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第36話


 イザイアとの会合から一夜明け、オクタヴィオは店内のカウンター席に座り、小難しい表情をして虚空を見つめて考え込んでいた。

 

 昨日の出来事を思い返して、イザイアの目的にシーリスが必要である事は会話の中からでも読み取れた。

 だがしかし、その目的の為に何故シーリスが必要になるのかはオクタヴィオには皆目見当もつかなかった。

 

「うーん……」

 

 オクタヴィオは腕を組み、眉間に皺を寄せて唸り声を上げる。

 考えても答えが出ないのならば直接シーリスに聞いてみるしか無いだろう。

 

「……よしっ」

 

 意を決して立ち上がると、オクタヴィオは店の奥の扉に手を掛ける。

 そのまま扉を開くと、オクタヴィオは廊下に出てシーリスがいる部屋へと向かう。

 

 扉の前まで辿り着くと、扉をノックし、返事を聞く前に部屋の中へと入る。

 

「……誰ですか?」

 

 ベッドの上でシーツを被ったまま顔だけ覗かせているシーリスに対して、オクタヴィオは真面目な顔で口を開く。

 

「ちょいと話があってな。 今、時間あるか?」

 

「ええ、構いませんけど……一体何の用です? あ、もしかしてご飯の時間ですか?」

 

 シーリスは少し嬉しそうに顔を綻ばせると、いそいそとベッドから降りようとする。

 

「いや、違う。 そんなんじゃないよ」

 

 やんわりと否定するオクタヴィオに対し、シーリスはやや不満げに頬を膨らませる。

 

「むぅ、じゃあ一体何なんです?」

 

「実はな、ちょっと聞きたい事があったんだよ」

 

 そう言って、オクタヴィオは近くにあった椅子を引っ張り出して座り、真剣な表情で問いかける。

 

「昨日、俺は魔女協会のトップに出会った。 少し話をしていたその時、君の名前が出てきた」

 

「……え」

 

「前に追われてるって言ってたよな? その追われている理由っての知りたい」

 

 初めてシーリスがレステ・ソルシエールに来た時は、ただ追われていて何故追われているかはわからないと話していた。

 しかし、昨日のイザイアの話し方ではそれなりに長い時間、追っていたことがわかる。

 

 その本当の理由がわからなければ、護衛の依頼を完遂する事はできないだろう。

 

「あー……うん、そうですね……」

 

 シーリスは気まずそうな表情で視線を逸らすと、歯切れの悪い返事をする。

 その様子を見て、オクタヴィオは眉を寄せる。

 

「言いにくいのなら無理にとは言わないさ」

 

 そう前置きすると、オクタヴィオは再び立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

 しかし、そんな彼の服の裾をシーリスの手が掴んで引き止める。

 

「ま、待って……!」

 

 引き留められたオクタヴィオはゆっくりと振り返り、不安そうに自分を見つめるシーリスを見つめる。

 

「……どうした?」

 

 オクタヴィオが問い掛けると、シーリスは顔を伏せて小さな声で答える。

 

「……それは、言えないのです」

 

 それを聞いたオクタヴィオは溜息をつくと、再び椅子に腰掛け、シーリスの頭に手を置く。

 

「そうか。 なら、仕方ないな。 すまなかった、もう聞かないから安心しな」

 

 優しく頭を撫でながら言うと、シーリスは黙って頷く。

 そして、暫くの間沈黙が続くと、不意にオクタヴィオが口を開く。

 

「とりあえず、今後何が起こったとしても俺らはシーリスの味方だ。 それだけは覚えておいてくれるか?」

 

 その言葉に、シーリスは顔を上げて目を丸くする。

 

「それってどういう……?」

 

 シーリスの疑問に、オクタヴィオは苦笑する。

 

「言葉通りさ。 シーリスは魔女として駆け出しだろうし、それに……」

 

 そこまで言って、オクタヴィオは照れくさそうに頬を掻く。

 

「女の子が困ってたら、助けてやらないとな」

 

「え……」

 

 突然の言葉に、シーリスは顔を真っ赤にして俯く。

 

