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19、断頭台に幕は下り

 第二王女は、いつも心の中に不満を抱えていた。


 お母様、お母様。

 わたくしは王族なのに、なぜ移り気な空の青チェンジリング・ブルーを持たぬのですか。

 答えは簡単。王の娘ではないから。


 お母様、お母様。

 わたくしはなぜお父様に愛されぬのです。

 答えは簡単。お父様の娘ではないから……。


 第二王女は、いつも心の中に不満を抱えていた。

 自分は至高の王族のはずなのに、その特徴を持たずに生まれてしまった。王の娘ではないのだ、不義の子なのだ、と噂されている。


「そうだわ。お姉様の目をいただいたら、よいのではないかしら」


 ある時、ふと思いついて侍従に命じたら、皆が反対をする。お姉様はわたくしより格上の王族なのだ。お父様に溺愛されているのだ。そんな風に、身のほどを(わきま)えるように(さと)すのだ。

 けれどお母様はつねづね仰るのよ。第一王妃よりお母様のほうが高貴。第一王妃の忘れ形見よりわたくしのほうが(まさ)っている。そんな風に、いつもわたくしを褒めてくださるのよ。

 

 わたくしと半年しか生まれたタイミングが違わないお姉様は引き篭もりがちで、たまに見かけるたびにわたくしよりも大勢の侍従に囲まれている。だから、怪我をさせるのは難しい。


「ねえ、あのお姉様をどう思う? わたくしよりも、優れている? わたくしは、そう思わないの」  

 わたくしのほうが背が高いわ。スタイルもいいわ。

「姫様のほうが女性として成熟なさっていますよ」

 年嵩(としかさ)の侍従はそう言ってわたくしを褒めてくれたから、わたくしはその者を侍従長にした。

 

「お父様も、他の者たちも、勘違いをしていると思うの。お姉様ではなく、わたくしを大切にするべきだと思うの」

 

 それがわかるように、お姉様の悪評をいっぱいばら撒いたらよいかしら?

 お姉様にも、みんなにも、わからせて差し上げないといけない。


「なぜ姉を悪く言う? やめないか」

 けれど、アーサーお兄様も、お姉様の味方。

 アーサーお兄様は、婚約者の公爵令嬢を亡くされてご機嫌がよろしくないのね。

 でもでも、自業自得ではなくて? だって、お兄様……「そのご令嬢に近付いてはいけない」と預言者にいわれたのに、言うことをきかなかったのでしょう。だから、不幸が起きたのですわ。

 

 あら、噂をすれば預言者がいるわ。

 そうだ、わたくしを次の王に選んでもらいましょう。そうすれば、みんなを見返すことができるじゃない。

 いいことを思いついたわ。お姉様は王族じゃありませんって、預言者に言ってもらうのはどうかしら。

 ……その冷たい目は、なあに。


「ねえ、どうしてみんな、お姉様の味方ばかりするのかしら」


 あまり調子に乗らないでくださいね、勘違いなさっていますよ、お姉様。

 お姉様は、みっともないのです。

 ぜんぜん可愛くないのです。

 魅力がないのです。

 わたくしのほうが、上なのです。

 わたくしのほうが、みんなに愛されるべきなのです。

 

「まあ、お母様。ほんとうに空国の王様と関係していたのね。不潔。まあ、お姉様を暗殺するの? 素敵! わたくし、葬儀で泣いてあげなくては。うふふ、楽しみ。わたくし、お姉様がいなくなったらどんなに気分がいいだろうっていっつも思っていたの。夢みたい」


 うふふ。うふふ。嬉しいわ。楽しいわ。


「暗殺したあとは、目だけわたくしにくださいな。わたくし、本当の王族になります。うふふ、この目をごらんなさい、ひれ伏しなさいって言って、今まで馬鹿にしていたみんなを見返してあげるわ」


「それで俺の姫をいじめていたのか」

 聞いたことのある声。誰でしたっけ。わたくし、何をしていたのでしたっけ。確か、お水を……。

「考えを話してくれてありがとう。要するに醜い嫉妬だな」

 お水を飲んだら、どんどん思いが溢れて止まらなくなったのだったわ。

「王妃はちょっと薬の量が多かったかな。まあ、いいか」


 近くで、母がわめく声が聞こえる。

 はしたなき声。醜い声。父ではなく、別の男と姦通してわたくしを産んだ母の声。


「土地くらい欲しいならあげるとはなんです、あなた! 侵略されているのですよ!」

 誰もいない空間に向かってわめいている。

「暗殺しようとしたからなんだというの」

 開き直ったように、口の端を持ち上げて歪んだ笑みを浮かべている。醜悪な笑顔だ。

「空王陛下、話が違うではありませんか」


「狂っている」

 誰かが言う声が、聞こえた。恐ろしくなって、わたくしは顔をそむけて、ぎゅっと目を閉じた。



 * * *


 

 太陽が傾き、空は紅く染まっている。


 人々は興奮し、怒りに震えていた。それは、悪行を重ねた第二王妃とその娘である第二王女の処刑の瞬間だった。


 第二王妃は、自らの野望と欲望のために聖女を暗殺しようとした。彼女は醜いはかりごとを巡らし、無実の聖女を陥れた。そして、正しき聖女の代わりに第二王女が偽の聖女になろうとした。


 断頭台の前に立つ第二王妃と第二王女に、刑が執行される。

 二人は恐怖に顔を歪めて身をよじったが、逃れることはできなかった。


 群衆が見届ける中、第二王妃と第二王女は遺体と化した。血に染まった髪が風に舞い、その姿はまるで悪夢のようだった。


 群衆の中に深い感慨が漂っていた。

 世の中はこれから、どうなるのだろう。

 

 ――彼らの住む王都には、現在、空国の旗が掲げられている。


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