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6ページ 売れない物書きと売れない物書きの父

 予想外の展開というのは人を20歳ぐらい老けさせるのだ。


「どうも、彼氏のネイトです」


 急に何が起きたかって?それは昨日の夜の事だった。私が全て書き終わり、やっと腰を下ろす事ができると思い、棚にある酒に手を伸ばした時だった、「なんか手紙が来てんぞ」そう散歩から帰ってきた狸が封を切り中身を見ては「ほ~ん、メスガキの父親がこっちに来るらしいぞ」彼が何となく放った一言に私は心臓が止まりそうになり、何かの聞き間違いだろう、そう願いつつ手紙を読んでみる、が、結末は変わらず私の肩の降りかけていた荷が更に重たくなって背に伸し掛かり、ストレスの入り混じるため息とともに表情が年を取る。


「何だよメスガキ、そんなに会いたくないのか?」


 会いたくないも何も喧嘩別れしてそれっきりだった。思えば50年ぶりか?人間には″どれだけあってないんだ″と思う年数だろうが魔女にとっての50年は3日前の感覚なのだ。しかしあの陰湿な丸眼鏡を拝む時が来るとは、しかも手紙に"結婚相手は見つかったか?"と書いてある、父は昔から冗談は言わず必要な事しか言わない為、明日父さんがする話題がだいたい予想ついた。


「まぁね、父さんは結婚しろて口うるさく言ってて、その事で喧嘩してそれっきりなの」


 狸は「家事が出来ないガキが結婚か、直ぐに家庭崩壊だな」そう鼻で笑いソファーに組仰向けになる。私も本当はそのソファーで横になっていたはずなんだが......しかしこのままだとソファーどころかこの家にも居れなくなるだろう、きっと実家に帰り薬屋を継ぐことになるかお見合いスパイラルの始まりだ。


「お見合いか~、あ~鬱になる」

「メスガキはなんで結婚したくねぇんだよ、そんぐらいだとするのが普通だろ?」


 良く本当に分かってらっしゃる、彼の言うとおりで魔女は25歳前後で結婚するのが普通なのだ。


「結婚ってより専業主婦が嫌なの、1日の大半が家の事って......考えただけで頭が狂いそうになる」

「俺はお前の面倒で1日終わるけどな」


 お前は奴隷だからだろ


「頭が狂いそうになる前にストレスで性格が悪くなるわい」


 性格は元々悪いだろ


「メスガキは気楽で良いぜ」


 ブチブチ言う狸は置いといて、明日を乗り越える方法を考えねば……極論を言えば彼氏が居れば何とかなるがその彼氏が数時間で薬草みたいに道端に落っこってる訳がないし、焦りで額から塩が吹き発狂しそうになった時だった。「彼氏代わりならここにいるじゃねぇか」と言わんばかりに大きなイビキをかく狸の姿が目に映る。


「いや、無いわ」


 アイツを彼氏というぐらいならゴブリンを彼氏と言った方がましだろう......


(だからといって他に良い案はあるのか?)


 そう問いを投げるもう一人の私、確かにいません


(なら?)


 お願いしてみるか......


「ねぇ、狸、私の彼氏代わりになりなさい」


 っと、こんな感じで今狸には私の彼氏役をしてもらっているのだが......気のせいか笑顔の裏には殺気を感じる。


「これはこれは、ご丁寧にどうも、私は父のフィリプです、獣人ですか~」


 驚く父さんはこちらを見て「どうやって出会ったんだ?」と眼鏡をかけ直す。年齢的にも種族、更には住んでいる土地からも不思議に思うのは仕方ないことだ。なんせ私の今居るこの町は観光の獣人は居ても住んでる獣人は居ないのだ。彼らは人間や魔女の作る料理は口に合わず、そんな2種族しかいないこの町は住みたがらないんだとか。


「あ、え~と」


 どう答えるか、一瞬"コイツに薬を依頼されたんたけど一目ぼれされて告白さられちゃった★"なんて夢見る夢子さんの様な事を考えてしまった。私らしく物書き仲間として出会った、そう語る方が無難だとは分かっていたが、うちの父は根っからの作家嫌いなのだ、過去に何をされたのかは娘の私にも分からないが、私が家で執筆してると必ず「物書きにろくな奴がいない、妄想で金稼ぐなんてどうかしてる」なんて言っては次に出る言葉は「お前は魔法が人よりも知識も技術があるんだ、無駄にするなよ」そう言うのだ。だから彼氏も物書きなんて知ったらどうなることやら......


