9ページ 売れない奴隷の前準備
悪い方向に変わりつつある、黒幕がアイツなだけあって悪夢を見ているようだった。
「落ち着かなくて思わず外に出てしまった」
メスガキを見ていると不安に駆られて落ち着かなくなり出てきたのだ、でも今回は相手が悪すぎる。流れを変えられない今、空に響く下駄の軽い音も地に落ちて転がり耳まで届かなかった。何というかこう......
「そこの生きる気力がなさそうなお兄ちゃn......貴方、寄らんかね」
そう生きる気力が沸かない、声の方を見ると絵にかいた占い師が水晶玉を前にして座っていた。
ジッと睨む目力に負けたわけではないが、何か助言を貰うことで変わるだろうと思ったのだろう、手招きに吸い込まれて、気が付けば椅子に腰を下ろした。
「ふーん、ふむふむ、フムムのム」
「なんか見えたか?」
占いはしょせんインチキなもので信じていないが、この婆さんは魔女と同じオーラを感じる。
「お兄ちゃn、じゃなくて貴方は、大事な人を救いたいと思っているの?そうだなぁ......ここを東へ進んだ所にある薬屋の店主、クラーラか」
「なるほど、お前ウィスパーだな」
「ウィスパーだからどうした?」
「人の記憶を探って導かれた答えが占いか」
鼻で笑って見せる俺に、「まあそういうなって」そう呆れた様に深くかぶっていたフードを外した。
ウィスパーの時点でこの地域じゃ一人しかいないから予想は着いていたから、特別驚きはせず帰りたくなった。
「今"げっ!キュア・ロリ・イタリアンだ"とか思ったでしょ、今ロリちゃんに会ったのを逆に幸運だと思うべきだけどね〜」
「何でだ?」
「まぁ真面目な話ロリちゃんの縄張りもお兄ちゃんと同じ敵に荒らされている訳ですよ」
いやな予感がする
「結論から言っちゃうとですね」
その後の彼女の占いとは名ばかりの、適格な助言に、嫌な予感の範囲を超えていて言葉がなくなる。
「まあ、もしやる気になったらまたここに来ることだね、準備はできてる」
恐らく未来の俺がとる行動も分かっているのだろう、彼女は念を押すことなく堂々としていた。だがこれ以上エリシュカと俺の問題にアイツを関わらせたくない。
どうしようか、なんて再び止まっていた脳が考え始め、言葉の代わりに深いため息が出る。
「君の気持は分かる、だがこの流れを変えるにはアイツを使うしかない」
「ッケ、キーマン、ね、避けたいもんだな」
そよ風に吹き飛ばされる綿毛のごとく、椅子から立つなりふらふらと歩き始めた。足は何処へ運ぶのか、俺は何処へ向かうべきなのか、正直言おう、もうどーにでもなっても良いんじゃないかと思っている。エリシュカのもとに行けば全て丸く収まるのだから。
「なんかもう、疲れたな」
自然と足は止まり、武器屋の品々が展示されたショーウィンドウに反射する自分の、老け倒した顔を見て自然と口から弱々しく零れ落ちた。すると「あれー?こんな所でどうしたんですか?」そんな今の天気に相応しい明るい声が聞こえてくる。
「君は確か前クラーラに薬草の収取を依頼した......」
「友人のニーナです」
ニコニコ笑う彼女はモンスターの血と泥で汚れていた。背負ってる大剣が無ければ恐らく快楽殺人鬼にしか見えない、まぁそんなことはどうでもいいが。
「考え事をしててな」
「どうしたんですか?」
「俺はこれからどうすればいいのかな、ってね」
こんな小娘に話したところで変わるわけもなく、ただ時間の無駄だということは分かっていた。が、やはり心は話し相手を求めていたのだろう。
「クーちゃんの隣に居て今まで通りにすればいいんじゃないんですか?」
「隣か、もう居られないんだよ、いや、居ちゃだめなんだよ、彼女の為にも」
ずっと隣に居たら何が起こるかは目に見えていた。
「それはクーちゃんが何か言ったんですか?」
「いや、何も」
「お兄さんはどうしたいんです?」
「俺だって、そばに入れるのなら居たい」
「なら答えは出てるんじゃないんですか?これはハンターの感ですけど、お兄さん何かにビビってないですか?そんな匂いがします」
どんな匂いなんだか、だがだいたい当たっていてドキッとしてしまった。
「切り離せる程度の愛をクーちゃんに向けていたなら、私許さないよ」
彼女は紙切れを1枚俺の腹に押し付ける。見ると彼女のギルドが書かれた物だった。
「私はあの子の悲しい表情は見たくないんです、だから困ったことがあったなら私のところに来てください、特別に無料でその依頼を受けてあげますから」
