↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女フィロシュネーの人間賛歌  作者: 朱音ゆうひ@8/5『桜の嫁入り』コミカライズ連載スタート
2章、協奏のキャストライト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/384

94、歓迎交流会1~アルメイダ侯爵は、偽の妻に惹かれている

 紅国主催、歓迎交流会の当日。

 

 シモン・アルメイダ侯爵は、夫人カサンドラを伴って警備指揮担当に挨拶をしていた。侯爵夫妻は二人ともつややかな黒髪で、侯爵のアイスブルーの眼と夫人のエメラルドの瞳は会場に入ってから一度も互いを見ることがない。


 理由はシンプルで、侯爵夫妻が本物の夫婦ではないからだ。

 アルメイダ侯爵の隣にいるのは、偽の夫人なのだ。他の者は知らない、二人だけの秘密である。

 

 もともと政略結婚だった本物のカサンドラは何年も前に亡くなっていた。

 殺したのはアルメイダ侯爵だった。意見の相違が原因で口論になった末での殺害事件だ。

 動揺するアルメイダ侯爵に、呪術師が声をかけたのだ。妻そっくりにその姿を変えて。

『旦那様。私をあなたの妻にしてください。私が守ってあげますわ』

 

 

「はっはっは、あのノイエスタル準男爵は生意気だと思っていたのです。今回は我輩がお手本を見せて差し上げようと思いますよ。どこもかしこも火炎対策を徹底しております!」


 歓迎会の警備指揮を執るエドウィン・インロップ伯爵は、南方の血が混ざっていて、褐色肌に黒髪黒目の容姿をしている。年齢も近いノイエスタル準男爵を一方的にライバル視している男だ。


「負けないぞ、見てろ!」

 

 インロップ伯爵が離れてから、妻のカサンドラが呟く。


「呪術師は得意分野が火炎なだけで他の呪術も扱えるのに、そこに思い至らないのが紅国のお坊ちゃんらしいですわね」


 では、あの伯爵は失敗するのだな――アルメイダ侯爵は妻の言葉にそんな感想を抱きつつ、聞き流した。インロップ伯爵が失敗してもアルメイダ侯爵には悪影響がない。ゆえに、妻の遊戯を邪魔する必要はなかった。

 

「青国のフィロシュネー殿下です」  

 会場に青国勢が入場すると、視線が「フィロシュネー殿下」に集中する。


 十五歳の青国の王妹殿下は、高貴な気配をまとっていた。

 周囲を固める学友令嬢たちは蘇芳(すおう)色のリボンの先に輝く銅メダルとレルシェの花飾りを揃いにしており、堂々としている。

 

 王妹フィロシュネーのドレスは、青と黒の色調の上品で美しいデザインだった。ドレスの裾には青い花々が散りばめられ、まるで花の妖精のよう。

 腰には細いリボンで結ばれた薄いベルトがあり、スレンダーな体形を強調している。ドレスの袖は透け感のある生地で作られており、瑞々しい肌を奥ゆかしく見せていた。


「あれが噂のフィロシュネー姫殿下か」

 人々は異国の姫君の美しさと高貴な雰囲気に魅了され、目を奪われている。


「カサンドラ。彼女は本当にお前の仲間の呪術師なのだな?」


 アルメイダ侯爵が低く問うと、カサンドラは妖しく微笑んだ。


「可能性がある、というだけです。もし呪術師なら、すぐに化けの皮が剥がれますわ」

 

 妖艶な笑みは、毒性の強い花を思わせた。じわじわとアルメイダ侯爵の心に浸透して魅了する、危険な毒だ。

 ――魅力的に感じているなど、侯爵のプライドにかけて表情には決して出さないが。

 

「対戦に使う魔法チェスは、駒を取るたびに魔力を奪うのです。もともと移ろいの術と新種の術の研究で消耗している呪術師は、すぐに術を維持できなくなりますわね」

「仲間なのだろう?」

「昨日までの仲間も今日は敵。そして明日はまた仲間になって、明後日はまた敵対するかもしれません」

 

 アルメイダ侯爵は表情を引き締め、氷のような声で感想を告げた。

 

「それでは、私に味方面している妻は明日には敵になるのだな」

「そうかもしれません。刺激的な妻でしょう? 明後日には仲直りしましょうね。あ、な、た……くすくす、嫌そうなお顔をなさってますね。楽しい」


 ころころと笑うカサンドラから、アルメイダ侯爵は顔をそむけた。


 妻は、美しい。

 凡庸な貴族の娘と違い、確かに刺激的だ。

 アルメイダ侯爵は、そんな妻に惹かれてしまう自分を悟られてなるものかと思った。



 * * *


 パーティ会場を進むフィロシュネーは、笑顔を張り付けつつ内心は疑問でいっぱいだった。


 決闘の余興に挑むシューエンがドレスを着て女装している。手には剣を持って。


「あなたの弱点は把握済みでございます! ずばり、女性に弱いっ!」

「男がドレスを着ていても効果はありませんが。そんな理由でドレスを?」 

 