「あ、えっと、その……」

 

 オクタヴィオは取り繕う様に言葉を探す。

 

「あぁ、その、あれだよ。 依頼だから仕方なく、じゃなくて、シーリスを守る為に戦うって事だ」

 

 それを聞いて、シーリスは上目遣いでオクタヴィオを見る。

 

「本当ですか?」

 

 その瞳からは不安の色が見て取れた。

 

「ああ、勿論だとも」

 

 オクタヴィオは力強く頷くと、安心したのかシーリスの顔に笑みが浮かぶ。

 

「そっか、良かったです」

 

 ほっと胸を撫で下ろすシーリスの様子に、オクタヴィオは苦笑しつつ彼女の頭を撫でる。

 

「それじゃあ、そろそろ戻るかな」

 

「はい、また後で」

 

 シーリスが手を振ると、オクタヴィオは手を振り返して部屋を出て行く。

 扉が閉まると、彼女はまたベッドに潜り込み、枕に顔を埋める。

 

(うぅ……どうしましょう。 本当の事を伝えるべきかどうか)

 

 オクタヴィオに撫でられた時の事を思い出しつつ、シーリスは思案する。

 

「はぁ、やっぱり無理ですよね」

 

 溜息をついて諦めると、シーリスはベッドから出て身支度を始める。

 

「取り敢えず、ご飯食べてから考えようっと」

 

 シーリスは手早く着替えを済ませると、食堂に向かうのだった。

 

 シーリスの部屋から出たオクタヴィオは、自室に戻って銃の整備を行っていた。

 

「さて、こいつも整備しておくか」

 

 オクタヴィオはホルスターから愛銃である『ベティ』を抜き放つと、シリンダーを外して弾丸を排莢し、火薬と弾を詰め直す。

 最後に銃身内を清掃して、専用の油を引いてから戻す。

 

 次に、オクタヴィオは自身の右掌を開いてまじまじと見つめる。

 

「……震えてるな」

 

 イザイアとの賭けはオクタヴィオが両面表のコインを使い、イカサマをする事で勝つことが叶った。

 

 その結果、シーリスを奪われるという最悪の結果を迎えずに済んだが、次はどうなるかわからない。

 その為にも、今後はもっと他の方法を考えねばならないと、オクタヴィオは心に誓う。

 

「よしっ」

 

 オクタヴィオは大きく深呼吸をすると、気合いを入れ直して立ち上がる。

 

「まずは朝飯だな」

 

 オクタヴィオは部屋を出ると一階に降りて、台所で魔力を使い朝食の準備をしているユイエに挨拶をする。

 

「おはようさん」

 

「おはよう。 今日はいつもよりお寝坊だったのね」

 

 ユイエはそう言ってクスクスと笑う。

 

「まあね」

 

 オクタヴィオは肩を竦めて応えると、ユイエの横に並んで調理の手伝いを始める。

 ユイエは魔力を使った操作による包丁捌きも鮮やかであり、次々と食材を切っていく。

 

 オクタヴィオも負けじと野菜の皮剥きを行い、あっという間に準備が完了する。

 それから少し遅れて、シーリスも部屋から出てくる。

 

 食卓にはパンやサラダやスープといった料理が並び、三人全員が席につくと食事が始まる。

 

「いただきます」

 

 三人は同時に挨拶をし、それぞれ食べ始める。

 今日のメニューは、トマトソースをかけたパスタにチーズをたっぷりかけたオムレツ、キノコやキャベツ、人参などの野菜を煮込んだコンソメ風のスープだ。

 

 どれも食欲をそそる香りを漂わせており、朝から胃もたれしそうな程たっぷりと量がある。

 しかし、三人とも特に苦にする様子も無くフォークやスプーンを動かしていた。

 

 やがて全ての皿が空になると、全員揃ってご馳走様と唱える。

 

「ごちそうさまでした」

 

 そして食器を片付けると、各自それぞれの行動に移る事にした。

 

