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第17話


 アルスとユイエはオクタヴィオの腕を左右から掴んで、目的地へと向かっていた。

 オクタヴィオも、無理矢理引っ張って2人を怪我させてしまうことを恐れて、成すがままに連れてかれている。

 引き摺られている事でオクタヴィオ達は奇異な眼で見られるーーー事もなく、何だいつものことかと人々は通り過ぎていく。

 なお、ブーツと尻が現在進行形で擦り続けていることには目を瞑るオクタヴィオであった。


「そういえば、魔女集会での諸注意を伝えてなかったな」


 そんな中、歩きながらアルスが言う。

 彼女は歩く速度を緩めると、未だに引き摺られているオクタヴィオとユイエに向けて説明を始めた。


「まず、魔女同士の抗争は御法度だ。 もし、それを犯した場合は即刻追放処分になる」


「まあ、争いの種になるような事があるなら妥当だな」


 魔女達の界隈の中にもそういったルールというのはしっかりと作られているようだ。

 人の中にもルールがあるなら当たり前と言えば当たり前ではあるが。


「まあ、追放されたところで元々魔女は独り身が多いから、それをした所で何の意味も無いんだがな……」


「つまり、互いに敵対しない方が得策だと?」


「そうだ。 オクタヴィオならその点の心配はしていないんだが、一応念の為にな」


 そう言って自嘲気味に話すアルスは背中に哀愁が漂っているのだった。

 このアルスの様子を見るに、そのルールを破った魔女がいるのだろう。

 こんな破天荒なアルスですら、哀愁を漂わせているのだから、相当な人物だったのは頷ける。


「ああ、分かったよ。 約束するさ」


 オクタヴィオがそう言うと、ようやく安心したのか安堵の息を吐くアルスであった。


 そんなやり取りをしている内に、目的地に到着したようだ。

 オクタヴィオ達が昨日も来ていた寂れた酒場だ。

 古ぼけた扉をゆっくりと開いてオクタヴィオ達は中へと入っていく。

 すると、薄暗い店内には誰もいなかったのだが、カウンターの奥から音を聞きつけたのか人影が出てきた。


「あら、アルスとユイエさん、それにオクタヴィオも。 3人揃って朝帰りかしら?」


 そう言いながら現れたのは、シゼルだった。

 相変わらずの人形の様な雰囲気を漂わせながら現れた彼女に、オクタヴィオは若干気圧されながらも挨拶を返す。


「おはようシゼル。 いや、俺は手を出してないからな?」


「……嘘ばっかり。 そんな首元にキスマークなんてつけちゃって」


 呆れたように言う彼女に対して、苦笑いしながら頭を掻くオクタヴィオ。

 そんなオクタヴィオを見て溜息をつくと、シゼルは3人に席に着くように促した。

 そして、全員が座ったことを確認すると、アルスが話し始める。


「さて、ふざけるのはこれくらいにして先程の話に戻ろう」


「え、俺のズボンと尻のダメージは完全に無視?」


 オクタヴィオのツッコミを無視しつつ、アルスは続ける。


「今日の集会は、オクタヴィオとユイエの2人を紹介すること。 魔女達に力を示すこと、そしてもう一つあるがこれは後でもいいだろう」


「紹介するのはわかるが……力を示す?」


「良くも悪くも魔女の世界は実力社会。 ポッと出の者が口を出すにはまず力を示す所からってことかしら」


「ユイエの言う通りだ。 その為にはオクタヴィオ、お前には頑張ってもらわなければならない」


 アルスがそう告げると、オクタヴィオの肩にポンッと手を置く。

 どうやらオクタヴィオには拒否権は無いらしい。


「全く……頑張れとは簡単に言ってくれるよ」


 軽く悪態を吐きつつも、やるしか無いかと諦めることにしたオクタヴィオは手を振ってそれに応じる。

 本当は力を示すと聞いた時点で彼の内心は穏やかではないのは言うまでもなかった。


 しかし、一応これも依頼であることに変わりはない。


 やれることをしっかりとやっておくことに間違いはないだろう。


「それじゃあ、そろそろ行こうかと言いたいところだが……生憎とまだ他の魔女が集まってくるのは後だからな。 少し暇を潰していてくれ」