 無感動にコメントしてドレスを斬り裂く決闘相手は、サイラスだ。

 

「あっ、これセリーナ嬢のドレスなのに! ご存じありません? 決闘する騎士に姫君が『私の愛があなたを守ります』ってドレスを与える物語。つまり僕は今セリーナ嬢に守られていて、僕自身もこのドレスを着ることで覚悟を、あっ、また!」

「弁償してあげてください」


(私、おかしいと思うの。なぜサイラスがクリストファー・ウェストリー伯爵公子の騎士として決闘するのよ)

 

「姫様、応援しています!」

「セリーナは自分の騎士の決闘も見守ってあげないと」

「同時に勝負って、盛り上がるのでしょうけど応援する側の心臓に悪いですね」

 セリーナとオリヴィアが応援してくれている。


「それではこれより両国の友好を目的とした交流対戦を開始します。目的はあくまで友好であります」

 

 進行係は、石にされていたおじさまだった。フィロシュネーと眼が合うと、パチリとウインクしてくれる。 

 

「可憐な姫君! 先日は呪いを解いてくださり、ありがとうございました! 私がもう少し若くて独身なら、情熱的に口説くところなのですが」


 投げキッスまでしてくるではないか。


「私のことはカーリズおじさまと呼んでください」

  

(なにかしら。わたくし、紅国の格とやらをどんどん下げたくなってきたわ)

 

 フィロシュネーの心に闇が芽生える中、魔法チェスが始まる。


「白のポーン、進軍なさい」

「黒のポーン、前へ!」

 

 白のメアリーと黒のフィロシュネーがそれぞれポーンを中央に進めて、お見合いのようにポーンが向かい合う。

 

(わたくしのポーン、とっても元気! ぴょんぴょんしてるわ。よ~し、次もポーンを進めて……)


 頭の中で序盤の動きを考えていると、白のナイトがフワッと浮いて、黒ポーンが取れる位置に移動する。


(ここはポーンではだめね)


 フィロシュネーは自分の黒ナイトを飛翔させた。


(白ナイトが黒のポーンを取ったら次の手で黒ナイトに取られてしまうのよ。ふふ、わたくし、ちゃんと理解して勝負できているわ)


 数手進んで駒が減るようになると、フィロシュネーは違和感をおぼえた。

 

(うーん? メアリ―って、わたくしと違って初心者ではないのよね? なんだか、前のめりというか。何も考えないで目先の取れる駒をただ取っているみたい)


 フィロシュネーの黒のポーンが、メアリーの白ルークによって退場させられる。

 けれど、黒のポーンの位置には黒のナイトが「黒のポーンを取りに動いたら白ルークを取っちゃうぞ!」とにらみを利かせていたのに。

 

(黒のポーンを取られても、白のルークを取れるならわたくしが得をするだけよね。変なの)

 

「くぅ……」  

 対戦するうちに、メアリ―の顔色が悪くなっていく。体調が悪いのだろうか、とフィロシュネーはびっくりした。

 

   

 * * *


 

 大騒ぎの会場の隅で、アルメイダ侯爵夫人カサンドラが首をかしげた。

「……? あの魔法チェス、私が見た限りメアリーからしか魔力を吸っていないような? 不良品かしら」

 

 と、そのとき。

 カサンドラへと、明るい青年の声がかけられた。

 

「えぇ~? いやですねぇ、不良品呼ばわりなんて。仕様ですよぉ?」


 アルメイダ侯爵夫妻が同時に振り返る先には、仮面をつけたあやしい商人がいた。


「私がつくる玩具が、シュネーさんに害を成すわけないじゃないですかぁ!」

 

 商人はニコニコと商業神の聖印をかかげ、高らかに語る。

 

「カントループ商会の商品は、うちの子には絶対安全なんですよぉ。んっふふ、このたびはご購入ありがとうございました! 今後ともごひいきに!」

 

 やり取りを見ていたアルメイダ侯爵は、あやしい商人よりも妻がどんなリアクションをするのかが気になった。

「夫人。スーン嬢はどうやら敗色濃厚だな」

「……メアリーには魔力回復薬のドリンクを差し入れましょう」

 

 冷ややかに会話する夫妻の視線の先で、対戦が進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。