 まず最初に動いたのはオクタヴィオであった。

 彼はコートを羽織り、ネクタイを締め直す。

 そして愛銃である『ベティ』をホルスターごと装着し、予備弾倉の確認を行う。

 

 更に腰に下げたマガジンポーチの中身を確認し、そこに新しい弾薬が入っていることを確認すると蓋を閉じた。

 

「これで良し、と」

 

 オクタヴィオは満足そうに呟くと、部屋を後にする。

 玄関でブーツを履いていると、背後から声を掛けられる。

 

 振り返るとそこにはユイエが立っていた。

 彼女はエプロンを外し、外出用の黒いドレスに身を包んでいた。

 

「あの子を置いて行くのかしら?」

 

 ユイエの問いに、オクタヴィオは頷く。

 

「ああ、行くのは俺だけでいいよ。 ユイエはこっちを頼む」

 

「そう……気を付けなさいね?」

 

 ユイエは少し心配そうに言うと、彼の腕にそっと触れる。

 

「ありがとうな、ユイエ」

 

 そんな彼女を安心させるように微笑みかけた後、オクタヴィオは玄関の扉を開けて外に出る。

 外は日が登り始め、明るくなってきたといった感じであった。

 そんな中、オクタヴィオは一人で歩き出す。

 

「さて、先ずはどう動くべきかね?」

 

 今回の依頼では、シーリスの護衛がメインとなる。

 魔女協会の魔女達や幹部の男達の恐ろしさ、面倒臭さはオクタヴィオ自身身に染みてわかっているので、出来る限り危険を避ける必要があった。

 だがそうなると、どうしても後手に回ってしまうことになる。

 

 ならばいっそのことオクタヴィオ側から仕掛けるべきではあるが、それも難しいだろうと考える。

 しかし、魔女協会の位置が判らず、情報収集もままならない状況なので、今はとにかく情報を集めることが先決だと判断した。

 

 そんな訳で、早速オクタヴィオは王都アルバートの街へと繰り出そうとしたその時である。

 

「少し、よろしいでしょうか」

 

 不意に後ろから声をかけられる。

 振り向くとそこには一人の女性が佇んでいた。

 長い黒髪の女性で、黒のワンピースの上に白衣を羽織っている。

 

 年齢は二十代半ばくらいだろうか?

 美人なのだが、どこか冷たい印象を受ける女性だった。

 

「……君は?」

 

「私はシエルと申します。 お見知りおきを」

 

 そう言って、シエルと名乗った女性は恭しくお辞儀をする。

 その様子を見て、オクタヴィオは眉を顰める。

 

(この感じ、どこかで……?)

 

 何処で見たのか思い出そうとしていると、シエルが再び口を開く。

 

「貴方様にわかりやすく言えば、魔女協会からの使者とでも言いましょう」

 

「魔女協会の人が何の用かな?」

 

 オクタヴィオの言葉に、シエルは静かに答える。

 

「貴方にお願いがあって参りました」

 

「願いだと?」

 

 オクタヴィオが訝しげに聞き返すと、彼女は頷く。

 

「はい、そうです」

 

「ふむ……」

 

 オクタヴィオはしばらく考えた後、彼女に向かって手を差し出す。

 

「とりあえず話を聞こうか」

 

 その言葉に、シエルは再び頭を下げるのだった。

 それから二人は場所を移動することにした。

 向かった先は王都の外にある小さな広場で、そこで話を聞くことになった。

 

 オクタヴィオとシエルの二人しかいない空間で、彼女は語り始める。

 

「率直に申し上げますと、私は貴方をお迎えにあがりました」

 

「迎え? 誰からだ」

 

 オクタヴィオの質問に、シエルは淡々とした口調で答える。

 

「私達の長です」

 

「イザイアか」

 

 予想通りの答えに、オクタヴィオは納得する。

 

「ええ、その通りです」

 

 シエルは小さく頷くと話を続ける。

 

「長からの伝言を伝えます。 『君に招待状を送ろう。 君の事だから来ないという選択肢はないだろう』。 以上です」

 

「そうかい、そいつはどうも」

 