 コップの中の、緑色の水面に映る揺れる自分の顔を見つめながら、慎重に脳内に浮かぶ単語を一つ一つ拾い上げて文章を作ってる時だった、あの男が口を開く。


「私も物書きでしてね、その繋がりで出会ったのがきっかけですよ」


 狸はスキップして地雷を踏んだのだった。私の脳内に作られた話しは音を立てて崩れ頭が真っ白になる。


「物書き?」


 部屋の温かかった空気は一瞬にして冷たくなる、口調は静かだが彼の震える手元を見ると何を語っているのかが一目で分かり、「わ、私の薬屋で出会ったの、もお~!ネイトさんはご冗談を!」さっきの話を書き消すように身振り手振りして焦る私は目で訴えるが、狸は何を思ったのか「お父さんは執筆をしたりするんですか?」そんなことを言う、その光景は地雷原でタップダンスするようだった。怒りで今にでも爆発しそうな相手に対し言葉という棒で突っついては煽る芸は狸にしか出来ないものだ。


 父さんから溢れ出る赤いオーラに耐えきれず「お茶汲んできます」なんて逃げようとするが、「お父さんは喉乾いていないぞ、バカ娘」と眼鏡を光らせてこちらを睨む。


(最悪だ、煽りの天才である狸は短気王の父を完全に楽しんでる、への時に曲がる目で分かる、仮の彼氏にした事の復讐を企んでる事が)

「そうでしたか」


 無言の数分後、父さんは怒りを含んだ息を口から静かに出し「2人は付き合って長いのか?」そう地面を這いずる低い声を出す。


「長いですよ、ね!クラーラ」

「は?え?い、いや半年ぐらいかな」


 突然振られ舌がもつれる私に舌打ちを飛ばして「彼女も緊張してるみたいですねぇ」そうカバーしては爽やかに笑う、さすが狸と言うべきか化けるのは得意らしい。いつもこんな感じにしてくれたら私も執筆を頑張れるんだがな......


 まぁそれはともかく、父はそんな彼に「娘が緊張か」と鼻で笑い、「妄想に浸かりすぎてリアルを忘れたか?」そうこちらにいやらしく白い歯を覗かせた。「忘れる程リアルの思いでなんてないっつーの!」なんて言いたかったが、そしたら自分が物凄く残念に見えてしまうから「うっさいなぁ」そう睨んだ時だった。


「そう言えばフィリプさんって18の時に物書きとして一時期人気でしたよね~、そんな貴方が何故物書きを嫌うんですか?」


 父さんが物書きだった真実に、私も流石に「え?」と口から漏れ出る。父さんも図星だったのか「知らんな」そう鼻の先まで赤くして窓の外に目線をやる。


「一時期、厳密に言うと5年か、あんなに有名でしたのにねぇ、知らないとは」


 「流石、臆病のフィリプ先生だ」そう目を光らせて口角を上げると、「作家なんて」とフィリプは目を細めて記憶の向こうに居る、色あせた昔の自分に言うように口を静かに開けた。


「物書きなんて安定はしませんし、少しでも売れなくなったら周りから罵倒される、物書きなんてエンターテイメントの奴隷みたいな仕事は娘にやらせたくないんです、コイツは私の薬屋を継ぐかとっとと嫁に行って安定した仕事をした方が良いんですよ」


 「たいした本も出せないくせに物書きか」と鼻で笑った時だった、私の徐々に硬くなっていた拳が飛び出る前に「ペンを捨てて逃げた物書きが物書き語ってんじゃねぇよ」そう狸は尻尾の毛を逆立たせ刃物よりも鋭い目つきでキッと睨む。


「娘の思う気持ちは分かるがなクソ眼鏡、俺はどんな作品もバカにするやつが一番キレェなんだ、メスガキの作品は誰にも書けない面白さがある、センスがあるんだよ、コイツがペンを捨てない限り成長する、勝手に決めつけてんじゃねぇよ」


 彼のセリフは力があり暖かさを感じた、そうか、この言葉は父さんだけでなく私にも言っているのか、だが何でそこまで本気で怒るのだろうか。


「人気が無くなって世間から陰口を言われるのを怖がって逃げたお前に、メスガキを分かってたまるか、コイツは自分の店を誰も雇わず1人で守って、売れてないが物書きとしてもしっかり努力して一歩一歩成長してる、正直に言ってお前よりもコイツの方が立派だぜ」


 私の背中を強く叩く大きな手の平、そこから感じる何もかもに思わず心にため込んでいた不安が目蓋から零れ落ちそうになる。


「まるでドワーフの有名な物書きであるボフミールに言ってるようですね」

「テメェに言ってんだカス」


 ボフミール、その名前を聞いた狸は眉間の皺がさらに深くなった。そう言えば私の新しく担当してくれる編集者も私の原稿を読んで"話の雰囲気がボフミールさんみたい"なんて言っていたっけ、これはたまたまなのだろうか、それとも狸とボフミールという物書きは何か関係を持っているのだろうか。


