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第37話


 オクタヴィオが生まれたのは、現代の時代から遥か遡る事約三百年と少し前。

 戦争を裏からコントロールすることを生業とする、所謂裏稼業の家系に生まれた。

 

 彼が生まれてからと言うもの、なまじ様々なことが出来てしまう適応能力の高さを買われ、幼い日々を訓練に明け暮れる毎日を送っていた。

 

 銃を扱うことの才能に掛けては比類なく、訓練もそれに準じたものがオクタヴィオへと課せられる。

 その訓練一つ一つが常人ならば耐えうる事ができないほどの負荷を与えられながらもオクタヴィオは弱音一つ吐かずにこなし続けた。

 

 そんな訓練漬けの日々を送る中、オクタヴィオは唐突に叫んだ。

 

「こんな事やってられるかァ! 俺は可愛い子ちゃんを探しに行くんだよォ!」

 

 オクタヴィオ、齢25歳にして生まれて初めての反抗期であった。

 

 しかしそんな事が許されるはずもなく、すぐさま父親によって取り押さえられそうになる。

 

「邪魔するな親父! 使用人達から聞いたぞ、街に行けば可愛い娘達が沢山いるんだって!」

 

「そんなふざけた話を間に受けたのか貴様は!?」

 

 父親は怒り心頭といった様子で叫ぶと、拳を振り上げるとオクタヴィオ目掛けて振り下ろす。

 だがその一撃を紙一重で躱すと、オクタヴィオは逆に父親の顔面に拳を叩きつけていた。

 その衝撃で吹き飛ばされる父親。

 

「ぐふっ……」

 

「これで俺は自由だ! じゃあな親父!」

 

 地面に倒れ伏し悶絶している父を尻目に、オクタヴィオは一目散に屋敷を飛び出すのだった。

 

 その後、街に出てはナンパを繰り返し、時にはゴロツキ達と喧嘩をして過ごす日々を過ごしていくうちに、オクタヴィオはある人物と出会うことになる。

 

「要人暗殺の依頼だぁ?」

 

「そうだ。 君にとある人物を暗殺してもらいたい」

 

 オクタヴィオが依頼されたのは、とある屋敷に住む人物の暗殺だった。

 

「報酬は前金で金貨500枚、成功報酬として更に200枚支払おう」

 

 それを聞いた途端、目の色を変えて飛びつくオクタヴィオだったが、すぐに冷静になると問いかける。

 

「それほどもらえるのか? いや、そもそも何故俺なんだ? 他にも適任者がいるだろうに」

 

 その問いに男は首を横に振ると答えた。

 

「残念だが君以外にはいない」

 

 それを聞いて訝しげな表情を浮かべるオクタヴィオであったが、渋々了承することにしたようだ。

 

「わかった、引き受けよう」

 

 その言葉を聞くと、男の表情が少しだけ和らいだように見えた。

 それから数日後、指定された場所にやって来たオクタヴィオは早速行動を開始することにした。

 

 まずは情報収集である。

 

(さてさて、どんな奴なのかなっと)

 

 男から渡された情報では、件の人物は滅多に外に出てくる事はなく、日がな屋内の奥の私室に籠っているという。

 

 なのでまずその人物がいる場所を特定する必要があるのだが、これがなかなか難しいのだ。

 というのも、その建物は厳重な警備が敷かれており、外部から内部への侵入はほぼ不可能に近いからである。

 

 それでも何とか情報を集めつつ探索を続けていく内に、一つの情報が手に入った。

 それは警備システムに微かな穴が存在するというものだった。

 

「これはチャンスだな」

 

 オクタヴィオはその情報を手掛かりにして潜入を試みる事にした。

 その情報は確かなもので、警備システムの盲点を突く形で内部に入り込むことに成功する。

 

「潜入成功っと。 あとは見つからないように調べていくだけだな」

 

 オクタヴィオが入ってきたのは、貴族の生活空間であった。

 そこは豪華な調度品の数々に囲まれた部屋であり、壁には絵画や彫刻などが飾られていた。

 

「なるほど、こりゃあ凄いな」

 

 オクタヴィオは思わず感嘆の声を漏らすと、部屋の中を見て回ることにする。

 そして一通り見て回ったところで、ふとあるものが目に留まった。

 

 それは一枚の肖像画だった。

 

 そこには一人の女性が描かれていた。

 年齢は二十代半ばといったところで、透き通る様な白髪と青空の瞳が印象的だった。

 

「へぇ、綺麗な人じゃないか」

 

 思わずそう呟いてしまうほどの美しさがあった。

 見れば見るほど引き込まれてしまいそうな感覚に陥る。

 

「おっと、いかんいかん」

 

 そこでオクタヴィオは正気に戻ると、再び探索を再開する事にした。

 しかし、どこを探してもそれらしき部屋は見つからず、途方に暮れていると、ある部屋から話し声が聞こえてきたので、そちらへ向かう。

 

