第32話
数日後、昼食を終えたところでオクタヴィオが切り出した。
「シーリス、お前さんの追手多くないか?」
シーリスがレステ・ソルシエールに来てからというもの、店の周りを彷徨く者や依頼者と偽って店の中に入ろうとする者。
果てはシーリスの部屋の窓を外して攫いに来るという者まで現れる始末だった。
「組織だって動いているのかと思えば、ほとんどが一般人。 お金を握らされてやってくる人が絶えないわね」
ユイエの言葉にオクタヴィオは頷く。
とにかく、シーリス目当ての追手の数が多いことが問題なのだ。
このままでは埒が明かないと考えた結果、一計を案じることにしたのだった。
「それで、どうするの?」
尋ねるユイエに対して、オクタヴィオは即答する。
「取り敢えず、ユイエはシーリスを連れて街を歩いてくれ。 2人ならあちらさんも人海戦術でも取って追い詰めにくるだろ」
「私達はそれを撒きつつ、誘き寄せる餌になるってことね。 オクタヴィオはどうするのかしら?」
感心したように呟くユイエだったが、オクタヴィオは頭を掻きつつ考えていることを話す。
「2人に囮になってもらっている間に、指示している奴を見つけ出す。 捕獲対象のシーリスが動くってことは、一般人に金を握らせて動かしてる奴も動かなきゃ見失っちまう。 その隙をついてどうにか捕まえてやるさ」
そう言って肩を竦めるオクタヴィオを見て、ユイエは不服そうな表情を浮かべる。
「それなら私とオクタヴィオの役割を反対にした方が良いんじゃ無いかしら?」
しかしオクタヴィオはかぶりを振ると言った。
「それも一瞬考えたけど……魔法を使う事のリスクを考えてそれは無しにさせてもらった。 ユイエ達は逃げる事だけに徹してくれ」
その言葉を聞いて、ユイエは小さく溜息をついた後で頷いた。
「分かったわ、今回はあなたの判断に任せましょう」
そうしてシーリスを連れ出したユイエと別れてオクタヴィオは街中を歩き出す。
首にかけたマフラーで少し顔を隠しつつ、オクタヴィオは辺りに意識を向けていく。
少し見回しただけでも、オクタヴィオを観察する様な視線を幾つか感じ取る。
(やっぱり見張られているな)
そう思いながら、人混みに紛れて移動する。
大通りを歩くよりも裏路地に入った方が見つかりにくいだろうと考えて、オクタヴィオは建物の隙間を通り抜けながら進んでいく。
時折すれ違う人とぶつかりそうになるが、上手く躱して先へ進む。
暫く進んだところで、建物の陰に隠れて様子を窺う。
「今のところ、追ってきている気配は無いな」
周囲に敵らしい影も見当たらないことを確認して一息つくと、今度は別の道を通っていくことにする。
なるべく複雑に入り組んだ道を通りながら進んでいき、時には塀を乗り越えたりしながら移動していくうちに段々と人気の無い場所へと向かっていく。
すると、前方に見覚えのある人影が見えたので、オクタヴィオは近くの物陰に身を隠す。
そこにいたのは先日シーリスを狙った男達であった。
どうやら今日もまたシーリスを狙って来たようだ。
彼らは周囲を警戒しながらも足早に何処かへ向かっている様子だった。
「何かあるのか?」
その様子を見たオクタヴィオは音を立てないように気をつけつつも急いで後を追う。
それから数分後、尾行を続けている内に目的地に到着したのか、男達の足が止まったのを見てオクタヴィオも足を止める。
そこは使われていない民家で、所々が朽ちて崩れてかけている。
ある意味、密会などをするにはもってこいの場所と言えるだろう。
朽ちて穴の空いた場所からオクタヴィオは中を覗き込む。
家の中では、先程まで追っていた2人とそれとは別の黒いローブを見に纏った男性3人、計5人が集まっていた。
「来たな、数分の遅刻だぞ」
男がそう言うと、2人組が謝りながら前に出る。
その手に握られているのは小さめの箱で、中に何が入っているかは分からないが、とても重要な物であることは間違いなさそうだ。
「申し訳ありません、ですがこれで確実に……」
「ああ、そうだな。 これさえあれば我々の計画も次の段階に進むことができる」
男は満足そうに頷くと、部下達に指示を出し始めた。
それを聞いた部下たちは箱を持ってその場から離れていく。
その様子を見届けてから、リーダー格の男が口を開く。
「必要な物が揃うまで後もう少しだ。 そうすれば我らももっと上は行けるはずだ!」
高らかに宣言する男に呼応するように他の者達も声を上げる。
そして全員が同時に杖を掲げた瞬間、ばきりと嫌な音がオクタヴィオの近くで響く。
「誰だ!?」
その音を聞いた男達が一斉に振り返る。
「……やっべ」
まるでコントの様にオクタヴィオが隠れていた壁が前へと倒れていき、中にいた男達の視線が彼へと集中していた。
「貴様! 何者だ!!」
そう叫びながら銃を構える男に対して、オクタヴィオは慌てて両手を上げて敵意が無いことを示す。
「や、やあやあ皆さんお揃いで。 どうだい? こんな良い天気の日は薄暗い部屋の中じゃなくて、外にでも出てリフレッシュでもしない?」
だがそれが逆効果だったのか、男達の怒りを買ってしまったようだった。
「この盗人め!! 我々の動きを嗅ぎ回っていたのだな!?」
その言葉と共に一斉に銃口を向けてくる男達に向かって、オクタヴィオは叫ぶように言った。
「待て待て! こんな所でそんなモノを出すなって! 危ないだろうが!」
そんなオクタヴィオの必死の叫びを聞き届けたのか、それとも単純に興味を無くしてくれたのかは不明だが、銃声が鳴ることは無かった。
それを見てオクタヴィオが一息吐こうとすると、パンッと銃声が響く。
それと同時にオクタヴィオの真横辺りを弾丸が通り過ぎていったのが分かった。
「え……?」
呆然とするオクタヴィオだったが、その間にも発砲音が鳴り響いて次々と弾丸が飛んでくる。
「おわわわわっ!?」
その内の一発が頬を掠めて微かに出血するが、それどころではない状況なのは明らかだった。
(こいつら好戦的すぎるだろ!)
