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7ページ 売れない物書きとエリシュカ・ボフミール

落ち着きがない、いや誰が?って、クソ狸がだ。

朝からだが私の顔を見てはプイッと明後日の方を向く。


「どうしたのよ」


 聞いてみたが「んでもねえよ」の一言である。獣人は、顔に感情が出ない代わりに尻尾に出やすいのが特徴で、別名正直者族とも言われて有名なのだ。


 故に今も尻尾が壊れた振り子見たく左右に素早く振っていた。


 いつもはというとリラックスしているのかだらしなく下へ垂らしたままピクリとも動かないのだが……


 もしや昨日の私の親に言った台詞が恥ずかしくて、目を合わせると恥ずかしさのあまり落ち着かなくなるとか?…な訳がないか


 静かでいいのだが、これはこれで問題で、書いた小説の添削とかしても、返って来る言葉は「良いと思うぞ」か「ははっ、面白いな」と乾いた笑い声を出すかだ。


何というかもう、気分が執筆どころじゃない気がする。アイツも私も。


「気分転換に散歩でもしない?」

「そうだな」


 やはりおかしい、「またサボる気か?」と椅子に縛り付けようとする小説の鬼がすんなりそんな言葉を出すなんて。


 思わず散歩に誘ったが何処へ行こうか……先頭を偉そうに歩く彼は今回真横に立って歩いているし、横に立って初めて気づいたが難しそうな顔をしている。


 半袖を着た人達や祭りのポスター等を目にし「夏も近いわね〜、はじめは直ぐにアンタは逃げると思ってたけど、案外長く続いてるわよね」なんて言ってみたが、「アホか」と得にその後私を馬鹿にすること無く気の抜けた言葉をポツリと口からこぼす。


「なぁに難しい顔してんの?話してみなさいよ」

「メスガキにか?」

「メスガキによ」


 言おうか迷っているのだろう、私と周辺を忙しなく黒目が行き来した後「やっぱいい」そうまた地面に視線を向けて難しい顔に戻った。


 気まずい空気、青空のした無言で二人共難しい顔をしてゆっくり歩く姿は、さながら別れる寸前のカップルのそれだ。周りはきっとそう見えてるだろうな


「へ〜祭りなんてやってるのね」


 いったい何処まで歩いてしまったのだろうか、気がつけば提灯に囲まれていた。


「ちょっとアンタあっちに行ってみるわよ!」


 狸の袖を引っ張り歩きだす、ここで楽しめばアイツから話し出すのではと思ったからだ。まぁ浅い考えだが悪くは無いだろう。


 りんご飴に麺類に各国から集めた名産品に…そうこれこれ、祭りはここから始まるのだ。


「これやるわよ!」

「お前猟銃なんて扱えるのか?」

「あらあら、見くびられたものね、こう見えて友人には凄腕ハンターと言われたものよ」


 狸は少し元気出たのか「じゃあ、あれを落としてみろ」そう表情が若干晴れる。


 因みに彼のリクエストは棚の一番上に置いてある、片手剣だった。難しい物をリクエストするとは相変わらず性格がいいものだ、が、3年前は射的で剣やら杖を落とし荒稼ぎをしたものだ。武器屋で売って3ヶ月は豪遊をしたっけ?


「任せとけ!」

「見せてもらおうか、メスガキの腕前を」


 ズッシリ重たい、艷やかな木製ストックの猟銃を構え、机に肘を置いて固定させた。


「へえ、様になってるじゃねえか」

「まあね」


 縦に置かれた剣の剣先に銃口を向け、おおきく空気を吸ってから息を止める。周りの笛や太鼓の音がピタリと聞こえなくなり、トリガーをゆっくり引く。これで外したら狸はどんな顔をするのか。


 笑いを取るか本気で景品を取りに行くか迷ったが、隣で頬杖をついて眺めてる彼を見ると何故か下手な姿は見せたくないなんて思っちゃったりして、結局大人気なく景品を狙ってしまった。


「本当に取れるとはな」

「でもなんでそんな錆だらけの剣をリクエストしたのよ」


男の子……と言うには年齢が行き過ぎているが、男の人は何歳になっても剣が好きなものとどこかのギルドで女剣士から何十年前かに語られたが、錆びついていても剣なら何でもいい物なのだろうか?


「馬鹿だな、この剣は"服従の(つるぎ)"と呼ばれていて、血を吸わせるとその人間だけにしか扱えない剣になるんだよ」

「なんか聞いたことがあるわ、確か呪いの武器の類で、血を吸わせると自分にしか剣が見えなくなるんだっけ?他人が仮に持っても錆びついて全然切れないとか」

「おうよ、運よくまだ飼い主は居ねえみてえだな、しかしこの世に残り数本しか残ってない骨董品がこんな所にあるなんてついてるぜ」


 喜ぶ彼を見て少しホッとするが、その呪われた剣は持ち帰らないでほしいものだ。


「お前こそ食べ物でいいのかよ」

「いいのよ、何?太るとか言いたいわけ?」

「んな事言ってねえだろ、ただ、お前を見ると落ち着くんだよ」

「は?キm」


 狸の顔を見た瞬間言葉と共に頭に乗っかる手を払おうとしていた左手が止まる。何かを懐かしむ瞳、今までも何回もそれを見ては寂しさを感じ、どんな過去があるのか気になったものだ。


