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21、青王と英雄

 サイラスは青いオウムと密談していた。


「ご無事でなによりです、と申し上げるべきですよね? 青王陛下?」

『死ぬつもりはなかったぞ、心配してくれたのか、英雄?』



 新婚旅行とやらを続けていたら、国が滅びた。


 いくらなんでもお姫様が可哀想なのではないだろうか。

 広場で膨大な魔力を使ったお姫様は、お花がしおれるように弱々しくなって寝込んでしまわれた。


 空国の王兄ハルシオンが魔力回復薬を飲ませたり魔力を注いで、「なおります」と保証していたが、弱っている姿をみていると不憫でならない。そして、俺は何もできなかった……。



 まるで、Xのようだ。Xもこんな風によく寝込んでいて、俺はいつXが死んでしまうかと心配で、怖くて、たまらない。ずっと、ずっと。


 だから、金を稼ぐため、というのを言い訳にして距離を取った。

 近くにいて苦しそうだったり弱っていたりする姿を見るのが、つらいから。

 看取るのがこわいから。


「XXXXXX、次はいつ帰ってくるの」


「お金、いつもありがとう」

「お仕事たいへんなのね」

「活躍してるって、うわさをきいたのよ。すごい。ほこらしい」 

 

「ほんとうはね」

 そばにいてほしいんだろう。


 大切な存在なのに、思い出すと胸が苦しくなる。

 そばにいるのが怖い。命が少しずつ削られていくように死に向かう姿を見ていたくない。


「俺は青国人なので」

 以前、紅国で功績をあげて「故国を捨てて紅国で生きないか」と提案された時、自分はそう言って遠慮した。 

 それを青国の民などは「愛国心があるのだ」「故郷想いだ」と美談としてうたっている。


 けれど、そうではない。


「家族とも一緒に暮らせる。大きな屋敷をあげるから、そこで病気の妹と暮らせばいい」

 病気の妹と一緒に暮らすというのが、怖かったのだ。逃げ場がなくなって、離れる理由がなくなることに恐怖をおぼえたのだ。


 ――おにいちゃん、次はいつ帰ってくるの。


 金を。薬を。医者を。

 あたたかな家を。不自由なく暮らせる世話役を。

 全部を手配して、自分は離れていたい。自分以外の全てを与える代わりに、自分だけは離れていたい。そんな思いが、罪深いと感じる。


『英雄、英雄。姫は死んでない?』

 青王のオウムが縁起でもないことを言うので、苛立ちが胸の奥で跳ねる。


「死にかけていました」

 少しは心配すればいいのに。

 俺は心配した。きっと、この父親より俺のほうが心配した。


『死にかけたという事は、死んでないのだな。セーフだな、よしよし、しめしめ』


 くそったれな父親だ。

 この王様は、例え姫が死んでも、それほど悲しまない温度感なのだ。「死んじゃったかあ、仕方ないね」程度で済ませて笑いそうなのだ。


(俺は、この王様が嫌いだ)

 胸の底からそんな思いが湧きあがる。


「姫は、陛下を心配なさっておいでですよ」 


 あのお姫様は、ちゃんと優しい心根を持っている。まっとうに誰かを心配することができる。この王様とは違う。

 妹が病弱で外に出れなかったように、姫は父親のせいで箱入り育ちなのだ。

 王様より、妹に近いといえる。

 

『一回倒れたんだよ。毒を飲んでやってさ。そしたら、無能に育てたアーサーが意外とリーダーシップ発揮しちゃってさあ、治癒魔法も使ってさ。あいつ、外を頼る知恵なんかつけちゃって。私を連れて、紅国に逃げ込んで保護を求めたんだ』


 アーサーというのは、青国の王太子だ。あのお姫様の兄だ。

 助けてもらったのだろうに、ひどい言いぐさだ。


「紅国なら、安全でしょうね」

 あそこは青国や空国より、まともなのだ。

 国土も呪われたりしていないし。


『落ち着いたら、紅国にシュネーを連れて行くのもいいかもしれないね、英雄』

 青王はほんわかと危機感薄く笑っている。


「陛下は、少しはご自分の姫を心配なさったらどうですか」 

 

 怒りをにじませると、青王はとたんに怯えたような、焦ったような声になる。


『ごめんよ! 怒らないでよ、わるかった。心配してるさ。だから、死んでない? って聞いたじゃないか!』

 ――青いオウムが必死な風情で羽をばたばたさせて、さえずるのだ。



 

 

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