 オクタヴィオは肩を竦めると皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「それで、どうやって君達がいる所に移動するって言うんだ?」

 

 オクタヴィオの問いかけに、シエルは澱みなく答える。

 

「ご心配なく、既に移動の準備は整えております故」

 

 そう言いながら、シエルは指をパチンと鳴らす。

 すると次の瞬間、二人の目の前に巨大な門が現れる。

 それは魔法によって生み出されたものであり、扉には奇妙な紋様が刻まれていた。

 

「これも魔法か……」

 

 驚くオクタヴィオを尻目に、シエルは説明を始める。

 

「これは転移門と呼ばれる魔法で、門の魔女たる私が行使する魔法です。 行き先を指定することで一瞬で目的地まで辿り着くことが出来ます」

 

「ほう」

 

 感心したように声を上げると、オクタヴィオは興味深そうに門の文様を見つめる。

 

「魔女の魔法ってのは本当に万能だな」

 

 オクタヴィオは感心しつつ、ふと疑問に思ったことを尋ねる。

 

「これを使えば魔女協会のある場所にに行けるんだな?」

 

 その問いに、シエルは頷く。

 

「はい、イザイア様の居城へと移動することができます」

 

 それを聞いてオクタヴィオは思わず苦笑してしまう。

 

「なるほどね、そりゃ便利だ」

 

「では参りましょうか」

 

 シエルがそう言うと同時に、扉が開き始める。

 中はまるで異次元のような光景が広がっていた。

 

 様々な色の光球が無数に浮かんでおり、それらが明滅を繰り返していた。

 その光景はとても美しく幻想的であったが、同時に不気味さも感じられるものであった。

 

「こいつはたまげたね」

 

 オクタヴィオは驚きつつも、意を決して中に入ることにする。

 そして、シエルの後を追うようにして歩き出した。

 

 二人が足を踏み入れると、再び扉が閉まる。

 完全に閉じられた瞬間、周囲の景色が一変する。

 そこは先程までの異様な雰囲気とは打って変わり、普通の部屋といった感じになっていた。

 

 部屋は広く、調度品も置かれていることから客間のようにも思える。

 部屋の中心には大きなテーブルがあり、その上にはティーセットが置かれていた。

 どうやらここは応接室のようだ。

 

「どうぞお掛けください」

 

 シエルに促されるままに椅子に座ると、向かい側に彼女が歩いていく。

 そして椅子の側に立つと、指を鳴らした。

 その瞬間、シエルの隣に先程使った転移門が現れ、そこから見知った顔の人物ーーーイザイアが現れた。

 

「……ん?」

 

 ただ前回と違うのは、スーツの胸元の部分。

 オクタヴィオが前に見た時の胸元は、現在のように女性的な丸みを帯びてはいなかった。

 

 しかし今は違う。

 

 明らかに膨らんでいるのがわかるのだ。

 つまりそういうことなのだろう。

 

「お前まさか女だったのか?」

 

 オクタヴィオが事実を確認するように言うと、イザイアはニヤリと笑う。

 

「今頃気付いたのか? まあ無理もないだろうな」

 

 そう言って胸を張りながらドヤ顔をするイザイアに対して、オクタヴィオは頭を抱えてしまう。

 

(こいつ……男装してたのか!?)

 

 てっきり男性だと思っていたのだが、実際は違ったらしい。

 

(くそっ! なんで気付かなかったんだ俺は!!)

 

 オクタヴィオは心の中で自分自身を責め立てるが、後悔先に立たずである。

 そんなオクタヴィオの様子を気にすることもなく、イザイアは自分の席に着くとカップを手に取り紅茶を飲み始める。

 

 それを見ていたシエルも席に着き、同じく紅茶を口に運んだ。

 その様子を横目で見つつ、自分も出された飲み物に口をつける。

 

 香りからしてダージリンだろうか。

 爽やかな風味が口の中に広がり、飲みやすい温かさで喉を潤してくれる。

 

「美味いな……」

 

 思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど美味しかった。

 オクタヴィオはお茶を味わいつつ、飲み干す。

 

「毒が入っていると考えないんだね」

 

