き出すことにした。

 

「そうか? 気のせいだと思うけどなぁ……」

 

 そう言いながらも内心冷や汗を流していたりするのだが、そんな事は表には出さずに歩みを進める。

 

 しばらく歩いた後、適当な路地裏に入って周囲に人がいない事を確認すると安堵のため息を吐くのだった。

 

 それから気を取り直して目的地へ向かうべく歩き出したのだが、道中ずっと無言だったので気まずい雰囲気になっていたのだがそれを打ち破るべくオクタヴィオは口を開く。

 

「なあ、さっきのことなんだが……」

 

 そこまで言いかけたところで突然腕を掴まれてしまい驚いてしまう。

 見るとそこには真剣な表情をしたユイエがいた。

 

(え……?)

 

 困惑するオクタヴィオをよそにユイエは続けて言う。

 

「動かない方が良いわ。 警戒してたけどもう囲まれてるわね」

 

 その言葉を聞いた瞬間背筋が凍るような感覚が襲ってきた。

 

「あら、いつの間に……」

 

 オクタヴィオが周囲を見回すといつの間にか複数の男達に取り囲まれてしまっていたようだ。

 ユイエの話と状況から見て、ガリルが手を回した者かオクタヴィオを恨んでいた者の仕業だろうと当たりをつけることができたのでとりあえず話を聞くために話しかける事にした。

 

「何か用かな?」

 

 すると一人の男が進み出てきて言った。

 

「すまんなぁ、女連れで仕事をしようとしてる奴がいるって話があってな?」

 

 どうやら恨みつらみをぶつけに来ただけのようだったが、それにしては人数が多すぎる気がすると思った矢先、別の男が声を上げた。

 

「俺はあんたのせいで職を失ったんだ! どう責任取ってくれるんだよ!」

 

 オクタヴィオ達の前に次々と不満を口にする者達が現れた。

 それを聞いて大体の状況を察したオクタヴィオはため息をつくと呆れたように答える。

 

「……つまり、逆恨みってことか」

 

 それを聞いた途端、周囲から怒号が飛び交った。

 だがそれに対して動じることなく言葉を続ける。

 

「それで? 俺にどうしろって?」

 

 その言葉に反応したのはリーダー格と思しき男だった。

 その男は一歩前に出るとニヤリと笑って告げる。

 

「簡単なことだ、大人しく俺達についてきてもらおう」

 

 それを聞いた瞬間、オクタヴィオは反射的にユイエを庇うように抱き寄せると、即座に身構えた。

 それを見た男は愉快そうに笑うとさらに続ける。

 

「おっと、抵抗はしない方がいいぜ? 痛い目に遭いたくなければ素直に従うんだな」

 

 それを聞いた瞬間、オクタヴィオは迷わず引き金を引いた。

 乾いた音と共に銃弾が放たれるが、それは男の体に当たることなく背後の壁に当たって弾丸が跳ねただけだった。

 

 それを見た男は鼻を鳴らすと馬鹿にしたように笑った。

 

「おいおい、どこを狙ってるんだぁ? それとも怖くて撃てなかったのかよ?」

 

 そんな言葉にオクタヴィオは耳もくれず、指を上に向けるとこう呟いた。

 

「頭上に注意ってな」

 

 次の瞬間、男が上を向けば植木鉢が落ちてきていた。

 慌てて避けようとするが間に合わず、頭に直撃してしまう。

 

「ぐえっ!?」

 

 情けない悲鳴を上げながら倒れる男を尻目に、オクタヴィオは残りの男達にも銃口を向けていた。

 

「次はどいつだ?」

 

 その迫力に押されたのか、残った二人はじりじりと後退していく。

 その様子を見たオクタヴィオは、ユイエの手を優しく握ると微笑んだ。

 

「大丈夫、すぐに終わらせるから」

 

 それだけ言うと、オクタヴィオは再び銃を構え直すと男達に声をかける。

 

「さて、まだやるか?」

 

 その言葉を聞いた途端、男達は一目散に逃げていった。

 そんな様子を見届けた後、オクタヴィオは大きく息を吐いた。

 

「……あぁ何とか切り抜けたぁ」

 

 そう呟くと同時にオクタヴィオはその場に座り込んでしまう。

 そんな彼の姿を見たユイエは心配そうに顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫かしら?」

 

 そう言って身体に触れようとしてくる彼女を手で制しながら大丈夫だと答えるとゆっくりと立ち上がった。

 

 そして再び歩き出そうとするのだが、そこでオクタヴィオはふと思い出したことがあったので聞いてみる。

 

「そういえば、さっき言ってた『嫌な感じ』ってのはこれだったんだな」

 

 その問いに、ユイエは少し考えた後で答えた。

 

「ええ、そうよ」

 

 それを聞いたオクタヴィオは苦笑いを浮かべるしかなかったが、それ以上深く聞くことはしなかった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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