01 プロローグ
いくつも並んだ金属製の棚にガラクタが雑然と並べられ、そこに収まりきらない物が床に散乱し足場を無くしていた。そして部屋中に埃と錆の混じった臭いがしている。
グッドはその部屋の奥でデスクの上に脚を放り出して座っていた。年齢は二十代後半。人工培養皮の黒いジャケットを羽織り、腕に今じゃ滅多にお目にかかれない機械式の腕時計をはめていた。時刻はちょうど21時を過ぎた頃だった。
グッドは腕時計に目をやると大きな伸びをした。危うく椅子から転げ落ちそうになったが体勢を戻し、無精髭をかきながら立ち上がった。
――ガリガリと音を立ててグッドの向かい側の壁にあるオートロックのスライドドアが開いた。
「このドアいつも反応しづらいよ、そろそろメンテナンスしなって」―ヒカルはそう言って、チップが埋め込まれた右手首をひらひらさせながら部屋に入ってきた。若い小柄の女で、フードが付いた植物繊維製の古くさい服を着ている。
「またお前か、もう店じまいだ」―彼はやって来た人物がわかると鬱陶しそうな顔をして言った。
「そんなこと言わずにさ、貸してよあれ」彼女は地面のガラクタを避けて進みながら言った。
「毎度貸してって言うがな、これは売りもんだ。金がないなら自分で作るかデータをチップに移植すればいいだろ」彼はモニターに自作のアダプターで無理やり繋がれた古い箱形の機械を指差しながら言った。それは百年以上前に作られたニホン製のディスクプレーヤーだった。
「そんな無粋なことしたくないじゃん、当時の機械で見ないと。それよりさ、また珍しいのが手に入ったの。一緒にみようよ」―彼女はそう言いながら服の全面に付いた大きなポケットから透明のケースに入れられた1枚のディスクを取り出した。ディスクには潰れて読みづらい字で何やら書かれている。
「ったくこれだからギークは。この前みたいなよくわからんのはごめんだ」彼はバカにしたように言った。
「ニホンの2Dアニメの全盛期の2000年代初期のレア物だよ。それにあまり傷付いてなくて状態いいし」彼女は言った。
ヒカルは勝手にプレーヤーとモニターを起動しディスクをセットした。グッドは諦めたような表情で彼女を見ながら、セラミック製の電子煙草を吸ってため息とともに煙を吐き出した。
技術の発展により視界上の3Dインターフェイスであらゆる情報が映し出され、脳で直感的に操作が可能なこの時代、映像もバーチャルでいつでもどこでも再生出来るのに彼女は大昔のプレーヤーをカチカチと操作している。言動は生意気で大人びた所もあるが、この嬉しそうな表情はまるで無邪気な少女のようだった。
――「始まるよ」そう言って彼女はモニターの前にある薄汚い4人掛けのソファの真ん中にだふんと腰掛けた。画面を凝視しながら指でグッドにこちらへ来いと合図すると、彼は仕方なくソファの端に座った。
イラストがカクカクと移り変わるのとともに、ポップで古典的なニホンの歌が流れてくる。アニメのオープニングだ。曲に合わせてキャラクター達が飛んだり跳ねたり剣を振ったりするイラストが次々と流れる。
キャラクターは頭部と目がとてもに大きくて体は小さい。人間離れしたプロポーションをしているが何故か違和感なく見れる不思議な絵柄だ。
―ヒカルは食い入るように、グッドは少し退屈そうにアニメを観て、時間は過ぎてった。
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