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第21話


「くっ!」


 落ちる寸前で、オクタヴィオは壁を蹴って腕を伸ばし、ユイエを抱き寄せていく。

 そして、背中から地面に向けて落ちていくが、地面に激突する瞬間ーーー。


 ユイエからパチンと指を鳴らす音が響く。

 すると、オクタヴィオとユイエの身体は羽根が舞い落ちるようにゆっくりと降下していく。


「これは……」


 あれだけのスピードで落ちていたにも関わらず、するりと地面にオクタヴィオ達は着地した。

 その後時間差でアルスとシゼルもゆっくりと降りてくる。


 そこは王都の地下に流れている水路であった。

 先程の攻防でできた穴が綺麗に地下水路の上に開いたようで、オクタヴィオ達はそこへ落ちていったようだった。

 作られて年季が入っているようで所々に苔があり、人の手がほとんど入っていないのがわかる。


 全員が着地したのを確認すると、オクタヴィオは一息つくと同時にその場に座り込んだ。


「ふぅー……」


 その様子を見たアルスはホッとした表情を浮かべると、オクタヴィオに向かって声をかけた。


「さて……大変な状況になってしまったな。 ある意味、災害か」


「本当だよ……」


 アルスの呟きに、オクタヴィオは苦笑しながら答える。

 災難という言葉にオクタヴィオは概ね同意するが、状況を見ればそんな簡単なことは言っていられない。


 サーフィスを含めた魔女達の拉致はこちら側に対してかなりの打撃なのである。

 しかも、彼女達の安否は不明のままであり、下手をすればろくでもないことになっている可能性もあるのだ。


 オクタヴィオはゆっくりと顔をあげると、アルスに尋ねる。


「これからどうする?」


 その問いに、アルスは顎に手を当てて考え込む仕草をすると、やがて結論を出した。


「まずは情報を共有するとしよう。 アルテミシアーーー奴の魔法についてだ」


 アルス、シゼル、ユイエ、オクタヴィオの4人はそれぞれ近くにあった瓦礫の上に腰をかけて向かい合う形になる。

 まず口を開いたのはアルスであった。


「さて、アルテミシアの魔法だが、『魔女』としての固有の能力が空間に関するものであるのは明白だろう」


「でしょうね。 あそこまで使いこなしているのを見ると、相当魔法を使い込んでいるわね」


 アルスの推測に対し、シゼルは同意を示す。


「まず、この中で気配察知の正確性が高いオクタヴィオをしても、ギリギリまで気配を悟らせない隠密性の高さがある」


 次にアルスが挙げた特徴に、オクタヴィオは頷く。

 確かに、アルテミシアの気配を消す能力は非常に高いものだった。


 それこそ、彼女が側まで来ているにもかかわらず、その存在を微かにしか認識できない程なのだから相当であると言えるだろう。


 あの瞬間、問答無用で爆発させられなくて本当に良かったと、内心冷や汗をかいていたオクタヴィオであった。


「次は攻撃方法についてだな。 あの目の前で爆発する攻撃、爆発関係の魔法に近いが、どんなところからでも発動できてなおかつ、威力も高い。 まごうことなく最高クラスの魔法であろう」


