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第27話

 

 ────── それは今から5年前に遡る。

 当時のオクタヴィオは護衛依頼を受けて働いていたのだが、そんなある日の事である。

 オクタヴィオの仕事は大きな木箱に積まれた積荷を、安全に目的地まで護衛するという仕事であった。

 

 報酬額はかなり高く、普段受けている依頼と比べると桁が一つ違う程であり、かなり怪しい仕事でもあった。

 そんな仕事をオクタヴィオが引き受けたのは勿論理由がある。

 そう、お金が無いという切実な理由があった。

 

「はぁ……また今回もハズレかぁ」

 

 オクタヴィオは溜息を吐きながら、目の前の光景を見つめる。

 視線の先には数名の男の姿があった。

 その男達は盗賊で、今回狙った獲物がたまたまオクタヴィオの護衛をしている積荷だったのだ。

 そんな彼らから少し離れた場所で、オクタヴィオは静かに息を潜めて隠れていた。

 

「さて、どうするかな。 真正面から行けば袋叩き、奇襲をかけても人数差で不利と来た」

 

 今回の仕事は金払いが良く、尚且つ危険度も高いため、腕利きが集まるだろうと予想していたため油断していた。

 

「まさかここまで大規模なグループとはな」

 

 恐らくこのグループはただの盗賊ではなく、どこかの組織に属しているのだろうと考えたオクタヴィオは即座に決断を下す。

 金持ちの依頼だから何かしらのトラブルは付き物だと割り切り、その場から荷物を運び出す算段をつける。

 

 敵は今いる数を含めて5人程度。

 時間が経つにつれて仲間が集まってくる可能性が高い事は明白である。

 

 ならば、オクタヴィオがこの瞬間取るべき行動は一刻も早く敵を無力化し、荷物を別の場所へ運び出す事だ。

 

「そうと決まればーーー」

 

 今正に荷物を1つ漁ろうとしていた盗賊の背後に回り込み、口と鼻を布で覆い、物陰へと引き摺り込む。

 突然の事に驚いた様子だったが、抵抗する暇を与える事なく首を捻って気絶させる。

 そのまま荷物の近くまで運んで行き、適当な場所に寝かせておくことにした。

 

「残り4人」

 

 残りの敵の位置を確認すると、音を立てないように移動を開始していく。

 2人が別の方向を向いていたため、背後から忍び寄り鳩尾に拳を叩き込んで気絶させる。

 

「残り2人」

 

 残りの2人は別々に行動していて、その死角を縫うようにオクタヴィオは駆けていく。

 相手の死角から気づかれないようにに一撃で意識を刈り取っていくことで難を逃れることが出来た。

 最後の1人も難なく気絶させると、オクタヴィオは急いでその場を離れることにした。

 

「ふぅ……これでよしっと」

 

 敵が持っていた縄を使って手足を縛り上げ、猿轡を噛ませて近くの木に吊るしておくことにする。

 1人目は既に目を覚ましており、何やら喚いているようだが無視することにした。

 

「まぁそのうち誰かが見つけるだろうから、頑張ってくれ」

 

 オクタヴィオがそう声をかけるとその場を後にする。

 1番大事そうな積荷をまだ動きそうな馬車に移動させ、生きている馬に繋いでそれを引かせていく。

 しかしその時、運悪く雨が降り出してきた。

 

「こんな時に雨か……」

 

 空を見上げると雲の流れが早く、すぐにでも雨が強まりそうだった。

 これでは馬も走れないだろうと判断し、仕方なく馬車の中で待つ事にした。

 

「やれやれ、今日はツイてない日だな」

 

 愚痴を零しながら、オクタヴィオは荷台にあった毛布にくるまって仮眠を取ろうとしたその時。

 

「ん……?」

 

 背中により掛かっていた木箱の中から、微かな音が聞こえてきた。

 最初は、ほんの僅かな木が軋む音。

 だが時間が少し立つにつれてその音は大きく、そしてはっきりと聞こえてくる。

 オクタヴィオはそこで、何か大変な違和感に襲われていた。

 

「この音はなんだ……?」

 

 先程まで聞こえていた筈の外からの物音が一切聞こえない。

 それどころか気配すら感じられない。

 何かがおかしいと思い、オクタヴィオはすぐさま起き上がった瞬間だった。

 

「っ!?」

 

 突然木箱が揺れ出したのだ。

 それはもうガタガタと左右に揺れ、中に動くモノが入っている事は一目瞭然であった。

 

 オクタヴィオはすぐさまホルスターからベティを取り出し、木箱の開き口に弾丸を撃ち込む。

 弾丸が撃ち込まれた事で外れやすくなった開き口をこじ開けて、オクタヴィオはすぐ中を覗き込んだ。

 

 するとそこには、ウェーブ掛かった紫色の髪を揺らし、綺麗なドレスを着た女性が座っていたのだった。

 女性は目をぱちくりさせながら辺りを見渡した後、オクタヴィオの方を向いてニコリと微笑んだ。

 

