第22話
オクタヴィオ達が魔法陣を踏んで飛んだ先は、王都の周りには存在しないであろう城の廃墟であった。
石造りの建物には苔や蔦が這い回り、窓ガラスは幾つか割れている。
窓枠から見える空は灰色に染まり、どんよりとした雲に覆われていた。
そんな朽ちた城の中に2人は転移したのだ。
「此処は何だ? 随分と古びちゃいるが……」
「此処もまだ王都なのかしら?」
2人が辺りを見渡す中、不意に建物の入り口の方から声が上がった。
「おい! そこで何をしている!?」
そこには兵士の様な格好をした男が立っていた。
男は剣を抜きながらこちらに向かって来る。
「貴様ら何者だ!! ここで何をしている!!」
「あぁ……ちょっと待ってくれ。 俺たちは怪しいものじゃないんだ」
そう言ってオクタヴィオは両手を上げて敵意が無い事を示す。
「問答無用ッ!!」
しかし男は一切の躊躇なく斬りかかって来た。
「ちょっ!? 危ないじゃないか!!」
「えぇい、避けるな! 大人しくしろ!」
「剣で切られそうになってるのに逃げない奴が何処にいるんだよ!」
男が何度も剣を振り下ろすが、オクタヴィオはその悉くを避けていく。
その動きはまるで踊っているかの如く優雅だった。
やがて痺れを切らしたのか、男の剣戟が大振りになる。
その隙を突いて、オクタヴィオは彼の懐に入り込み、鳩尾へと拳を叩き込んだ。
「ぐふっ……!」
呻き声を上げて崩れ落ちる男を見下ろしながらオクタヴィオは言った。
「ふぅ……これで良しっと。 全く、いきなり襲ってくるなんて物騒な奴だなぁ」
「ねぇ、この人どうするの?」
「取り敢えず……隠しておくか」
オクタヴィオはそう言うと、兵士を後ろから抱えて物陰へと運んで行った。
その後、近くにあった縄で縛り上げると、そのまま放置する事にした。
「さて、それじゃあ先に進むか」
「そうね、そうしましょう」
そうして2人は更に奥へと進んで行く。
「そういえば……オクタヴィオ、あなたあの魔女が出てきたらどうやって戦うのかしら?」
「あの魔女? ……ああ、アルテミシアか」
城を進む道すがら、ふと思い出した様にユイエが言う。
それに対し、オクタヴィオは少し考える素振りを見せた後、答えた。
「どうにかする方法がないわけじゃないよ。ただ、出来ればやりたくないんだよなぁ……」
「あら、どうしてかしら?」
「だってさ、アイツとは二度と戦いたくないんだよ」
「それは何故?」
「……銃を向けたくないからさ」
その時のことを思い出してか、げんなりとした表情を浮かべるオクタヴィオを見て、ユイエは思わず笑みを零すのだった。
そしてしばらく歩いていると、大きな広間に出た。
そこは玉座の間のようだった。
部屋の中心には大きな椅子があり、そこに見覚えのある1人の女性が腰掛けていた。
「思った以上にお早いご到着ですのね?」
椅子に座っていたのはスーツを見に纏ったアルテミシアだった。
彼女は椅子から立ち上がると、オクタヴィオ達を見据える。
それを見て、オクタヴィオ達は身構えた。
「さあ、始めましょうかと言いたい所ですが……もう少し余興を用意いたしましょう」
その言葉と同時にアルテミシアは指を鳴らすと、何も無い空間が揺らいでそこから何かが出てくる。現れたのは攫われていた魔女達だった。
魔女達は腕を広げたまま、空中に磔にされていた。彼女達の表情は位置の問題もあるが、顔が伏せられているから見え辛い。
「皆!」
それを見たオクタヴィオは魔女達に聞こえるように叫んだ。
するとアルテミシアは楽しそうに笑う。
「ふふふ、これはほんの余興ですわ。でも楽しんでいただけたようで何よりですわね」
「これのどこが余興だっていうんだ?」
オクタヴィオは呆れた声で言うが、それを嘲笑うかのようにアルテミシアは答える。
