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特撮に興味ない彼女と、シン・ウルトラマンを見に行った話

作者: 大橋東紀

「シン・ウルトラマン?」


 いつも待ち合わせに使うカフェで、コーヒーカップから口を離し、彼女は眉を顰めた。


「そんな子供向けの映画を私に見せる気?」

「バカにしたもんじゃないぜ」


 平静を装い僕は答えた。


「大ヒットしてる。もうすぐ興収30億だ」

「そんなの名探偵コナンだって、クレヨンしんちゃんだって大ヒットしてるじゃない」


 コナンもしんちゃんも、大人が見ても楽しめるよ、と言いかけて僕は言葉を飲み込んだ。

 オタクでない彼女と付き合うには、幾つもの言葉を飲み込む事が必要だ。


「スタッフがシン・ゴジラを作った人たち。エヴァンゲリヲンも作ってるんだ。知ってるだろ? エヴァ」

「会社の男の子達が話してた。ガンダムのお友達でしょ?」


 結局彼女は「ギブ&テイクね。貴方こないだ私が観たいオペラに付き合ってくれたし」と、シン・ウルトラマンに同行してくれた。


 僕は二回目の鑑賞である事は黙っていた。

 「なんで同じ映画を二回観るの?」と本気で驚かれるからだ。

 僕自身がネットでのネタバレを避けたかったのと、彼女に見せて大丈夫な映画かどうか確かめる為に、初日に観ていた。


 エンドテロップが終わり館内が明るくなる。

 互いに無言で出口に向かうが、彼女の反応が気になり仕方がない。「


 居眠りはしてなかったし、数カ所では笑っていた様だ。


 「今度『極主夫道』やるんだね」そんな映画の感想には触れない会話をしつつ、夕暮れの街を僕らはお気に入りのエスニック料理の店へ向かった。


「うん、よかった」


 ピニャコラーダを飲みながら彼女は言った。


「特撮が凄くて、本物の怪獣かと思った。でも長澤まさみが大きくなるから、やっぱ特撮か」

「あれは元のウルトラマンに同じシーンがあって、同じ場所で撮影してんだぜ」


 つい癖で、オタク知識を自慢げにひけらかしてしまい、僕はしまった、と思ったが、彼女は「そうなの」と普通に感心したのでホッとした。


「でも切ない話だね」


 彼女の意外な一言に、僕は思わず問い返した。

 

「切ない?」

「だって長澤まさみは、ウルトラマンが中に入った斎藤工しか知らないでしょ。彼女は一体、誰を見ていたのかな」


 予想もしなかった彼女の言葉に「偽ウルトラマンを殴った後、手を痛がるの最高だよな」とか思っていた僕は気まずくなり、ブルー・ハワイを飲み干した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼女と同じ事思った。目を醒ました神永は。貴女の待っていた人では、無いんだね、と。 神永には、ウルトラマンとして活躍していた記憶が或るのか? もし有ったら、米津玄師のM八七のLyricはピッタ…
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