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王女フィロシュネーの人間賛歌  作者: 朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます!
4章、奪還のベリル

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239、あなたのお屋敷のソファには、期待しています

 翌朝は、朝から青々とした気持ちのいい晴れ空が広がっていた。


 本日の予定は、朝食は自分の支持者を集めたパーティで。午前中が政務、昼食は預言者ダーウッドと魔法植物園を眺められるパビリオンで。午後は紅国の反女王派の使者と会い、ティータイムは他国からの賓客と。

 内政会議に顔を出した後、即位祝いのパーティに顔を出して、社交活動……。

 

(お父様とお兄様はこんな生活を毎日こなしていらしたのねえ) 

 

 朝食前に、フィロシュネーはせっせと机に向かった。

 サイラスの手紙への返事を書くために。

 

 * * *


 わたくしの不思議な婚約者サイラスへ


 大変なお仕事は、おめでとうと言われてもあまりおめでたくないかもしれない、とわたくしは思っていたところでしたの。

 けれど、我が国の民にとっておめでたい出来事であるといい、とは考えていますわ。


 青き太陽の玉座は、お兄様の座る場所ですから、わたくしは座らないようにしています。

 玉座の隣にもうひとつ椅子を用意させて、そこに座るのですわ。


 あなたのお屋敷のソファには、期待しています。

 あなたが可哀想と思っていらっしゃるのなら、わたくし、ソファに座ったら「よしよし、しめしめ」と慰めて差し上げましょうか?


 カーリズ公爵のソファのお話は、正直どう解釈したものか悩んでいます。

 けれど、女王派と反女王派の争いは不穏ですわね。そちらの国内が落ち着くことを祈っています。


 このあと、女王派の使者さんとお話する予定がありますの。わたくし、以前シューエンが知識神の聖印を使って知らせてくださったカサンドラ・アルメイダ侯爵夫人の情報をお渡ししますわ。

 役に立てていただけるのではないかしら。


 お誕生日のお祝いは、ありがとう。

 護衛役さんは、ちょっと宮中での礼儀作法に不安があるようにも思えますけれど。

 それに、あなたに少し似ているかも、とわたくしは思いました。気のせいかしら? お話するときのちょっと偉そうな感じとか、言葉をあまり飾らない雰囲気とかが似ているの。

 あなたが縮まって少年姿になりました、と言われたら、信じてしまいそうよ。


 そうそう、大切なことを書かないと……あなたは二十六歳ではなくて、三十歳よね?


 毎年年齢を下げていったら、そのうちゼロ歳になってしまいません?

 女王陛下にはぜひ年齢の数え方についての考えを改めていただきたいわ。


 女王陛下のご体調といえば、このお手紙が届くころにはよくなっているでしょうか? 心配ですわ。

 わたくしは、見舞いの品をお贈りします。

 よろしくお伝えください。


 王冠を兄にお返しし、あなたに会う日を楽しみにしているフィロシュネーより。


 * * *


 他に書くことはあるだろうか。

 書き洩らしたことはないだろうか。


 フィロシュネーは何度も文面を確認して、下書きを横に置いて新しい便箋に清書した。

 手紙に付ける香りは十五歳の誕生日に預言者ダーウッドに贈られてからずっと愛用している香水にした。


「このお手紙をお願い」

 宛名をしっかりと書き、王室の紋で封をして、フィロシュネーはジーナに手紙を任せた。

  

 身支度を整えて向かう朝食のパーティは上品な雰囲気の屋内会場で、国内の有力者たちが揃っていた。


 王都暮らしの貴族もいれば、辺境伯と呼ばれるような遠い領地で普段、その地方の王様のように暮らしている地方貴族もいる。地方貴族たちは、即位式と、そのあとに続くパーティのために王都に滞在しているのだ。

 

 モンテローザ公爵の隣の席に禿頭のアーシバルド・パーシー=ノーウィッチ公爵がいるのを見て、居並ぶ支持者たちがざわざわ、ひそひそとしている。


 アーシバルド・パーシー=ノーウィッチ公爵は、モンテローザ公爵派とは反対派閥なのだ。派閥を率いる大貴族であり、その影響力は大きい。


「あの青薔薇公爵、最近はアーシバルド殿にしきりと声をかけているらしい」

「カピバラもいいがハゲタカも味わい深い、と言ったらしいぞ」

 

 そんな声が聞こえて、フィロシュネーは笑ってしまいそうになった。


「うぉっほん、おっほん。皆様に喜ばしいお話をしましょう」


 アーシバルド・パーシー=ノーウィッチ公爵は「変な噂はやめてくれ」というように咳払いを繰り返し、「モンテローザ公爵夫人が懐妊なさったようなのです。めでたいですね」と話題を変えた。


「ほう、それはめでたい」

「おめでとうございます、モンテローザ公爵閣下」


 お祝いムードで和気あいあいとした朝食の席でいただく食事は美味しかった。


 フィロシュネーは政務のためにしっかりと食事を摂り、午前の政務を執務室でこなした。


 書類はうんざりするほど多かった。


「陛下、この一枚一枚で村がひとつ潰れることになったり、商会が破産に追いやられたり、民が大量に飢えて死んでしまったりすることになるのです。一枚一枚、真剣に取り組んでください」

「陛下、このあとの紅国の使者との会談についての資料です。必ず会談前に目を通してください」


 太めの体形をしたウルムトス・ペンブルック内務大臣とセリオス ・クスフル外務大臣が順番にそんな手紙をよこす。


「わかりました、とお返事を」


 言葉を伝えるよう侍従に頼み、フィロシュネーは書類に集中した。

 内心であたふたとしながら、表面上は落ち着いた女神様のような微笑を浮かべて書類に目を通し、サインをして、気になった個所をまとめたりしていると、あっという間に午前中の時間が過ぎて行った。


 昼食は預言者ダーウッドと魔法植物園を眺められるパビリオンでいただく予定になっている。


「我が国の預言者ダーウッドは、怠慢と言われてしょんぼりしていたりしないかしら」


 自国の預言者は、繊細なところがある。

 フィロシュネーは心配しつつ、昼食の席へと向かった。

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