「ええ、これからもっと盛り上げて差し上げますわ。 まだ私のパーティは始まったばかりですもの」
アルテミシアは手を上げると、それを合図に魔女達の体に電流が走る。
バチバチッという音と共に悲鳴が上がる。
苦悶の表情を見せる彼女達だが、決して気絶することはなかった。
寧ろ意識ははっきりとしているようで、その表情は苦悶に染まっていた。
「やめろっ!!」
その様子を見たオクタヴィオは叫ぶが、アルテミシアは聞く耳を持たない。
それどころか今度は別の魔法を発動しようとしていた。
それを瞬時に把握したオクタヴィオはアルテミシアのいるところへ駆け出す。
アルテミシアは余裕たっぷりといった表情で佇んでいた。
アルテミシアとオクタヴィオの距離が縮まっていくにつれて魔法陣の数が増えていき、それが一斉に光り輝く。
次の瞬間、オクタヴィオに向けて無数の光の矢が放たれた。
それらは全て彼の体を貫く軌道を描いており、避けることは不可能だと悟る。
「避けられないのならーーー」
そう思った瞬間、目の前に黒い影が現れる。
それはユイエであった。彼女が魔法で防壁を張ってくれたのだ。
おかげで無傷で済んだものの、もし間に合わなかったらと思うと背筋が凍りそうになる。
「突っ込むのはいいけどもう少し周りを見なさいな」
「助かったぜ、ありがとな」
そう言ってオクタヴィオはユイエの横を抜けてアルテミシアを肉薄する。
オクタヴィオは手を伸ばし、攻撃を放つ体勢に入っていた。
しかしアルテミシアはそれを予期していたのか、魔法陣を展開するとその中に体を潜り込ませる。
それと同時にオクタヴィオの手は空を切った。
空振りに終わったことでバランスを崩してしまうオクタヴィオだったが、すぐに立て直して再度攻撃を仕掛けようとする。
しかしその前にアルテミシアが再び姿を現した。どうやら転移したようだ。
「くそっ……! 本当に便利だなその魔法!」
悪態を吐きつつも、オクタヴィオは再びアルテミシアの元へ走り出す。
そして同じように愚直に手を伸ばしていく。
しかしその瞬間、オクタヴィオの前に影が現れた。
「っ!?」
一瞬の驚きの後、オクタヴィオの拳は目の前に現れた人物に受け止められていた。
「危ない危ない、そう簡単にはやらせられないよ」
オクタヴィオの拳を掴みながら、その男性は不敵に笑った。
予想外の出来事に一瞬油断したオクタヴィオに、男性は掴んだ彼の腕を捻り上げつつ足を払った。
その結果、オクタヴィオの体はいとも容易く宙に浮き、地面に叩きつけられる形となった。
「ぐっ……!」
背中を強打したことで息が詰まり、咳き込むオクタヴィオに対し、男性は追い打ちをかけることもなく、そのまま見逃した。
オクタヴィオはすぐさま立ち上がり、男から離れた。
(今の奴の動き……只者じゃないぞ)
警戒しつつ相手を観察するオクタヴィオに対して、男は笑いながら言った。
「おいおい、そんなに怖い顔しないでくれよ。 傷つくじゃないか」
そう言う割に表情に変化はなく、まるで仮面を被っているかのような印象を受ける男だった。
「あんた何者だ?」
「俺かい? 俺はコルネリオ=ソイルビルズ。魔女協会の者だよ」
そう言ってアルテミシアの側まで移動していく彼――コルネリオを見て、オクタヴィオは思った事を口に出す。
「お前みたいな奴も協会にいるのか?」
それを聞いたコルネリオは一瞬キョトンとした後、笑いだした。
「あはははっ! 面白いこと言うな君は! 気に入ったよ! 特別に教えてあげよう。 確かに俺の見た目じゃそう思われないかもしれないけどね、これでもれっきとした幹部なんだよ? だからこうして出張ってきたわけだしね」
「そうなのか……。 ゾルダートとといい協会の幹部ってのはこんなにアクが強い奴ばかりなんだ」
