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第31話


 それから数分後、オクタヴィオはリビングにいた。

 オクタヴィオの前には椅子に腰掛けているユイエがいる。

 そしてもう一人、ユイエの隣に座っているシーリスがいた。

 

「それじゃ、改めて話を聞かせて貰おうか。 君は何処の誰に狙われているんだ?」

 

 オクタヴィオの質問に、シーリスは答えた。

 

「魔女協会からです」

 

 それを聞いた瞬間、ユイエがピクリと反応するが、それを横目で見ていたオクタヴィオは気付かないフリをした。

 そしてそのまま質問を続ける。

 

「どうして狙われてるのはわかるか?」

 

「……よくわかりません。 気がついたら追われていたので」

 

 オクタヴィオの問いかけに、シーリスは申し訳なさそうに俯いてしまう。

 その様子を見たオクタヴィオは、これ以上追及するのは止めて次の質問をする事にした。

 

「わかった、それじゃあ次だ。 君が俺達を訪ねてきた理由は?」

 

「それは、あなた達なら助けてくれると思ったからです」

 

「ふむ……」

 

 オクタヴィオは顎に手を当てて考える素振りを見せた後、隣に座るユイエに視線を向ける。

 

「だってさ、どうする?」

 

「オクタヴィオはどうしたいの?」

 

 逆に問い返されてしまい、オクタヴィオは答えに窮してしまう。

 だがすぐに考えをまとめると、ゆっくりと話し始めた。

 

「そうだな……俺はこの娘を助けてやりたい」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いたユイエは、一瞬驚いた様な表情を浮かべた後、小さく笑みを零すと言った。

 

「分かったわ、引き受けましょう」

 

 その言葉を聞いたシーリスは微かにに表情を綻ばせると、椅子から立ち上がって頭を下げた。

 

「ありがとうございます。 何とお礼を言ったらいいか……」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「そうだぞ、困ってたらお互い様だろ?」

 

 2人にそう言われ、シーリスの表情が少し明るくなる。

 そんな様子を見ていたオクタヴィオは内心安堵しつつ、これからどうするかを考える。

 

(さてどうしたものかな)

 

 正直言って面倒事は避けたいのだが、目の前で困っている少女を見捨てる事など出来る筈もない。

 それに何より――

 

(この娘、何でかは知らんが憎めないんだよな)

 

 自分でも不思議な感覚なのだが、何故か彼女を見ていると保護欲を掻き立てられるのだ。

 だからこそ、助けたいと思ったのかもしれない。

 そんな事を考えていると、不意に袖口を引っ張られたのでそちらに視線を向けてみると、ユイエがこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

 オクタヴィオが問いかけると、ユイエは思案顔になりながら答える。

 

「いえ、何でもないわ」

 

 そう言って視線を逸らすユイエを見て何かあると思いつつも、オクタヴィオはあえて触れずに他の話題を切り出す。

 

「とりあえず、此処で匿うって事ならシーリスが生活するのに必要な物を揃えないとな」

 

 そう言いつつ立ち上がるオクタヴィオだったが、それに対してシーリスが待ったを掛ける。

 

「待ってください。 衣服までの心配をしてもらうわけには」

 

 しかしその言葉を遮って、今度はユイエが言った。

 

「いいえ、駄目よ。 貴方みたいな子を放っておく訳にはいかないもの」

 

 そう言われてしまい、何も言えなくなってしまうシーリス。

 するとそれを見ていたオクタヴィオが口を開く。

 

「気にすんな。 こういう時は甘えるモンだぜ」

 

 その言葉に納得いかない様子のシーリスだったが、それ以上反論する事はなかった。

 

「よし、そうと決まれば早速買い出しに行くか」

 

 オクタヴィオの提案に賛成したユイエとシーリスを連れ立って家を出ると、3人は近くの服屋に向かう事にする。

 店内に入ると、店員がそそくさとオクタヴィオ達に近づいてきた。

 

「いらっしゃいませー、本日は何をお探しでしょうか?」

 

 愛想笑いを浮かべながら話しかけてくる店員に対して、オクタヴィオは用件を伝える。

 

「ああ、この子に似合う服を何着か見繕って欲しいんだが」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いて、店員がチラリとシーリスを一瞥する。

 

「かしこまりましたぁ~、少々お待ちくださいねぇ~」

 

