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第23話


 少し時間が遡り、オクタヴィオとアルテミシアが戦い始めたその頃。

 空間を分け隔てられたその場所では、ユイエとコルネリオが向き合っていた。

 

「さて、あっちは始まったようだしこっちもそろそろ始まるとしようか?」

 

「……はぁ、面倒ね」

 

「おいおいそんなつれないこと言わないでくれよ。それとも何か? 僕じゃ君を楽しませられないと?」

 

「私はあなたに興味はないの。 別に戦いたい訳でもないし、オクタヴィオを見ている方が有意義ね」

 

 そう言って何もせず、腕を組んで立っているユイエにコルネリオは声をかける。

 

「ふぅん……じゃあさ、こういうのはどうだろうか?」

 

 そう言うと彼は指をパチンと鳴らした。次の瞬間、彼の周りに幾つもの影が現れる。

 それらはゆらゆらと揺らめきながら段々と形を成していき、やがて人のような姿となった。

 

 しかしその姿はどこか歪であり、頭部からは角が生えていたり口から牙のようなものが見えていたりと異形の姿であることが分かる。

 ユイエは眉を顰めると、小さく呟いた。

 

「悪趣味な奴が出てきたわね」

 

「ハハハッ! 褒め言葉として受け取っておくよ!」

 

 それを聞いて微かに舌打ちをするユイエだったが、すぐに表情を戻すと小さくため息を吐いた後に呟くように言った。

 

「仕方ないか……少しだけ遊んであげるわ」

 

 ユイエの声を聞いた瞬間、影達は一斉に襲いかかってきた。

 それに対してユイエは右手を少し前に出し、指を打ち鳴らした。

 

「目障り」

 

 その瞬間、影が全員ピタリと動きを止めたかと思うと粉々に砕け散った。

 その様子を見て、今度は別の方向から襲ってくる影に対しても同じように対処する。

 その後も次々と現れる影達を同じように倒していき、気が付けば周囲には動くものは無くなっていた。

 その様子を見ていたコルネリオは感心したように言う。

 

「へぇ〜流石だねぇ〜」

 

「これで満足したかしら?」

 

「いやいやまさか! これからじゃないか!!」

 

 そう言いながら再び指を鳴らすと、新たに二つの影が現れた。

 それは先程倒したものよりも一回り程大きく、手には剣を持っている。

 そしてゆっくりと動き始めると、同時に動き出したユイエに向けて斬りかかっていく。

 対してユイエは特に慌てる様子もなく、向かってくる二体のうち一体の攻撃を余裕を持って回避した後すぐさま肉薄する。

 

 影の額に向けて指を軽く当てていく。


 すると額を触られた影が勢いよくもう一体の方へ引き摺られるように向かっていく。

 そして二体とも勢いよくぶつかり合い、その場に崩れ落ちた。

 その様子を見ていたコルネリオは目を丸くして驚いているようだったが、すぐに笑みを浮かべると言った。

 

「これは驚いたな……。 こんな簡単に倒されるなんて思わなかったよ!」

 

「この程度で驚かれても困るのだけど……」

 

「いやぁ、本当に凄いね君は! ますます気に入ったよ! どうだい? 僕達の仲間にならないかい?」

 

「お断りよ」

 

 即答で断られたことにショックを受けたのか、コルネリオは一瞬固まった後、大袈裟に仰け反りながら言った。

 

「うーんフラれちゃったかぁ! 残念!」

 

 そんなふざけた態度を取る彼に冷ややかな視線を向けつつ、ユイエは言った。

 

「……そんなにふざけて楽しいかしら?」

 

「おお怖い怖い……でもまあそうだね、これ以上遊ぶ必要もないだろうしそろそろ決着を付けようか!」

 

 その言葉と同時にコルネリオは懐から銃を取り出した。

 そしてその銃口を真っ直ぐユイエに向けると躊躇なく発砲してくる。

 それに対し、ユイエは腕を組んだまま動かない。

放たれた弾丸はそのまま一直線に飛んでいき、命中するかと思われたその時だった。

 突然空中でピタリと静止したかと思えば、そのまま落下していきカランと音を立てて地面の上を転がった。

 

「へえ……」

 

 その様子を見たコルネリオは感嘆の声を漏らす。

 対するユイエは小さくため息を吐くと言った。

 

「全く面倒ね……」

 

 その言葉にニヤリと笑みを浮かべると、コルネリオは更に指を鳴らす。

 地面へと落ちた弾丸に魔力が纏い、そこから同時に新たな影が出現し、それが徐々に形を変えながら人型へと変化していった。

 それを見たユイエは再びため息をつくと言う。

 

「はぁ……もういいわ、さっさと終わらせましょう」

 