 オクタヴィオの前で優雅にお茶を飲んでいるイザイアは彼の不用心さを指摘してくる。

 

「可愛い娘に毒を盛られて死ぬならそれでいいさ」

 

 オクタヴィオは肩を竦めて答えると、空になった自分のカップをテーブルの上に置く。

 

「でも、話に来たって言うならわざわざこんな方法で暗殺すら必要なんてないでしょうに。 殺したいなら転移門で異次元に吹き飛ばすとか、なんでも使ってるだろ」

 

 オクタヴィオは真剣な眼差しで彼女を見据える。

 

「そうだな、先ずは謝罪しよう。 君を騙すような真似をしてしまってすまなかった」

 

 そう言って頭を下げるイザイアを見て、オクタヴィオは少し拍子抜けしてしまう。

 

「なんだ、随分と素直じゃないか」

 

「君が思っている以上に、今回のことは我々にとって重要なことなんだよ」

 

 そう言って真剣な表情を見せるイザイアに、今度はオクタヴィオの方が面食らってしまう。

 

(こいつがここまで言うってことは余程のことなんだろうな)

 

 そう思うと少しだけ身構えてしまう自分がいることに気づく。

 しかしそれでも話を聞く気はあるようで、黙って続きを促すことにしたようだ。

 それを見たイザイアは頷くと言葉を続ける。

 

「我々は君を歓迎するよ。 ようこそ、魔女協会の本部へ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、一気に警戒心を強める。

 

「で、君たちは魔女達を集めて何をおっ始めようってんだい?」

 

 するとイザイアは苦笑しながら答える。

 

「魔女達の楽園を作るのさ」

 

 その単語を聞いて、オクタヴィオの一瞬思考が停止する。

 

「……なんだって?」

 

 聞き間違いかと思って聞き返すが、返ってきた答えは同じものだった。

 それを聞いた途端、冷や汗が流れるのを感じた。

 

「おいおい冗談だろう? 本気で言ってるのか?」

 

 オクタヴィオが動揺を隠しきれないまま聞き返すと、彼女は頷くだけだった。

 その様子を見て、本気であることが伝わってくる。

 魔女達の現状を知った上でその言葉を発しているのだろうかと、オクタヴィオは戦慄する。

 

「マジかよ……」

 

 信じられないといった様子で呟くオクタヴィオに対し、イザイアはさらに続ける。

 

「その楽園の話をする前に、何故魔女協会ができたのかを話そうか」

 

 その言葉に、オクタヴィオは耳を傾けることにしたのだった。

 それからしばらく間を置いてから、イザイアは再び口を開く。

 

「オクタヴィオ、現在における魔女達の状況を知っているかい? いや、そもそも君はどこまで知っているのかな?」

 

 その問いに、オクタヴィオはすぐに答えなかった。

 

 魔女達の現在を、オクタヴィオは事細かに知り得ている。

 魔力がある事によって他者との違いに悩み、そして恐れられる。

 故に孤独となり、迫害される存在となった。

 だがそんな彼女達を救うための組織二つがあった。

 

 一つはアルスを頭目にしている『魔女連合』。

 もう一つはこの『魔女協会』であることを、オクタヴィオは『知っていた』。

 

「なるほど、大体のことは知ってるってわけだね」

 

 納得がいったとばかりに頷いているイザイアに対して、彼は肩を竦めると答える。

 

「まぁな、これでも色々と調べてきたんでね」

 

 それを聞いて、イザイアは苦笑するしかなかった。

 

(やれやれ、一体どこまで調べてきたのか気になるところだがね)

 

 オクタヴィオは内心でそんなことを思いながらも、それ以上追求することはしなかった。

 

「じゃあ話は早いかな?」

 

 そう言いつつ、彼女は語り始める。

 

「今から約300年前、世界大戦が行われていた時代に遡るんだけど」

 

 そう言いながら彼女は紅茶を口にする。

 そして一息つくと再び話し始めた。

 

「その頃はまだ魔法というものはあまり知られていなくてね。 魔法を操る者は魔法使いと呼ばれていたのだよ」

 