「しかもそれでいて空間を超えて手を伸ばして相手を拘束、空間を揺らして人体破壊……えげつないな」


「発動と同時に空間が揺らいでいたわ。 攻撃の時はそこを気をつけるべきね」


 オクタヴィオからユイエへ視線を移すと、アルスは言葉を続ける。


「つまり、攻撃の際は予兆を見て判断、防御も然りか」


 ユイエは小さく頷くと、話を続ける。


「そうね。 でも空間に作用させる魔法だからその分その身に受ける反動もそれなりにある筈よ。 使わせ続けて疲弊させる手もあるわね」


「問題は何処までこちらがあの攻撃を避け続けることができるかってところよね」


「空間を超えて来なければ対処の仕様があるんだけどな……」


 オクタヴィオの言葉に全員が頷く。

 考えれば考えるほど、空間に作用する魔法というのは厄介なことこの上なかった。

 攻撃してよし、守ってよしと攻守万能な魔法というのはこれほどまでに厄介であると言わずに何というのだろうか。

 しかし、悩んでいても仕方がないのは事実であり、こちら側がやらなくてはいけないことも明確だった。


「何にせよ、こちらの目的は魔女達の奪還だ。 魔女の人数が増えたってことはそれなりの部屋に収容している筈だ」


「見つからず、なおかつ迅速に救出することが求められるということね」


 ユイエの言葉にオクタヴィオは大きく頷く。

 作戦とは言えないような作戦ではあるが、オクタヴィオとユイエの2人からしてみれば『各々が状況を把握して臨機応変に動くべし』という考えのもと動くのが基本である。

 途轍もなく、途方もなく、行き当たりばったり作戦なのはこの際目を瞑っておく。


「まあ、どちらにせよ魔女達は取り戻すことは確定事項だ」


 オクタヴィオはそう締めくくると、ゆっくりと瓦礫から立ち上がった。

 砂埃を払いつつ、オクタヴィオは今後のことを決めるべく口を開く。


「さて、どうしようか」


「取り敢えず、このエリアから脱出したいところだが、出口はどこにあるんだ?」


「わからないわ」


「我も同じくだ」


「参ったなぁ」


 オクタヴィオは頭を掻きながら、周囲を見渡す。

 辺り一面が水路と瓦礫であり、出口はどこにも見当たらない。

 ある1つを除いては。


「ここから脱出するにはどうしたらいいんだろうなぁ……」


「私達がオクタヴィオを掴んで上へと運ぶのが1番早いかもしれないわね。 途中で離したら大変なことになるけど」


「闇雲に歩いて迷うよりかは、落ちてきた場所から這い上がった方が早いか……仕方ない」


 オクタヴィオはため息をつくと、腕を横に広げた。

 それを見た魔女達3人はオクタヴィオの両腕と服を掴む。


「では、行くぞ」


 アルスの声と共に、彼らの周りに魔力の風が吹き荒れたかと思うと、ゆったりと上空へと飛び上がる。

 その速度は徐々に上がっていき、ものの数秒で集会をしていた部屋へと到達する。


「戻ってきたな」


 そう言って安堵の息をつくオクタヴィオであった。

 そして、部屋を見渡してみるとそこには不可思議な物が視界の中に映り込む。


 それは淡い光を放つ魔法陣であった。


 これにはオクタヴィオだけではなく他の者達も同様だったようで、驚きのあまり言葉を失っているようだった。

 そんな中、唯一ユイエだけは冷静であったらしく、部屋の中央にある魔法陣を調べているようだった。

 しばらく調べた後、ユイエは振り返って言った。


「……どうやらこの魔法陣が転移装置になってるみたいね。 ちょっと見ただけだと何処に繋がっているのかは全くわからないけど……」


 それを聞いたオクタヴィオはなるほどと納得した様子を見せる。

 おそらく、既にいないアルテミシアが何の気まぐれか残していったのだろう。


 まるでこれを使って追いかけてこいと言わんばかりな魔法陣の配置であった。


「コレがここにあるってことは、相手もコレを使って向かってくることがわかってる筈だ。 何なら転移した先に敵が大勢待ち構えていても驚かないね」


 オクタヴィオがそう言うと、アルスが頷く。


「あぁ、確かにその可能性は大いにあるだろう」


「じゃあどうするのかしら?」


 ユイエの問いかけに、オクタヴィオはニヤリと笑みを浮かべると、自信満々といった様子で言い放った。


「わざわざ奴さんが目の前まで来てくれてるんだ。 あっと驚かせてやろうじゃないか」


 オクタヴィオの言葉を受けて、アルスは不敵な笑みを浮かべた。


「面白いことを言うじゃないか、オクタヴィオ」


「だろ? 散々やられたんだ、悪戯の一つや二つ見逃してもらわないと割に合わないさ」


 オクタヴィオの言葉を聞いて、シゼルは思わず苦笑する。


「全くもってその通りよ」


 それから、オクタヴィオは魔法陣の前まで歩いていく。

 後一歩踏み出せば魔法陣に触れる距離まで行くとアルスとシゼルの方を向いた。


「とりあえず行く気満々の所悪いが、アルスとシゼルは此処で待機だ」


「理由を聞いても?」


 シゼルの問いかけに対して、オクタヴィオは肩を竦めながら答える。


「理由は簡単だ。 2人は魔女側の頭だ、それが取られたらこっちは完全にチェックメイトになっちまうからな」


「そうか、そういうことなら仕方がないな。 だが、一つ約束しろ」


「ああ、何だ?」


「魔女達を必ず、取り返せ」


「あいよ」


 オクタヴィオはそう言って微笑むと、ユイエの方を向いて問いかける。


「ユイエ、準備は大丈夫か?」


 ユイエはこくりと頷き、答えた。


「問題ないわ」


 その言葉を聞き、オクタヴィオは大きく頷いた後に魔法陣の方へ体を向ける。

 そして、ユイエと共に勢いよく踏み出すとそのまま姿を消したのだった。


「頼んだぞ、2人とも」


 アルスの呟きと共に、シゼルも静かに2人を見送るのであった。

 

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