 暖かかったお茶もすっかり氷を入れたように冷え、気が付けば窓からは淡いオレンジ色の光が差し込んでいた、父さんもこれ以上居ても意味がないと思ったのか「良い彼氏を持ったな」そう実に不満そうな冷たい瞳を向けて、「また来る」その言葉を椅子に置いて魔法で姿を消したのだった。


 狸は「次来たらぶっ殺してやる」そう舌をだし立ち上がった。


「何処に行くの?」

「あぁ?ブラブラするだけだよ、蛙の子は蛙だな、っつったくひねくれ過ぎだぜ」

「あのさ......」

「なんだよ」


 やはり蛙の子は蛙か、素直に感謝の言葉を言おうとすると喉に突っかかって出ない。


「何だよはやく言えよ」


 沈黙が部屋を支配し秒針の刻む音が二人を包む、いつも二人でいるはずだが静かな部屋のせいか、今日は向かい合うと頬が熱くなりやけに恥ずかしくなった。


「さっきの言葉、嘘でも嬉しかった......だからその、えっと......」


 声と共に視線がどんどん床に落ちて行き、「ありがとう」そういうと「アホか、俺は嘘なんか言わねぇよ」そう背中を向けてドアの取っ手に手をかける。


「ありがとうネイト」


 すると「頑張れよ」彼は決してこちらを見ようとしなかったが、横顔から見えた瞳はいつもと違い優しかった。


 きっとその言葉は本心から言っているのだろう、ドアが閉まってもその言葉に私は抱かれていた。


「っつたく、とんだカップルごっこだったぜ」


 下駄の乾いた木の音を鳴らし、さっきクラーラに言った言葉に少し照れながらも機嫌よさそうに鼻歌を歌っているそんな時、「ふふふ~随分と機嫌よさそうね先生」赤い記憶を呼び起こす、祭りの帰りの本屋で聞いた同じ声が背中にかかった。


「お前......」

「フフッお前じゃないわよ~昔のご主人様の娘の名前も忘れたのかしらぁ~?ホント昔から何回教えても覚えないわよね」


 西陽に照らされやけに赤い瞳が怪しく光って見える彼女、ネイトは舌打ち混じりに「テメェの名前なんて脳内に残したくないわ」と答える、彼女がわざわざ会う時は大抵何か悪い事が起こる前兆、急いで周りを見渡すが怪しい人物はおらず、皆何事もないように日常を送っていた。


「私1人だけよ、そんなに今のご主人様が好きなのかしら?」


 その言葉に、血の臭いがこびりついた記憶が脳裏に蘇り「お願いだからやめてくれ」そう苦しげに口が勝手に動く、が「貴方は私のもの、私以外の物になることは私が許さない」そう自分の上唇を軽くなめて気味悪く微笑んだ。


「お願いだエリシュカ、アイツには近づかないでくれ」


 すると悪魔のように口端を吊り上げ綺麗に整列した白い歯を光らせる。


「知ってるわよ~、あの子との契約内容、契約が切れた時私の所に来るんなら考えてあげなくもないけど」


 「どうする~?私と約束する~?するよねぇ?」地を這うエリシュカの声は俺の背筋を凍らせ必然的に答えを1つに絞らせた。唯一勝てない相手であり、昔から何も成長していない無力な自分に怒りを覚え、「言う通りにするぐらいなら今すぐ死んだ方がマシではないか」そう言うように舌を噛み切れと歯が存在感を表す。


 だが今死んだところでメスガキはどうなる、きっと昔の自分みたいになるのではないだろうか......


「ふふふ、迷う程あの子の事が好きなのね~、あぁ殺したい、殺したくなっちゃう、殺しちゃおうかしら、そうしようかしら」


 彼女のカチカチとならす歯の音が、涙を流しながら真っ赤に染まるクラーラの姿を想像させ、呼吸がまともに出来なくなり耳を塞ぐ、が、音は鎖のように全身に絡み付いて脳内に響き渡った。


「大切な人の次は大好きな人も殺されちゃうの、自分のせいで、フフフ~あと何人殺せば貴方は利口になるのかしらねぇ」


 「ボフミール」そう耳元で囁かれると、額から大量の汗が吹き出しガタガタと身体が震えだす。


「分かった、分かったからその名前を出さないでくれ」

「フフフ、お利口さん」


 彼女は微笑むなり踵を返し「じゃーねー」そう手を振り姿を消していったのだった。エリシュカの次に向かう場所、恐らく俺のいた奴隷商に向かうだろう。


「急がねぇと!」


 ふらつく足で必死に走った。振り返らず真っ直ぐに。

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