 まぁあの生意気なアイツが見せるものだから聞かない方が良いのだが。


「ばっかじゃないの」


 すると突然笑いだし「全く可愛げのないヤツだな」と思い出していた過去を隠すように狸は私の背中を叩いた。

 その後もあれやこれやと周り、彼も周りの雰囲気に馴染めるぐらいは調子を取り戻してきたそんな時だった。墨を垂らした無色の空に、胸を打つ大きな音を纏って一凛の花が咲いた。


 その音に誰しもが足を止めて見上げる。そして目を輝かせた。


「ほ~今年はやるのか」

「やるみたいね、花火」


 花より団子という言葉がある、でも今の私はその逆で、手に持っている食べ物を自然と袋に入れていた。


 何度も打ちあがる色とりどりの花、それがあまりにも綺麗すぎるからだろうか、この先の未来が不安になってくるのだった。


「売れる作家になれるかな、私」


 心にとどめていた気持ちが口に出る、流石と言うべきか地獄耳の彼は聞こえていたみたいで、「天才の俺様がいるから安心しな」なんて茶化すような笑みをこちらに向ける。


「ほんと馬鹿ね」


 鼻では笑うがその心強い言葉は嬉しく思わず口角が上がる。


「なあ」

「ん?何?」


 彼が話そうとした時だった、周りの観客の歓声と今までよりも大きな花火が割り込んできて声を遮った。何を言ったのか結果的に聞こえなかったが、接客業を長年していたからか口の形から何が言いたいのか大体わかった、自信はないが。


 だが狸も聞こえていないのに気づいたのだろう「今日はありがとよって言ったんだよ」なんてごまかし再び視線を空に向けた。


「別に、私が来たくて来たのよ、勘違いすんなし」


 何だろうこのモヤモヤする気持ちは、直ぐにごまかし相手に返答させずらい空気を作る狸も狸だが、それよりも、そういう時に対処法のすべを知らない、コミュニケーションのない自分に腹立たしく感じた。


 やがて空を支配していた音は消え花も儚く散り再び皆の足が動き出した時、聞き覚えのある声が肩を叩く。それに狸は異常なまでに汗を垂らし始めて、声の方向を振り向かず硬くなる。正直私も苦手だった、彼女の声、いや笑顔を見てると背筋が凍るのだ。何を考えているのか分からない、殺気のような鋭いものも感じ視線を合わせれなくなる。


「あ、え〜と」

「フフフ、エリシュカよ」


 あぁ、そうだった


「でも彼氏さんとデートかしら?良いわねぇ、良いなぁ、嫉妬しちゃうなぁ」

「彼氏だなんて、ハハハ…」


 彼女の言葉に狸は「何しに来た」そう声を震わせ怒りの含むセリフを吐く。


 彼女を怒らせたらヤバい、そう本能が囁いた瞬間私の体は後ろで背を向ける狸に肘打ちをし、口は「すみません、お腹が空いているみたいで不機嫌なんですよ」なんて話していた。


「別に気にしてないわよ〜、それよりも」


 エリシュカさんが「これ、サインくださいな」と取り出した物は表紙だけで分かった。私の本だ、だが驚くのはこれからだった。


「私の本が月間ベストセラーランキング1位?」


 帯の文字に言葉を失う、今の気持ちは自分でも言葉で言うのは難しかった。普通だったら一言、そう、ただ「嬉しい」の一言で現せるだろう、だが報告したのが彼女だからかあらゆる感情と気持ちが混ぜ合わさり、混沌とした結果言葉を失った。


「そうよ~ホント凄いわ~」



 「追いかけていてよかった」そのセリフに狸は振り返り初めて彼女の顔を見た。


「お前何をした」


 彼女は消して声には出さなかった、だがアイツは何か言われたのか―恐らく超能力で話す念話(ねんわ)だと思うが―顔が青ざめた。


 彼の顔を見て悪いことだと分かった私は、適当にサインを書くと彼の手を引っ張り走る。走って走って走って、脇腹が痛くなり足が岩の如く重たくなるまで走った。


息を切らし、口の中に広がる鉄の味を味わいながら家に着く、ホラー映画の主人公みたく悪霊から逃げきれて安心しチラッと彼を見てみると、隣にいる狸も顔色がよくなるが、何処か不安そうだった。


「こういう事聞いちゃいけないって分かっているんだけどさ、アンタとエリシュカさんってどういう関係なのよ」


 彼はその問いにまたしても口を閉じる。いや、警戒していた。彼女が何処かでこちらを見ていないか窓から外をジッと見て、大丈夫だったのか指を鳴らしてカーテンを閉める。


 薄暗い部屋の中、沈黙が支配するこの空間で彼の深呼吸がやけに大きく聞こえた。


 やがて荒い呼吸は止まり落ち着いた表情に戻り、静かに私の方を見る。


「アイツは、俺を初めて雇った主人の娘だ」

「主人の娘?」

「あぁ、名前はエリシュカ・ボフミール」


 その時ずっと心に引っかかっていた謎が解けた気がした。


 ボフミール、私の作風には必ず付き纏うその名前の謎が。

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