「あらぁ〜こんにちは〜」

 

「え……? あ、あぁどうも?」

 

 女性の予想外の反応に、オクタヴィオは思わず呆気に取られてしまう。

 それからしばらく沈黙が続き、女性はようやく口を開こうとする。

 

「あのぉ……貴方は誰かしら? 私はフューリムっていうの」

 

「あ、ああ俺はオクタヴィオっていうんだが……お嬢さん、一体全体何で箱の中に入っていたんだ? ここは危ないぜ?」

 

 オクタヴィオがそう言うと、フューリムと名乗った女性は首を傾げながら言った。

 

「うーん、よく分からないの。 変な男の人たちに捕まって気づいたらここにいたの」

 

「……そうかい、そいつは大変だったな」

 

 どうやら彼女は何かしらの事情で巻き込まれたらしいと判断したオクタヴィオは、フューリムと名乗る女性に色々と質問をしていくことにした。

 

「何か覚えていることはないか? 何でもいいから教えてくれないか?」

 

 そう言って彼女の話を聞くことにした。

 フューリム曰く、村にある自宅を出た後、山道を歩いている時に急に後ろから襲われたらしい。

 その後は気を失っていて、気が付いた時には既に箱に閉じ込められていたという訳だそうだ。

 つまり、彼女自身も何故自分がこんな状況になっているのか全く分からないらしいのである。

 

「参ったな……」

 

 思わず頭を抱えたくなる気持ちを抑えつつ、オクタヴィオは次の質問を投げかけてみる事にした。

 

「何で自分が攫われたのかもわからないか」

 

 オクタヴィオがフューリムを見れば、その容姿やおっとりとした性格で人攫いにあっても可笑しくないと予想を立てた。

 しかし、ただそれだけでここまで大掛かりな護衛の依頼を出すというのも怪しさ満点であった。

 

(そもそもこんな事をしている時点で何かあるって言ってるようなもんだ。 とりあえず、様子見かね)

 

 オクタヴィオは心の中でそう思いながらも、取り敢えず今は依頼を達成する為に行動を起こすことにした。

 

「とりあえずここから出ようと思うんだが、君も一緒に来るかい?」

 

 オクタヴィオの言葉に、フューリムは少し考える素振りを見せてから答えた。

 

「そうだねぇ……うん、私も貴方と一緒に行くね!」

 

 こうして、2人は一緒に行動する事になったのだった。

 道中では何度か他の盗賊に襲われる事もあったが、その度に闇討ち、そして返り討ちにして縄で縛っていった。

 そしてついに、護衛依頼の目的の場所まで辿り着く事が出来たのである。

 

 そこは大きな屋敷であり、明らかに貴族の住まう場所であることが窺えた。

 門の前に立っていた門番らしき人物達は、武器を構える事もなくその場に立っているだけだった。

 その様子を見て、オクタヴィオはある疑問を抱く。

 

「妙だな……見張りもいない上に、警備の人間がいないなんて事があるのか?」

 

 不審に思いながらも、まずは先に進むしかないと考え直し、屋敷の敷地内へと向かっていく。

 フューリムは何があるかわからないため、また木箱の中に入ってもらうようにしている。

 屋敷の入り口まで来ると、門番達に止められてしまった。

 やはり予想通りと言うべきか、彼らは形だけの警護をしている様に見えて、突っ立っているだけである。

 

「何者だ貴様? ここが何処か分かっての行動だろうな」

 

 そう言ってオクタヴィオに槍を向けてくるのだが、特に殺気を感じる事はない為、本当にやる気は無いようだ。

 なのでオクタヴィオも銃を抜くことはせずに、両手を挙げて敵意がないことを示す事にした。

 

「あー悪いんだけど、ちょっと依頼を受けてきた傭兵なんだが……」

 

 そう言って書状を見せると、門番達が書状をじっくりと眺めるのが分かった。

 元々書状なんて物は無かったが、荷物の中に紛れ込んでいた綺麗そうな羊皮紙を使い、でっち上げた。

 それを見た後、納得できたのか後ろ手に隠していた武器を下ろし始めた。

 

 「これは失礼致しました。 それではどうぞお通り下さいませ」

 

 そう言って深々と頭を下げてくるので、オクタヴィオは戸惑いながらも屋敷の中へと入っていく事にした。

 屋敷の中に入ると執事のような格好をした男性が出迎えてくれた。

 彼は恭しくお辞儀をすると、丁寧な口調で自己紹介を始めた。

 

「ようこそおいでくださいました。 私めはこの屋敷の使用人タレスでございます」

 

「ああ、よろしくな」

 

 挨拶を済ませると早速案内してもらうことになった。

 応接室へと通されるとそこには豪勢なソファーとテーブルが置かれていた。

 そこに腰掛けるように言われ、言われるままに腰を下ろす。

 

「今主人を呼んで参ります故、少々お待ちくだされ」

 

 そう言ってタレスは一礼すると部屋から出て行ってしまった。

 ある意味1人で待っている間暇だったので辺りを眺めていると、荷車で運んできたフューリムの箱が揺れ出す。

 