 そう言うと店員は店の奥に引っ込んでいき、残されたオクタヴィオ達は待つこと数分、両手に大量の衣服を抱えた店員が現れた。

 

「お待たせしました~! お客様のサイズに合わせて適当に持ってきましたので、試着してみてください~!」

 

 店員はそう言ってシーリスの前に積み上げられた衣類を置くと、再び店の奥へと消えていくのだった。

 

 その後、結局着せ替え人形の如く様々な服を着せられたシーリスだったが、最終的に落ち着いたのは白いワンピースだった。

 

 それを見たユイエが感想を漏らす。

 

「うん、似合ってるわよ」

 

 その一言を聞いて安心したのか、シーリスは小さく息を吐くと礼を言う。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 それに対し、ユイエも微かに微笑みながら返す。

 

「どういたしまして」

 

 2人がそんなやり取りをしている一方で、オクタヴィオはと言うと1人離れた場所で佇んでいた。

 こう言った時、男に出る幕が無いことは今までの経験上よくわかっており、故に彼は大人しくしていることにしたのだ。

 

 そんな彼の元へ、ユイエが歩み寄ってくる。

 

「ねえ、これどうかしら?」

 

 そう言って見せてきたものは、白のブラウスに黒のスカートというシンプルな装いであった。

 

「いいんじゃないか? 綺麗だと思うぜ」

 

 率直な意見を述べると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ、ありがとう。 じゃあこれにしようかしら」

 

 そう言うと、ユイエはさっさと会計を済ませてしまった。

 それから数時間後、必要な物を買い揃え終えたオクタヴィオ達は、自宅に戻ってきていた。

 

 買ってきた荷物をそれぞれの部屋に運び込むと、一息つくためにリビングへと集まる。

 シーリスは動き疲れたのか、ベッドに倒れ込み静かに寝息を立て始めたのでそのまま寝かせている。

 

 2人でソファーに腰掛けたところで、ユイエが口を開いた。

 

「さて、それじゃあ今後の事について話し合いましょうか」

 

 ユイエの言葉に、オクタヴィオは頷く。

 

「そうだな、まずは当面の問題だが……あのシーリスの追っ手だな」

 

 そう言うと、ユイエは頷いて答えた。

 

「ええ、そうね。 あの子は間違いなく追われてるわ。 買い物の途中でも数回遠見の魔法が使われている形跡があったわ」

 

「こっちも不自然に思われない程度に側を動き回る奴が数人程いたな」

 

 オクタヴィオが考え込む仕草を見せると、ユイエが補足するように付け加える。

 

「恐らくだけど、隙を見て攫いにくる可能性がありそうね」

 

 それを聞いて、オクタヴィオは少し考えてから言った。

 

「それなら暫くここに匿っておくより、離れた場所へ移した方がいいかもな……」

 

 オクタヴィオの意見に対し、ユイエは首を振る。

 

「それはやめておきましょう。 あの娘がいないことに気付かれたら、面倒事が増えるわ」

 

 そう言われてしまえばぐうの音も出ないため、オクタヴィオは黙って従うことにする。

 

「……わかった、それじゃあどうすればいいんだ?」

 

 オクタヴィオが尋ねると、ユイエはすぐに答えてくれた。

 

「簡単よ、彼女を囮にして敵を誘き出せばいいだけよ」

 

 それを聞いた瞬間、思わず顔をしかめてしまう。

 確かにその通りなのだが、あまり気が進まない提案であることは確かだ。

そんなオクタヴィオの表情を察したのだろう、ユイエは弁明を始めた。

 

「勘違いしないでちょうだい、別にあなたを怒らせたいわけじゃないのよ」

 

 そう言って見つめてくる彼女の瞳は真剣そのもので、冗談で言っているわけではないことがわかる。

 だからだろうか、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 

「わかったよ、お前さんに任せる」

 

 そう答えると、ユイエの表情が少し明るくなったように見えた。

 

「ありがとう、助かるわ。 といってもまだ当分は様子見だけれど」

 

 そう言いながら微笑む彼女を見ていると、こちらまで嬉しくなってくるような気がするのだから美人というのは不思議だ。

 そんなことを考えながら見つめていると、不意に目が合った。

 そしてどちらからともなく笑い出す2人だった――。


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