 アルスの言葉に頷く一同。

 そのままアルスは立ち上がると、シゼルを伴って奥の部屋へ入っていく。

 話の流れからして魔女集会の為の準備をしに行ったのだろう。


「暇になっちまったなぁ……」


「そうねぇ」


 手持ち無沙汰となってしまったオクタヴィオとユイエは席に座りつつ、2人揃ってゆったりと天井を見上げていた。

 そんな中、ふと気になったことがあったのか、オクタヴィオが口を開く。


「なあ、ユイエ」


「何かしら?」


「お前さんも魔女な訳だが、こういう集会の存在があるってのは知ってたのか?」


 オクタヴィオの問いかけに、ユイエは首を横に振る。


「集会の存在は知らなかったわね。 私は元々そういうものに興味を持とうともしなかったから。 こっちの仕事をしている方が性に合っていると言った方が納得できるかしら」


「そういうもんか。 まあ、これを機に他の魔女と関わりを持つってのもいいかもしれないな」


「確かにそうね。 でも、私が本当に興味を持ったのは貴方だけよ?」


 そう言って蠱惑的な笑みを浮かべるユイエに、オクタヴィオは苦笑するしかなかった。


「……困ったもんだ」


「ふふ、いいじゃない。 こんなにも尽くしてくれる女はそうそういないわよ?」


 オクタヴィオに抱きつき、胸に顔を埋めるユイエ。

 そんな彼女の頭を優しく撫でるオクタヴィオ。

 しかし、2人でのんびりしていても暇なことに変わりはない。

 そんな中、オクタヴィオはふと思い出したように声を上げた。


「あ、こんなに暇なら久しぶりにアレをやるか」


 オクタヴィオは胸元のサブホルスターから、愛用のリボルバーであるベティとは別の銃を取り出した。

 その銃は形こそベティに似通っているが、色合いが違っている。

 ベティが白色を基調としているならばこちらは黒を基調としているのだ。


 それを見て首を傾げるユイエだったが、オクタヴィオはその銃の引き金部分に指をかけ器用に回転させる。

 すると、銃口が前向きになった瞬間にトリガーを引くと同時にーーー


「ぱぁん」


 オクタヴィオは何かを撃ち抜くフリをする。

 そしてすぐさま、オクタヴィオは再び同じ動作を繰り返す。

 今度は逆方向に回転させるとまた同じように銃口を前に向ける。

 オクタヴィオの手の上で踊る様に銃が回転していくのを、ユイエは興味津々といった様子で見つめていた。

 やがて、オクタヴィオは銃をくるりと回すと、サブホルスターへと仕舞い込む。


「器用なものね」


 一連の動作を見ていたユイエが感心したように呟く。

 それを聞いたオクタヴィオは得意げに胸を張るのだった。


 自慢ではないが、オクタヴィオは結構このガンプレイが得意な方である。

 昔から銃に触る機会が多く、かっこよさを求めてやり始めたのが発端なのは言うまでもなかった。

 それなりに練習したものを褒められるのは嬉しいもので、オクタヴィオは誇らしいのか表情を見れば機嫌が良いのがよくわかる。


 それから暫くして、2人は再び雑談に興じていると、不意に扉が開かれる音がした。

 2人がそちらを向くと、そこにはシゼルの姿があった。

 彼女は扉を閉めると、こちらに近づいてくる。


「待たせたわね」


 そう言う彼女の服装はいつもの服ではなく、黒のローブに身を包んでいた。

 それはまるでおとぎ話に出てくる魔女のような格好であり、彼女のミステリアスな雰囲気と相まってよく似合っていた。

 それを見たオクタヴィオは思わず見惚れてしまっていたようで、呆けた顔で見つめている。

 そんな様子に気付いたのか、ユイエはクスクスと笑うと、彼の腕を取って自分の方ーーーその豊満な胸元へと引き寄せる。

 ふにゅんという柔らかい感触が肘の辺りに伝わるが、オクタヴィオは慣れていると言わんばかりにユイエへと視線を向ける。


「あら、どうしたの?」


 悪戯っぽく笑うユイエに対し、オクタヴィオはやれやれと肩を竦めてみせるのだった。

 その様子を見たシゼルは溜め息を吐くと2人に声をかけた。


「ほらお暑いお二人さん、遊んでないで準備をして行くわよ。 他の魔女達も来たからすぐ始まるわ」