オクタヴィオの言葉はご尤もであった。
何しろ今まで出会った幹部達が揃いも揃って癖のある性格をしているのだから当然である。
そんなやり取りを見ていたユイエが口を開く。
「オクタヴィオ」
ユイエに名前を呼ばれて、オクタヴィオの表情が変わる。
「……わかってる」
オクタヴィオはそう言ってホルスターに手を添えて銃を抜く準備をする。
「コルネリオ」
「任せてくれ」
オクタヴィオ達と同じように、アルテミシアに呼ばれたコルネリオもまた、腰のホルスターから拳銃を抜いて構えた。
「さて、これにて役者は揃いましたわね。 魔女2人にその付き人2人、どこか運命を感じずにはいられませんこと?」
そう言いながら微笑むアルテミシアに対して、オクタヴィオは怪訝な表情をしながら問い返した。
「何だ? 魔女対魔女、人対人でもやろうってのかい?」
「それはそれで面白いとは思いましたわ。 ですが、此度のパーティーは人対魔女でやるべきだと私は思いましたの」
そこまで聞いてオクタヴィオの表情は苦虫を噛み潰したかのようなものになる。
その様子を見たアルテミシアは更に笑みを深めるのだった。
アルテミシアはオクタヴィオが自らに対して傷をつけることを嫌っているのを把握している。
だからこそ敢えて彼に自分を狙わせているのだ。
アルテミシアの意図を理解したオクタヴィオは小さく舌打ちをした後、ユイエに向けて呟いた。
「頼んだぞ」
その言葉にユイエは黙って頷くと、コルネリオがいる前まで歩いて行く。
「このまま始めるのも良いですが、それでは面白みがありませんね。 空間を分けると致しましょう」
そう言ってアルテミシアは指を鳴らすと空間が揺らぎ始めた。
やがて歪みが広がり始め、辺り一帯を覆い尽くしていく。
「さあ、楽しみましょう」
アルテミシアがそう言うと、周りの景色が変わっていくのが見えた。
それは徐々に広がっていき、遂には完全に別の世界へと変貌を遂げてしまった。
そこは先程までいた場所とは違い、広大な草原が広がっていて、空は雲一つない青空だった。
遠くの方には森が広がっているのが見える。そんな場所にオクタヴィオ達は立っていた。
周りを見渡していると、不意に声が掛かる。
「ようこそ、私の作った異空間へ」
声のする方へ視線を向けると、そこにはアルテミシアが立っていた。
彼女は微笑みながら言葉を続ける。
「此処ならば誰にも邪魔されることはないでしょう」
それを聞いて、オクタヴィオはげんなりとした表情で言った。
「女に向ける銃口はないってのになぁ……」
その言葉を聞いた途端、アルテミシアの表情が変わったように見えた。
だがそれも一瞬のことで、すぐに元の微笑みに戻る。
気のせいだったかと思い直し、改めてアルテミシアを見るが特に変化はないようだった。
(気のせいか……?)
そう思いつつも、オクタヴィオは渋々ベティを構えることにした。
するとそれを見たアルテミシアも同じようにして臨戦態勢に入ったようだ。
両者の間に緊張感が漂い始め、いつ戦いが始まってもおかしくはない状況になったところでアルテミシアが言った。
「では早速始めましょうか」
その言葉を言い終えると同時に、アルテミシアは指を鳴らした。
周りの空間が揺らめき始め、空間爆発の発動前兆が見て取れるようになる。
それを見て即座に反応したオクタヴィオは、それよりも早くベティで空間爆発の中心を撃ち抜く。
数回の銃声が鳴り響いた後、発動の起点を乱された魔法は、その場に魔力の残滓を残して消えていった。
「あら、やりますわね」
アルテミシアは感心したような表情を浮かべつつ、オクタヴィオへ向けて手を伸ばすと次の魔法を発動する。
次の瞬間、アルテミシアの手から空間を削って作られた槍が出現し、オクタヴィオに向かって飛んでいく。
「なんつう魔法発動してんだ!」