突然の事態に混乱しつつも、オクタヴィオは咄嗟に近くにあったゴミ箱の影に飛び込むようにして隠れる。
弾丸の嵐は止まず、弾はオクタヴィオの近くを何発も通っていく。
その度に冷や汗を流しつつ、オクタヴィオは反撃の機会を窺う。
「おうおう……よーく撃ってくるじゃないか」
そう言いながらオクタヴィオは近くに落ちていた石飛礫を拾い上げる。
そのまま指の間に挟み、それを親指で弾いて放つ。
綺麗に真っ直ぐ飛んで行った石飛礫は、1人の男の頭部に命中して弾かれる様に仰け反るのが見えた。
「そらよっ!」
続いて2人目を狙って礫を放つが、それは躱されてしまう。
3人目の攻撃を転がって避けた後で体勢を立て直すと、再び石飛礫を投げつけていく。
1人は倒したものの、まだ残り4人がいるため油断はできない。
そうして相手の出方を窺っていると、相手が動きを見せた。
4人のうち2人が同時に発砲してくると同時に残りの2人も発砲を始める。
それを見たオクタヴィオはすぐさま横に飛び退くことで射線から外れると、近くにあったゴミ箱の影に滑り込む。
しかし、相手もそれに合わせるかのように移動してきたようで、すぐに遮蔽物に隠れられてしまう。
「こう狭くちゃ狙いをつけられねぇ」
そうこうしている間にも相手は攻撃の手を休めることなく撃ち込んでくる。
「これだけ撃ち込んできてる割には弾切れが来ないな……どうなってんだ?」
そんな疑問を口にしながらも、この状況をどうにかしなければと考えるオクタヴィオであったが、打開策が全く思い浮かばなかった。
(さて、どうしたものかね)
そんな事を考えている間にも銃撃は止むことなく続いているので、このまま隠れているだけではジリ貧である。
飛び出していっても撃たれるだけなので意味がないだろう。
ならばどうするかと考えていると、オクタヴィオはふとある考えが頭に浮かんだ。
「そうだ、何も戦う必要はないだろ」
そう言ってニヤリと笑うと、オクタヴィオは再びゴミ箱から飛び出した。
そして手を挙げながら叫ぶ。
「降参だ、大人しく捕まるから命だけは助けてくれ!」
突然の行動に驚いたのか、一瞬銃撃が止んで静寂が訪れる。
その隙を突いてオクタヴィオは走り出すと、一目散に逃げだした。
「はっ!? 待てぇぇぇえええい!!!」
後ろから怒鳴り声が聞こえてくるが、オクタヴィオは気にせず走り続ける。
「それで待つ奴が何処にいるっての!」
何発か弾丸がオクタヴィオの横を通り過ぎていく。
その度にオクタヴィオは体を捻ってそれらを回避していく。
「くそっ! なんで当たらない!」
苛立ったように叫ぶ男の声を聞きながら、オクタヴィオはさらに走る速度を上げる。
「ちょこまかと逃げるんじゃない!」
「銃で撃たれてるんだから逃げるに決まってるだろーがっ!」
そう叫びながら、オクタヴィオは入り組んだ路地裏を駆け抜けていく。
途中、何度か角を曲がりながら追っ手を振り切ろうとするが、それでもしつこく追いかけてくる気配を感じていた。
「しつこい奴らだな……。 だけど、流石にこれ以上は被害が広まるか……」
そろそろ潮時だろうと考えたオクタヴィオは、大通りに出る手前で曲がり角に入ったところで立ち止まると、近くに置いてあった粉の入った袋を手に取る。
「悪いが、これで追いかけっこは仕舞いだ」
そしてそれを追ってきた男達に向かって放り投げる。
「何だこれは!?」
男達の慌てる声が聞こえる中、オクタヴィオは素早くベティを構えて袋に向けて撃ち放つ。
「『今日は昼から白い雨が降るでしょう』ーーーってな」
ベティから放たれた弾丸は寸分の狂いなく袋を撃ち抜き、中身に入っていた小麦粉が周囲に撒き散らされる。
「うわっぷ! こ、こいつ、一体何をした!?」
「とりあえず、今のうちだ」
驚く男たちを尻目に、オクタヴィオはそのまま路地の奥へと走っていき、そして別の路地へと飛び込んで身を隠す。
それから暫くして、男達の声は聞こえなくなっていた。
「なんとか撒けたみたいだな」
周囲を警戒しつつも一息吐くと、オクタヴィオはその場に座り込む。
シーリスを追う為に組織立って動いてるのは判っていたが、武器をしっかりと装備している辺りかなり大きな組織であるのは明白だ。
一瞬魔女協会の手の者であるのをオクタヴィオは疑ったが、決めつけるのは早計だろう。
恐らくだが、彼らはシーリスの価値に目が眩んだ者達なのだろうと結論付ける。
「面倒な事になったもんだ」
そう呟きながら、オクタヴィオは今後どう動くべきかを考えるのだった。
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