 そう言うと彼女は右腕を軽く振った。

 その直後、突如発生した突風により吹き飛ばされる人影達。

 そんな中、一人だけガードして微動だにしない者がいたがそれも一瞬でバラバラになって地面に散らばっていった。

 その様子を見たコルネリオは驚愕の表情を浮かべていたが、すぐに笑みを浮かべて言った。

 

「なるほど……これが君の力ってことかい?」

 

 その問いに答えることなく無言のまま佇んでいるユイエに向かって、コルネリオは続けて問いかける。

 

「ねえ、もう一度聞くけど僕の仲間に入らないかい? 今なら歓迎するよ?」

 

 その問いかけに返ってきた答えは沈黙であった。

 それに痺れを切らしたのか、コルネリオは銃を連射しながら距離を詰めてくる。

 それに対してユイエはその場から一歩も動かずに指を鳴らすことで魔法を発動させた。

 すると彼女の目の前に黒い魔力でできたカーテンのようなものが出現する。

 

 魔力の壁に阻まれて銃弾は床へと落ちていく。

 

 その様子を見たコルネリオは驚きつつも攻撃の手を緩めることはなかった。

 何度も発砲を繰り返すが一向に当たる気配はない。

 やがて弾切れを起こしたのかカチッカチッという音だけが響くようになったところでようやく手を止めると、焦りを滲ませながら言った。

 

「やるね……!」

 

 そんな彼に対し、ユイエは相変わらず無表情のまま答える。

 

「これくらい当然でしょう? 彼ならこんな事簡単に抜けてくるわよ」

 

 その言葉を聞いて一瞬目を見開くものの、すぐに笑顔に戻るコルネリオ。

 その表情には焦りの色が浮かんでおり、額には汗が滲んでいるのが分かる。

 それでもなお平静を装っているようではあったのだが、内心はかなり焦っているようであった。

 その証拠に指先が小さく震えているのが見えたからだ。だがそれを悟られないようにするためか、無理やり笑みを作ってみせると口を開いた。

 

「いや参ったなぁ……ここまでとはね……正直予想外だよ」

 

 そう言う彼に対し、ユイエは何も答えない。ただ黙って見つめているだけだ。

 そんな彼女の様子を見て諦めたように肩をすくめると、やれやれといった様子で首を振った後で言う。

 

「分かったよ降参だ」

 

 その言葉を聞くと、そこで初めてユイエの表情が変わる。

 僅かにではあるがホッとした様子を見せたのだ。

それを見て取ったコルネリオは内心でほくそ笑むのだった。

 

(よし、今だ……!)

 

 そう思った瞬間、コルネリオは素早く懐に隠していた銃を構えると引き金を引いた。

 パァンッと乾いた音と共に撃ち出された弾丸は真っ直ぐに飛んでいくと、そのまま彼女の腹部に命中したように見えたが実際にはそうではなかったようだ。

 何故なら被弾したはずの箇所からは一滴の血も流れておらず、代わりに弾丸はその場で静止していたのだから。


「それはもう経験してるの」

 

 それを見て思わず絶句してしまうコルネリオだったが、次の瞬間には信じられない光景を目にすることになる。

 目の前で起きた出来事を理解するよりも早く、自身の体が宙に浮き始めたのだ。

 しかもそれだけではなくどんどん上昇していくではないか。

 慌てて手足をばたつかせてみるものの効果はなく、それどころか逆に勢いを増しているようにも見える始末である。

 このままではまずいと思ったコルネリオは咄嗟に魔法を発動することにした。

 

 しかしそれすらも叶わなかった。

 

 何故ならコルネリオが発動しようとした瞬間には既に全身が凍りついていたからである。

 もはや指先一本動かすことすらできず、完全に身動きが取れなくなってしまった状態だ。

 こうなってしまってはもうどうすることもできないだろう。

 このまま為す術もなく落下するしかないと思われたその時だった。

 

 不意に視界が真っ暗になり何も見えなくなると同時に意識が遠のいていくのを感じた直後、凄まじい衝撃と共に全身に激痛が走る感覚を最後にコルネリオの意識は闇へと沈んでいくのだった。

 

「……他愛もないわね」

 

 そんな呟きと共にユイエはパチンと指を鳴らすと、黒い魔力で覆われていたコルネリオがゆっくりと地面に降りてくる。

 コルネリオは白目を剥いて気絶しており、当分目覚めることはないだろう。

 そんな彼を見下ろしつつ、ユイエはつまらなさそうに鼻を鳴らすともう一度指を打ち鳴らす。

 するとどこからともなくひび割れる音が鳴り響く。

 アルテミシアが作った空間がゆっくりとひび割れている音だった。

 

「このまま戻ればオクタヴィオの所へ戻れるかしら」

 

 そう言ってアルテミシアはゆっくりと崩れていく空間を見ながら一人呟く。

 オクタヴィオはどうしているのだろうかとユイエは思案しつつも、今は崩れ去る空間を見続けることにしたらしい。

 そして、いよいよ空間は全て砕け散っていく。


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