「お、もうそんな時間か」


「ふふ、ごめんなさいね」


「全く、緊張感が無いんだから……」


 呆れ顔のシゼルを先頭に、3人は奥の部屋へと入っていく。

 そこは先程までいた部屋とは違い、とても広い空間となっていた。


 部屋の中央にある円卓を囲むようにして、7人の魔女達が座っている。

 皆、一様に真っ黒なローブを羽織っており、フードを深く被っているため顔を窺うことはできない。

 唯一見える口元も、マスクによって隠されているため、表情すら窺うことができないのだ。


「へぇ、魔女の集会と言っても人数は少ないんだな」


「ここにいるのは王都内にいる魔女達の代表者が来てるの。 人数が少なくて当たり前よ」


 オクタヴィオの中では先入観が入っているが、それなりの人数で話し合いをしているものだと思っていたようだが、実際は違うらしい。

 それなりのアウェー感を感じながらも、オクタヴィオ達はシゼルに促されて近くの椅子に腰を掛ける。


 シゼルは彼女達の前に出ると、スカートの裾を軽く持ち上げ、優雅に一礼してみせる。


「皆さん、今日は集まってくれてありがとう。 今回の議題については事前に通達があった通りだけど、改めて説明させてもらうわ」


 その言葉に、全員が静かに頷く。

 それを確認したシゼルは、話を続ける。


「まずは自己紹介からね。 私は魔女アルスの付き人シゼル。 そして、隣にいるのは新たに存在が確認された魔女ユイエとその付き人の人間、オクタヴィオよ」


 その言葉を聞いた魔女達は、ざわつく様子を見せる。

 それも当然だろう、新しい魔女と人間の男が突然現れたのだから。

 しかもそれが新たな仲間として加わったとなれば尚更だ。


「……静粛に」


 シゼルの一声で、場は再び静寂に包まれる。

 それを確認したシゼルは再び口を開いた。


「この2人はアルスに認められてこの場にいるわ。 何かある者は手を挙げて言ってもらいましょうか」


 シゼルの言葉に魔女達は何も言わず、静観を決め込む。

 一応、シゼルが話したアルスに認められているという1つの情報はかなり大きいようだ。

 チラリとアルスの方を見れば、オクタヴィオに向けてウインクを飛ばしている。

 この中の序列がはっきりしているようで、他の魔女達に何も言わせていない辺り本当に強さは最上位なのだろう。


「あ、俺達のことはお気になさらず。 そのまま話を進めてくれると……」


 オクタヴィオが一応一言だけ気にしないように声をかけるが、魔女達の顔色というか雰囲気を見るにあまりここにいることは喜ばれていないようである。

 そんな中、特に声が上がらない事を把握したシゼルは先程と同じように、部屋内に響くように話を始める。


「それでは本題に入るわね。 今回貴方達を集めた理由は一つ……魔女達の失踪、それを行っているであろう組織の共有するためです」


 その言葉に、再びざわめきが起こる。

 だが、魔女達もそのことは知っていたのか先程よりもざわめきは少なかった。

 そんな空気を察したのか、シゼルは一度咳払いをすると、言葉を続けた。


「現在、この王都で確認されているだけでも5人以上の魔女達が行方不明になっています。 これは由々しき事態と言えるでしょう」


 そこまで言うと、シゼルは一旦言葉を切る。

 そして、ゆっくりと顔を上げると、こう告げた。


「よって、我々で協力して犯人を捕まえます」


 それを聞いて納得する者もいれば、不満そうな顔をする者もいた。

 中にはあからさまに不機嫌な態度を取っている者もいるようだ。

 だが、そんなことはお構いなしとばかりに話は進んでいく。


「まず、魔女達がいなくなった日時について確認していきましょう」


 そう言うと、シゼルは懐から手帳を取り出すと、そこに記された内容を読み始める。


「最初の事件が起こったのは3週間前、とある家屋の一室での出来事よ」


 シゼルがそこまで言ったところで、手を挙げて発言する者が現れる。

 その人物は先程不機嫌そうにしていた魔女の一人だった。


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