 そこまで話したところで一旦区切ると、シエルの方に視線を向ける。

 

「シエル、この紅茶美味しいね。 いい仕事をしている」

 

 その視線を受けてシエルは小さく頷き返すと口を開いた。

 

「恐縮です」

 

 シエルの言葉に満足げな表情を浮かべると、そのまま話を続ける。

 

「さて、話を戻そう。 当時の魔女達は戦争に駆り出されないよう隠れて暮らしていたんだけれど、ある時事件が起きたんだ」

 

 そこで一度言葉を切ると、また一口紅茶を飲む。

 そして一呼吸置いた後で再び話し出した。

 

「一人の魔女が、大国を一つ壊滅させてしまった」

 

 それを聞いてオクタヴィオは思わず顔をしかめてしまう。

 

(ああ、嫌な話だ……)

 

 そう思いながらも静かに話を聞いていた。

 

「……その魔女の使う魔法は他の魔女とは一線を画していたんだ」

 

 その言葉を聞いて、オクタヴィオは内心『懐かしさ』すら覚えていた。

 

(懐かしいねぇ)

 

 そんな事を考えている間にも彼女の説明は続いていく。

 

「その魔女の魔法は圧倒的だったと言われているよ」

 

 それを聞いて思わず苦笑してしまうオクタヴィオであった。

 

「ははっ、そいつはすげぇや」

 

 オクタヴィオの反応を見たイザイアは、少し驚いたような表情を浮かべた後、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「どうやら心当たりがありそうだね?」

 

 それに対してオクタヴィオは肩を竦めて答えた。

 

「さあね、俺は知らないね」

 

 そう言ってとぼけるオクタヴィオだったが、それは逆効果だったようだ。

 

「ふーん、なるほどね」

 

 そう言ってニヤニヤと笑うイザイアに対して、オクタヴィオは居心地の悪さを感じていた。

 

(やりづらいねぇ……)

 

 オクタヴィオは内心で悪態を吐くものの、それを表情に出すことはしない。

 下手に反応すれば、そこを突かれてさらに面倒な事になるからだ。

 

「それで、結局俺に何の用があるんだい?」

 

 さっさと話題を変えるべく、オクタヴィオは本題に入る事にした。

 

「そうだったな、すまない」

 

 そう言うとイザイアは姿勢を正すと、真面目な表情になる。

 

「単刀直入に言おう、君は遠い昔から魔女と共に生きているね?」

 

 その言葉に、オクタヴィオは驚きを隠せなかった。

 

(こいつ、なんでそのことを!?)

 

 思わず動揺してしまいそうになるが、すぐに冷静さを取り戻すとポーカーフェイスを保つことに成功した。

 しかし心臓の音が激しく脈打っているのがわかるほど緊張していることがわかる。

 

 そんなオクタヴィオの様子を見ていたイザイアは、クスクスと小さく笑うと言った。

 

「ふふ、図星のようだね?」

 

 そう言って微笑む彼女に、オクタヴィオは何も言い返せなかった。

 そんな彼に構わず、イザイアはそのまま話を続ける。

 

「君は今まで、ある一定の期間を過ぎたら痕跡を消して生きてきているはずだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、脳裏に過去の光景がフラッシュバックした。

 

「うっ……」

 

 思わず吐き気が込み上げてくるが、なんとか堪えることに成功する。

 

(くそ、なんだってこんな時に思い出すんだ……!)

 

 オクタヴィオは心の中で毒づきながら深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、改めてイザイアの方を見る。

 

「確かに俺は、隠れて生きてきたことはある」

 

 絞り出すように答えると、イザイアは満足そうに頷いた。

 

「やはりそうか、ではもう一つ質問だ」

 

 そう言って人差し指を立てると言葉を続ける。

 

「君が何故数百年も生きているのかを教えて欲しい、どうかな?」

 

 その問いに、オクタヴィオは目を閉じて腕を組むと考え込んでしまった。

 どう答えるべきかと、少し過去の事を思い出すオクタヴィオであった。


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