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第18話


「はい、何かしら?」


 シゼルが尋ねると、その魔女は不機嫌そうな表情を浮かべたまま口を開く。


「こちらは魔法を持っているし、その組織にそのまま乗り込めばいいのではなくて?」


 そう言って鼻を鳴らす彼女に、周りからも賛同の声が上がる。

 どうやらここにいる魔女達は自分達の力に自信があるらしく、自分達以外の誰かに協力するなどまっぴらごめんだと思っているらしい。

 そんな様子を見て、シゼルは小さく溜め息を漏らすと、再び語り出す。


「確かに、本来であればその通り。 でも残念ながら私達では手に負えない相手なのよ」


 そう言って肩をすくめるシゼルを見て、魔女達は何事かと立ち上がる。

 だが、そんな彼女達に構うことなくシゼルの話は続く。


「今、魔法を使えばと話したわよね? その魔法を使って確実に貴方は相手を倒すことはできる?」


 それを聞いた途端、周りの者達がざわつきだす。

 まさか反論されるとは思っていなかったのだろう、明らかに動揺している様子だ。

 しかし、そんな中で一人の魔女が声を上げる。


「当たり前だわ、私を誰だと思ってるのよ。 人間なんて私達の敵では無いわ」


 その声に触発されたかのように他の魔女達も次々と声を上げ始めた。

 その様子を見たシゼルは深い溜め息を吐き出すと、呆れたように言う。


「はぁ……だから頭が固いのよね貴方達は」


「なっ……!」


 その言葉に怒りを覚えたのか、先程の魔女が再び声を上げた。


「だってそうでしょう? 仮に貴方達が全員で一斉に魔法を撃ったとしても、その男は避け切るわよ」


「そんなことあるわけ無いでしょ? 馬鹿にするのもいい加減にしてちょうだいっ」


 少し声を荒げる様子の魔女に対し、シゼルはあくまで冷静に言葉を続ける。


「じゃあ試しに撃ってみたらどうかしら、その男に向かって」


「は?」


 唐突に話を振られたオクタヴィオが勢い良くシゼルへと視線を向ける。

 オクタヴィオからしてみれば唐突に攻撃するぞと言われているのだ。

 半分上の空で聞いていたオクタヴィオだったが、すぐ我に帰ると慌てて止めに入った。


「ちょ、ちょっと待て! なんで俺が狙われなきゃならないんだよ!?」


 慌てふためく彼に対して、シゼルは全く動じることなく答える。


「簡単よ、貴方がこの中で1番強さの指針になるからよ」


「いや、だからって……」


 尚も言い返そうとするオクタヴィオであったが、その言葉を遮るようにアルスが言う。


「ふむ、これは丁度いいかもしれないな。 皆、突然人が来てコイツの方が強いと言われて良い気分はしないだろう」


 アルスがそう言い放つと、魔女達は黙り込んでしまう。

 その様子を見たアルスは更に続ける。


「ならば、オクタヴィオの強さを証明してみせれば文句はあるまい」


 アルスはニヤリと笑うと、オクタヴィオに向けて手招きをする。

 それを見たオクタヴィオは諦めた様子でアルスに尋ねる。


「……それで俺は何をすればいいんだ?」


 オクタヴィオの問いに、アルスは顎に手を当てながら考え込む素振りを見せると、やがて何かを思いついたように顔を上げた。


「そうだな……では今から一分間の間、希望者がオクタヴィオに向けて魔力弾を放つ。 オクタヴィオはそれを避けるなり対処するなりしてくれ。 魔女側は怪我をさせるつもりで魔力弾を放つといい」