姿も分からない敵に怖がりもせず、そんな簡単に力になると言えるニーナさんに、何を怖がっているんだと目を覚まさせられた気がした。
そうだ、俺はエリシュカの全てを知っている、もう後悔はしないと決めたはずだろ
「そうだな、ニーナさんのお陰で目が冷めたよ、俺は彼女に失礼なことをしていたな」
目が冷めたおかげか、ショーウインドウにはつい最近北側が開発したと言われていた、片手銃が置かれているのを目は捕らえた。
「これだ」
すぐさま身体を翻し走り出そうとした……が目の前にいた小憎たらしい笑顔をぶら下げる彼女に足が止まる。
「決めたみたいだね」
「っち着けてたのか」
「足早すぎ、ロリちゃんのカワイイあんよじゃ辛かったわ」
「まぁ冗談はこれぐらいにしようか」そう真面目な表情に変えるロリの横顔は、恐らく素なのだろう、縄張りを荒された怒りが殺意へと変わっていた。
「もう受ける依頼は決まってる、予定通りこれをこなすぞ」
「アンタ怒りのあまりキャラを忘れてるぞ」
ロリの魔法で切り開かれた空間に片足を入れた時だった。
ー 夕方に向かいに行くわ ー
脳内に響く声に、後ろから感じる魔力の方を振り向く、逆光でしっかりと見えなかったが、家の屋根に人影が一つ、こちらを見ていた。
「心配しなくてもこっちから行くさ」
* * * * *
「帰ってこない」
太陽もすっかり眠りにつき、視線を落とすとオレンジ色の光が点々と灯っていた。
一人、いや一匹居なくなるだけでこんなに寂しい気持ちになるとは…
「私も変わったわね」
狸から選んでもらった杖を撫でては、心配でため息が出るあたり、私はアイツのことが好きなのだろうか。
「夜というのは何で人を寂しい気持ちにさせるか知ってる?」
「アンタねぇ、帰ってきてるのなら……ってイタリアンさん!?なんで?」
「お姉ちゃんは薄暗い部屋が好きなの?暗くて怖いな〜」
棚にある商品を手に取り私を横目で見ていたのは、キュア・ロリ・イタリアンだった。
子供のように小柄だったからか存在に気が付かなかった。でも何のようなのだろ、なんて思っていた時だった。
「これ、お届け物でーす」
金塊でも入ってるのか?手渡しされた小包はずっしり重く、両手で持つのがやっとだった。イタリアンさんは見た目の割に力があるのだろうか…片手で軽々と渡してきた。
「あとこれも」
手紙だった。まだ封は開けていないが凄く嫌な予感がする。まるで誰かを失った様なそんな寂しい気持ちに襲われた。
「まだ失ってはない、お姉ちゃんが助けなさい」
「え?まさかあのバカに何かあったの?」
「エリシュカ・ボフミールの所へ行った」
私の心や脳内を探ったのだろうその後に「行かざるおえなかった、全ては主を守るために」そういつものヘラヘラとした声とは違い、真面目な声色で話す。変な演技臭い話し方じゃない辺り彼女はその古臭い話し方が素なのだろう。
確かにあの祭の日、エリシュカと会った時の狸は変だったが……
「訳が分からない、なんで私に言わなかったのよ」
信頼されていなかったのか、それとも私が嫌いになったのか。胸は煙の様なもので一杯になりそれと共に昔の記憶が蘇り、消えたはずの親の言葉が耳元で響く。
「言っていたらエリシュカに主かネイトが殺されてただろう、あやつもそれを察して言わなかったのだろうよ、それぐらい分かってやれ」
「でも」
「起きた事は仕方ない、お前が今やることは囚われた姫を救ってやることじゃな、これも渡しておく、ここって時に使うがよい」
札?悠久の時を感じるその長細い紙には魔力にも似た力を感じた。
「まあここはアイツに対するお前の愛が試される時だ、言っておくが敵はどんな魔物よりも強くて勝てない、神でも出さない限りな」
じゃあ無理なのでは?そんな矢先に「だが主もまた知恵の実を食べた動物、知恵を振り絞る事だな」とその言葉を最後に、意地悪そうに笑いを浮かべてイタリアンさんは姿を消す。何故彼女がこれを持ってきたのか、てか彼女は何者なのだろうか……
「手紙には何が書いてあるのかしら」
見るのが怖く封を開けるのも正直嫌だったが、意を決して開けてみる。が書いてあるのはただ一言だった。
− 助けてくれ −
「言われなくても分かってるっちゅーの」
封筒には何かが入っていて出してみると、ここに助けを求めろと言わんばかりにニーナのギルド名刺が顔を出した。
私もつくづく心配されたものだ、相変わらず心配性な彼に思わず広角が上がる。
「困ったお姫様を助けるとしますか」