「……どうした?」

 

 何処に人の耳があるのかわからないから、オクタヴィオはバレないように小声でフューリムが中にいる箱に声をかけた。

 箱の入り口が微かに開いており、そこからひょっこりと顔を出していたフューリムがニコニコしながら話しかけてきた。

 

「ねぇ、暇だからお話ししようよ〜」

 

 そう言って無邪気に話しかけてくるフューリムに苦笑しつつ、オクタヴィオは相手をするのだった。

 

 しばらくするとドアがノックされて、一人の男性が部屋に入ってくる。

 見た目からして年齢は30代前半といったところで、恰幅のよい体格をしていた。

 服装を見る限り貴族であることは間違いないだろう。

 男性はソファーに座るなり口を開いた。

 

「やぁ初めまして、私がこの家の当主であるフリクト・ドーガだ」

 

 にこやかに笑いながら手を差し出してきたので、オクタヴィオもその手を握り返すことにした。

 握手を終えると、当主であるフリクトは本題に入ることにしたようだった。

 

「さて……今回我が屋敷に来てくれた理由は分かっているつもりだが……。 一応確認しておこうかな? 荷物はしっかり運んでくれたんだね?」

 

 その言葉にオクタヴィオが頷くと、懐から取り出した羊皮紙の書類と厳重に保管された紙ををテーブルの上に置いて、後ろに置いてある木箱を指差した。

 それは紛れもなく今回の依頼書であり、サインの部分にはフリクトの名前が書かれていた。

 

「もう一つ確認だ。 箱の中身は確認してないね?」

 

 その問いにオクタヴィオは微かに訝しむが、とりあえず頷くことで肯定の意を示した。

 箱の中身を確認してきたという事は即ち、中身について知っていたということになるからだ。

 そんな疑念を浮かべているオクタヴィオに対して、フリクトは特に気にした様子もなく話を続ける事にしたようだ。

 

「そうか、ならいいのだ。 それではこの依頼は完遂したという事で、君は早々に帰ってくれたまえ」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。 まだ残りの報酬を貰ってないぜ?」

 

「ほう? 傭兵かぶれが随分と律儀じゃないか」

 

 感心したように言うフリクトだったが、その表情はすぐに険しいものへと変化していった。

 

「だが断る。 君の仕事はここまでこの箱を運んでくることだけだ。 元々報酬を払うつもりなどさらさら無い」

 

 その言葉と共に入り口の扉が勢いよく開け放たれ、数人の兵士が部屋の中に入ってくると一斉に剣を抜いて構えるのだった。

 

「おいおい、穏やかじゃないな。 そんなに大切なのか、あの箱が」

 

「あの箱の中身の価値もわからない俗物が」

 

「知らないねぇ。 その箱の中身ってのはこんなのかい!」

 

 オクタヴィオはソファを後ろに倒し、その反動で木箱の近くへと転がっていく。

 そして、腰のホルスターに収めていたリボルバーを抜き放ち、近くに置いてあった木箱の留め具に弾丸を撃ち込む。

 小気味良い音を立てて、木の蓋が弾け飛んでいく。

 そして木箱の中でのほほんとしているであろうフューリムに声をかける。

 

「逃げるぞ!」

 

「うぅ〜ん? 逃げるの〜?」

 

 ゆったりとした動作で箱から顔を出しながらフューリムが言う。

 それに対してオクタヴィオが頷いてみせると、フューリムはにっこり笑って頷いた。

 

「わかったわ〜」

 

 オクタヴィオは即座にフューリムを横抱きにして、その場から駆け出していく。

 しかし兵士達も逃がすまいと追いかけてきた。

 当然の如く、何人かの兵士が立ち塞がってくることになる。

 

 その中の1人が斬りかかってきたが、オクタヴィオはそれを躱すと、そのまま片腕で相手の腕を捻り上げて無力化する。

 さらに背後から襲いかかって来た兵士に対しては、蹴りを放って吹き飛ばす。

 

「くそっ! たかが傭兵かぶれに何を手間取っているんだ!?」

 

 苛立ち混じりに叫ぶフリクトに、別の兵士が報告を行う。

 

「申し訳ありません、どうやら只者ではないようでして……!」

 

「ええい、役立たずどもめ! こうなったら【アレ】に出てもらうしかあるまい」

 

 そう言うと、フリクトは立ち上がり、オクタヴィオを追跡するために近くに置いてあった魔水晶に手を翳して、話し始めた。

 

 一方その頃、オクタヴィオは屋敷の中を走り抜けていき、裏口から逃げようとしていた。

 

「うふふっ、なんだか楽しいね〜」

 

 腕の中で楽しそうに笑うフューリムに、オクタヴィオは苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「まったく、呑気なもんだ」

 

 そんな会話をしながらも、追っ手から逃れるために走り続けるのだった。


感想や評価がありましたら、作者のモチベーションに繋がりますのでよろしくお願いします!

後、誤字や脱字があったら教えてくれると助かります。

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