「なるほど、そういうことか……」


 アルスの言葉で、オクタヴィオは全てを理解したようだった。


 つまりこういうことだ。


 1分以内に自分に当たる攻撃を躱して見せろと言っているのである。

 これで全部避けたのならオクタヴィオの力が少しわかり、魔女側は謎の人物と感じていた彼のことを少しは把握できるはずである。


「……本当に、本ッ当に気が進まないけど、やらなきゃ話にならないならやるしかないか……」


 オクタヴィオが苦虫を数匹噛み潰したかのような表情をしながらそう言うと、先程怒っていた魔女の一人が前に出る。

 彼女はオクタヴィオを睨み付けると言った。


「言っておくけど、私は人だからって一切の容赦しないからね。 死んでも文句は言わないでよ」


「ああ、わかってるさ」


 オクタヴィオが返事をすると、魔女は早速魔力を練り上げる。

 彼女が魔力を練り上げると同時に、周囲に漂う魔力が集まっていくのがわかる。

 それは次第に密度を増していき、小さな球体へと変化していった。


「穿て!」


 その言葉と共に放たれた無数の風の塊が一斉にオクタヴィオの元へ殺到していく。

 それに対し、彼は咄嗟に身構えると、飛んでくる弾丸を避けようと試みる。


「思ったより速いな……」


 最小限の動きで向かってくる風の弾丸をオクタヴィオは確実に避けていく。

 一発でも掠らないように上手く立ち回りつつ、最小限の動きで回避していったため、数発と放たれた風の弾丸は一つたりとも彼に命中することはなかった。


「よし、このまま行けば」


 その矢先のことだった。

 突如背後から気配を感じ取ったオクタヴィオは振り返りながらその場を飛び退く。

 そこには既に別の角度から飛んできていた風の弾丸があった。

 完全に死角からの一撃であるにもかかわらず、それを瞬時に察知すると身を捻ってなんとか被弾を避けることに成功する。


「ほう、今のを避けるとは中々やるじゃないか」


 その様子を見守っていたアルスが感心したように言う。

 そんな二人のやりとりを見ていた他の魔女達も感嘆の声を漏らしていた。

 だがそれも束の間のことで、すぐに次の準備に取り掛かる。

 今度は複数の魔女達が同時に攻撃を仕掛けてきた。


「「「撃ち抜け!!」」」


 四方八方から飛び交う魔法の嵐に、オクタヴィオは逃げ場を失う。


「これ1人じゃないのか!?」


 思わず叫ぶオクタヴィオに、アルスが笑いながら声をかける。


「くふふっ、何を言ってるのだ。 希望者は全員参加するに決まっているだろう?」


「マジかよ!?」


 オクタヴィオが驚きの声を上げる中、遂に全ての魔法が殺到した。

 轟音と共に土煙が舞い上がり、周囲を覆い尽くす。


「やったか……?」


 誰かが呟くように言った言葉を皮切りに、魔女達の歓声が上がる。


「流石にあの数、あの状況……確実に当たったことでしょう」


「当然の結果、私達の勝ち」


 勝利を確信し、喜び合う彼女達を尻目に、ユイエとアルス、シゼルだけは冷静に状況を分析していた。


「いいえ、まだ終わっていないみたいよ」


 シゼルの言葉の通り、土煙の中から人影が現れるのが見えたかと思うと、そこから無傷のオクタヴィオが現れたのだった。


「……嘘だろ? あの攻撃を受けて無傷だなんて……」


 信じられないといった表情を浮かべる魔女達に、オクタヴィオは言った。


「確かに普通に危なかったけどな。 あの包囲網は本当に焦った」


 そして彼はニヤリと笑みを浮かべると、服に付いた砂埃を軽く払い除ける。

 それを見て驚愕する魔女達をよそに、オクタヴィオはするりと両手をあげた。

 その動きを見て何かされると思ったのか、魔女達は顔を強張らせる。

 オクタヴィオは、あっけらかんとしながらつぶやいた。


「降参、降参。 あんなモノ撃たれまくってたら命が幾つあったって足りやしないよ」


 オクタヴィオの言葉に、周囲から安堵のため息が漏れる。

 しかし、そんな彼の前に一人の魔女が立ち塞がった。


「おい、お前さっきどうやって避けたんだ?」


「ん? 君は……?」


 彼女の名前はサーティス。

 赤い髪で小柄な少女で、額には赤い宝石が付いたヘアバンドを着けている。

 彼女は鋭い眼光でオクタヴィオを睨みつけてくると、そのまま言葉を続けた。


「初めに避けたのはわかる。 でもその後はどうやったんだ」


「いや、普通に避けただけなんだが……」


「ふざけるな、あの数の魔力弾を前にそんなことできるわけあるか」


「そう言われてもなぁ……。 そうだ、ならもう一回撃ってくれよ」


「はぁ!? なんでそうなるんだ、バカなのかお前は」


「だって口で説明してわかってもらえないなら実践しなきゃならないだろう。 でも手加減はしてくれよ?」


 オクタヴィオの提案に呆れた様子を見せるサーティスだったが、再度説明されると渋々了承した。


「……わかった、じゃあもう一度だけ撃つぞ」


「おう、いつでも来い」


 オクタヴィオが頷くと、先程魔力弾を放った魔女達が一斉にそれを発射した。

 次々と飛来してくる魔法を右へ左へ、時には滑り込んだり飛び上がったりして難なく躱していくオクタヴィオの姿に、魔女達は唖然となる。


 そんな中、サーティスだけが彼を凝視し続けていた。


「なんだアイツ……?」


 サーティスには、彼が何か特別な力を使っているように見えたのだ。

 そう感じた瞬間、無意識に呟いていた。


「おかしいだろ、なんで当たらないんだよ……」


 そんな彼女の様子に気が付いたユイエが言う。


「ふふ、何故かしらね?」


 それを聞いたアルスとシゼルもまたユイエと同じように微笑みを浮かべながらそれを見守っている。

 その後も何度か攻防が続くが、結局最後まで一度も被弾することなく、オクタヴィオは無事にやり過ごすことに成功したのだった。


 それを見た魔女達は呆然とした表情で立ち尽くすしかなかったのだった。


「さてと、そろそろいいかい?」


 オクタヴィオがサーティス達魔女に尋ねると、呆然としていた彼女達がハッとした表情になり、慌てて答える。


「あ、ああ、構わない」


「良かった……結構疲れるんだアレ」


 オクタヴィオはホッと胸を撫で下ろすと、改めて質問を投げかけることにした。


「で、弾に当たらなかったから合格でいいんだよな?」


 その問いに、サーティスは苦虫を噛み潰したような表情で答えた。


「認めたくないが、認めるしかないようだな……」


 その言葉に、他の魔女達も次々に同意する。


「そうね、あれだけ避けられれば認めるしかないわね」


「うん」


「正直、あそこまでとは思ってなかった」


「貴方本当に人間?」


 最後の一言にオクタヴィオは人間だと返すと、魔女達は呆れ顔になった。

 それらの様子を見て頷いたアルスは座っていた椅子から飛び降りると、ゆっくりと歩みを進める。

 オクタヴィオの側まで行くと、アルスは彼をポンポンと叩きながら宣言する。


「オクタヴィオの実力はこれでわかってくれたと思うのだが如何かな? 我がまだ間違っていると言うのならば声をあげてくれて構わないぞ」


 その言葉を聞いた魔女達はお互いに顔を見合わせ、頷き合った後一斉に言った。


「「「異議なし」」」


 その言葉を聞いたアルスは満足そうに頷く。


「では決まりだな。 オクタヴィオ、ユイエの両名をこの集会に参加させることをここに宣言しよう」


 一応オクタヴィオは魔女達に認められたらしい。


感想、誤字脱字がありましたら教えてくれると助かります!

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