「こっちかな?」

 

 そう言いながら歩いていると、いつの間にか中庭に出てしまっていた。

 そこは色とりどりの花が咲き誇る美しい庭園であった。

 

「へぇ……情報にゃおまけ程度に付け足されてた庭園だけどこりゃなんとも」

 

 オクタヴィオは感心するように呟くと、そのまま歩き続ける。

 すると、奥の方に本邸とは別の小さな屋敷が建っているのが見えた。

 

「おろ? あんな所に屋敷があるなんて情報に載ってたか?」

 

 オクタヴィオは慎重に近づいて行くと、扉に手をかけて開けようとする。

 しかし鍵がかかっているようで開かなかった。

 

「鍵か……バレないように開けちまおう」

 

 その時、不意に背後から声をかけられた。

 

「おい、そこのお前、何をしている」

 

 振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

 青年は長身痩躯で、黒い外套に身を包んでいる。

 

 顔は整っており、切れ長の目と相まって冷たい印象を受ける。

 髪は灰色で短く切り揃えられており、耳元までかかる長さになっている。

 

 彼は鋭い眼光をオクタヴィオに向けながら話しかけてくる。

 

「もう一度聞くぞ、お前はここで何をしていた?」

 

 その声には明らかに敵意が込められているのがわかるほど刺々しいものだった。

 オクタヴィオは両手を上げて無抵抗の意思を示すと、素直に答えた。

 

「いや、ちょっと道に迷ってしまってね」

 

 そう言うと、青年は怪訝そうな表情を浮かべた後、何かに思い当たったのか納得したような表情になった。

 

「……ああ、お前が最近噂になってる凄腕の殺し屋か」

 

 それを聞いてオクタヴィオは無表情を貫きながら言った。

 

「何のことだ?」

 

 オクタヴィオがとぼけてみせると、青年が呆れたようにため息をつく。

 

「何故お前が此処に来れているのかはよくわからんが、この屋敷のドアを開かせるわけにはいかん」

 

 そう言って腰の剣に手を伸ばす青年に対して、オクタヴィオは慌てて釈明をする。

 

「待て待て、俺は別に怪しいもんじゃないぜ!?」

 

 しかしその言葉を聞いた瞬間、青年の目がスッと細められるのがわかった。

 

(やばい、怒らせちまったか……?)

 

 そう思った次の瞬間には、既に剣を抜いて斬りかかってきていた。

 咄嗟に横に飛んで躱すと、体勢を立て直して身構える。

 それを見た青年はニヤリと笑みを浮かべると言った。

 

「ほう、俺の初撃を避けるとは中々やるようだな」

 

 そう言うなり、今度は連続で斬撃を放ってくる。

 それを躱しながら逃走の機会を窺うが、相手は的確にこちらの隙を突いて攻撃してくるため防戦一方になってしまう。

 

 やがて壁際に追い込まれると、とうとう逃げ場を失ってしまう。

 

「チェックメイトだ」

 

 勝利を確信した様子の相手に対し、オクタヴィオは不敵に笑うと言い放つ。

 

「そいつはどうかな?」

 

 その直後、オクタヴィオは壁に向かって跳躍すると、三角跳びの要領で更に高く跳ぶ事で相手の頭上を飛び越える。

 

「なにっ!?」

 

 驚く相手の背後に着地したオクタヴィオはそのまま素早く銃を抜くと発砲する。

 弾丸は全て『剣の鍔』命中し、相手手から弾かれて地面へと落ちる。

 

「ぐっ!? しまった!!」

 

 慌てて拾おうとするが、それよりも早く距離を詰めてきたオクタヴィオによって剣を蹴り飛ばされてしまう。

 

「剣が!?」

 

「チェックメイトだぜ」

 

 そして首筋に銃口を突きつけられた状態で降伏を迫られるのだった。

 

「……何か勘違いしていないか?」

 

「ん?」

 

 両手を挙げているのに不遜な表情でオクタヴィオを見るイヴリードは、とても不気味に写る。

 

「我々は目的はこのドアさえ開けさせなければいいことと、一人で対応しなければ良いのだ」

 

「あ、お前もしかして」

 

「そのまさかだ。 此処にきた時点で仲間は既に呼んでいる」

 

「マジかよ……」

 

「というわけでさっさと降参してもらおうか」

 

「ちっ……」

 

 オクタヴィオが周りを見渡せば、イヴリードと同じような服装をした者達が二人を取り囲むようにして立っている。

 

「まずいな……」

 

 この状況は非常によろしくないことを悟ったオクタヴィオは投降することに決めると、大人しく両手を上げた。

 それを見て満足そうに頷くと、イヴリードは部下達に命令を下す。

 

「よし、連れて行け」

 

 そうして連行されていく途中でふと気になったことを聞いてみることにした。

 

「なあ、一つ聞いていいか?」

 

