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02 キューチューブ①

調光フィルムが貼られた窓からは、沈んでいく太陽の光が差し込み部屋をオレンジ色に染めていた。窓から見えるベイには貨物船が何隻か停留している。

午前中ネオヨコハマの闇市や廃棄場でジャンクを仕入れたグッドだが、今は客の居ないショップ内で煙草を吸いながら暇をもて余していた。


――金属の擦れる乾いた音を立てて、スライドドアが開く。

「やあ、久しぶりグッド」ヒカルが部屋に入りながらあいさつする。久しぶりといっても前回アニメを観に来てから一週間ほどしか経っていないのだが、グッドは特に気にすることもなく―ああ、いらっしゃいと軽い返事をした。

「今日はね、ディスクは持ってきてないんだけど、面白い話があるの」彼女はそう言い、ガラクタを避けながらすいすいと部屋の奥に進む。

「すまんが暇潰しなら他所でやってくれ」彼は軽くあしらうように言った。

「そんなこと言わずにさ、そっちもどうせ暇でしょ」彼女は笑みを浮かべながら言うと、デスクの上にちょこんと腰掛けた。

客の居ない中ただ煙草を吸っていたのを見られている彼は、とくに反論出来ずに諦めた表情で彼女を見た。それを了承と受け取った彼女は話を続ける。

「えっと、2020年頃に世界で莫大なユーザー数を誇った動画サイトの事は知ってる?」彼女が聞いた。

「知らんな。というか本当に面白いのかその話は」彼は言った。

「まぁいいから聞いてよ。――正式名称はキューチューブ、ニホンではヨウツベって呼ばれてたサイトなの」彼女はマイペースに話を続ける。

「はあ、それで?」彼は聞く。

「いや昔の人達がどんな物を観てたのか知りたくてさ、色々調べたの。でも当時の動画はほぼ無くて、サイトにまつわる情報も少ししか無かった」彼女言った。

ヒカルはペン程の大きさの黒いスティックをポケットから取り出した。そしてスティックの先端を捻り電源を入れるとデスクに置いた。するとそのスティックから上方の空間にバーチャルディスプレイが現れ、写真や文章などが表示された。

「現時点で調べられたのはこれだけなんだけどさ、」彼女は言った。

「2020年頃ってことはweb2が主流の時代のサイトだろ、仕方ないんじゃないか?」彼は興味無さそうに言った。

「たしかにweb2は百年以上前にほぼ全滅、それと共にネット回線、プロトコルとかあらゆる規格が一新された。けどそれにしても情報が少ないのよね」彼女は疑問だという顔で言った。

「それで、調べた情報ってどんなんだ?」彼は聞く。

「ブログの記事よ。調べたなかでは唯一まともな情報が載ってる。アップされたのは最近。書かれたのは2030年のニホンで、書いた人がローカルで残してた物、ってアップした人が補足で書いてた」彼女が言うと、グッドは黙って続きを促す。

「それで記事を要約すると、キューチューブによって社会が相当変わった。公共放送は淘汰されて娯楽はもちろん報道や政治活動の場としても機能していたらしい。キューチューバーって職業も産まれ、大人も子供も多くそれになりたがるほど人気だった。――そして時代背景も相まって危険思想コミュニティやネットカルトが数多く台頭した。大雑把だけどこんな感じ」彼女は一息ついた後、「そしてサイトは2025年に閉鎖した」と付け加えた。

「web2時代にただのサイトがそこまで社会の一部になるなんてな」彼は言うが相変わらず無関心そうな顔をしている。

「ねえグッドもキューチューブにアップされてた物がどんなだったか知りたくない?」彼女が笑顔でそう聞くと、

「興味無いこたないが、見れないなら仕方ないだろ」彼はヒカルの笑顔を横目にそう言った。

「私調べてたらそのサイトにどんどん興味が湧いちゃってさ。仕事でお世話になってる似たような趣味の上司に聞いてみたんだ。そしたらある人を紹介されたの。そしてその人にアポを取って話を聞けることになったの。今日の20時に」

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