第33話
あれから数時間ほど経っただろうか。
既に日は落ちて夜になっており、街灯の灯りだけが道を照らす中、オクタヴィオは建物の陰に身を隠して周囲を警戒し続けていた。
あの後、追手を撒いた後、なるべく目立たない様に裏通りを通って移動し続け、レステ・ソルシエールの店近くまで戻ってきていた。
「ふぅ……ここまで来れば大丈夫だろう」
大きく息を吐いて安堵するオクタヴィオだったが、そんな彼の耳に微かな音が聞こえてきた。
「……なんだ? 誰か来たのか?」
不審に思った彼が耳を澄ませていると、段々とその音は大きくなってくるのが分かる。
それはまるで走っているかのような足音だった。
しかも複数人分の音が聞こえてくることから、かなりの人数がこちらに向かって来ている事が分かる。
それが分かった瞬間、オクタヴィオはその場から逃げ出した。
「おいおい、冗談じゃないぞ……!」
全力で走りながらオクタヴィオは悪態をつく。
追ってくる人数からして、昼間に逃げた男達の仲間なのは明らかであった。
面倒な事この上ないが、ユイエやシーリス達を危険に晒すのはオクタヴィオとしても避けたい。
今オクタヴィオがすべき事は、いち早く、速やかにレステ・ソルシエールから離れた場所へ移動することだった。
その為には、追いつかれる訳にはいかないのである。
「それにしても、よく俺がここにいるって判ったな。 一応見つからない様に移動していたつもりだったんだけど」
そう呟きながら走り続けていたが、背後から聞こえる足音が徐々に大きくなっていることに気付いてオクタヴィオは舌打ちをする。
このままでは追い付かれると判断したオクタヴィオは覚悟を決めると立ち止まり、振り返る。
数秒もすれば足音が近づいてきて、やがて姿を現した。
そこにいたのは予想通り、昼間に見た男3人組だった。
「見つけたぜ、この野郎!」
「手間かけさせやがって!」
口々に罵ってくる彼らに対して、オクタヴィオは特に気にした様子もなく肩を竦める。
「やれやれ、またお前さん達かい。 しつこい男は嫌われるって知らないのか?」
軽口を叩きながらも、オクタヴィオはいつでも動けるように身構える。
それを見て男達は一瞬怯む様子を見せたが、すぐに気を取り直すと一斉に銃を構える。
それを見たオクタヴィオは両手を挙げつつ言う。
「待った待った! そんなに急ぎなさんなって。 ちょっとこの辺りで話でもどうだい?」
「うるせぇ! てめぇのせいで俺達の人生めちゃくちゃだよ!」
激昂したように叫ぶ男に同調するように、他の二人も騒ぎ立てる。
「そうだ! お前のせいで、俺らの仕事と金はパーだ!」
「お前の所為で俺達はお終いなんだよ!」
そう言って喚き散らす彼らを前に、オクタヴィオは小さく溜息を吐く。
「何が終わりなんだ? ちょいとおにーさんに話してみなって」
そう言って余裕たっぷりな態度を見せるオクタヴィオに、リーダー格の男が唾を飛ばしながら怒鳴り散らしてくる。
「ふざけるな! もうお前は終わりだ! お前の側にいる女共々、お前を始末してやるからな!」
その言葉に、オクタヴィオは眉を顰める。
(やっぱりシーリスを狙ってたか)
どうやら彼らがここに来た理由は、シーリスを手に入れる為だったらしい。
しかし何故彼女が狙われるのか分からなかったので、オクタヴィオはそれを尋ねる。
「なんでシーリスが欲しいんだ?」
すると、先程までの激昂が嘘の様に表情が変わる。
その質問を待っていたかのように男達はニヤニヤとした笑みを浮かべると、嬉々として語り始める。
「死ぬ前の土産に教えといてやる。 あの小娘を捕まえて連れていけば、金も手に入るし、夢の様な力が手に入るんだ!」
「へぇー、そりゃ凄いな」
そう言って感心する素振りを見せつつも、オクタヴィオは内心で首を傾げる。
(夢の様な力ねぇ……?)
疑問に思ったものの、それを表に出さずにオクタヴィオは更に問い掛ける。
「なるほどねぇ、だから近くにいた俺を殺そうってわけね。 それで金が貰えるしやりたいこともできて、良い気分になれるよな」
「あぁ、その通りだよ。 わかったらさっさと死にやがれ!」
その言葉と同時に、オクタヴィオは待ったをかける。
「ちょいと待ちなよ。 後もう一つ、腑に落ちないことがあるんだが?」
それを聞いた途端、男達の表情が険しくなる。
「なんだぁ? 命乞いなら聞かねえぞ」
苛立たしげな様子を隠しもせずに怒鳴る男を他所に、オクタヴィオは再び口を開く。
「いやなに、どうして俺がいる場所が判っていたのかと思ってな。 ほら、逃げることには自信があったから何でかなってさ」
その質問に、男達は顔を見合わせる。
そして少し考える素振りを見せた後、一人の男が答えた。
「俺達にはどんな場所でも探し物を見つけられる球があるんだよ。 そいつを使えば隠れていようが関係ない。 必ず見つけられるのさ」
自信満々といった様子で語る男の答えを聞いて、オクタヴィオは納得したように頷く。
「なるほどね、便利なものがあるんだな」
そう言いながら、今度はオクタヴィオが考え込む仕草を見せた。
「そういうことなら、俺を簡単に見つけられたってのも頷けるか」
疑問だったことが解消されてオクタヴィオが納得していると、その様子を見ていた男が馬鹿にしたように言う。
「ふん、ようやく自分の状況を理解したか。 それじゃあ、そろそろ死んでもらおう」
そう言うなり、リーダー格の男が銃を構え、残りの二人がそれに続く。
それを確認したオクタヴィオは、小さく溜息を漏らす。
「はぁ……結局こうなるのかよ。 こっちは人に向けて撃ちたかないんだけどねぇ」
そう呟いて、オクタヴィオはだらりと腕を下げる。
「しかしまあ……ちょいとお前さん達、気が緩みすぎじゃないか?」
次の瞬間、オクタヴィオはホルスターからベティを引き抜き、目にも止まらぬ速さでハンマーを起こして撃ち放つ。
「うおっ!?」
「いだぁっ!?」
「なぁっ!?」
撃ち放たれた弾丸は寸分の狂いなく、男達の銃へと着弾し、それらを上へと跳ね上げる。
その結果、男達の手から銃が離れて宙を舞い、地面へと落下した。
その様子を唖然として見ていた男達だったが、我に帰ると慌てて落ちた銃を拾いに行く。
だが、それよりも早くオクタヴィオが動いていた。
「そらよっと」
素早く駆け出すと、一番手前にいた男の足を引っ掛けて転倒させる。
そのまま流れるような動きで2人目の懐に飛び込むと、顎目掛けて掌底を放つ。
脳震盪を起こしたのか、その男は白目を剥いて崩れ落ちた。
3人目がそれに驚いて硬直している隙に、オクタヴィオは背後へと回り込み、後頭部へ手刀を叩き込む。
「ほいっと」
軽い掛け声と共に、オクタヴィオは3人目の意識を刈り取った。
「ふぅ……これに懲りたら悪どい事に手を染めるのはやめておいた方がいいぞ」
そう言うと、オクタヴィオは気絶した男達を脇に寝かせて、レステ・ソルシエールへ向かって歩き出すのだった。
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