 それに対して、イヴリードは無言で続きを促す。

 

「なんであんた達はこんなことをしてるんだ?」

 

 その問いに答える声はなかった。

 そんな様子を横目で見ながら、オクタヴィオは小さくため息をついた。

 

 それからオクタヴィオが連れて来られたのは、初めに侵入した屋敷の地下牢であった。

 

「で、此処には温かいスープとパンは出てくるのかな?」

 

「出るわけないだろ! ほら、さっさと入れっ!」

 

 見張り役の兵士から蹴りを入れられて牢屋に放り込まれたオクタヴィオは、やれやれといった様子で肩をすくめると床に腰を下ろして壁に背を預ける。

 

(さてさて、これからどうしたものかねぇ……)

 

 そんなことを考えながら天井を見上げていると、不意に声をかけられた。

 

「おい、貴様」

 

 声のした方を見ると、そこには一人の男が座っていた。

 

 年齢は三十代半ば、短い黒髪に青い瞳をしており、身長はかなり高い。

 体格も良く、引き締まった身体をしているのが分かる。

 

 男は鋭い目つきでオクタヴィオを睨みつけてくると、低い声で言った。

 

「お前、あの屋敷に近づいたらしいな」

 

 その言葉にピクリと反応すると、オクタヴィオは男を睨み返す。

 

「だったらなんだって言うんだ?」

 

「やめておけ。 あそこに行くことはお前さんの終わりを意味するぞ」

 

 男の真剣な眼差しを受けて、オクタヴィオは一瞬言葉に詰まるがすぐに言い返した。

 

「忠告どうもありがとよ。 だが断る、こっちも仕事なんでね」

 

 それを聞いた瞬間、男の顔色がサッと変わるのが分かった。

 そして立ち上がると鉄格子越しに顔を近づけてきてこう言った。

 

「どんな目にあっても知らんぞ」

 

 しかしそれでもオクタヴィオの意思は変わらないようだ。

 

「大丈夫、もしかしたらそこのドアを開いたら可愛い娘がいるかもしれないだろ? そしたらきっとうまくいくさ」

 

 それを聞いて男は呆れ返ったように首を横に振ると、深いため息をついて黙り込んでしまう。

 

「……はぁ、もう勝手にしろ」

 

 それだけ言うと、再び座り込んでしまった。

 どうやらこれ以上話すことはないということなのだろう。

 オクタヴィオは肩を竦めると、黙って目を閉じるのだった。

 

 翌日、出された質素な朝食を食べ終えた後、オクタヴィオは牢屋内で考え事をしていた。

 

(さて、どうしたもんかなぁ……)


 このまま何もせずに助けを待つという選択肢もあるが、それでは余りにも退屈すぎる。

 

 そこで、オクタヴィオとりあえず脱獄してみることに決めた。

 幸いにも、手は後ろ手に縛られているものの足は自由なので、腕さえどうにかできればなんとかなるだろうと考えたのである。

 

「ふぅーむ、どうするかね」

 

 まずは腕を縛っている縄を切る必要があるのだが、あいにくナイフなどの道具類は取り上げられてしまったので自力でなんとかするしかない。

 

 試しに腕に力を込めて引っ張ってみるが、やはりそう簡単には解けそうになかった。

 

「仕方ないか」

 

 オクタヴィオは一度深呼吸をすると覚悟を決めて行動に移すことにした。

 まず、片方の腕に力を込めてもう片方の腕は脱力させる。

 そしてそのまま痛みも何もかも噛み殺して引っ張りーーーごきんと、オクタヴィオの左肩から異音が響く。

 

「……ふう、これでよし」

 

 オクタヴィオは外れた肩の猶予を活かして、腕を前側に持ってくる。

 普通に考えれば肩を外すと言う行為は簡単なものではない。

 

 しかし、裏の家を出ているオクタヴィオは肩を外す事、その痛みを我慢することなど造作もなかった。

 前に持ってきた腕に付いているロープは歯を使ってすぐに引き千切る。

 

「ロープの問題はよし。 後は……」

 

 オクタヴィオは外れた左側の腕を取り、一呼吸置いた後ーーーかこんと軽快な音を立てて肩を嵌め込んだ。

 

「腕の問題もよし」

 

 二つの問題をクリアしたオクタヴィオは立ち上がり、牢の鉄格子に近づくとベルトの間から針金を取り出す。 

 そして鍵穴に針金を突っ込んでガチャガチャとやり始める。

 

 暫くしてからカチャンという音と共に扉が開いたのを見て満足そうな笑みを浮かべると、早速脱出する為に動き出す事にした。

 

(っとその前に……)

 

 オクタヴィオは素早い動きでもう一つの牢屋の鍵を針金で開ける。

 

「此処から出るかどうかはおっさん次第だぜ」

 

 そう言い残したオクタヴィオはまずこの地下から出るべく歩き出したのだった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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