叫びながらオクタヴィオはすぐさま回避行動を取る。
間一髪の所で躱すことには成功したものの、次々と飛んでくる槍を回避するだけで精一杯だった。
「戦えば戦うほど嫌になってくるなその魔法……。 応用の幅が広すぎないか?」
「うふふ、褒めてくださって嬉しいですわ」
アルテミシアは妖艶な笑みを浮かべながら再び攻撃を開始する。
次から次へと飛んでくる槍を避けながら、反撃の機会を窺うが中々見つからない。
このままでは埒が明かないと思ったオクタヴィオは一度大きく距離を取った後に銃を構えた。
そして引き金を引き、銃弾を放つ。
放たれた弾丸はそのまま一直線にアルテミシアの方へーーーではなく、その後方、微かに揺らぐ空間目掛けて弾丸は飛んでいく。
「そこだッ!!」
そう叫んで放った一撃は見事命中し、着弾点を中心に波紋が広がるように歪んでいく。その瞬間、アルテミシアの動きが止まる。
どうやら先程の銃撃によって彼女の魔法のコントロールが乱れているようだ。
それを確認したオクタヴィオは一気に距離を詰める。
オクタヴィオが近付いてきたことで咄嗟に腕でガードするアルテミシアだったが、いつまで経っても来るべき衝撃はやってこない。
「負けを、認めてくれ……」
絞り出すようなオクタヴィオの言葉を受けて顔を上げると目の前に彼の顔があった。
そのまま額に銃口を突き付けられる形になるがーーー
「貴方……」
震えていた。
オクタヴィオが握るベティは身体から腕へ震えが伝わり、アルテミシアを脅しているというのにその手元は震えているのだ。
そんなオクタヴィオの姿から女性に銃口を向けるのが心底嫌であるということが伝わったのか、アルテミシアは小さく笑った後で口を開いた。
「ふふ、これでは前回と同じではありませんか」
アルテミシアは銃口を向けられても何一つとして怖気付くことはなかった。
寧ろーーー
「それでこそ私が戦うべき殿方ですわ……!」
アルテミシアの瞳が妖しく光る。
それと同時に、彼女を中心として半径数メートル程の空間に異変が起きた。
「うおっ!?」
突然の出来事に驚くオクタヴィオに対して、アルテミシアは余裕の表情を見せていた。
彼女が何をしたのかと言うと、自身の魔力を操作して衝撃波を生み出したのである。
そしてその衝撃波に触れた者は吹き飛ばされるという寸法だ。
「ぐふっ!?」
オクタヴィオの身体が軽々と宙を舞い、地面に叩き付けられた衝撃で苦悶の声を漏らす。
そんな彼の姿を見下ろしながらアルテミシアは言った。
「さぁ、続けましょう?」
そう言ってアルテミシアは再び手をかざす。
「撃ちたくないってのに!!」
オクタヴィオは叫ぶと同時に、懐から何かを取り出して投げつけた。
それは空中で炸裂し、辺り一面に煙幕が発生する。
「小癪な真似をしますね……っ!」
視界を奪われたアルテミシアは煙幕を払いながら叫んだ。
そんな彼女を尻目に、オクタヴィオはゆっくりと立ち上がる。
煙幕でアルテミシアはオクタヴィオの位置を把握できてはいない。
(まさかこれを使う事になるとはな……)
そう思いながら手に持っている物を見つめる。その手に握られているのはベティとは色が違う拳銃であった。
(本当は使いたくなかったんだが仕方ないよな……)
そう心の中で呟きながら覚悟を決めると、彼はソレのグリップをいつものように握り締めた。
「お嬢さん、ちょいとオイタが過ぎるぜ?」
そう言いながら、オクタヴィオは手にした銃を構えるのだった。
「この煙は……! 爆ぜなさい!」
アルテミシアがそう言った瞬間、辺りに舞っていた煙が一瞬にして晴れる。
しかしそこにオクタヴィオの姿はなかった。
「……どこに行きましたの……?」
辺りを見回してみても彼の姿は見当たらない。
一体何処に行ってしまったのだろうか?
