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第29話

 やがて中庭に出ると、そこには1人の男性が立っていた。

 彼はオクタヴィオを見て微笑んでいるように見えたが、その瞳の奥に宿っている感情は読み取れないものだった。

 

「……君が件の傭兵君だね? お初にお目に掛かるよ。僕はデリフォルド、よろしく」

 

 そう言いながら手を差し出してきたが、オクタヴィオはその手を握ることなく睨むことで答える。

 そんなオクタヴィオの態度に少し気分を害したのか、一瞬だけ眉を潜めたがすぐに元の笑顔に戻る。

 そしてデリフォルドは再び口を開くと、ゆっくりと語り始めた。

 

「いやぁ、本当に素晴らしい動きだったよ。 まさかこうも簡単に敷地内をを逃げ回るとは思わなかったからね」

 

「お褒めに預かりどーも」

 

 オクタヴィオの気持ちがこもってない返答にも気を悪くすることなく、デリフォルドは言葉を続ける。

 

「さて、そろそろ大人しく捕まってくれないかな? 抵抗しなければ痛い思いをしなくて済むんだが……」

 

「話だけでも聞いてくれない?」

 

 オクタヴィオが聞き返すと、デリフォルドとの間に一触即発の空気が流れる。

 木の葉が舞い、それが地面に落ちると同時に2人は銃を抜き放つ。

 2つの銃声が鳴り響き、それと同時にお互いの弾道が逸れていくのが見えた。

 お互いに致命傷を与えることは出来なかったようだが、それでも牽制にはなったはずである。

 

「このまま撃ち合うのはちとキツイな。 フューリム」

 

 一瞬で判断したオクタヴィオは、抱えられているフューリムに声をかける。

 

「なぁに?」

 

「ちょいと面倒だが、ここを突破しないことには脱出できない。 少し後ろで待っててくれ」

 

 オクタヴィオがフューリムを地面に下ろすと、彼女は素直に言うことを聞いてくれたようだ。

 フューリムを後ろに下がらせると、オクタヴィオは改めてデリフォルドと対峙する。

 

「もう一度聞くけど、俺達を見逃してくれないかねぇ?」

 

「すまないね、こちらも仕事なんだ」

 

「仕方ないか……。 まあ、なるようになるだろ」

 

 オクタヴィオは地面を蹴って走り出すと、一気に間合いを詰めてベティを構える。

 しかしそれを予測していたかのように、デリフォルドは余裕を持って避けると、逆にカウンターを仕掛けてくる。

 オクタヴィオは咄嗟にしゃがみ込んで攻撃をやり過ごすと、そのまま足払いをかけて転倒させることに成功した。

 

「くっ……!!」

 

 倒れた拍子に頭を打ったのか、デリフォルドは苦痛の声を漏らす。

 その間に、オクタヴィオはベティをデリフォルドの肩の辺りへ突き付けることに成功するのだった。

 

「さて、これで形勢逆転だな」

 

 銃を構えたまま、オクタヴィオは淡々と伝える。

 それを見たデリフォルドは悔しそうに歯噛みしていたが、突然大声で笑い出した。

 

「はっはっはっはっ!! 面白い、実に面白いよ君は……! 銃を突き付けているのにその実、殺す気が無い! やっていることが矛盾してることに気付いているのかい?」

 

「それがわかってるなら、降参してくれない? こっちも撃ちたくて撃ってるわけじゃないんだ」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いたデリフォルドは首を横に振ると、不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

「何だ? まだ何かあるのか」

 

「くっくっ……! 僕だけに集中してて良いのかい? じきに僕以外の兵が此処に集まってくるよ。 そうしたらあの【モノ】はどうなるかなぁ?」

 

 【モノ】と言われてオクタヴィオは怪訝な目をデリフォルドへ向ける。

 デリフォルドの言葉を聞くに、モノというのは十中八九フューリムの事を指してるのだろう。

 しかし、何故モノ扱いされているのかがオクタヴィオにはわからなかった。

 

「モノって……どういう意味だ?」

 

「おや、知らないで連れてきたのかい? あの箱に入っているのモノが何なのかを」

 

 その言葉に、オクタヴィオの表情が徐々に無くなっていき無表情に変わっていく。

 

「……箱の中身? フューリムのことか」

 

「そうさ、君が運んできただろう。 あの中に入っているのはね、厄災を齎す魔女なんだよ」

 

 それを聞いた瞬間、オクタヴィオは先程の無表情から打って変わり、ふっと笑みを零した。

 

「成る程ねぇ……。 だからあんなに襲撃があるわ、隠すように運んだりするわけだ」

 

「その通り、あれは危険極まりないモノでね。 いつ何時、何を起こすかわからないんだ。 だからーーー」

 

「あの娘を【モノ】呼ばわりするなよ」

 

 オクタヴィオの微かに怒気を孕んだ声が響く。

 話を聞けば聞くほど、オクタヴィオはその物言いに怒りを募らせていった。

 

「彼女は人間に対しての都合の良い【モノ】じゃない。 一旦頭を冷やして考えてみろ」

 

 そこまで言うと、オクタヴィオは引き金を引いていた。

放たれた弾丸はデリフォルドの顔の横を通り過ぎ、壁にめり込む形で止まる。

 

「……ッ!? お前は何なんだ!?」

 

「俺か? 俺はなーーー」

 

 オクタヴィオはそこで言葉を切ると、再び銃口を向けて言い放った。

 

「俺は、しがないガンマンだよ」

 

 その言葉と共に、オクタヴィオはデリフォルドから離れ、フューリムのいるところまで歩いていく。

 

「ーーーぅうぉぉぉ!」

 

 銃を向けられていたのにそれを外され、あまつさえ見逃されたという事実にデリフォルドは激昂してオクタヴィオへと銃を構えて飛び掛かる。

 デリフォルドがすぐさまオクタヴィオに標準を合わせ、銃の引き金を連続で引く。

 

「あぶなっ!」

 

 オクタヴィオは弾丸が放たれる瞬間を見て、身体を左右に動かして射線を外していく。

 

「な、何で当たらないんだ!」

 

 弾倉の弾丸を全て撃ち尽くし、あまりの事実にデリフォルドの意識に空白の時間が生まれた。

 そこをオクタヴィオは見逃さず、デリフォルドの懐に入り込みーーー

 

「しつこいんだよ!」

 

 デリフォルドの服を掴み、身体を巻き込むようにして背負い投げて地面へと叩きつけた。

 

「ぐっうぅ……!?」

 

 痛みで身動きが取れなくなったデリフォルドは、苦虫を噛み潰したような表情になる。

 そんな表情を見たオクタヴィオは、ニヤリと笑って言い放つ。

 

「チェックメイトってやつだな」

 

 すると、何処からか声が聞こえてきた。

 

『おい! そっちに行ったぞ!』

 

 どうやら増援のようだ。

 流石にこれ以上戦っても分が悪いと判断したオクタヴィオは、掴んでいた手を離すと立ち上がり、フューリムの手を取ると走り出す。

 

「ほら、逃げるぞ!」

 

「うんっ」

 

 こうして2人は追っ手から逃げ切る為に、森の中を駆け抜けて行くのだった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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