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6、第二王妃と空王の密談

 外からの光を遮断した薄暗い図書館の中で、煌びやかな燭台(しょくだい)の明かりが二人の影を照らしている。


 ひとつに重なり合うようにして揺れていた影は少しずつ激しさを増して、やがて極まり、落ち着いた。吐息に野心を乗せて密談に移行するのは、一組の男女。

 空王(くうおう)アルブレヒトと、青国の第二王妃だ。


「はぁっ……、第二王妃。名前なんだっけ? まあ、名前はいいとして、()()大昔に分かたれた二つの国を一つにするぞ。手伝うように」

「おほほ、可愛らしいアルブレヒト陛下。私はあなたさまを支えましょう。ですから、野望を果たし、二国を統べる皇帝になられた際は私を皇后にしてくださいませ。私の名前は……」


 甘ったるく耳元で名前をささやかれ、空王アルブレヒトは「そのような名前だったか」と呟いた。あまり関心がなさそうだが。


「陛下は、人前と私の前とで、お人が変わったよう。そんなところが、本当に可愛らしいですわ」 


 第二王妃は、瞳をぎらぎらと輝かせ、空王の吐息を奪うようにして熱いキスを贈った。彼女の美しい顔には、権力への執着と野望がにじんでいた。


「先代の空王を(しい)したり、王位継承権が上だったハルシオン殿下に呪いをかけたり。可愛らしいのに、手段を選ばなくて欲しい結果を必ず手に入れてしまう……そんなアルブレヒト陛下に、私は心から魅了されているのです」

「ふん」


 空王アルブレヒトは高慢な目で第二王妃を見た。

 赤く濡れた舌がぺろりと自分の唇を舐めて、唇の端がつり上がる。


「俺に従うならば、お前を皇后にしても構わないぞ。しかし、俺の信頼を裏切った場合には、(むく)いを受けてもらうからな?」


 第二王妃は、自分の美しい指で空王の胸を撫でると、妖艶な微笑みを浮かべた。


「私はアルブレヒト陛下を裏切りません。あなたさまを信頼していますわ。でも、私にも条件があります。第一王女が聖女として祭り上げられる前に、暗殺したいのです。それに、私の娘である第二王女を聖女にしたいのですわ」

「ん……」


 空王アルブレヒトは、その瞬間ぴくりと眉をあげた。


「ふうん。あ、ん、さ、つ」


 冷え冷えとした声は、その言葉をあまり快く受け取らなかった気配を伝える。第二王妃はしなをつくり、媚びる声をねっとりと舌にのせた。


「もちろん、もちろん、青王陛下には毒を盛りますわ。アルブレヒト陛下がくださった毒を。でも、それってとっても危険なことですもの。私はあなたさまに尽くしますが、私のおねだりも少しくらいは、ねえ?」


 空王アルブレヒトは、甘える第二王妃の要求に冷笑を浮かべながら言葉を紡いだ。


「面白い。いいんじゃないか。障害に育まれる愛もあろう。英傑とは苦難を乗り越えて魂を磨かれ、民衆に褒め称えられるものである」

「愛というのは、もちろん私たちの愛ですわね? 苦難を乗り越える英傑とは、あなたさまですわね。ええ、ええ。もちろん、私たちの愛は深まり、民衆はあなたさまを褒め称えますわ」

  

 第二王妃は、確信を胸に自信に満ちた表情で空王アルブレヒトの耳を甘噛みしてみせた。


「二国どころか、大陸全土を征服してしまってもいいと思いますの」

「俺、別に全土はいらない」

「まあ、陛下ったら。絶対に成功できますわ。あなたの呪術の力と私の策略を組み合わせれば、二国を手中に収めることができます、呪術王アルブレヒト陛下」

「成功というのは、いい言葉だ。呪術王アルブレヒトというのも、素晴らしい。どんどん広めてくれ、俺が血も涙もなく冷酷な呪術王だと。ああ……俺は成功するのだな……やっと、やっと」


 空王アルブレヒトは頬を恍惚と興奮の色に染めて、移り気な空の青チェンジリング・ブルー双眸(そうぼう)をうっとりと輝かせた。



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