時計は世界を破壊するために動いている
『残り1000秒』
スマホに表示された古典的な目覚まし時計は、そうアナウンスをすると再びカチカチと時を数え始めた。
「カチカチうるさい時計だ」
「時の流れを音で表現してくれるってCOOLじゃない」
スマホは彼女の物で指定した時間が来ると知らせてくれる命綱、否、導火線みたいな役割を果たしている。
残り時間の内にそれを消さないと世界に最悪が降り注ぐ。
天才プログラマーの彼女が、発射基地のPCに接続した端末でプログラムを書き換えている。俺達の役目は、その基地から発射されてしまう核ミサイルの起動を止めることだ。
そんなものが我が国からどっかに飛んで行けば、世界中から核を撃った悪しき国として総攻撃を受けたのち、主権がオークションでたたき売りされるのが目に見える。
「誰あんな大統領に投票したのは」
今回の件は核ミサイルの発射ボタンを持った大統領が、ファーストレディーが浮気したと勘違いをし、世を儚んで押してしまったのだ。
『残り600秒』
目覚まし時計を表示したアプリがそう告げる。
「正義感のある男だと思って、投票したけど、あんなにメンタルが弱いとはね」
「アタシも。がっかりすぎよ」
彼女がなぜ必死になっているかといれば、実のところ主犯は彼女ではないかと、俺もそして彼女もそう思っている。
彼女は思想的に思うところがあって、ネットでシステムに侵入し、ボタンを押したが最後、キャンセル出来ない様に仕様にしたのちスタンドアローン方式に変更してしまった。
本当に押す馬鹿がいることを想像出来なかったのは残念だが、責任を感じているのはひしひしと伝わる。
中年の俺には理解出来ないが、余りに複雑なプログラムになっている為に作った本人しか解除が出来ず、ドタバタのアクションの末、彼女をここに連れて来た時には発射まで時間が無くなっていたという訳だ。
「こんな複雑なプログラム、アタシにしか作れない。芸術品と呼んでもいいわよ」
ガラクタの間違いだろう。
『残り200秒』
「ヤバいな。そろそろだ」
「もうすぐ」
ここまで来ると精神的負担がヤバい。
ポケットに手をつっこみ、煙草を探すが禁煙したことを思い出し苛立つ。
「はい、終わり終わり。ファイアっと」
彼女の指が軽やかにリターンキーを叩いた。
“システムダウン”
基地のモニターに表示される。
俺達はハイタッチとハグをして喜んだが、これから彼女をハッキングやら何やらで逮捕しないといけない。
俺はアプリの時計を停止させた。