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第25話


「ーーーふぁ〜……」

 

 レステ・ソルシエールの店内でオクタヴィオは一際大きな欠伸をしていた。

 魔女協会のアルテミシア達が始めた魔女誘拐事件から数日後の今現在、彼はいつものように店番をしている最中である。

 カウンターに座り、ぼーっとしていると、店の扉が開き、来客を知らせる鈴の音が鳴り響く。

 そちらに視線を向ければ見知った顔がそこにはあった。

 

「いらっしゃい」

 

 入ってきた女性ーーーアルスに対してオクタヴィオが挨拶をすると、アルスは軽く手を挙げた後で口を開く。

 

「ふむ、無事で何より。今時間はあるか? 依頼の話を聞きたいのだが……」

 

「ああ、大丈夫だぜ」

 

 オクタヴィオが頷くと、アルスは安心したような表情を見せると、そのままカウンター席へと飛び乗った。

 近くで本を読んでいたユイエが立ち上がり、ゆっくりとコーヒーを作り始める。

 

「さて、どこからどう話したもんかねぇ……」

 

「オクタヴィオの所感でかまわん。どの程度の強さだったのかを知りたい」

 

「……んー、強さで言うなら結構上位に入るな。 魔法の範囲、使い方、応用法、どれを取ってもシンプルに強い」

 

「ほう……?」

 

「ただ、対人戦の経験はあまり無いみたいだったかな」

 

「素人だったということか?」

 

 アルスの言葉にオクタヴィオは首を振って答えた。

 

「完全に素人って訳でもないな。 基本的な使い方は知ってるんだけど、感覚で使ってる感じって言った方がいいか」

 

 それを聞いたアルスが納得したように頷くのを見て、オクタヴィオは再び話し始める。

 

「感覚で魔法を使う魔女ってのはハマるとタチが悪いこの上ない時があるんだが、それ以外の時は直線的なことが多いんだ。 つまり動きが読みやすいって事だな」

 

「なるほど……確かにアルテミシアとの戦闘中はそうだったかもしれんな」

 

「だろ? まあその点を除けばかなり厄介だと思うぜ」

 

「そうか……やはり一筋縄ではいかん相手という事か……」

 

 そう言って考え込むような仕草を見せるアルスだったが、すぐに顔を上げると再び質問を投げかけてきた。

 

「そういえばもう一つ気になった事があるんだがいいか?」

 

「ん? なんだ?」

 

 首を傾げるオクタヴィオに向かってアルスは問いかける。

 

「あの娘達の魔法はどうなった?」

 

 その問いにオクタヴィオは困ったような表情を浮かべると、それを見かねたユイエが話し始めた。

 

「十中八九、コピーされて魔水晶にされているでしょうね」

 

「……そうか」

 

「とりあえず、取られてしまったのはしょうがない。 取られた魔法が何なのかがわかっていれば対処のしようがあるだろ」

 

 その言葉にアルスは頷くと、続けて言う。

 

「……そうだな。奪われてしまったのはしょうがない、というところか」

 

 魔水晶は魔力さえあれば人でも使える魔道具ではあるが、それを使う為にはその者にあった物を使わなければならない。

 その点を考えれば猶予はまだ存在しているだろう。

 そう考えての事であった。

 

「今回は対応が常に後手にまわり過ぎた。 襲撃、そこからの対応、転移用の魔法陣まで用意されて、相手の掌の上で踊らされてた感が如何にも拭えないんだよな」

 

「何処からか情報が漏れていたと?」

 

「それもあるだろうけど、相手の規模がわからないんじゃ決めつけようがない」

 

 オクタヴィオは小さくため息をつくと言葉を続ける。

 

「まぁなんにせよ、次はこうはならない様にしないとな」

 

 オクタヴィオの言葉を聞いていたアルスは一つ頷いてみせると口を開いた。

 

「また来ると思うか?」

 

「間違いなく来るだろうな」

 

 アルスの問い掛けにオクタヴィオははっきりと頷いた。

 

 一度襲撃されているのだ。

 

 今回は凌いだからこそ猶予が生まれているようなものだが、魔女協会側の体制が整えばまた来るに違いないとオクタヴィオは踏んでいた。

 

「我達は勝てると思うか?」

 

「……正直な話、奴さん達に手の内が知られすぎてる。 次、もしも戦うことになったら勝てるかわからんね」

 

 とてもじゃないが、俺ではキツいとオクタヴィオはそう付け加えた。

 今回は初見だからこそ、アルテミシアに対して善戦出来ていたのだ。

 次があった時、感覚派のアルテミシアではこちらの攻撃に対応してくる可能性も否めない。

 そうなった場合、負ける可能性は十分にあるだろうとオクタヴィオは思ったのである。

 それを聞いてアルスは腕を組んで唸ると言った。

 

「むぅ……難しいところだな……」

 

「ま、なんとかするしかないさ」

 

 そう言いながらコーヒーを啜るオクタヴィオを見ながら、アルスはぽつりと呟いた。

 

「お前が言うと説得力が違うな」

 

 その言葉を聞いたオクタヴィオは思わず苦笑を漏らすのだった。

 

「さて、じゃあ今回の報酬についてだが……」

 

 そう言うとアルスはポケットから金貨の入った袋を取り出すとテーブルの上に置く。

 それを見たユイエが口を開いた。

 

「あら、随分と気前がいいのね?」

 

 その声色には若干の驚きが含まれている事を察しつつも、敢えて触れないようにしながらアルスは答える。

 

「今回に関してはお前達の活躍があってこそだからな」

 

 その言葉に嘘はないようで、彼女は素直に感謝の意を示す事にしたようだ。

 それを見てアルスも満足そうに頷くと、言葉を続けた。

 

「今後もよろしく頼むぞ」

 

 それに対してオクタヴィオも頷きを返すと言葉を返す。

 

「今後ともご贔屓にってか」

 

「そう言うことだ」

 

 お互いにニヤリと笑みを浮かべる二人を見てユイエは呆れたように肩を竦めた。

 そしてアルスはそのまま立ち上がると部屋を出て行こうとする。

 

「ああ、そうだ。 後もう一つ忘れていた、オクタヴィオ」

 

「ん?」

 

「少しこっちに寄れ」

 

「何だ何だ」

 

 オクタヴィオが言われた通りにアルスに近づくと、突然頬に唇がそっと当てられた。

 驚いて目を見開くが、そのまま数秒間じっとしていた後でゆっくりと離れると一言だけ告げることにした。

 

「……お前なぁ……」

 

 呆れた声で言うものの、内心では少し嬉しかったりするのだがそれは黙っておくことにするのだった。

 

「これが我からのお前に対する報酬だ。 ではな」

 

 そして今度こそ去っていくアルスを見送ると、ユイエの方を見ると小さくため息を漏らしてから言った。

 

「はぁ……やれやれだぜ」

 

 それを聞いたユイエがクスクスと笑うのを見てオクタヴィオは更に深いため息を吐くことになるのだった。


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