そう思っていると、不意に背後から気配を感じ取ったアルテミシアは慌てて振り返る。
するとそこには今まさに自分に銃口を突き付けているオクタヴィオの姿があった。
先程と違い、銃口が震えることもなく真っ直ぐにアルテミシアへと向いている。
「まだ、やるかい?」
ニヤリと笑いながら言うオクタヴィオに対し、アルテミシアは一瞬驚いたような表情を見せた後で、手を思い切り振るう。
すると振られた腕に沿って空間が歪み始めた。
どうやら先程の空間爆破とは違うようだ。
一体何が起きるのかと警戒していると、突如として地面から無数の、空間を削ってできた棘が出現する。
その数は数百を超えており、まるでハリネズミのようだった。
「あっぶなぁっ!」
咄嗟に飛び退くことで難を逃れたが、あのまま立っていたら串刺しになっていただろう。
そう思うと背筋が凍るような思いだった。
だが安心するにはまだ早いようで、今度は頭上から巨大な岩石が出現していた。
「ちょっとォ! そんな攻撃聞いてないんだけど!?」
「手の内は隠しておくものですわよっ! まだまだいきますわ!」
アルテミシアの振るう腕に合わせて、次々と様々な空間魔法がオクタヴィオを襲う。
だが、避けるということだけに関してはオクタヴィオの技量は他の追随を許さない。
発動される魔法を全て紙一重で避けていく。
時には地面を蹴り上げ、岩を蹴り付け、身体を捻り、ありとあらゆる手段を使って魔法を回避していった。
その様子を見ていたアルテミシアは驚きつつも感心していた。
(なんて身のこなしなんでしょう……!? ここまで私の攻撃を躱すとは……!!)
内心で称賛を送りつつ、次の魔法を発動させる為に腕を振り下ろす。
すると、先程までオクタヴィオが立っていた場所が大きく陥没した。
その光景を見たアルテミシアは思わず息を呑む。
「やりますわね……」
「そいつはどうも」
オクタヴィオはそう言って銃を構え直した。
そして引き金を引くと同時に弾丸を放つ。
放たれた弾丸は吸い込まれるようにアルテミシアの元へ向かっていくが、彼女はそれを空間を操作することで難なく回避した。
そしてお返しとばかりにアルテミシアも魔法を放つ。
放たれた空間の槍や空間爆発といった魔法を、オクタヴィオは身を捻り、弾丸で撃ち抜いていことで回避していく。
「くっ、当たらなければ意味がありませんわ……!」
次々と飛んでくる攻撃を避け続ける姿に苛立ちを覚えながらも、アルテミシアはさらに攻撃の手を強めていった。
オクタヴィオはそれを冷静に見極めながら、確実に反撃の機会を狙っていた。
そんな中、ふとある考えが頭をよぎる。
(このまま逃げてても埒が明かないな……よし)
そう思い立ったオクタヴィオは行動を起こすことにしたようだ。
おもむろに走り出すと、アルテミシアに向かって一直線に向かっていったのだ。
当然、そんな行動を見逃すはずもなく、アルテミシアは再び空間魔法で攻撃を仕掛けてくる。
オクタヴィオはその全てを躱しながら着実に距離を詰めていき、遂に彼女の目の前にまで到達することに成功した。
それを見たアルテミシアは驚愕の表情を見せるが、すぐに気を取り直して次なる魔法を放とうとする。
だがーーーそれよりも早くオクタヴィオの手がアルテミシアの足を掬い上げた。
「きゃっ!?」
可愛らしい悲鳴を上げて身体が宙に浮くアルテミシアであったが、なんとか空中で体勢を立て直すことに成功する。
そのまま地面に着地して顔を上げると、既に目の前まで迫っていたオクタヴィオの姿が映った。
慌てて魔法を発動しようとするものの間に合わず腕を取られてアルテミシアの身体は前へと、オクタヴィオの方へ倒れ込んでいく。
「おおっとぉ!」
倒れ込んできたアルテミシアをオクタヴィオは優しく抱き留めた。
そして耳元で囁くように問いかける。
「……降参してくれるか?」
その言葉を聞いた途端、アルテミシアの表情が変わった。そして悔しそうな表情を浮かべると言った。
「ええ、参りましたわ。 何というか締まらぬ終わり方ですこと」
その言葉を聞き届けたオクタヴィオはホッと胸を撫で下ろすのだった。
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